全中を終えてからのタイム推移は横這いもしくは低下するばかり。それでも地元での記録会ではいつもタイム上位あるいは総合1位にはなれた。
誰よりも速く走れることは良いことだ。良い気分にもなれる。だがずっとそれだけなのはやっぱり満足できないわけで。そろそろ自己ベスト更新をしたいと思った。
その望みは叶わぬまま高校へ進学。当然陸上は続けた。
この周回でようやく、入部早々で先輩を追い抜くことに成功。マジかと苦笑いする先輩、悔しげに顔をしかめる先輩、悔しさを隠して俺を褒める先輩など反応は色々あったが、自分より優れた後輩(年下)にやっかむといったギスギス展開にはならなかった。みんなからは期待のルーキーともてはやしてくれた。
しかし春の終わりに差し掛かっても、未だに中学ベストより速いタイムを出すことは出来ずにいた。男女とも同期のみんな着実にトラック種目のタイムあるいはフィールド種目の記録を更新していく中、俺だけが停滞し続けていた。
当然、俺は焦った。恐怖もした。高1のここまでの過程がやり直し前の当時と全く同じとなっているからだ。中身も15~16才だった当時も、俺だけずっとタイムを更新出来ず、それは秋くらいまで続いた。ようやく自己ベスト更新出来た頃には、同期たちとかなりの差を付けられていた。
最初のやり直しも、2回目も、3回目ですらもこの時期はいつもそんな停滞が続いていた。また……今回もなってしまうのか?せっかく去年で大きく成長して同期の誰よりも大きく先行出来たのに、また無駄になってしまうのか?
嫌だ……もうたくさんだ!停滞はもうたくさんだ!!そんな焦りから俺は、前周回と同じ過ちを犯してしまった。鍛錬が足りないから成長が遅いんだと決めつけ、先生が決めて設定した以上のセット数をこなし、筋トレの負荷も日を追うごとに増やし続けた。
結果、秋の大きな試合を前にまた怪我をしてしまった。前周回では出ていた試合を、俺はレースで走ることなく、補助員として競技場に入るだけとなった。
「~~~~~っ!!っざっけんなーーーーーーーー!!!」
あまりに情けなくて、惨めで、悔しくて、最悪だったため、後先のこと考える間もなく衝動的に懐中時計の「Reset」ボタンを押して、4回目のやり直し人生を終了させてしまった。
ヴン――――――
やり直し4回目終了時の100mベスト:11秒20、200mベスト:22秒80、400m(中学の冬季に一度だけ):52秒30
―――という感じでまあ、4回目のやり直しをあっさり終えてしまったわけで。怪我してからは癇癪起こすわ、教室でからかってきた同級生をガチ殴るわ、部活動でもギスギスして空気悪くしてたわで、ひでぇもんだった。
先輩が不貞腐れてた俺を咎めて、機嫌がすこぶる悪かった俺が反発してしまって大いに揉めた時なんかはマジでヤバかったな。高校の先輩に面と向かってあんなに暴言吐いたのは、あれが初めてだった。まあどうせリセットして無かったことになるんだから、ここで溜まってた負の感情を存分に吐き散らしてやろうってことで、開き直ってみた。
そんな最後は悪い意味で好き勝手してしまった、3回目のやり直しでした。
だからかな、今は何だか心が軽く、頭もスッキリしている。とはいえ前周回の終盤で苛まれた自身の才能と成長性の無さとそれらに対する劣等感は、まだ心の底に蟠ったままだ。そしてこれらはたぶん一生無くならないと思ってる。
ここまで中学時代を既に4度、初期ステータス増加させながらやり直してきたが、一番を獲ったのはまだ地元の記録会だけ。大阪全体では一番にはなれてないし、全国では惨敗を喫した。高校時代に至っては怪我のせいで勝負のラインにすら立てずじまい。
はぁ………。思い返すとホント才能が無いうえに成長性も無い雑魚だよな、俺って。これだけやってようやく地元で一番かよ。なんて歩みの遅い、遅過ぎる進歩・発展なんだ。才能あって実績も出してた奴がこのタイムスリップからのやり直しをやれば、1回目からばりばりチート無双してたんだろうな。
非凡で強い奴であれば1、2回そこらで到達し成し遂げられる事を、俺はその倍、10倍近くの試行回数を重ねてようやく到達出来るんだろうな。そいつらと違って俺は才能もセンスも一切無く、体も大して強くないから。出来る奴と違ってそれだけの努力の量と膨大な時間がどうしても必要だ。
「………わーったよ。というか、初めから分かっとったわ。才能あって強い体のお前らに並び…いや追い抜くには、長いながーーーい時間が必要なんやって。もちろん量も大事や。けど、急ぎ求めんのはアカン。3、4回目みたいに怪我してまうから。怪我することなくお前らのとこに行くには、急がず焦らず根気強く自分に合うペースでいくんがええんや。
何か月何年何十年かかったってええ。とにかく続けるんが大事なんよ。
分かったわ。もう焦らへん。開き直りでもしてのらりくらり過ごしながら進んだる。
まあそん代わり、嫌になって飽きたらその時点でまたやり直させてもらいますわ……ふん」
5回目のやり直しを前に、俺は上へ行く為のプロセス・考え方と気の持ちようを新たにした。
そして俺こと松山祐有真という人間をちゃんと見つめ直し、その器の強さとそいつが為せられることの限度など全てを、素直に認めて受け入れてみた。
思えばこれは凄く大事なことではないだろうか。まず今の自分を認め受け入れてやるってこと。どれだけ自分自身の期待に応えられず理想からかけ離れていようとも、俺自身くらいは自分を受け入れてやらないと。
やり直す前から何度も聞いた言葉だけど、いざ自分のこととなると難しいんだよね。こんな弱くて何も出来ない自分を認め受け入れるってのは。
だがやらなければならない。そうしないといつまで経っても空回りし続ける気がするから。
どこまでいっても俺は……何をやっても中途半端な結果しか出せない非才で凡愚な人間なんだと、もう認めて受け入れてやろうじゃねーか。
非才で凡で中途半端野郎なりに、時間をかけにかけてひたむきに鍛錬して努力してやろうじゃねーか。
それでいつかは非才で強い上の連中と同じとこに上って並んで同じ景色を見て、んで、追い抜いてやるんだ。
それが俺が新たに出来た目標。夢じゃねぇ、「目標」だ。夢にしてしまったら実現出来なくなるかもしれないからな。現実味がある目標って言葉にした方が、成し遂げられそうじゃん?
だから目標だ。野望と言っても良い。必ず実現してみせる。どれだけ時間をかけようとも。挫折し何もかも嫌になって、何度やり直そうとも。
なに、時間はたっぷりあるし、体もやり直せば若返えらせれる。この成り上がりチャレンジの期限は、無限だ…!
「もう俺は一生凡人でええわ。何でかって?凡人のままでもお前ら才能ある連中を追い抜く方法が見つかったからや!
満足いく人生になるまで、何度でもやり直したるからな…!」