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第265話 大百足『災禍』討伐戦

―――戦場に轟く凛々しい声


「剣聖技―――真空刃ホロウ・ブレイド!!」


真っ先に飛び出していったイェンリンが手にするのは、新たな皇帝剣となった黒炎剣=『焔羅ほむら』だ―――


その焔羅から真空の刃を繰り出して巨大な百足の『災禍』に放っていく。


十数個の真空波が一瞬で同時に生み出されて、黒い鎧のような大百足ジャイアント・センチピードの胴体に吸い込まれたかと思うと、そこに生じた斬撃の痕から大量の紫色をした体液を噴き出していく。


【GYASYAAHAAAA―――!!!】


頭についている巨大なハサミ型の牙をガチガチと鳴らしながら、擬音のような声を発する大百足―――


「ほう……流石は八雲の剣。斬れも使い勝手も最高だ。余のために生まれてきたと言ってもよい剣だな♪」


―――真紅の刀身に漆黒の刃が重なっている皇帝の剣。


以前よりも一回り長くなった新たな剣にイェンリンは見惚れていた―――






―――その横を飛び出してきた人物


ブリュンヒルデが構えた紅蓮剣=『紅明こうめい』を上段に持ち上げると―――


「我が勝利の剣を受けて滅びよっ!!!」


―――目の前に迫る大百足の胴体に斬りつけると同時に、斬りつけた刃の長さ以上に大百足の図太い胴体を斬り裂いていく。


胴回りだけでも三十mはある胴体の半ばまでを斬り裂いたブリュンヒルデの一撃は確実なダメージを『災禍』に与える―――


―――深く傷ついたことで、見悶えて暴れる巨大な百足は、傷口から紫色の血を噴き出して身体を捻じって身を護る様に動く。


だがブリュンヒルデは容赦なく次の剣を振り下ろしていくのだった―――






「―――僕も、強くなったことを証明する!そして、これからも八雲君と一緒に生きていくために!目の前の敵を討つ!!!」


力強く叫んだマキシは、手にした蒼龍剣=『蒼夜そうや』を握り―――


―――大百足の胴体の上に飛び乗ったかと思うと、


「ウオオオオ―――ッ!!!」


その場で足元の胴体に蒼夜を深く吐き刺して―――


「―――【呪術カース防御破壊デストローイング】!!!」


―――詠唱と同時に呪印を浮かばせて大百足に行使すると、対象の全身に茨のような紋様が走って全身を駆け巡る。


対象の防御力が一気に低下する集団戦闘支援呪術のはずだったが―――


「な、なに!?―――なにが起こったの!?」


―――マキシの【呪術カース】は発動せずに、大百足に弾かれてしまう。


「ま、まさか―――【呪印返し】まで、この紋様に編み込んで!?」


マキシは足元の大百足の胴体を巻き付くように走る【呪術】の紋様に、他の【呪術】を弾き返すための【呪印返し】が施されていることに気がつく。


そんなマキシに向かって後方から大百足の巨大な尻尾が襲い掛かる―――


「しまっ―――」


―――その対応に遅れてしまったマキシが、蒼夜を前に構えて受けの姿勢を取っていると、


「危ないですわっ!!!」


そこに蒼龍鎧=『蒼壁そうへき』を身に纏ったウェンスが立ちはだかった―――






「―――ウェンスッ!!」


マキシが叫んだ先には蒼龍鎧=『蒼壁』を纏うウェンスが立ち塞がって主を護る―――


―――『蒼壁』は喉を守るゴージット、スポールダと呼ばれる肩当て、


そしてそれを補強するガルドブラ、肘を守るコーター、前腕を守るヴァンブレイス、下腕部を防護するリアブレイス―――


―――手首を守るゴーントリット、脇をまもるベサギューとあり胸部と背部を守るブレストプレートは強調するかのように胸の形を施し、バックプレートから構成される。


更に腰部を守るフォールド、フォールドから吊り下げられた二枚一組の小板金のタセット―――


―――胸部のブレストプレートと対になったバックプレートから吊り下げられ臀部を守るキューリット、


チェインメイルスカートの下には純白の布スカートが纏われ、その姿はまるで戦乙女ヴァルキリーのような装いだった―――


―――大腿部を守るクウィス、膝を守るパウレイン、脛を守るグリーヴ、足を守る鉄靴ソルレットからなり、その鎧の表面はすべて鏡面に仕上げられている。


一角獣のような角が付けられた頭部を保護するヘルムはフェイスオフ状態で美しいウェンスの顔が覗いていてヘルメットの間からは金髪の巻き毛が風に靡いているという美しさと強さを象徴するような見事な鎧である―――


―――その防御力は蒼神龍の鱗で出来ているというだけで最硬度の防御力を誇り、それに加えて蒼神龍の眷属であるウェンスの力が合わされば、迫りくる大百足の山のような尻尾も、その二本の腕だけで受け止めることが出来る。


ドォオ―――ンッ!!!という衝撃音と共に尻尾に体当たりされたウェンスだが、マキシの心配を余所にキリッとした顔でその巨大な尻尾を押し返して止めている―――


「マキシ様!!今のうちですわ!!!」


「―――ありがとう!ウェンス!!」


―――ウェンスの援護で一旦大百足の胴体から飛び降りて地上に戻ったマキシを確認してから、ウェンスはその尻尾を押し返して自身の蒼壁に備えられている二本の大剣を両手に持つと、目の前の尻尾に攻撃を仕掛けていく。


「―――食らいなさいなっ!!!」


その斬撃は剣を扱う他の眷属達に負けず劣らず鋭い切れ味で、連続して剣を振る度に深く斬りつけていくと大百足は傷の痛みで巨体を震わせていくのだった―――






―――その蒼い勇者の攻撃の傍では、サファイアが白龍槍=『初雪はつゆき』を振り回しては大百足の胴体に次から次へと手傷を負わせていた。


「―――雪菜様を怖がらせるなどと!!魔物が少し強くなった程度の分際で、調子にのるんじゃありませんわ!!!」


子供の頃に百足に噛まれて大泣きした雪菜はトラウマとなっていて、この大百足を見た瞬間から竦み上がっていた―――


―――そんな雪菜の姿に内心では、


(超お可愛らしいですわ~♡♡♡)


などと舞い上がっていたサファイアだったが、今はそのトラウマの対象であるこの大百足を退治することで、


『―――ありがとうサファイア♡ やっぱりサファイアが一番頼りになるね♡♡♡ これはお礼だよ♪ チュッ♡/////』


と、雪菜に熱いキスをしてもらうという妄想に励んでいた―――






―――だが、当の本人である雪菜はというと、


「―――やくもぉお~!百足だよおぉ!!怖いよぉ~!!!」


と、八雲に泣きついて離れないといった状況に陥っていた……


「お、おい!ゆ、雪菜?!わ、分かったから!無理しなくていいから、向こうで離れて見てなさい。いい子だから!コラッ!ズボンを引っ張るな!!やめなさい!」


抱き着かれた八雲は雪菜を抱えて大百足への攻撃も出来ずにあたふたと泣きつく雪菜を子供にするかの様に宥めることしか出来ない。


だが、そこに現れたのは―――


「雪菜よっ!八雲の妻として、その情けない姿は何だ!!今のお前は百足にやられた時と比べてどうなのだ?―――強くなったのではないのか!!!」


―――八雲の正妻にして黒神龍であるノワール=ミッドナイト・ドラゴンが、泣きじゃくる雪菜を諭すように叱咤激励を放つ。


「ノワール……うん、そう、だよね……このままじゃ……ダメ、だよね……うん、なんかゴメンねっ!八雲!―――私も強くなったんだもんね!うん!頑張るよ!!こんな化物になんか負けないんだから♪」


先ほどまでの泣きっ面から涙を拭って顔を両掌でパンと叩き、気合いを入れて八雲に笑顔を向ける雪菜―――


「ああ、ホントに強くなったよ、雪菜。だから一緒に倒そう。お前はひとりじゃないんだから!」


―――そう言って雪菜の頭をポンポンと軽く掌で叩いて、優しい瞳を向ける八雲。


「八雲……/////」


「雪菜……」


放っておけばこのままキスでもしてしまいそうなピンクの背景色を醸し出すふたりの前に―――


「もし?おふたりとも……今は戦闘中ですわよ……」


―――と、眉間に皺を寄せながら八雲には破格の『殺気』を飛ばしているサファイアが現れる……


「あれ?サファイアいたの?それじゃあ雪菜のことはサファイアに任せるから、しっかりと護っておいてくれよ!」


「―――言われずとも雪菜様はわたくしが護り切って見せますわ!!!貴方は早くあの百足を何とかしてきなさいな!!!」


ぷりぷりとお怒りのサファイアに八雲は、


「お前、ホントに可愛いなぁ~♪ ヤキモチなんか妬いて」


と、余計な言葉をぶっ込んでしまったことで―――


「―――ハァ?」


途端にサファイアの周囲を取り囲む『殺気』の量が桁違いに増加する……


「怖い怖い!マジの『殺気』を飛ばすな!―――って、雪菜!!!」


―――遊んでいるふたりを置いて、白龍剣=『吹雪ふぶき』を手にした雪菜はトラウマ克服のためにも大百足に突撃していった。


「―――ハァアアッ!!!」


大ジャンプで大百足の胴体に飛び乗った雪菜は、その胴体に吹雪を思い切り突き刺すと同時に―――


「―――氷爆アバランシュ!!!」


水属性魔術上位の《氷爆》を大百足の体内で爆発させ、幾つもの尖った氷柱のような氷の棘が百足の体内から突き出てきて大ダメージを与えた―――


「やった!やったよ!私!!!―――もうこんなヤツなんて怖くないっ!!!」


―――自ら立ち向かっていったことで、幼い日のトラウマを乗り越えた雪菜。


そのまま大百足に続けて攻撃を繰り出すのだった―――




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