目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第260話 ソプラ・ゾット列島統一

―――歴史的大敗を喫したゾット列島国とイロンデル公国の連合軍は解散となり、イロンデル公王ワインドは逆恨みをしたゾット列島国ゴルビア王に追撃まで受けて島を追われた。


その追撃から命からがら海を渡って逃げ伸びたのはイロンデルから連れてきた三万の軍勢のうち僅か五百騎であり、その配下を引き連れてウィット聖法国からイロンデルへの帰国を目指していた―――






―――8月23日


ゾット・イロンデル連合軍が解散した翌日、その日は朝からゾット列島国ウノ島にある首都シエンの上空に、漆黒の巨大な空飛ぶ船が出現して城に影を落とした―――


「あ、あれは一体なんだ!?―――これは、一体何が起こっておる!!!」


シエンフル城のバルコニーから空を見上げて城を影で覆うその漆黒の船、天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーを見上げながらゴルビア王はワナワナと震える。


そんな恐怖に震える王の頭上から、つい昨日聞いたばかりのトラウマを植え付けられた声が響き渡る―――


【あ、ああ~!マイクテスッ!マイクテスッ!―――ゴルビア王!!!聞こえているだろう!!態々ここまで会いに来てやったぞ!……いるんだろ?……ねぇ?……いるんでしょう?いるよね?―――今から降りるから、待ってろよぉお!!!】


―――と、後半はホラーチックな言い回しになりながら、その声が途絶えたかと思うと上空の黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーから、何かが飛び出してゴルビア王のいるバルコニーに向けて落下してくるのが見えた。


「なん……だ、あれは!?」


そう言って上空から落下してきた者が人間だと気づいた時にはバルコニーの石で造った手摺り部分に、ストンッ!と音もなく下り立つ人影が目の前に現れてゴルビア王は思わず腰が抜けそうになり仰け反る。


「初めまして、ゴルビア王―――俺が九頭竜八雲だ」


手摺りの上に舞い降りた人影は、金色の刺繍を鏤めた漆黒のコートを纏い、腰には黒刀=夜叉と黒小太刀=羅刹を差している八雲だった。


「あ、あがっ?!……シュ、シュヴァルツ皇国、こ、皇帝……陛下の……」


緑の髪は既に汗でベタリと額に吸いつき、小太りの身体はプルプルと小刻みに震えが止まらないゴルビア王に八雲はサッサと要件だけ告げることにする。


「此処に来た要件を言うから、よぉく聞いてくれよ―――」


そう言って話を進めようとすると―――


「―――で、出合えぇええ!!!出合えぇえええ!!!」


―――と、必死の形相で兵士を呼ぶゴルビア王に八雲は「ハァ……」と呆れた溜め息を漏らす。


王の声に武器を手にした兵達が広いバルコニーへ押し寄せてくると、


「侵入者だぁああ!!!斬れ!―――斬れぇええ!!!」


八雲を侵入者として切り捨てるように命じる。


「へぇ~!シュヴァルツの皇帝と知っても俺を斬るってことは、このまま戦争を続けるってことでいいのか?」


「だ、だ、黙れぇええ!貴様さえいなければぁ―――」


ゴルビア王が叫びだしたその瞬間―――


黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの火属性火器管制システムである《火属性炎弾放射砲》から、真下にあるバルコニー横の地面に向かって赤い《炎弾》が撃ち込まれ、巨大な爆音と共に周囲を爆風が襲った。


―――土煙が舞い上がり、爆風に腰を抜かすゴルビア王と兵士達。


「……今のはちょっと俺もビビったよ?狙いギリギリ過ぎじゃね?ディオネさん」


自分のすぐ横に着弾してきた《炎弾》に、八雲もかなり驚いてしまい内心渦巻いたディオネへの文句をここはグッと堪えた。


だがしかし、ゴルビア王が腰を抜かしている今がチャンスだと思った八雲はここでゾットを畳み掛けると決めた。


「まだ、俺のことを狙ってくるつもりか?だったら次はこの城を瓦礫の山に変えるしかなくなるけど?……それでもいい?」


にこやかに微笑みながらゴルビア王に告げる八雲だが、その眼は決して笑っていない……


その眼を見たゴルビア王はゆっくりと膝から崩れ落ちてその場に両手をつき、


「―――ま、参りました!降参致します!!で、ですので、どうか命ばかりはお許しください!!!」


それは見事なまでに醜い土下座を八雲に見せつけるのだった。


王がバルコニーの床で土下座を繰り出したことで周囲にいた兵達も、揃って武器を置き八雲の前にひれ伏す。


「それじゃあ、これからゾットはソプラに併合されることになることを了承してもらおう―――了承するよね?しないとかないよね?文句ないよね?」


「―――し、します!了承致します!しないとかありませぇ~ん!!文句もございませぇ~ん!!!ですので!どうぞ命ばかりはぁあああ!!!」


八雲から提示された条件を、ゴルビア王は有無を言わずに了承した。


「ああ、大人しく了承するなら、今此処で別に命まで取ろうなんて思ってないから♪ でも……今後もしソプラに弓引くことなんてしようものなら―――」


「―――ゴクリッ……」


ゴルビア王に笑顔を見せながら、


「この世から髪の毛一本残さずに―――消滅することになるよ?」


サラッと恐ろしい言葉を強烈な『威圧』と共に告げる八雲に、ゴルビア王も周囲の兵士達も一気に強烈なトラウマになる傷を心に植え付けられてしまった。


―――こうして、ゾット列島国はソプラ諸島連合国の一部となり、後に『ソプラ・ゾット諸島連合国』と国名を改める事となる。



<i693109|38197>



七つの島で構成された巨大な列島群国となるのだった―――






―――ソプラの首都ミルにあるダンフル城に黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーで戻った八雲を待っていたのは、ソプラのデカダン王だった。


「黒帝陛下!この度のご助力、ソプラの民を代表して心より感謝申し上げる」


丁寧に頭を下げて謝意を示すデカダン王に、八雲は笑みを浮かべながら答える。


「元はと言えば此方のいざこざにソプラを巻き込んだようなものだから、どうぞ気にしないでください。それより、これからは七つの島を納めるにあたって是非これからもオーヴェストの諸国と、より良い関係を築いてもらいたいと思っていますよ」


「無論のことです。まだしばらくは併合したゾットの整理が必要となるでしょうが、一度は袂を分かったとはいえ元々は同じ王家に連なる血筋同士なのです。彼らのことを無下に扱うようなことは致しません」


八雲にそう約束するデカダン王の眼は、真っ直ぐにソプラとゾットをひとつにしたことでより良い国づくりを目指そうという意欲に溢れていることが見て取れる。


「シュヴァルツも協力しますよ。これからは貿易の面でも率先してお付き合いしたいですから」


「はい、勿論そうさせて頂きましょう」


そう言って固い握手を交わす八雲とデカダン王―――


それからは戦勝ムードで祝勝会を行おうとするデカダンの申し出を丁重に断って、八雲はレオパール、リオンを経由してからシュヴァルツに戻る意向を告げた。


「そうですか……しかし黒帝陛下もまだイロンデルのことを抱えていらっしゃる身。ご心痛のことだとは思いますが、落ち着きましたら是非ともまたソプラにお越しください。その時は国を挙げての歓迎をさせて頂きますぞ!」


「―――ええ、必ずまた来ますよ!」


そうして八雲は兵達を黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーに収容して、一路レオパール魔導国へと向かい飛び立つ。


―――そんな船内で八雲はラースとナディアに出会う。


「陛下!―――この度は戦勝、おめでとうございます!」


と、ふたりで深々と頭を下げるラース達に八雲は笑いながら、


「言った通り誰も失わずに勝利出来ただろ?イロンデルの嫌がらせに巻き込まれて兵達を死なせるなんて、バカバカしいにも程があるからな」


「はい!陛下の神算鬼謀、心から尊敬致します!」


「いや、そんなに畏まらなくていいって!……ところでナディア」


八雲はラースの横にいるナディアに声をかける。


「はい、なんでございましょう?」


表情を引き締めて、やや緊張したナディアに―――


「なんだったら『回復』の加護かけてやろうか?」


―――と、問い掛ける。


「はっ?……え……あっ!その……へ、陛下、あの、それは……/////」


途端にその意味に気づいたのだろう、ナディアは顔を真っ赤にして俯いてしまった。


一体何のことだ?と訳のわからない表情をしているラースを見て、


「ナディアも苦労するなぁ~!まあ、これはラースが悪い……」


「わ、わたくしがですか!?ナ、ナディア、言ってくれ!俺は何か君に悪いことをしたのか!?」


「も、もう!!なんでもないですから!!!本当に陛下も止めてください!/////」


未だに理由の分からないラースに益々その顔を赤くして股の痛みを我慢しつつも、やや内股になっていくナディアを見て八雲は笑いながら『回復』で傷を癒すのだった―――






―――ソプラ・ゾットを利用したシュヴァルツ包囲網構築が失敗に終わって、


イロンデル公国ワインド公王が国元に到着したのは、それから三日後の8月26日のことだった。


形振り構わず真っ直ぐに国元に戻ったワインドは、首都アンドリーニアにあるロンディネ城に入城して、そこで漸く心から落ち着くことが出来た。


「陛下……大丈夫ですか?」


公国宰相デビロは、執務室で椅子に腰掛けて溜め息を吐いたワインドの状態を心配してそう声を掛ける。


「大丈夫かだと?連れていった三万の軍勢を二万九千以上失ったのだぞ?これで大丈夫だと言い切れるような胆力を儂も身に着けたいものよ」


皮肉を込めた返事をするワインドにデビロも言葉が見つからない。


「許せ……お前を困らせようとして言った訳ではないのだ。のうデビロ……今更だが、エンリーチは本当に最初から儂を騙そうとしていたと思うか?」


突然のワインドの問いに一瞬驚いた顔を見せたデビロだったが、そこからは公国宰相の顔に変わって冷静にその問い掛けに対する返答を考えていた。


「わたくしもあの時は黒帝の言葉に翻弄されて冷静な判断がつき兼ねておりました。しかし……今、此処で陛下に問われて思い返してみるとおかしなことだらけでした」


「ほう?どういったことがだ?」


するとデビロは冷静に説明を始めた。


「はい。まずどうして黒帝はエンリーチ卿が我等の船に乗っているにも関わらず、あのように陰謀を抱えていることを話したのでしょうか?あれではまるで―――」


「―――ダニエーレを斬れ、と言っているようなものか?」


続けてワインドが答えた。


「はい。あの時、黒帝はワザと我らを煽り立ててから、敢えてエンリーチ卿が陛下のことを馬鹿にしているようなことを言い出しました。あの状況で、しかも懐には毒の短剣を忍ばせているなどと言われれば……」


「うむ……あの小僧は本当に恐ろしい。我らはとんだ化物に手を出してしまったのかも知れんな」


「……陛下」


憔悴したワインドの姿に、デビロもまた自身の不甲斐なさに嫌気が差してくる。


「だが、此方にも―――味方に化物がおる」


その言葉にデビロは驚いた視線を送った。


「フォーコンの吸血鬼の女王よ……デビロよ、お前は吸血鬼の本当の恐ろしさを知らぬだろう」


「本当の……恐ろしさ……ですか?」


訊き返すデビロの問いに、それ以上ワインドが口を開くことはなかった……






―――ワインドがイロンデル公国に戻った頃、


既に八雲はソプラに来た時とは逆に天翔船を飛ばしてレオパール、リオンで借りた兵達を船から降ろした。


その後は一路ティーグルへと向かって飛び立ち、今は黒龍城に戻ってきていた。


そうして城で落ち着き、今は執務室でノワールと同じ円卓に着きながらアリエスが紅茶を淹れてくれていた。


「―――そうか。ソプラとゾットを統一してきたか……クックックッ♪ 八雲、お前は本当にこの世界に歴史を刻む男だな♪」


楽しそうな笑みを浮かべるノワールだが、八雲からすれば言いがかりをつけてくる国に対抗することで手一杯なのだ。


「イロンデルのあの公王のことを何とかしないと、学園に戻っても安心していられないんだぞ。時間との勝負だよ」


「なんだ、お前?まだあの学園に通うつもりなのか?」


「えっ?」


その言葉に、一瞬八雲は固まってしまったが、その後に自分の思っていることをノワールとアリエスに話す。


「俺、こっちの世界に来る前は同じように向こうで学校に通ってたんだ。そこには雪菜も一緒に通ってた。それで、あと少しで卒業するって時期だったんだ」


八雲の神妙な物言いにノワールとアリエスも真面目な面持ちで聞き入っていた。


「卒業した後もその次の学校、大学っていうのがあって入学も決まってたんだ。でも突然この世界に引き込まれて、こうしてノワールに会って皆に会って漸くここまで来た。だからこれ以上、俺の人生を他のヤツにどうこうされるのは我慢出来ないし、切っ掛けはどうあれ通い始めた学園に今度はどんな形でも最後まで通いたい」


そこまで言い切った八雲にノワールもアリエスも柔らかい笑みを浮かべて、


「そうか……お前がそう決めているのなら、我はもう何も言わん。それに!続けるのなら我の天使達を間近で見ていられるからな!ノワール先生は永遠に不滅なのだ!」


「わたくしも、八雲様と同じ学校でノワール様のお手伝いをしながら子供達の面倒を見るのはとても楽しい時間だと思っていました。お許し頂けるのでしたら、わたくしも学園のお仕事を続けたいです」


ふたりの意思確認もできて満足した八雲は、んん~!と背筋を伸ばす。


「ハァ!戻ったばかりだし、今日はもう休むよ。明日からまたイロンデル相手に色々しないといけないからな」


「そうだな。では、今夜は我とアリエスがお前のことをしっかりと癒してやるとしよう♡/////」


「はい♡ ノワール様とふたりで、八雲様にご奉仕させて頂きますね♡/////」


癒すとか奉仕とか耳障りのいい言葉が並んでいるがふたりの美女の瞳はまるで♡マークが浮かんだように見えて、その中身は性に貪欲な猛獣じゃないか?と内心思った八雲。


「それって……俺の身体、もつかな?」


と問い掛けると―――


「―――だからこそ、癒すのだろう?/////」


「―――八雲様なら問題ありません♡/////」


―――それぞれ舌なめずりをするように、蕩けた笑みを浮かべていく。


そうして、ふたりに両脇を抱えられた八雲は執務室の隣にある寝室へと連れ込まれていくのだった……



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?