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1-4


 思わぬ形で(自我とか記憶とか中身だけ)中学時代にタイムスリップしてきたわけだが。時間遡行した先のここは今、2010年3月の終わり。翌日には4月を迎える。時期としては中2の春休みといったところだ。

 授業は無くても部活動は午前からやってるということで、タイムスリップした翌日の朝から学校のグラウンドへ行き、練習に参加した。


 部活は当然、陸上競技部。男女共同の部活動。先日いっこ上の先輩たちが卒業したわけだから、今月からは俺らの代が部をまとめることになっている。

 当時の中学の同級生…同期の部員らの顔ぶれにとてつもなく懐かしさをおぼえる俺。そんな俺を訝しそうに見る部員と顧問の先生。あと中学のグラウンドで走ることにもえらく懐かしさを感じた。


 で、その日の練習を通して新たに分かったことがある。現在俺は中学生の外見となっているわけだが、その身体(運動)能力と肉体の強さも外見通り…つまり当時の自分と全く同じとなっていた。


 つまり、今の俺は……30歳の自分よりも足が遅いということになる。


 「遅い……遅すぎぃ…!昔の俺は、こんなに遅かったんか…っ」


 俺も同期の短距離部員の何人かも、この頃は皆100m12秒台だったから、一緒走ったらけっこう拮抗していた。くそ、もどかし過ぎる!もちっと速く走れねーのかよ、中学の俺!


 中学3年進級を控えたこの頃の自分の100mベストはたしか、12秒70台。2010年当時もそうだったが、令和の中学陸上界なんか12秒後半台とか下の上といったところだろう(少なくとも俺の中での基準ではだが)。世間一般で見ればまあ速いって言われるかもだが、陸上界全体で見れば全然速くない。女子でもそこそこといったところだろう、令和の時代では…だが。


 当時の自分ってホントに雑魚だったんだなーと早くも自分に失望しそうになるが、今からならまだ巻き返せる!と鼓舞して、休日は来週からの練習計画を立てて過ごした。



 部活ばかりの春休みが終わり、4月8日を迎える。この日は始業式、正式に中学3年生となり、その学校生活が始まる。


 始まる………わけなのだが。ぶっちゃけ、普段の中学生活自体はちっとも楽しみじゃない。またあの一年が始まるのかと思うと、むしろ億劫でクソダルいとすら思う。


 「クラスは………はぁ、やっぱり5組か。俺にとってクソつまんなくて、くそったれな5組かぁ………はぁ」


 思わず二度ため息をつく。ホントにこのクラスは俺史上嫌なクラスだったのだ。今でも思い出してしまうくらいに。

 部活仲間はいないわ、仲の良い友達もいないわ、代わりに調子こくクソ陽キャ、何なら不良の男子までいるわで、ガチクソおもんないクラスだったんだよなぁ。マジ最悪。


 「タイムスリップして人生やり直せるのは良いんやけど、こういうスクールライフもまた体験せなあかんのはガチ苦行やな………」


 とはいえ俺のやり直し人生を充実させるには避けて通れない道、やっていくしかないですよねーってなわけで。



 この頃の…というか小学6年くらいからずっと、俺は内気寄りで陰気な人間、通称陰キャな奴だった。加えて小心者でもあった。自分から波風を立てて周りから注目されるのがダメな奴だった。要は人前に出て目立つのが苦手ってわけなのだが。

 それ故に嫌なちょっかいを出してくるクソ陽キャどもをブン殴ることはおろか、言いたいことを強く言うことすら出来なかった。

 社会に出て弱者な大人に身をやつすようになってからようやく、そのことに対し悔やむようになった。

 奴らから嫌なこと言われ嫌なことされたのに、奴らに「やめろ!!」と物理的にぶっ叩くことも強く言葉に出すことも出来なかった自分が情けなかった。もちろんそうしてきたゴミ糞クラスメイトどもも許せないが、やっぱり強く出られなかった自分の弱さにも非があると思う。


 だからまずは、そこんところの意識改革からだ。


 そう決意した矢先、その絶好の機会が早速めぐってきた!


 「はぁ?俺がおるから座られへん?知るかそんなん!鼻くそ野郎!どっか他の席に行っとけ!wあ、俺の席に座ったらしばくからな」


 こいつはこのクラスで、いや学校一か二に嫌悪している不良男子、尾西おにしだ。童顔で背も低いがこう見えても不良グループの一人で、今も耳にピアス髪を金色に染めた男子や、スカート丈が短い茶髪の女子らと駄弁っている。

 今は自習時間で担当の先生もいないとはいえ、不用意に席を立って。ましてやうるさくしていいわけもない。


 「何やねん、何睨んどんねん」


 苛立ちを込めた目で見てたら尾西もさすがに気付き、逆切れ気味に難癖つけてくる。


 中身も当時のままの自分だったら、周囲から目立つことを嫌って離れることを選んでただろう。それが良くないんだよ!

 今の俺は違う。年を重ねたことでこういうシチュエーションに遭遇しても、俺はもう強く出られるようになってんだよ。


 「どけ」

 「はぁ?」


 途端に周りが俺らに視線を向ける。尾西らはこういうのに慣れっこってわけで、ちっとも動じてない。一方の俺も……同じく平然といられてる!そうさ、もうとっくに克服出来てんだよ。どうやって克服したのか…簡単さ。

 この時だけ、無敵思考になれば良いだけの話!


 ガッ 「あ……!?おい、何やねんおまっ、」

 「さっさと俺の机から降りろクソチビ!」


 しびれを切らした俺は尾西の襟首を掴んで、強引に机から引きずり下ろした。床にダァンと落としてやるとこいつはすぐさま俺を睨みつけて怒鳴りつけてくる。が、ちっとも怖くない。

 はっ、相手は所詮、正真正銘の中学生の、クソガキなんだ。それも世間知らずのな。中3のガキどれだけ威張ってこようが凄んでこようが、30歳の俺には全然効かねーよ。小型犬がうるさく吠えてるのと変わりない。


 「至近距離でギャーギャー喚くなつっとんじゃ、サルが。チビで弱くて頭も悪いくせに、調子に乗っとんちゃうぞ?」

 「ああ!?陰キャのくせに何イキって―――(ドコッ)ぉぶあ!?」

 「いやイキり散らしてんのそっちやから。前からずっと思っとったんやけど、お前調子乗り過ぎ。弱いくせにふざけたことすんな」


 ぎゃーぎゃー喚いてきて不愉快だったから、尾西の腹につま先蹴りを入れてやった。尾西はその場にうずくまり何度もえずいてのたうち回り、俺はそれを見て幾分スカッとした。


 「ハッ、無様やなw」


 そうだよこれだよ!これがやりたかったんだよ…!ずっと、ずっと!!当時中身も中学生だった頃出来なかった、こういう奴らへの物理的反撃、このやり直し人生でついに実現出来た!

 ああ、すげー気持ちいい!最高にスカッとする!何度も妄想し夢にまで出てきたこのシチュエーション、ついに現実となったんだ!

 ははは、おもしれー!当時俺が何もやり返さなかったことにつけ上がって、好き勝手に侮辱発言を浴びせて貶めてきた尾西の野郎を、こうして俺の蹴り一つでこんなに悶え苦しんでらぁ!いいざまだなぁ!?


 「二度と俺を怒らせる発言すんなや?あと勝手にその汚ぇケツで俺の机にも座んな」


 クラスで調子こいてる陽キャの不良チビに暴力を振るって、ざまあみろと爽快感に浸る俺。



 「お前なんやねん、陰キャがしゃしゃっとんちゃうぞ?」


 そんな時期が、ずっと続いてほしかった……。


 休み時間、尾西の友達…同じく陽キャ不良組の男子に、俺は喧嘩で負けてしまった。相手は3組の大村おおむらと4組の横原よこはら。二人とも中2になると運動部を辞めて髪を染めて制服を改造、さらにはタバコも吸うようになった。まさに背伸びして大人になったつもりでいる、グレた中学生クソガキ

 他校の不良と喧嘩した経験があり、二人は尾西と違って喧嘩もそこそこ強い。一方の俺はというと、当時はもちろん大人になってからもロクに喧嘩したこと無かった平和ボケ人。格闘技経験も当然無し。


 そんなわけで喧嘩慣れした不良中学生一人に不覚をとられ、ボコボコにされてしまった俺でした…。大村はうずくまる俺に死体蹴りをかましながら、尾西に謝れだの二度と調子に乗んなよだのと散々罵声をあびせてきた。元陸上部の横原は俺見てげらげら笑い、タバコの吸い殻を頭に捨てやがった。



 別の日でも、不良ではないが喧嘩慣れした陽キャ男子…サッカー部の里野さとの、野球部の山峰やまみねにも、喧嘩に負けた。


 「中身が大人だろうと、体の強さは中3のまま…。クソ、筋力も身体能力も30歳の時やったら、あんなクソガキどもなんか全員ズタボロにできとったのに…っ」


 敗因は分かりきってる、喧嘩の経験が無かったこと。あとは筋力が足りないことと、「無敵思考」がまだ足りなかったことかな。

 あいつらと喧嘩した時、俺はまだ周りの目を気にしてた節があった。こればかりはなぁ…。

 対して陽キャのクソガキどもは、大人と違って体裁を気にする必要が無く周りも気にしないタイプである為、割と動物的思考で喧嘩をふっかけてくる。つまり遠慮の欠片がないということ。ある意味この頃のガキって厄介だよなぁ。


という感じで、不良陽キャ、喧嘩慣れした陽キャのガキどもとの喧嘩に負けてしまった、中身30歳の男の負け組っぷりというわけで………クソッ!

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