恥や恐れにのまれることなく声を大にして昔の黒歴史を自白した。そうやってもうやり直す前とは違うんだって、自分自身に言い聞かせてみせる。
「は……?うわ、認めた!こいつ認めたで!?自分が万引きしたこと!なぁ、みんなも聞いたよなー!?」
これ見よがしにと言わんばかりに声を上げて騒ぐ山峰。さすがにぶん殴りたくなってきたが、今はまだその時ではない。代わりに俺も同じように、このデブを貶めることにする。
「事実は事実。やってないって嘘言うたところで自分を下げるだけやし。てかお前さ、そうやって人の触れられたくない過去ほじくり返せる立場なん?お前だって過去に人のもん盗ったことあるくせに」
「は?何言っとんねん?俺はそんなんしたおぼえ―――」
「無いとかほざくなや?まず小学の時、お前俺のゲームソフト借りパクしたよな?てか盗んだよな?俺が何も分かってへんと思っとんちゃうぞ?」
「は、たかがゲームで、何をそんな……。万引きしたお前の方がよっぽど――」
「その万引きも、お前小学の時やってたやろ。しかも数回」
俺の発言に周りがざわっとする。山峰本人にいたっては分かりやすく動揺してるし、取り巻きも困惑してやがる。
「小学の頃お前と遊んでた野球部の岡崎が、俺が万引きしたことを好奇心で聞きにきた時、お前もパクりをやらかしてたことをバラしてくれたわ。小4から小5にかけてスーパーとか本屋とかでやらかしてたそうやなぁ?」
「あの……野郎っ」
「つーかお前にいたっては、中学になってからずっと、人のものとったり壊したりしとるやんけ。人が買ってきたパンをとって食ったり。その日に使う教科書を同じクラスの奴から勝手に持ち出して、何箇所か破いた状態で雑に放ってたり。遊びと称してクラスの男子の筆箱をとって、中身のほとんどをゴミ箱に捨ててペンを何本かへし折ったりも」
山峰の数々の悪行をすらすらと暴露してやると、周りは俺から山峰に視線を向ける。そのほとんどがドン引きしたものだった。
「無断拝借、窃盗、器物破損と損壊。ぶっちゃけお前の方がかなりやらかしてるよな。少年法の適用で大目に見てもらえることがあっても、証拠揃えてサツに突き出したら、お前今すぐにでも留置場にぶち込まれるんやないか~?
分かる?お前もとっくに犯罪を犯 し て ん の!」
「だ、黙れや!?今はお前が万引きしたことの話しとるんや!」
「はぁ?自分のこと棚に上げるなとか言いたいんか?別にそんなことしてるつもりないけど?」
少し凄んでやると山峰は分かりやすくビクっとさせて、俺から距離をとろうとする。その無様さに思わず笑みがこぼれたところで、第三者というか、山峰の加勢をしにきた奴が。
「山峰の言う通り、そいつは万引き男!犯罪者や犯罪者!」
里野だ。山峰に乗っかって俺を貶めにきやがった。奴の加勢に腰が引けてた山峰は息を吹き返し、今度は二人で俺を追い詰めようとする。
次第にまた俺が悪者扱いされるようになり、アウェー空間と化していく。
はぁ、さすがに口だけでこの劣勢は覆せそうにないな。分が悪過ぎる。あ~~~~~めんどくせ。
こういう時はやっぱり―――
ドゴッ、バキャ 「ぐぼ……っ」「ぶべらっ」
「うるさいねん、雑魚カス野郎。日常的にみんなに嫌がらせして怖がらせとるお前らの方がはるかに質悪いし、犯罪的やろがクソが」
穏便に暴力で!! そこからはもう俺のほぼ一方的な暴力ショーとなった。どっちも床に這いつくばるまで殴って蹴りまくった。思い知れ、高校2年生レベルの筋力から繰り出す、蹴りの威力を!!
その後俺は結局あの二人の目論見通り、同学年中から「あいつヤバい」「将来犯罪者」といった不名誉なレッテルを貼られることに。先生からも叱られるし、親まで呼び出されて色々説教もされた。
うーん。後悔はしてないけど、やり方は間違ってばかりだったな。一ミリも後悔してないし、むしろスッキリはしてるけど。
まず俺の方から暴力に走ったのがまずかった。どんな理由があろうとも先に手を出す奴が悪者と捉えられる。それがこの世の、人間社会において絶対的な定理だ。
あと、味方が全然いなかったのも問題だったな。あの場面では仲の良い奴が誰もいなかったから。俺に味方してくれる奴が0だった。
最後に、俺自身のカーストが低いままなのもよくなかった。まあそもそも、中1の時から陰キャで通してたから、いきなりカースト上位になるってのは、さすがに無理あることなんだが。
喧嘩は強くなったけど、カーストは低くいし味方も少ないままだ。これもやり直しを重ねていけば解決出来るのだろうか?
山峰と里野に万引き暴露された一件以来、俺の学校での立ち位置はやり直す前以上に微妙なものとなり、肩身が狭い思いを強いられた。教室にいる間はとにかく孤立してたし、昼休みよその教室に行ったら変に注目されるし、何か最近仲良かった男子からも距離置かれるようになったし。ん~~~~~中学生活かなり詰んだかも!
そんな中、学年での立場が悪くなった俺が弱ったと勘違いしたのか、尾西と大村がまたちょっかい出してきたので、盛大に挑発してやった。狙い通り大村が逆切れして殴りかかって喧嘩ふっかけてきたので、返り討ちにしてやった。
「く……そ、何で俺が、こんな陰キャなんかに………………」
「黙れカス。こっちはお前と違って毎日体鍛えとんのや。こっちが負ける道理なんかあるかボケ」
こっちは頭脳とパワー共に高校2年レベル。相手は中身もまんま中3で、普段ロクにトレーニングもしてない帰宅部。喧嘩慣れしてる不良とはいえしょせんは中学生、運動部所属の高校生が力負けするわけない。まだ喧嘩慣れしてなくても余裕で勝てる。
まあ、一対一、一対二までの話なら、なんだけど。さすがに、調子に乗り過ぎた、暴れ過ぎた。敵全員に目をつけられてしまった。
何があったかというと、不良と運動部のクソ陽キャどもに袋にされたのだ。
一学期の終業式の日、里野と山峰、尾西と大村が、以前やられた恨みを晴らすべくグルになって、俺を囲ってきやがった。
喧嘩慣れした中学生が一人、二人だけならまだしも、三人、五人、それ以上の数になってくると話は変わってくる。てか、負けてしまう。
さすがの俺も複数人相手は無理ってわけで、前回と同じようにボコボコにされてしまった。
悪いことはさらに続いてしまう。この一学期しょっちゅう喧嘩をしたってことで、先生たちに目をつけられるようになり、クラスメイト、他クラスの同級生からもさらに距離を置かれるようになり孤立が悪化してしまう。
中でもいちばんきつかったのが、俺の喧嘩騒ぎを聞いた部活の後輩たちからも避けられがちになってしまったこと。練習はほとんど俺一人でやるようになった……。
あと、内申点もかなり響いた。高校行くには勉強でいくしかなくなった。