4月になり春休みの終わりと入学式を経て高校1年生が始まる。この高校には体育科とそれと似たようなスポーツ学科があり、その学科の生徒は全員運動部に所属している。
そういうわけで男子は体がデカいあるいは引き締まったボディばかり。女子は髪がショートカットとかすらりとした手足とか日焼けした子とかばかり。文字通り右を見ても左を見ても日常的にスポーツをやってる体つきの男子と女子しかいない。
今さらになるが、高校生活でも俺は陰キャ野郎をしていた。中学での陰キャムーブが抜けきれないままズルズル引きずり、卒業までずっとそのままで過ごしてしまったんだよな。
ここでも陸上部の奴ら以外とは極力会話・コミュニケーションをとることはせず、そのせいで教室では無口過ごすことが多く、3年になる頃には空気モブ的存在となっていた。
この高校では必ず、挨拶や目上の人との話し方・言葉遣い・選手としての礼儀・マナーなどを、それぞれの部の先輩から教えられる。そういうことがあってここの生徒(特に運動部)は他校と比べて多少はマシな奴らとなってる。
とはいえそれは外面に限った話で、普段の学校生活ではクソガキへと変わる奴はそれなりにいる。どこに行ってもクソ野郎の一人や二人はいるというのは、今さらだな。社会なんかは特にそうだし。
まあ簡潔にまとめると、高校生活も中学3年とあまり変わらない、ぼっち寄りの陰キャ道でやってました、ってこと。ただ一つだけ去年と違う点を挙げるとすれば、俺はこの学校で勉強面で一番になれたってことくらいかな。当時も成績は席次1位、学年ランキングも3指に入る程だった。
以上、高校での学校生活の話でした。ここからはメインの部活動……陸上競技の話だ。
正直、陸上をやってる中で、この高校陸上が俺史上いちばん酷くて面白くなかった。とにかく個人の成績がゴミ過ぎ。あと怪我を何回もしてしまい、満足な練習すら出来なかったことがしばしば。成長性も全然無く、何をやっても中途半端。あと……………これ以上はやめよう。SAN値がごっそり削られて心が死にそうになる。
高校陸上での最低限の目標は、個人種目で大阪高校陸上対校選手権大会(以降 大阪インターハイ)に出場すること。出来ることならその先の近畿インターハイにも挑戦したい。
そんな俺らしい中途半端な目標を動力源として、高校陸上のやり直しを始めたのだった。短距離ブロックの編成だが、俺含む1年男子は8人、うち跳躍が3人、投擲が1人。女子も8人で、うち跳躍が3人。2・3年の先輩らは……いいか、数えんの面倒だ。
あ、ちなみにこの同期の中に、2年後の全国インターハイ出場する奴がいます。もちろん、俺のことではありません。
さすがに当時よりはもちろん、前回やり直してた時よりも速く走れるようになってた。嬉しいことに春の時点でうちの高校陸上部の同期の中では、俺が一番速く走れてた。やり直し前だと下から数えた方が早い位置にいたのが、随分出世したものだ。これだけでもかなり良い方に修正出来てる方だ。気持ちがいい。
練習での動きも前よりも正確で、無駄がさらに削ぎ落されてる。先輩からも短距離ブロック担当顧問の山本先生からも褒められた。この先生は滅多に人を褒めないからな、これはレアだぞ。
この頃は練習中に女子ともコミュニケーションをとることがあった。特に会話が弾んだ相手が、同じクラスの瀧野だ。400mハードルを専門とする彼女はとにかく人が良い。こんな俺に対しても親しげに話しかけてくれるいい子ちゃん、性格美人だ。顔も童顔で俺好みだし、あと何かいい匂いもする。
「そうなんよ!私も夏の方が苦手でー。部活の時いっつも、私がいちばん汗びちょになるし。けっこう恥ずいんよー、目立つし汗くさいかもやし」
「分かる。シャツ選びミスると暑い時期になったらクソ後悔するからなー」
「ほんまそれ!あと臭いとかどうしよ?自分の臭いはあんま分からんから、みんなからどう思われるか……」
「気にせんでええやろ?どうせ全員汗くさくなるんやし(てかお前の汗混じった体の臭い、けっこう好きなんよ。なんかクセになるっていうか)」
なんてこともない会話も、瀧野が相手だと何か凄く楽しく感じられる。彼女をつくるなら瀧野みたいな女子、というか彼女本人がいいよなー。てか普通に告れば良かったわ。うーん、この高校生活のどこかで一回告ってみようかな。
いやーそれにしても、高校生当時に戻れてよかったよかった!まず一つはこうして高校陸上成績を上方修正させる機会が巡ってきたこと。そしてもう一つが、瀧野をはじめとする当時から「お世話になった」同期の女子たちをまた実際に見られることだ。
「お世話になった」の意味なんて、説明は要らないでしょ?健全な男子であれば分かるはずだ。やっぱりセクシー女優より身近な異性、つまりは同級生の女子なんだよな~。
自分のしょうもない性癖暴露という寄り道をしてしまったが、話は高校陸上やり直しパートの本編に戻そう。
1年の春は、個人種目で大きな大会に出ることは無かった。府大会の決勝止まりの実力だと1年からインターハイ予選に出ることは、基本無い。あとこの高校はインターハイ予選は2年と3年を優先に出場させ、1年は基本応援サイドに…と決まってもいる。2・3年部員の数がよっぽど過疎ってるか俺が全国入賞レベルでもない限りは、個人種目で出ることは難しい。
けど代わり今回は、俺の自己記録と今後の伸びしろを見込まれ、この大事なインターハイ予選のリレーメンバーに選んでもらえた!前回もこの時期は応援サイドだったので、嬉しい出世だ。
高校に上がってからはリレーは2種類に増える。おなじみの4×100m(以降 4継)と新たな種目4×400m(以降 マイル)の2つだ。今回俺は4継の3走を任された。
結果だけ言うと、地区予選は難なく通過し、本戦となる大阪インターハイでは準決勝で敗退した。さすがは高校レベル。42秒台でも決勝レベルの連中には歯が立たなかった。
そんな感じで高校一大きくて大事な試合のインターハイ予選はお終い。次のデカい大会は大阪総体とその先の近畿ユースとなる。馴染みある言葉で言うと、新人戦だ。
まずは大阪総体への出場。この時の俺は、陸上においてはそのことしか考えてなかった。2回目となる人生やり直しをやってる身としては、いい加減この程度の大会に出ることに手こずってなんかられないって気持ちがあった。
俺は走りの才能が無い、クソ凡人だ。けどステータスを引き継いではじめからやってれば、凡人でも上のステージに上がるくらいわけないはずだ。
そう、わけない……はずだったんだ。
「く、そ……。何で、こんなギリギリなんや!?何とか、進めたけど……全然納得いかへんわ!」
俺の走りにおける素質はどうやら、俺が思ってたよりもはるかどん底だったようだ。個体値で例えるなら逆Ⅴ、数値にして0~3。レベル1時のステータスがクソ低いほど、レベル上げが凄く大変なのは、まさにこのこと。
とにかくそれだけ、俺がどうしようもない雑魚だったってわけ。それだけの話。
校内で同期の中で一番速いってことで、また浮かれてしまってた。地区や府全体で見れば、今の俺なんかまだ下層民だってことくらい、ちょっと考えれば分かることなのに。何を浮かれてたのか……!
1年の夏、大阪総体への出場がかかった地区総体。俺は100mと200mに出場し、得意の200mですらギリギリの通過となった。
そして8月中旬の大阪総体にて、予選落ちに終わった。
そこからの俺の高校陸上は、もうひどいとしかいえない……。思い出すのも憚れるくらい、ひどく最悪で、人生がまた嫌になって………。