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1-3


 翌朝。何年間も耳にしてもう聞き飽きてる目覚しアラームに目覚めさせられる。左手に妙な感触がしたので、そこに視線を落とすと、変な物があった。


 「何だ、こりゃあ??」


 それは奇怪な模様の、手のひらにギリギリ収まるくらいサイズの古びた懐中時計だった。昨夜…布団に入る時は手にこんな物はなかったはず。飯食ってる時だって、こんなのはどこにも……。


 「何やこの時計、中身丸見えやんけ。時計盤とかはどこ………」


 その懐中時計は本当に「奇妙」だった。口にした通り一般的なものと違い外装が無く内部構造が剥き出しになってて、見栄えが悪い。


 「外のどっかで拾った?や、それもないよな。酔っぱらったのは部屋で飯食ってからやったし」


 昨日のことを振り返りながら俺は何気なくその時計をいじり、変なボタンを押してしまう。



 ヴン――――――


 「うおっ!?」



 すると時計から変な音がしたかと思ったら、目の前の景色が一変した…!?目に映るもの…周り全てがモザイクみたいになってる!?


 「はぁーーー!?」


 てかこの光景…昔よく見てたドラえもんに出てきた、四次元空間に似てね?とにかく俺の部屋が突如としてそういう謎空間へと変わってしまった……!


 「えぇー……、マジで何なんこれ??何でこうなった?この謎時計か?こいつのせいで俺の部屋がこんな四次元ポケットの中みたいになったんか……?」


 ローテンションで呟いてるがこれでもまだかなり動揺してるし、割とパニくってもいる。


 「つかここって俺の部屋なん?それか俺だけ別のどっかに飛ばされたとか?」


 俺の疑問に答えるものは無く、その光景を延々と見せられ続ける。

 が、俺の体に異変がおとずれる。といっても単にもの凄い眠気が襲ってきただけなのだが………


 「う………今起きたとこやの、に…睡魔、ヤ……バ………………」


 強烈な睡魔に抗えず、俺は布団の上で、再び眠りにつ――――――――


 ――――――――――――――――――


 ――――――――――――――――――



 顔に眩しい何かが差した気がして、たまらず目が覚める。


 「あ……?俺、は……。変な時計をいじって、部屋がおかしくなって、そんでまたねむなって………」


 ぼーっとした頭でさっきまでのことを振り返るが、まるで夢を見ていたかのような内容だった。というか今本当に目が覚めたんじゃ………


 「――って、あれ?何か、天井近くね?」


 頭がはっきりしてきたところで、俺はここがいつもの部屋ではないことに気付いた。何で天井がいつもより近い?と思って下を見たら、いつもの床に敷いてる布団ではなく、木材で出来たベッドの上なものだから、びっくり。

 そしてこのベッドを、俺は知っている………つーか、


 「俺昔、夜はこのベッドで寝てたよな。じゃあここは、昔の俺の部屋………?」


 一体何がどうなってるのか。ベッドから降りて辺りを見回す。完全に既視感ある部屋だ。あの勉強机も、はしご付きベッドの下の洋服用タンスとゲームの収納箱も、この本棚も、全部憶えてる。


 ――どれも大学卒業まで住んでいた実家の俺の部屋にあった物だ…!


 「……てことはここは、実家のマンション…!?」


 現在(今ばかりはそう表現していいのやら)も実家の住所は学生時代と同じ東大阪市の、そこそこいいとこのマンションだ。ただ違う点を挙げるなら、俺が今いるとこはリフォーム前の内装をしている。


 「……まあ細かい回想は後にして。今すぐ確認せなあかんことが―――」


 ここまで得た情報から、俺には確信に近い予想が出ていた。予想が正しいなら、この部屋の戸を開けた、先には―――


 「あ、友有真。おはよう。お母さん今日は早出やから、お昼は自分で買って食べてな」

 「母……さん………っ」


 最後に会った時より幾分若くなった、実の母がそこにいた。母の顔を見た俺は何だかいたたまれない気持ちに駆られ、咄嗟に顔を逸らしてしまう。そんな俺を母は少し訝しんだが、テーブルの上に置いた昼食代を指して何か言った後、仕事場へ向かって行った。


 それから数分間俺はその場動揺のあまりただ立ち尽くしていたが、どうにか落ち着きを取り戻し、ここまででおかしなことを挙げてみる。


 「何で母さんは俺が実家にいること何とも思ってへんのや。この部屋もそう。何で昔の状態にグレードダウンしとるんや……。 

 何よりも………」


 俺は自分の身体を何か所か触れて、その肉付きや質感、肌触りなどをチェックしてみる。


 「俺の体、細なってね?肌もカサついてへんし、何よりも、体が軽い…!」


 さらに得た情報から、俺の身に起こってることを予想する。そしてそれを確認するべく、洗面所へ移って、意を決して鏡を正面から見てみた…!


 鏡に映る自分は、およそ中学生時の顔と姿をしていた。つまり、それが今の自分の顔・姿ということになる。


 「えぇ……、どこの見た目は子ども頭脳は大人の名探偵さん?」


 鏡に向かって俺はそう呟き、同時にあることを確信した。


 どういうわけか、昔(およそ中学生時代)にタイムスリップしていた。しかも、外見…肉体はこの頃まで若返るというオマケ付き。ただし、中身は30才…「現在」の自分のままだ。


 「意識、っつーか自我は今(=30才現在)の俺のままで、その俺を動かす器…肉体は、10代半ば頃の俺になってる………てのは、タイムスリップになるんか?

 自我は『俺』だけど、体の方は『俺』やないやん?なんか魂とかだけが過去の世界にいってしまってる………って。

 もしそうなってんやったら、『俺』の体は今どうなっとるんや……?」


 などと様々な細かいことに次々疑問を咲かせていたが、そんなに良くない頭をどれだけ働かせても納得いく答えは出てこないというわけで………


 「とりあえず飯食って、家探しでもするか」


 実家のキッチンから食えるものをもらい腹を膨らせた後、2010年代の実家の物色をしてみた。

 リビングに設置されているテレビは地デジ用ではあるもののこちらの現代と比べて奥行きが厚く、YouTubeやネトフリといった配信サービスが観られる機能はついてなかった。

 俺の部屋ももう一度調べてみる。机においてある携帯電話はスマホではなく縦式のガラケーだった。ゲームもSwitchやプレステ5はなく、DSとPSPとWiiが並んで置かれている。ゲームソフトもポケモンは最新作が金銀のリメイクで、PSPにはモンハン2ndが差し込まれており、Wiiの上部にはキュブコンのメモリーカードが差さっていた。

 あとは本棚…ライトノベルは一冊もない。30歳現在も集めている漫画のワンピは頂上戦争のとこの巻までしかなく、ナルトもまだ完結してないし、バキも親子喧嘩のとこまではいってない。


 そんな自分の部屋の家探しに夢中になってるうちに夕方、夜、そして次の日の朝を迎えてしまった。

 寝ても起きても、俺の見た目は中学生時の俺のまま。ここまでくればもう確信するしかない………俺は中学生時代にタイムスリップしてしまったのだと。

 それと一日ここで過ごしたことで新たに分かったことがいくつかある。


 まず、やはり俺は中身(「今の俺」)だけこの時代…2010年3月末にタイムスリップしていたということ。リビングのカレンダーや携帯電話の電波時計でこの時代の西暦と月日を確認したから間違いない。

 それと、自分がどこの誰であるかきちんと把握していること。一昨日「俺」が何をしていたのかも、「俺」の経済ステータスがどんなものかなども。タイムスリップしたことで記憶と脳自体障害が…なんてことは、俺の診断では何も無かった。

 言うまでも無いが中身…精神は「今の俺」だ。中学生時の俺の自我はどこにも感じられない。

 最後に、ベッドには昨日の朝…元いた時代の朝からあった、古びた謎の懐中時計があったこと。これに関しては本当に何も分からない。いじってみたけどまたタイムスリップするなんて事象は起こらなかった。


 とにもかくにも、どうやら俺は「今」の自我(人格)と記憶など中身だけがタイムスリップしてしまっているようだ。いわゆる「強くてニューゲーム」的なやつっぽい。


 「は、ははは―――」


 笑った。笑わずにはいられなかった。実現するはずないと分かっていても望まずにはいられなかった、「過去へのタイムスリップ」。しかも中身そのまま外見過去の自分っていう特大のオマケ付き!


 「チャンスかもしれん。いやチャンスやろこれ!弱っちくて全然パッとしなかったあの中学時代をやり直せるぞ。

 中学だけやない、30歳になるまで失敗だらけだったこの人生そのものをやり直せることも出来そうやん…!?」


 もしも今の人格や記憶などの中身全部を保持したまま、過去の時代へ戻ることが出来たなら。

 やることは一つしかない―――


「やり直そう……失敗と挫折だらけだったクソおもんなくてしょうもない人生を、ここから!

 まずはこの年…中学最後の一年間から!!」


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