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第256話 両軍、海を渡る

―――アークイラ城から黒龍城に戻る八雲達。


ヴァレリアとシャルロットには、今日は家族と過ごしておいでと八雲が提案してクリストフは踊り出してまたアンヌに殴られ、エドワードとアルフォンス、アンジェラも喜んでその提案を受け入れた―――


ヴァレリアとシャルロットも久しぶりに家族と一緒で嬉しそうに八雲の提案を受け入れ、ティーグルに滞在する間はそれぞれ家族の元で過ごすことにした。


そんなアークイラ城からの帰りのキャンピング馬車の中では、


「―――まさか、そんな緊迫した情勢にまでなっているなんて思わなかったなぁ」


そう呟くのはルドルフだった。


「仕方ないわ……私達が思っているよりも……この世界は早く動いているもの」


レベッカが戦争という重苦しい事情に暗い表情を浮かべる。


そんな暗い表情のふたりの元に八雲がやってきて、


「ふたりとも黒龍城の周りが随分発展していたけど、様子はどうだ?それを聞く暇もなくアークイラ城に向かったから、話しを訊きたくて」


と、話題を切り換えた。


「ああ、お前のところのシュティーアさんスゲェな!ドワーフのオッサン達と一緒にドンドン建物を建てていってさ!」


「私も……教会と孤児院の周りに……お店が増えて便利になったわ」


「―――そうなんだ!それは良かったよ。空から見た時、此処はどこの都市だって驚いたぐらいだったから」


それから黒神龍特区のことを色々聴いて黒龍城に戻ってくると、


「八雲……」


レベッカに呼び止められる。


「ん?どうした?」


「私もルドルフも……ラースも貴方の仲間よ。だから……シュヴァルツのために……私もルドルフも、何でも手伝うから」


「レベッカ……」


そんなレベッカの優しさに八雲は感動した。


「報酬は……要相談だけど」


「俺の感動を返せ……」


そんなふたりと別れて八雲は懐かしの黒龍城へと戻るのだった―――






―――そうして、その日の夜は……


留守番をしてくれていたシュティーアとアクアーリオとの激しい夜を過ごした。


「あっ♡ あっ……んんっ……や、やくも、さま……もっと♡ もっと……あはぁ/////」


正常位で八雲の動きに合わせて大きな胸を揺らすシュティーア。


「―――あはあっ♡♡/////」


シュティーアの隣でアクアーリオは既に意識を失っている。


「―――シュティーア!!」


「あおっ!おおっ!あ、あいぃ~♡! アアア―――ッ♡!/////」


自らにまた熱い八雲の欲望の塊を感じ取り、シュティーアが背中を仰け反らせて絶頂を迎える。


声にならない嬌声を上げながら、全身をビクビクと震わせる。


そうしてふたりの間に身体を倒した八雲は、ふたりを両脇から抱き寄せて余韻に浸っていった―――






―――何度も交わり漸く落ち着いた頃シュティーアが八雲に抱き着きながら、


「八雲様……アタイ、今日フロックとオパールと話したんだ」


「そうか……久しぶりに会ったんだろ?」


「うん……ふたりに心配されてた。アタイが……ノワール様の鱗の加工が出来ないこと……」


「シュティーア……」


イェンリンの新たな帯剣―――


―――黒炎剣=焔羅を造った時にフロックとオパールに相談したことを思い出す八雲。


「―――鱗は所詮ただの鱗……心はシュティーアにある」


「……えっ?」


その言葉に呆けているシュティーアに向いて、


「シュティーア、この動乱が収まってヴァーミリオンに戻る時は俺と一緒に来ないか?」


「えっ?……エエエッ?!ア、アタイが八雲様と……えっ、でも、それだと街造りが……」


「それはドワーフ達でも出来るだろう?俺はシュティーアとヴァーミリオンに行きたい」


「ヒャアアッ?!……えっと、えっと……ア、アタイも……行きたい!/////」


顔面を真っ赤にして着いて行くと宣言したシュティーア。


だが、その反対側で聞いていたアクアーリオがムクリと身体を乗り出す。


「八雲様……シュティーアだけお連れになるのですか?」


「勿論、アクアーリオも一緒に行こう。黒龍城にはフィッツェとサジテール、スコーピオが残ってくれるように話しはしてあるんだ」


「まあ♡ それじゃあ準備しておきますね♡ 料理道具を纏めておかないと♪/////」


嬉しそうに抱き着いてくるふたりを抱き締めて八雲は天井を見上げる。


(そのためにも……このオーヴァストのドタバタを片付けておかないとな……)


そう思いながら、瞼を閉じて三人で眠りにつくのだった―――






―――8月18日


アークイラ城から第一皇国騎士団と第二皇国騎士団が、黒龍城の滑走路を目指して隊列を組み進軍する。


八雲の提案で人数は第一騎士団二千名、第二騎士団二千名の合計四千名になっている。


隊列の先頭を行く第一騎士団団長のラース=シュレーダーと、第二騎士団団長のナディア=エル・バーテルスは、馬を横に並べて街道を進んでいく。


ラースの腰には漆黒刀=比翼、ナディアの腰には漆黒刀=連理と八雲の贈った黒神龍装ノワール・シリーズが帯刀されている。


「―――この度の戦、黒帝陛下はどのようにお考えなのでしょうか?」


徐にナディアが馬上からラースに問い掛ける。


「そうだな……俺が気になっているのは、その黒帝陛下の指示で兵を総数四千に絞ったところだ」


公国騎士団はひとつの騎士団で各団長の元に副長が二名、その下に千人隊長が十名、その下に百人隊長が百名と騎士団辺り一万人で編成されている。


―――にも関わらず、八雲は二千人ずつと五分の一の人員に絞って指示を出した。


「今回は天翔船で兵を運ぶと伺っています。そのため、乗れる人数に限度があるのではありませんか?」


ナディアの意見を聞いても、ラースの疑問は晴れない。


「此処を出てからリオン、レオパールでも兵を収容すると聞いている。それも同じくらいの人数だとすれば兵数は一万にも満たない……海を渡った向こうではすぐに援軍も期待出来ないというのに、黒帝陛下はどうされるのか」


戦争は所詮、数の論理である。


兵数の差はあらゆる戦争において真っ先に重要な情報であり、そこから繰り出される戦略に大きく影響する。


「あの陛下のことです。きっと何かお考えがあるのでしょう。我々をお近づきにしてくれた方です。信じて進みましょう!」


「うっ?!そう、だな/////」


ナディアにグイグイと来られると、つい照れてしまい弱腰になるラースだった……






―――滑走路に整列した四千の騎士団員達


壮観な眺めの兵達を前にして訓示を述べるために用意した台座の上に乗る八雲。


「―――シュヴァルツ皇国の勇猛な騎士団の諸君!こうして遠征に出発する日に、諸君と旅立てることを嬉しく思う!!」


風属性魔術拡声スピーカーによって拡声された八雲の声が、滑走路に響き渡る。


「今、シュヴァルツ皇国の隣国であるイロンデル公国はシュヴァルツを勝手に危険視し、周辺諸国を巻き込んでシュヴァルツ包囲網構築条約なるものを企てている!!」


八雲の口から知らされた包囲網条約の話しに、寝耳に水の騎士団員達はザワついた―――


「―――しかし!!我が国との友好を望むフォック聖法国!ウルス共和国!レオパール魔導国はこの条約を拒否して我々についている!!」


静粛になり、八雲の言葉に耳を傾ける騎士団員達を見渡しながら、八雲が続ける―――


「―――だが、そんな状況となってイロンデルは海の向こう……ゾット列島国を唆し、海を越えて出兵してソプラ諸島連合国を滅ぼし!ゾットに統一させて海上封鎖による包囲網の構築を企てている!!」


イロンデルの陰謀に、今度は正義感に燃えた騎士団員達は怒りを覚える―――


「―――シュヴァルツのみならず海の向こうの他国の情勢にまで介入し、無理矢理巻き込んで敵対するイロンデルを許すことが出来るか!!」


騎士団員達の眼はすでに答えを示している。


「―――答えは否!!断じて否だ!!!我々はこれより天翔船に乗り込み、リオンとレオパールの同志を合わせて!連合軍を編成して窮状のソプラ諸島連合国に救援の手を差し伸べる!!!」


その八雲の言葉に―――


「オォオォオオオ―――ッ!!!」


―――と騎士団全員が雄叫びを上げていた。


「諸君!さあ天翔船に乗り込み海を越え、シュヴァルツの威を示せ!!!―――出発する!!!」


八雲の大号令が轟いていった―――






―――天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの格納部に乗り込んで行く四千の騎士団員達


そうして全員の収納が終わると黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーは空へと浮遊して、そしてリオンに向けて飛び立っていった。


「―――黒帝陛下、先ほどの御言葉を拝聴して団員達も士気が高まっております」


「久しぶりだな、ラース。ナディアもお疲れ様」


「勿体ないお言葉、ありがとうございます」


無事に出発してから八雲はラースとナディア、そしてそれぞれの副官達を連れてブリーフィングを行うために艦内の会議室に集めた。


「陛下、今回の遠征についてリオンとレオパールの兵はどの程度の数が合流致しますか?」


「―――うん。リオンで兵一千、レオパールで兵一千の予定だよ」


「それだけ……ですか?我が軍を合わせても六千……それでよろしいのですか?」


ラースはソプラとゾットの兵力を知らない。


そのような戦場に六千の兵で参戦するのが良策なのか、失策なのか判断がつかないのだ。


だが、そんなラースの不安を安心させようと八雲がそのことについて語りだす。


「正直なところ、こっちの兵はひとりも失う気はないんだよね」


「えっ?―――どういうことです?交渉で納めるということですか?」


突然、八雲から出てきた無血宣言にラースが問い掛けた。


「どうするかはこれから説明する。ただ、兵達は今いい感じの空気になっていると思うから、煽り過ぎず今の士気を保っておいてくれ。それとリオンとレオパールの兵達とも協調性を持って対応してくれ」


「は、はい、それは、承知致しました……」


ラースもナディア達も八雲の真意が見えず首を傾げながらも承諾した。


「ところで……ナディアとの仲は進んだのか?」


「なっ?!―――なにを突然にっ!?/////」


八雲の問いに顔を赤くするラースだったが、


「はい♪ 先日わたくしの父と会って頂きました♪」


「―――おおっ!!スゲェじゃん!!それで?どうだったんだよ?」


発展していることに八雲も前のめりに訊ねると、


「こ、黒帝陛下に剣を下賜頂いたことに、たいへん喜んでおられまして……」


「―――そうか!役に立ってよかったよ!!」


「ありがとうございます。感謝の言葉もございません」


そう言ってラースは八雲に頭を下げる。


「だったら、この戦でも手柄を立てておかないとな!よしっ!ラースには総司令官になってもらおう!!」


「わ、私にですか!?」


「おう!ラース以外に出来る奴が他にいるのか?」


そうナディアに問い掛ける八雲だが、


「―――おりません」


と、ハッキリと言い切るナディアと笑みを浮かべる副官達。


「それじゃあ決定で。では諸君!今度の作戦について説明を始めようか―――」


声色の変わった八雲にラース達も表情を引き締め直して、作戦会議に臨むのだった―――






―――八雲達がティーグルから旅立った頃


イロンデル公国の首都アンドリーニアのロンディネ城から三万の大軍が、大陸南部スッドのウィット聖法国に向けて出兵していた。


八雲の予想した通り、イロンデル公王ワインドはゾット列島国との密約を理由に、ソプラ諸島連合国攻略のための軍を引き連れてイロンデルを出発したのだった。


「陛下、エンリーチ卿の知らせもないまま、本当にゾットへ向けて出兵してよろしかったのでしょうか?」


イロンデル公国宰相デビロ=グラチェ・エンドーサは、馬上のワインド公王に問い掛ける。


「あの様な薄汚い男の持ち掛けた話でもゾットなら話に乗ってくる。万一ダニエーレが失敗したとしても今度は儂自ら海を渡り、ゾットの王ゴルビア=ウノを説き伏せてみせよう。いずれにしてもウィット聖法国の港にダニエーレが迎えに来ていれば、その手間も省けるのだがな」


デビロにニヤリと笑みを浮かべるワインド。


「―――なるほど。陛下の二重三重と敷かれた策は、我等凡庸な者には及びもしない神算鬼謀」


「世辞はよいデビロ。それよりも、シュヴァルツの小僧は今頃どうしていることだろうな?」


「黒帝陛下のことですか?さて?あの御方は周りにいつも見目麗しい美女を侍らせているとの話です。今もその美女を愛でていらっしゃるのではございませんか?」


「ハハハッ!―――その幸せも今のうちということか」


皮肉を込めたデビロの言葉を笑い飛ばすワインド公王だったが、その八雲はイロンデルの動きに対応するために空の旅を進めているところだった―――






―――これより三日後の8月21日


ウィット聖法国を通過して海に出る港で、予定通りにダニエーレ=エンリーチがワインド公王率いる三万の大軍を待ちわびていたのだった。


しかし―――


―――八雲はこの時、既にリオンとレオパールで黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーに兵を収容し、ソプラ諸島連合国イェダン島の首都ミルに到着してデカダン=イェダン王と謁見を済ませていたのだった。


ジェーヴァによって先触れされていたこともあり、彼女の言う通り天を翔ける船が出現した際には、イェダン王を始めソプラの民達はこの世の終わりが始まったのか?と恐れ慄いたが、八雲が地上に降り立ってイェダン王と対談したことで事の詳細を知ったイェダン王は国の危機に際して駆けつけてくれた八雲に感謝し、喜んで迎え入れると宣言した。


「黒帝陛下、この度のことは陛下が知らせてくれなければ、我が国は滅亡の危機を知らず知らずに迎えるところでした」


「―――いいえ、イェダン王。元はと言えばシュヴァルツ皇国を敵視する奴が、周りを巻き込みに来ている迷惑な話です。でも、それを黙って見過ごせるほど俺は大人しい性格をしていない」


「此度のこと、本当に陛下にお任せしてもよろしいのですか?」


八雲はこの戦のすべてを自分達で請け負うなどと、本来なら信じられないことをイェダン王に提案したのだ。


「勿論!あ、でもお願いしたことだけは協力してくださいね!」


「それは勿論かまわんが。では、他に何かあれば何時でも申し出てくだされ」


「ありがとうございます」


こうして、シュヴァルツ包囲網の歴史に残る開戦の瞬間が、間もなく訪れようとしていた―――



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