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1-2


 俺、松山祐有真まつやまゆうまをどういう人間かを簡単にまとめると、こうなる。


 才能が無く、何をやっても中途半端な結果(成績)しか出せない、凡の層から抜け出せない奴。そして、努力の仕方を間違い続けてきた哀れな奴である。


 2025年。パリオリンピックが終わってまだ一年とちょっとしか経っていない。

 今年俺は30歳を迎えたばかり。低所得者のフリーター、アパート暮らし、独身、素人童貞といった、世の中ではおよそ下層の人間、弱者男性とも呼べる。

 この年になってくると高校や大学の同期たちの中から結婚・子どもといった「家族ができました(増えました)」的な報告をよく聞くようになる。

 そんな中30歳にもなった俺には、皆に胸を張って報告出来るものが何一つ無い。仕事で出世したとか、彼女ができたとか、結婚したとかなど、そんなキラキラした報告はこれまでの人生で一度もしたことがない。

 こんな30歳にもなって何も成せていない人間なんて、俺以外にそういないんじゃないだろうか。


 自分は本当に、やっても中途半端な人間だ。運動スポーツも勉強もゲームも、大人になってからは仕事も副業も、何をやっても中途半端止まりに終わってしまう。

 上には上がいる。そんなことは分かりきっている。けど今の位置よりももうちょい上のところに行けるやろ…ってところにすら、俺は上れない、たどり着けない人間だ。良くて平凡に毛が生えた程度のレベル、それが俺なんだ。


 昔の俺は、将来特別な人間になれると思っていた。

 小学校での自分は校内の同学年の誰よりも足が速く、自分は走りの才能があると思ってしまった。


 その後中学で陸上部に入り、市内の記録会や地区予選に出ると、自分は陸上の世界では全然速くないこと、自分がとんだ勘違い野郎だったことを思い知らされる。中一の速い奴は100m12秒前半台で走るし、そういう奴らは二年生で11秒台を出すようになる。本当に速い人間はそういう奴らのことを指す。

 2年生になっても12秒台出すのに秋までかかるような奴は、陸上界では足が速いとは言わない。凡人というのだ。

 自分が凡人枠だと思い知ってからも、俺は諦めることなく思いつく限りのキツい練習をこなし続けた。その甲斐あってか中3では府大会の準決勝までいくことが出来たが、そこまでだ。


 中学では上手くいかなかった。でもまだ高校がある。そこで頑張るとしよう。中学陸上を終えたばかりの俺は未来に希望を抱いた。

 しかしそれは自身に対する失望や絶望に変わることになる。


 高校に上がってから俺は自分の才能の無さ、無駄な努力をしてしまったことを思い知らされ、より一層惨めな思いをして劣等感に苛まれることになる。

 春から怪我をしてしまい、盛大なスタート遅れをしてしまった。そのせいで一年の夏になる頃には、俺は同期の中では下から数えた方が早い位置となってしまった。

 それからも怪我が治ってしばらくしたらまた怪我をしてしまい、練習すらまともに出来ない時期が度々あった。

 同期たちがどんどん成長して大会でも実績を出す中、自分だけ全く成長できず地区予選すら勝ち残れずに終わった。陸上においては高校三年間ずっと劣等感に苛まれたまま引退したのだ。

 勉強に関して。当時通っていた学校での成績はそこそこのもの(筆記の定期テストはクラス一位、総評定値も一位)だった。が、これに関しても俺は井の中の蛙で、外の連中と比べれば低層民もいいとこだった。

 関西の難関大学へ進学するだけの実力はなく、部活引退後必死に勉強するも一般入試は全滅、滑り止めで受かった大学へ進学することになった。親に高額の試験料を払わせるだけ払わせておいて、受けた本命の大学全て不合格という、時間とお金を無駄にさせたことを、酷く後悔した。


 大学はさらに酷いものだったと思う。大学4年間、俺は何もしなかった。

 中学高校と色々努力してきたが、結果はどれ一つとして中途半端止まりで、何の達成感も得られなかった。

 それまでの反動なのか、大学から俺は努力をしない奴に落ちぶれた。中学からずっとやってた陸上をする気にはなれず、観戦客として同年代たちの活躍を漫然と見てるだけだった。


 部活やサークルには属さず、ゼミでも大した活動・活躍をしなかった為、就活では苦戦し挫折を繰り返す羽目に遭う。大学を卒業した後どうにか就職はしたものの、組織に属することに適さない性がたたったか、長続きせず辞めてしまい、フリーターとなった。

 将来の明確な目標とやりたいことがこれといって無い。何よりしたくもない努力をするのが…頑張ることがとにかく嫌だった。今さら就職に有利な資格を取る気にもなれず、今ある手札だけで社会に自分を売り込むしかなかった。

 結果どれにも受け入れてもらえず、入れたとしても先ほど述べた通り組織人からかけ離れた人間であるためどれも長続きするはずもなく、転々と働き先を変え続ける人生を送り続けた。


 大学を卒業した数年後のある時、高校の同級生に一緒に陸上をまたやろうと誘われたので今のクラブチームに入り、たまに一緒に練習したり試合にも出たりした。

 元々大学時代から陸上の練習はずっとやっていた。高校最後があまりにも酷い結果で、それからずっと未練から練習をして、どうしても辞められなかった。だから高校の同級生からの誘いにあっさり乗った。

 学生時代の失敗を踏まえて技術面をしっかり見直して、地道に練習を積んだ結果、ようやく高校時代よりも速いタイムを出せた……わけなのだが。


 驚く程に嬉しさは全然なかった。


 そりゃそうやろうな。俺が出した成果なんて、全然大したことじゃない。金にもならない。自己満足にすらなり得ない、ホントにしょうもないものなのだから。

 結局は中途半端な結果でしかない。だから満足も喜びも泡沫のように一瞬で弾けて消える。

 久々に努力してみたが、またしてもこんなしょぼくてつまらないもので終わるだけ。俺はこういう奴なんだと。


 他にも、パート労働の片手間で株投資をやってみたが、損切りばかりで馬鹿らしくなって挫折した。副業でウェブライターやウェブ小説を書いてみたがどれも読者の数もPV数も増えず伸びず、中途半端に終わった。

 趣味でやってたゲームで上位ランカーになろうと本気で挑んでみたが、上手くいかず挫折。


 本当に何をやっても中途半端な人間だった。


 を凌駕するものが自分には何一つ無い。

 それ以前に自分が何が本当に得意なのか、どういう仕事が自分に向いてるのか、他よりも優れてる自分の才能など。それらをきちんと把握し見出すことすら出来ていない。子どものうちに知っておくべきことを知らずのまま、大人になってしまった。


 何一つ大成せずの自分に絶望するばかり。そこらの奴らより突出した才能が無い、それ以前に自分の才能を見つけることすら出来ないまま育ってしまったことがホント憎い。

 何よりも、人並みの努力じゃすぐに上達しない自分の低スペックが憎かった。

 俺はセンスも才能も無いから気の遠くなるような努力をし続けないと大成しないタイプだ。凄い奴になりたいなら皆以上に努力しなければならない。

 やれば良いのだが、それをやるだけの意思が自分には無かった。懸ける覚悟が出来なかった。


 だから何にもなれず、こうして底辺でくすぶっているのだ。人並みの努力で何でも出来る人間になりたかった…と愚痴る毎日。


 多くから注目され「凄い奴だ」と言われ、金をたくさん稼いで良い暮らしを手に入れるには、それらを叶えるだけの努力をするしかない。この社会不適合が過ぎる性根もどうにかしないといけない。

 だけど今さらそんな大変で面倒な努力をして、今よりもずっと上の段へ行く…という気にはなれない。

 30歳でこんなステータス、いったい何が出来るというのか。もう遅い、手遅れだ。


 人生もうとっくに詰んでんだよ。


 30歳を過ぎれば肉体は嫌でも衰えに向かっていく。プロでも一線にしがみつくのが精いっぱいだというのに、高校の地区予選すら勝てなかった無能の俺がどうして勝てようか。

 30歳にもなって何の資格を持たずキャリアも皆無だというのに、どうやって上級国民になろうというのか。宝くじでひと山当てる?株で大勝ちする?どれも現実的なやり方じゃない。


 そういうわけで、もう手遅れ、詰みだ。


 間違いは誰にでもあるしやってしまう。ただ俺の場合、あまりにも間違い過ぎた。正しい努力が出来てなかった。取返しつかない間違いも犯してしまった。


 俺の人生、本当に間違ってばかりだ。人生というクソゲーを全く上手く攻略出来ずにいる。


 いっそ、最初からあるいは途中から、やり直したい。

 それも、「今」の自分が持ってるもの全てを引き継いだ状態で。


 人生30年分の記憶、知識、知恵を全て持ったまま、ガキからやり直せればいいのになぁ―――




 「………なぁんて、思ってみたけど。もう何十回、何百回、思い描いたことか。叶うはずもない、こんなガキの妄想を」


 深夜、布団の中で俺は自嘲する。飲み過ぎて頭がぐるぐるして朦朧としている。


 「けどまぁ、妄想に浸り妄想を語るくらいなら、いくらでも構へんよなー。誰に聞かせるわけでもないし、金もかからんし」


 こんな妄想が叶えれば…などと、どうにもならない願いを、俺はまた頭に浮かべる。


 「今のスペックで、ガキからやり直せれば………きっと………………上手く、やれ………………」



 眠りにつく。

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