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2-8

 それからの部活動だが、少し…というかけっこうしんどい時期が続いた。

 一学期の学校生活で同学年の不良・クソ陽キャども相手に何度も問題を起こしたことが部員たちに悪く捉えられてしまった。

 極めつけが終業式の日、かなりえぐい喧嘩をしでかしたことが悪い噂として広まり、ついには部員たちにまで俺がヤベー奴と思われるようになってしまった。

 同期たちからはあからさまに距離を置かれ、後輩たちも俺のこと敬遠するようになってしまった。それまでは個人練習にちょくちょく参加してくれてたのが、夏休みに入る頃俺のところには閑古鳥がいつも鳴いてる状態だった。


 やっぱあれかな、俺も中1の頃から里野や山峰みたいにオラオラ陽キャとして振舞っていたら、こうはならずに済んだのかな。みんなからしたら今まで陰キャだった奴突然キレて暴れ散らすという、リアルにヤバい人間として映ってたのか。「昔は大人しい子でした」「こんな事をするような子ではなかったはず」的な、犯罪を犯した奴の旧友がインタビューで大体こんな感じで答えるやつ。


 とにかく一学期の度重なる不良・クソ陽キャどもとの喧嘩で悪目立ちしまくったせいで、とうとう部活でもみんなから距離を置かれ、孤立気味となってしまった。

 俺は一人で練習することは全然平気だが、集団から孤立した中ですることにはどうも堪えるものがる。はじめから一人きりでの部活動なら問題は無く気楽にやれたのだが、この部活には部員がちゃんといっぱいいるし、一つの集団として成り立っている。

 そこから俺一人がつまはじきにされ、独りで行動するのは、けっこう堪える。

 つかこれ完全に、社会人になってからの俺じゃん。

 特に仕事辞める前の俺いつもこんな感じだったわ。上司や同僚と揉めて衝突して軋轢・溝を生じさせた結果俺だけがハブられのけ者にされ、組織で孤立する……。

 はぁ、人生良い方にやり直しにかかってるはずが、どうしてまた良くない方に向かってるのか。


 そんな主に人間関係の面での問題を抱えたままでも練習に励まなければならないという、過酷な環境を強いられることになった2回目やり直し人生。夏に入ってからさらに大きな試合がいくつもまいこんでくるので、嘆いてる暇はない。


 7月上旬、全国中学通信陸上大阪大会。この大会には参加資格記録が設けられていて、期日までにその記録を突破してないと参加権が与えられない。さらに全国大会へ出場する条件となる標準記録をこの大会で突破すれば、その時点で全国大会の切符を手にすることが出来る。猛者たちは大体この大会にピークをもってくることが多い。毎年ここで凄い記録を出す奴が出てる。

 俺は今年の春で参加資格記録を突破してたので、200m、さらには100mにも出場した。この大会は大阪府の中学陸連に登録している中学生しか出られないようになってるので、実質ここが府大会といってもいい。当然レベルが高い。


 先に結果を挙げさせてもらうと、100mは準決勝で敗退(タイム11秒55)、200mは決勝には残ったものの7位(タイム23秒75)と振るわずといったもの。なんと1日で計5本ものレースをこなすという過密スケジュール。一日の最後のレース(200m決勝)にいたってはもう脚ガクガクで走ってたね。いやアホでしょ、競技編成もうちょっと考えて組めよ!

 にしても100の準決落ちはけっこう堪えたねー。見た目はタメでも中身はこっちがずっと年上だってのに、ふつーに何人かに前を行かれたのは、ふつーに悔しいわ。


 その約半月後に、近畿大会への出場(決勝で3位内に入ることが条件)もかかった府大会の時がおとずれる。やり直し前ではこの大会400mで出場し、準決勝敗退。前回のやり直し人生にいたっては100mで予選落ちとさらに酷い成績だった。

 今回は何が何でも決勝に残って、3位内に入って近畿大会へ出る、が目標だ。何度もやり直してるから絶対に負けたくないとか、そんなちんけなプライドは捨ててやる。どのレースも全力で走って、最高のタイムと結果を掴んでやる。


 予選レース。俺より資格記録が上の奴が一人、同じくらいのが一人。つまり最後だけ温存すらしてられない、全力で走りきる必要がある。今回も予選から決勝まで3本全部ある大会。なるべく1本目から出し切ることなく予選を抜けるのが理想なのだが、元が凡レベルの雑魚な俺がそんな余裕をかませる立場なのかって話。手抜きは出来ない。

 運良く真ん中の走りやすいとこに割り振られたレーン、そこに置かれたスタブロを自分の適した位置に調節しブロックを合わせる。適度な緊張を保ち、スターターの号令でクラウチングの姿勢をとる。

 号砲が鳴り、練習通りに8割の出力で飛び出し、直線的な走りからカーブの走りでコーナーを駆ける。水濠のところを9割のスピードで駆けて、80mまで維持する。そして80mを全速力まで加速したスピードで駆け抜けて、直線に入っていく。

 俺よりアウトレーンを走ってる資格記録1番の選手…名は豊中十三の魚住だったか。奴が先頭で直線に入り、俺も腕振りをテンポアップさせながら前に張り付きに出る。最後まで奴に先頭を許したまま、2着でゴール、危なげなく予選通過だ。


 予選レース終えてから昼飯を挟んで約2時間半後、準決勝レースの時間となる。予選の俺と同タイムの奴がほとんど、俺より速い奴しかいないこの準決勝も全力を出し切る必要がある。

 気合い十分の姿勢でいざレースへ。俺より外走る奴が一人しかいないアウトレーンからスタート。外側のレーンは内側と比べてカーブが若干緩やかとなっていて、長身であるほど走りやすくなってる。まあ中3現在の俺は170㎝手前なので、あまり関係ないが。

 「位置について」がかかった途端頭がクリアーとなり、雑念が消え去る。そんな絶好の感覚とともにスタブロに足をかけ、クラウチングの姿勢。「用意」で腰を高く上げ、号砲が鳴って左足を蹴って前に出して飛び出す―――今までで一番良い飛び出し!

 予選よりも脚が動く、緑のバトンゾーンまでの大きな走りで良い感じに加速出来てる。気付けばもう水濠を通過してた、出力はちゃんと9割までに留めてる。この辺80m、全速力まで加速して通過、後はこのスピードを維持したままゴールへ一直線―――――!


 速報の電光掲示板のタイムと、自分が走ったレーンの番号を見て、自分が1着でゴールしたことを知る。準決勝で1着、十分に良い走りをしたと言っていい。

 その証拠に、タイムが自分が出してきた中で見たことない数字になってる…23秒、30…!自己ベスト大幅に更新した!


 「これや……これがあるから、陸上はおもろいねん」


 陸上をやってる奴なら誰でも思うことだろう。陸上でいちばん面白いのが、自己記録を更新した瞬間。これを成す為に競技を続けてると言って良い。少なくとも俺は今日の準決勝でそう思ったね。


 この時俺は初めて、人生やり直して良かったと心から思えた―――


 準決勝でベスト更新したのを弾みに、決勝も最高の走りをしてやろうと思ってたのだが、現実は凡人に厳しかった。


 「……っ痛てて。あそこで両脚とも攣ってまうとか、あー最悪」


 決勝レース、ゴールまであと20mのところでふくらはぎが両方ともつってしまい、あえなく撃沈に終わった。それでもタイムは23秒60だったが、負けは負けだ…。


 そんなわけで、やり直し2回目にしていちおう過去最高の結果を出すことが出来た、中学陸上の大阪府大会。これをバネにしてこの先もっと高い実績を出してやろうと、俺は上を向いていた。


 そう、この時は……。

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