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1-8


 失意のどん底に突き落とされた府大会が終わって以降、俺は文字通り灰色な中学生活を送っていた。秋の地区予選と大阪総体がどういう結果だったか、あまり憶えてない。

 スクールライフも最悪も最悪。尾西らクラスの陽キャ・不良グループに目をつけられ、陰湿ないじめにも遭うわ、他クラスの不良グループにも悪意を振りかざされるわ、喧嘩慣れした陽キャにもデカい面され理不尽な因縁吹っ掛けてきてどつかれるわ……。

 こんなもの、当時の中学人生を焼き直してるのと何ら変わりない。むしろ、やり直す前よりも酷いことになってるわ。ナニコレ。


 そんな何も成し得ず嫌な思いして泣き寝入りもした最低最悪な中学やり直し人生を虚しく過ごし、時は流れて高校一年生となる。進学先は当時と同じ…大阪市都島区、淀川河川敷に隣接している体育科の高校にした。

 当時の俺がこの学校を選んだ理由は単純で、体育科があるということでスポーツが盛んだったから。事前リサーチで陸上部も良い環境下で日々練習していることを確認したところで、この高校を選んだのだ。


 ただ、どれだけ施設が整ってて環境に恵まれた場所であっても、ただ練習するだけじゃあ特別に速くなれるわけじゃないことは、もう分かってる。当時の俺はそれをロクに分からず入学し、ただ単に練習をこなしてただけで、結果全く飛躍しないまま高校生活を終えてしまった。


 高校入学時の俺の陸上ステータスは、以下の通り。


100m:11秒70、200m:23秒90、(好奇心で出てみた)走り幅跳び:5m80㎝


 はい、凡です。平成後半時でも大して凄くもなく、高校陸上界ならどこにでもいる程度の平凡スプリンターだ。まあこんなでもやり直す前の当時の自分よりはマシなんだけど。

 大人だった頃の知識と経験を用いて、自分に適した練習を積んできたのに、伸びしろは全然無く、横ばいのままの成績しか修められなかった。


 ぶっちゃけ、この時点で俺はもう既に、このやり直し人生に嫌気がさしていた。

 それでもまだ諦めずやってみようとのことで、色々振り絞って高校生活をやり直そうとした。


 ――わけなのだが。



 「あーもう無理。終わり。終わった。もうアカンわ俺。才能皆無の雑魚、ゴミクズ」


 高校2年秋シーズンにさしかかった頃。俺はとうとう心が折れ、全てが嫌になってしまった。


 高1からここまでで何があったか簡潔にまとめると……


 1年春季。中学の頃を引きずったまま日々練習を積んだ。だけど春の記録会にいくつか出たが、どれも記録は振るわないものとなってしまった。

 しかもそんな俺とは反対に、同期たちは着実に成長を遂げていった。この流れ、やり直し前の時と全く変わらない。

 あの時と同じ…みんなはより速いタイムを出し、より遠くへ跳んで投げて、順調に競技力を向上させていたというのに。俺だけ全然伸びず、置いてかれてしまうばかり…っ


 同年夏季。そんな最悪な繰り返しをどうにかして覆そうと、焦りとヤケを起こしむやみに走り込んでしまい、結果俺は怪我をしてしまった。そのせいで夏の地区総体の欠場を余儀なくされた。

 以降、地区総体もその先にある大阪総体も、当時2年の先輩と同期の選手たちが競技してる中、俺は補助員として競技場をかけ回るか観戦席で応援しながら見て過ごした。

 大きな大会でみんなが競技してるのを見てる間、「俺何やってんだろ」と何度も思っていた………


 ――てな感じ。


 それから先はもう、当時の劣等感に苛まれ卑屈にまみれた高校人生をただ再現してるだけ。あの時と何ら変わらない、つまんなくてクソっタレな高校生活を送るだけ。



 「何やねんこれ、おもんな。くそつまらん。ゴミ。クソゲー。結局俺は何も成し得られない人間の、クソ雑魚野郎ってわけか。

 あーもうつまらんつまらん!おもんないねんこんなクソ人生!!」


 さすがに無理だった。限界だった。人生やり直してなおこれって。いったい何の為にタイムスリップしたのか。

 あるいは俺にこう思い知らせたかったのか、人生やり直そうとお前は結局何も成し得ることが出来ない、全て中途半端に終わるしかない…って。

 もしそうなのだとしたら、もう十分だ、もう嫌というほど思い知ったよ。やり直しても俺は俺のままだって。何もかも中途半端人間なんだって。


 「もう嫌やわ、こんな人生。もう何もかも辞めたい……」


 そして現在…2012年9月。17才を迎えて数日経った夜、俺は失意のどん底に浸り、人生からリタイアしようかなとガチめに考えていた。


 「あークソっ!今となってはこいつもただの疫病神にしか思えなくなってきた。壁に投げぶつけて、解体したろか」


 はしご付きベッドの上。タイムスリップした日からずっとここに置いてあった中身剥き出しの古びた懐中時計を忌まわしげに掴む。

 こいつのせいで…と逆恨み的な感じで時計を睨みつけていると、奇怪な模様に混じってボタンがいくつもあることに気付く。


 「何やこれ?“Reset”って書かれとる」


 中でも異様に目立つボタン…「Reset」と刻まれた赤いそれを発見。すると何か、言葉に出来ない緊張が生じ、変な汗まで滲んできた。


 「………。もしこれが、俺が今想像した通りなら」


 緊張が走る中俺の頭に浮かんだのは、ある一つの事象が起こる可能性。このボタンを押すことで俺が想像した通りになる保証はどこにもない。何も起こらないかもしれないし、命に関わる惨事を招いてしまうかもしれない。


 「ま、どうせとっくの昔に諦めた人生やしな。自爆スイッチやろうがなんやろうが、どうでもええわ。やり直す前からもう終わっとるんよ、俺の劣等人生は!

 押したるわ、こんなもん―――」


 開き直り、諦め、自暴自棄。そういった脳死的思考を加速させ、引き金を引く指を軽くさせた俺は、「Reset」と書かれた赤いボタンを押した―――


ヴン――――――


初めてタイムスリップする前にも聞いたあの変な音がして、目の前がカオス空間と化し、そして――――――――眠気………………――――――――――


―――――

――――――

―――――――



 眩しい何かが俺の顔を照らしてる。たまらず目を開けて起き上がり、辺りを見回す。


 「最初と、同じベッド………」


 外は明るい、さっきまでは夜だったのが、今は朝か昼かになってる。場所は実家の自分の部屋のベッドの上。さっきもここにいたので、おかしなところは別にない。


 だが、携帯電話の電波時計とリビングの壁カレンダーを交互に確認したことで、俺はとんでもない異変にすぐ気づくことになる。


 「に、2010年、3月31日……!?に、2年以上前の西暦と日付………やり直した年月日に、戻っとる…っ」


 やり直し人生を始めた日。全ての始まりの日に、戻ってしまった。俺はリビングのカレンダーを凝視したまま、しばらく硬直していた。母親に肩を揺さぶられるまでずっとそのままだった。

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