前回のこの試合では100mで11秒70台(自己新)をマークした。2回目ではこのタイムを先月初めに既に出している。ここまで怪我無く練習を積んできたし、調子も良いのであの時より速く走れること間違い無しだ。
それで、今日の試合で出場する種目だが。今回は100m――ではなく、200mに出ることにする。最初から決めていたことだ。
今さらになるが、俺はやり直す前の高校2年の後半から200mを専門にしている。200にした理由は、100mは何か上手く走れなくておもんないから、400mはしんどすぎるから、以上。
消去法な感じで200にしたみたいに言ってしまったが、俺はこの距離でのレースを気に入ってもいる。200mは面白く、奥が深い競技だ。前半のコーナー区間での走り、コーナーから直線へ抜けるところ、そのすぐ後の走りなど。各ポイントを押さえてればけっこう簡単に良いタイムが出せる。100はそんなでも、200を走らせたらめっちゃ速いというケースの選手なんかは、200mの走り方を知り尽くしているからだろう。
言うて俺は200の走りがそんな上手いってわけじゃない。けど100よりは良い結果を出せてるやり直し前も200の方が上手いことやれてた。なので今回は……というかここからはずっと、中学の大事な試合には200で出ることにする。この種目で全国に挑戦だ…!
ちなみにやり直し前のこの試合には、400mで出ていた。理由は前回の時に述べたので省く。その前回では100m。そして今回は200…。
今日の試合のこの種目での優勝候補となる選手は、地元東大阪にある近畿大学附属中学(以下“近大附属”と略)の富竹って名の選手。あいつは2年で既にこの種目23秒台を出してる強強スプリンターだ。100も11秒中盤台とスピードもある。さらには最近400も走ってると聞いてる。やり直し前ではこの種目で実際に優勝もしている。府大会では4位入賞と強豪だ。
他にも上小坂の中井、弥刀の黒木田も4月の記録会で23秒台を出してきてる。二度も人生をやり直してる俺は果たして、こいつらに勝てるのか。てか勝たなきゃダメでしょ!こっちは身体能力高2レベルなんだからさ!
優勝しないと、マジでカッコ悪いぞ俺……。
レース30分前となったので招集所に移り、そこで選手コールを受ける。その間他校の選手同士で話す光景がいくつかみられた。富竹と中井が親しげに会話してる。
うぅ……自慢じゃないが、当時俺は他校の選手とは一度も会話したことがなかったんだ。400mなんか人口少ない分、他校同士で話すとこがけっこうあったんだが、俺は誰とも喋ってなかった。けっこう寂しい思いをしてきた。
たぶん今回も……いや、この先もずっとぼっちで過ごすことになりそうだ。こっちから話しかけない限り誰かとの会話は絶対に生まれない。会話は特に受け身気質の俺だと一生誰とも話せないかも…。
そんな寂しい時間を挟みながらもまずは予選を走る。組の中には特段速い選手はいない。とはいえ手は抜き過ぎない方が無難。ラストの30mまでは本気で走ろう。
200mを速く走るポイントは、100m以上にいくつかある。まずはスタート。スタブロは100の時と同じ白線の外側から一歩のつま先にブロックの先端がくるようにして置く。この時気を付けたいのが、設置の角度だ。コーナーからのスタートってことで、真ん中より少し右側に置くのが良い。理由は次のスタートで分かる。
スターターの号令でブロックに足をかけ、上体を真っ直ぐ立ててから手をライン内につけて前傾になる。「用意」で腰を上げて、号砲と共に左足を押し蹴って、前に飛び出す――ところで、はいまずポイント一つ目!
今俺はコーナーでスタートしてるわけだが、スタート直後いきなりカーブ走りはNG。まずは直線的に飛び出して、加速するのが大事。そうすることでコーナーのイン側に切り込んで、上手くスピードアップすることが出来る。
直線的に走るのは、バトンゾーンとなる緑の印…スタートから約10m、歩数にしてスタートから5~6歩目まで。その間でタータンをしっかり押して、大きく走るのが大事。100もそうだがスタートから小さくちょこちょこ走っては、中々上手くスピードを上げられないからな。
ちなみに最初こうやって直線的な走りをスムーズに行う方法として、スタブロを右側よりに設置しておくといい。コーナーのアウト寄りに置くことでスタート後インに切り込みやすくなるのだ。
てな感じでスタートは良い感じで出られ、前傾のままスーッと飛び出せた。この時の出力は8割程度そこから40mあたりで前傾を解き、3000m障害の水濠が目印となる50mあたりを、9割まで加速して通過していく。ここがポイント二つ目。
コーナーを駆けてる時の足運びだが、イン側の左足に重心をおいて、アウト側の右足はとにかく速く離地することを心掛ける。そうすることで比較的楽にスーッとコーナーを駆け抜けられる。そうやって無駄な力を極力省き、トップスピードまで上げる準備をしていく。
水濠地点となる50mを9割くらいで駆け抜け、そのまま維持。そして80mに差し掛かるところで、ポイント三つ目。ここも凄く大事だ。
80m地点をほぼトップスピードで駆け抜けて、そこから直線へ抜ける走りをする。この時に力を入れて加速するのではなく、ピッチを速めてやるのだ。階段を一段ずつ駆け上る感じで、タタタタタと回転を速くさせる。そしてコーナーでつくった加速を、そのまま直線へ持っていく。
200mとは、前半でいかに効率良い走りをして、ある程度トップスピードに乗せられるかが重要。コーナーでの走り方次第でタイムは大きく変わってくる。ここが上手い奴はみんな速い。100m11秒で走れてなくても23秒で走れるし、世界ランカーだと9秒で走れてなくても19秒台マークしてる奴はけっこういる。
さてコーナーを抜けて直線に入った。120mあたりでさらにひと工夫。ポイント四つ目、腕振りのリズム(テンポ)アップだ。足の回転を速めるよりも腕振りのリズムを変えてやるほうが良い。後はこの走りとスピードを最後まで維持するだけだ!
当然ゴールに近づくにつれて乳酸値が上がり、疲労がきて失速しがちになる。ここで気を付けたいのがストライドだ。ポイント五つ目、バテてもストライドを広めようとしない、オーバーストライドにならない、だ
そんなことをしても意味は無い。余計に疲れて、失速するだけだ。タレてストライドが広まらないよう、同じ幅で走りきるだけでいい。
……と、誰に向けてのか分からない200mの走り方講座を垂れてるうちに、一着ゴール。速報タイムは……23秒70。見事やり直し前の自己記録を上回るタイムだ。とはいえあまり納得はいってない。もっと行けるやろと思ってたんだけどな……。
正直、この年の地区予選会にはいい思い出が全く無い。個人の400mでは府大会へは進めたもののタイムはゴミで、リレーではバトンを落として敗退。前回の100mも優勝を逃してるし、リレーも予選落ち。
ただ今回の200mは今までよりは良い結果になると思う。決勝レースを走る前はそう、思ってました……。
通算三度目となる中3の地区予選、200mの部。俺こと松山祐有真は3位。タイム23秒60。
そうです、3位です。優勝出来ませんでした。優勝タイムは近大附属富竹の23秒35。2位の中井も50台と僅差で負けた。
クソ、ちくしょう!二度も人生やり直してるのに、中身は高2なのに!200の走り方もある程度マスターしてきたのに!中学生に惨敗した……。
技術面ではきっと俺が一番のはず。それだけスピードでこの二人に負けてしまったんだ…。はぁ、つくづく自分に失望してしまうな。
強くてニューゲームというチート使っても地区予選すら満足に優勝出来ないこんな自分に、俺は心底ガッカリした。俺ってホンっっっトに、足速くないんだなって、改めて分からされました。クソが。