というわけで早速、27才になった頃からやるようになった、足がより速くなれる練習メニューを取り入れる。
まずは基礎のトレーニング。基礎練ってのは大半が「地味」だ。だがこれが出来てないとその先の応用練習をこなすことが出来ない。
だからやるんだ、基礎を。
で、その基礎練について一部紹介しようと思う。その一つがベースポジションウォーク。やり方は簡単、脚をやや高く、へその位置くらいまで上げる。この時膝裏をキュッと閉じて地面と平行にする。さらに軸足は地面をしっかり押した状態にしておく。これで体の重心が高く維持できる。そしてその姿勢から、上げた足を自分の真下に落とす。接地は前にしない、真下だ。ここが重要。これを最初は10m程度、慣れれば最大50mまで続ける。
この種目は令和時代でも残り続けている世界記録保持者のボルトが普段の練習に必ずやっていたという。噂によれば彼はこれを50mを何往復など気が遠くなるくらい何度も何度も繰り返していたそう。
他にもマーカーを使った、跳ねる動作・弾む動作を中心としたスプリントドリル…上向きのスキップ、スピードを乗せたスキップ、馬のように高く腿を交互に上げては接地、遊脚を地面と平行以上に保ったまま片脚ホッピング…など。
スタートダッシュの練習にもなれるスピードバウンディング…前傾姿勢のまま鋭い角度でバウンディングを繰り返す。後ろの脚はスタートダッシュ時と同じ、伸ばしきっておく。
ドリルは短距離系だけでも多種類あり、ドリルだけで一日の部活が終わり、走らないこともあった。基礎のドリルと中・上級者向けのドリルを組み合わせてこなし続けることで走る時の理想的な
ウエイトなどによる筋力増強は大人になってからでも出来る。けど基礎中心のスプリントドリルは若い時ほどやっておくのが良い。30歳になってから分かったことだ。子どもの頃からいかに自分の身体を自在に動かせてるか、陸上に限らずどのスポーツにおいてけっこう重要だ。
だからガキのうちは筋トレ・ウエイトは後回しにして、ドリル系と普段やらないような動き、そして走り込みをたくさんやっとけば良いんだ。
てなわけで俺は今の部活が放任方針であるのをいいことに、最初みんなでやるウォームアップを終えてからは完全個人練習に移り、一人黙々とドリル練、補強練、走り込みをこなし続けた。
放任してるとはいったが別に顧問が無能というわけではなく、部が決めてる基礎練や種目ごとの個人練習はちゃんと見てるし、的確な指導・アドバイスもしている。
「松山…最近えらいレベル高いメニューこなしとるよな?お前どこでそんなドリル練知ったんや?」
「え、えーと………愛読してる月刊陸上マガジンからです」
俺があまりにも専門的な練習をしてることに、顧問の田中先生(担当科目は理科)には最初は驚かれたが、後日俺がやってるドリル練を調べてきて、彼なりの助言をくれたりと熱心なところもあったりした。
さらには同じ短距離を専門としてる同期・後輩部員の何人かも俺の個人練習に興味を示して、練習に混ぜて欲しいと頼まれもした。もちろん快諾して彼らの指導をしつつ自分の練習もこなした。
何つーか、すごく懐かしい気分に浸ってしまった。当時もこうやってみんなで教え合いながら練習をこなしていたんだなーって。高校が終わってからやり直す前つい最近までずっと、ガチ独りぼっちで練習していたから。
誰かと一緒に…選手同士で同じ練習メニューをこなすことが、こんなにも満たされた気持ちになるなんて…!この感覚、本当に久しいや。
大勢で群れて集団で動くよりは、一人で自由行動する方が好きだ。家族と同棲するより一人暮らしする方が好きだ。だからといって完全な独りが好きってわけじゃない。気の知れた奴らと食事するのも、ゲームで遊ぶのも、そしてこうして練習するのも、俺は楽しいと思ってるし大事だとも思ってる。
陸上は個人競技ではあるものの、こういったチームメイトと親睦を深め、練習で切磋琢磨し合うことも必要だ。そういう意味では陸上も案外団体競技なのかもしれない。まあ、こういった部活や実業団といったチームに属していれば、だが。
さて、かつて中学生だった「今」の俺がやらなかったより専門的なトレーニングを積みに積んで、一から鍛え直す日々を約二か月にわたって続けた。
結果、あの頃の俺と比べて、だいぶ変わったと思う。あの時よりも体を上手く動かせるようになり、スムーズに加速出来るようにもなれた。
俺は手応えを掴んでいた。自分は足が大して速いわけじゃなくて、センスが無い奴だと思ってたが、意外とそうでもないんじゃないかとこの時は思っていた。
いちおう俺にも速く走れる素質はあったんだ。じゃなきゃ30歳にもなって自己ベスト更新なんて、普通出来るものじゃない。この頃から速くなれる素質はあったはずなんだ。不幸にも自分がそれに気付くことが出来ず、自分が一番伸びる練習を見つけられないまま大人になってしまい、馬鹿をみる羽目になった。
こうして最初のうちから速く走る適切な練習を取り組んでいれば、この頃からもっと速く走れてたはずなんだ。
やり直し人生のお陰で、俺は修正することが出来た。後悔を払拭出来そうだ。この頃にやっておきたかったことは、大方出来た。次はいよいよ、実戦でその成果を発揮する時だ…!
5月末から6月初旬にかけて行われる、各地区大阪中学選手権予選会(以下 地区予選)。各地区ブロックでその予選大会を勝ち抜けば、夏に行われる大阪中学選手権大会(以下 府大会)に出られる。
当時の俺はこの地区予選を、400mで何とか突破している。なぜ400だったかというと100m200mとも地区予選を勝ち抜くだけの実力が無かったから、消去法で400を選択した、それだけだ。100・200と違って人口も少ないし、比較的府大会を狙いやすい種目だった。
しかし今回俺が出るのは400じゃない、100mだ!そりゃそうでしょ、この日の為に練習法を一から見直して改善し、新しいことを取り入れまくって、たくさん練習してきたからな。
正直、いけると思ってる。かつては12秒70台をうろついてた凡人だったけど、「今」は違う。やり直し人生のお陰で当時出来なかった最適なトレーニングを積んで、当時とは比べ物にならないくらい速くなれてる。
先週で同期たちと走ったら、みんなぶっちぎってしまった。当時はまあまあ拮抗していたのが、今となっては誰が相手でも大差つけてしまうくらい。練習で計ったら11秒台は出ていたので、本番でも同じかそれより速く走れる可能性は大いにある!とにかく11秒は確実に出る!!