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第254話 オーヴェストの繁栄と安寧を

―――赤やオレンジ色のレンガ造りで明るい外観をしている三階建てのしっかりした造りの建物。


窓から見ても店内は広い印象を受けるその店は看板には『リオン料理ミネア』と書かれていて、食欲をそそる美味しそうな匂いも漂ってきていた―――


前もって八雲達の訪問について『龍紋』を通じて『伝心』で聴いていたカタリーナが姉妹であるソフィーとサリーに相談し、店を貸し切りにして歓迎の準備を整えていたのだ。


「―――此処ってリオンで有名な料理の店だよな?いつも表で人が長い列を作っていて食べたことなかったんだよなぁ~♪ いやぁ、流石は黒帝陛下!よかったな♪ コンスタンス!」


「……よくこの状況で……そんな能天気な発言が出来るわね?」


店内で席に着いていたダルタニアンとコンスタンスは同じ席に八雲とノワール、そしてカタリーナとイェンリンに紅蓮、雪菜と白雪、アリエスにダイヤモンドといった、カタリーナと雪菜以外は人外の化物クラスの人物が席に着いていた。


八雲と雪菜、ノワール辺りは楽しそうに料理を楽しんでいるがアリエスとダイヤモンドの警戒心はその眼光からしても、いつでもダルタニアンとコンスタンスの首をもぎ取れるぞと言わんばかりの空気だった。


そして、ひとり悦に浸った笑みを見せるのはイェンリンだ―――


「クックッ♪ 八雲の顔を見に来たと言って、堂々と正面から議事堂に乗り込んでくるとはな。八雲よ、お前に似たような見込みのある奴ではないか?フォーコンもなかなか面白い騎士を抱えているのだな」


―――大陸最強の剣聖が、目の前で共に食事をしているのだ。


コンスタンスは意識を保っているのがやっとだといった状態だった。


「此方こそ大陸最強ヴァーミリオンの剣聖陛下と御同席させて頂けるとは、嬉し過ぎて踊りだしそうですよ♪ ずっと剣聖陛下のファンでした!!」


その中でも空気を読まないダルタニアンは、昔からファンだった剣聖が目の前に座っていることで舞い上がり捲りだった。


「ハッハッハッ!!そうかそうか♪―――ダルタニアンとか言ったか?お前はフォーコンの吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイト四騎士のひとりだそうだが、他の三人はどんな奴なのだ?」


イェンリンが会話の流れでダルタニアンに問い掛ける。


「そうですねぇ~♪ まずはアトス。彼は四騎士のまとめ役で、吸血鬼騎士団ヴァンパイア・ナイツの団長もやっている女王陛下の参謀でしてねぇ」


「ほう?そのアトスは強いのか?」


「それはもう!俺なんか足元にも及びませんから!次はアラミスですかね。アイツはとにかく顔がいい!美男子なもんだから国でも女の子にモテモテな奴です」


「そんな色男が騎士団にいるのか」


「ええ、いますよ♪ ですがアラミスは女王陛下一筋、常に陛下のために!と献身的に仕えていて、他には見向きもしない純粋で良いヤツですよ♪」


「ほう?フォーコンの女王陛下一筋か」


「そして次がポルトス!こいつはとにかく筋肉!筋肉は正義!頭の中も筋肉!って感じで普段は無口だけど、いざとなったら肉体言語で殴り合って語り合う!ってくらいの筋肉主義なゴツゴツマッチョですね♪」


「己の鍛錬を怠らないのは良い心掛けだ……ではお前はどうなんだ?ダルタニアン」


イェンリンが目の前のダルタニアンに問い掛けた。


「俺ですか?俺はフォーコンの田舎から立身出世を目指して、首都に出てきた田舎者ですよ♪」


「そうなのか?吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトは吸血鬼の貴族だけで編成されている訳ではないのか?」


意外だといった顔でイェンリンは問い掛ける。


「まあ、アトスやアラミスなんかはそうですね。でも、俺やポルトスは低い身分の出ですよ」


その返事を聴いてイェンリンは自分と重なるところを感じたのか先ほどから隙あれば、何か仕掛けてやろうかと狙っていたダルタニアンへの猜疑心を少し緩めた。


「お前の連れのその娘も吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトなのか?」


イェンリンが今度はコンスタンスに標的を変えると、


「いえ、コンスタンスは吸血鬼ですが、女王陛下の側近ですよ。あと俺の恋人です♪」


「コ、コラッ!こんな場所で何、余計なこと言っているのよ!/////」


ダルタニアンの発言にコンスタンスは顔面が真っ赤に染まり、恥ずかしがっていた。


「これはお熱いことだな。だが、余も八雲とは固い絆で結ばれた仲というやつだ。お前達にも負けんぞ。なぁ~八雲♡」


そう言って隣に座って料理を食べる八雲に笑みを浮かべながら、そっとしな垂れ掛かるイェンリン。


「ここで俺に振るのかよ……まぁイェンリンが俺の大切な人になったのは事実だけど」


「ヴァーミリオンの皇帝陛下と恋人関係だって!?いやぁ~俺の憧れの剣聖とそんな関係だなんて、黒帝陛下のこと心から尊敬するよ♪ いやこれマジで」


「その黒帝陛下って呼び方はやめてくれ。別に八雲でいいぞ」


「ホントに?それじゃあ俺のこともダルタニアンって名前で呼んでくれ!って、もうそう呼んでくれてたか?アハハッ!」


異様な組み合わせのこの席で笑い声と気さくな会話が飛び交っているが、コンスタンスは緊張で気がまったく抜けない……


だが、そんな彼女の元に―――


「―――ピッチャ!」


―――ピッツアを一切れ皿に乗せたシェーナが、アルファと一緒にトコトコとコンスタンスの元にやってきて彼女にその皿を差し出した。


「……私に?くれるの?」


問い掛けるコンスタンスにシェーナはコクリと頷く。


「ありがとう、頂くわね♪」


皿を受け取りジッと見つめるシェーナの前で、そのピッツアに口をつけると上に乗った熱いチーズがトロ~リと伸びていく。


「モグモグ……うん!これ、とっても美味しいわ♪」


そう言って笑みを浮かべたコンスタンスの様子に、シェーナはムフー♪ と満足気なドヤ顔をして、またアルファと一緒にトコトコとチビッ子達のところに戻っていった。


そんなシェーナを見ながらノワールがニヤニヤとした笑みを浮かべて、


「シェーナは本当に天使だなぁ♡ 我の天使達の半分は優しさで出来ている♪」


「―――後の半分は?」


「可愛さで出来ているに決まっているだろう!バカなのか!!」


「―――これでバカって言われる俺って、マジ可哀想じゃね?」


ノワールの言葉に対して八雲の浮かべた渋い表情に、思わず笑ってしまったコンスタンスも漸く緊張が溶けだしていた。


「―――皆さん!料理の方は如何でしょうか?」


「えへへ♪ 八雲さんお久しぶりです♪」


そんなテーブルにやって来たのはこの店のオーナーのソフィーと妹のサリーだ。


「メチャクチャ美味しいよ。それに、相変わらず店の方も人気が凄いみたいだな」


すると八雲を挟んでイェンリンの反対側に座っていたカタリーナが、


「ウフフッ♪ 今では『美人姉妹の人気料理店』だって噂になって、もうこのレオーネじゃ知らない人がいないくらいなんですの♪」


と、自分の異母姉妹達が美人と言われて有名になっていることが鼻高々という風に胸を張る。


「確かにスゲェー美人で可愛い姉妹だねぇ♪ 思わず惚れちまいそうだよ~♪―――ゴボァッ?!」


そう言ったダルタニアンの脇腹に隣に座っていたコンスタンスの光速の肘鉄が一閃、突き刺さっていた。


そんな様子にソフィーとサリーは愛想笑いしか出来ない……


そうして楽しい食事の時間が過ぎていき、先に子供達を連れて船に帰って行く者達が店を出て、最後まで残っていたのは八雲とノワール、カタリーナにエディス、イェンリンと雪菜、雪菜の護衛としてサファイア、イェンリンの御目付としてブリュンヒルデが残っていた。


ソフィーからリオン産のワインを出してもらって、そのグラスを傾けながら八雲がダルタニアンに語りかける。


「―――ダルタニアン、俺を見に来たって言っていたけど実際に俺を見て、どう思ったんだ?」


すると、同じくワインをグラスに注いで飲んでいたダルタニアンは、


「ん~?それは言えないなぁ♪ それを語る相手は女王陛下だからさ」


「なるほど……それじゃあ、レーツェル陛下はオーヴェストのこの状況をどう考えているんだ?」


八雲の質問に周りの全員がダルタニアンに視線を送る。


するとダルタニアンはフッと笑みを溢すと―――


「それこそ女王陛下のみぞ知るってやつさ!だけどこれから先、女王陛下が望んでいるものは分かるよ」


「ほう……参考までに教えてくれないか?」


―――今度は八雲が笑みを返して質問する。


「フォーコンの繁栄と安寧……美しく凛々しい我が陛下が望むものはそれだけだよ」


「女王がそんなに美しいなら是非会ってみたいな。フォーコンの繁栄と……安寧……か」


ダルタニアンの言葉を噛み締めるように呟いた八雲は、手にしたワイングラスをダルタニアンに差し出すと―――




「―――オーヴェストの繁栄と安寧を」




―――とグラスを掲げて唱える。




「フッ!―――ああ!オーヴェストの繁栄と安寧を!!」




ダルタニアンもまたグラスを掲げて八雲のグラスに乾杯すると、ふたりでワインを一気に煽って笑みを交わすのだった―――






―――食事も終わって店の外に出た八雲達とダルタニアン達


「いやぁ~!ホントご馳走様でした♪ 今度フォーコンに来てくれたら、その時は絶対に美味い店に俺が案内するから!」


「それは楽しみだな。その時は是非、女王陛下も誘っておいてくれよ?」


「おう!任せと……いや、おい!そんなことしたら、俺がアトスとアラミスに殺されちまうぜ?!」


自分の主である女王レーツェルを街の料理屋に連れて行くなどと言ったとしたら、その時のアトスとアラミスふたりの様子を思い浮かべただけで、ダルタニアンは震え上がっていた。


「ハハハッ!それじゃあ俺達は明日ティーグルに旅立つけど、お前達はどうするんだ?」


最後に八雲はダルタニアン達がどうするのか問い掛けた。


「俺達はフォーコンに帰るよ。八雲を見てこいっていう命令もこれで終えたことだし、陛下に報告しに帰るだけさ」


「そうか。それじゃあ今度は戦場だな」


八雲の『戦場』という言葉に、ダルタニアンの隣にいたコンスタンスはギョッとした表情に変わるがダルタニアンは涼しげな表情で、


「そうだなぁ~、う~ん……場所はイロンデル辺りになるんじゃないか?」


と、平然とした表情で返事をした。


「分かった。それじゃあその時は―――」


「ああ、その時は―――」




「―――本気でやりあうとしよう!」


「―――本気でやらせてもらうぜ!」




同じ言葉を言い合ってから、軽く手を振って離れていくダルタニアンの背中を八雲は静かに見送っていた。


そんな八雲にそっと近づいたイェンリンが真剣な表情を浮かべながら、


「……八雲、あの小僧だが―――間違いなく強いぞ」


静かに八雲へ告げてきた。


「ああ、分かってる。最初に会った時から感じていたさ。イェンリンはあんな男がフォーコンにいたことを知っていたのか?」


手に汗を握りながら八雲は問い掛けるが、イェンリンは首を横に振って、


「いや……吸血鬼騎士団ヴァンパイア・ナイツも今の女王レーツェルが設立した騎士団で、そこに所属している騎士にどんな奴がいるのかまでは知らなかった。その話しもフォーコンの隣国にあたるエーグルの先代皇帝フレデリックから聞いた話しだったからな……」


エーグルの現女帝にして公王であるフレデリカの父にあたるフレデリックとは、貿易の関係からもよく知っている仲だったイェンリンは、そのフレデリックからフォーコンの騎士団について多少の話しも聞いていた。


だが、どんな人材がいるかまではフレデリックも知らなかったのだ。


「まったく……この世界はどれだけ強い新キャラを隠し持っているんだ?あんなとんでもない化物が存在する世界なんて―――」


そこで八雲は街灯に照らされている街並みから、ゆっくりと星々が輝く夜空を見上げる―――


「どれだけ俺をワクワクさせるんだ!―――これぞまさに異世界冒険!!!」


―――そう、夜空に叫んでいた。


叫びだした八雲を見つめる龍紋の乙女達……


八雲と雪菜、ユリエルのいた世界とは大きく異なり魔術や呪術、魔物や神までも存在する世界……


そんな世界に何のためなのかは知らないが突然放り込まれて困惑した八雲が、今はこうして胸を弾ませるまでにこの異世界に魅力を感じているのだと自分自身、改めて知ったその胸に興奮が湧き上がってくるのだった―――






―――そうして夜も更けていき、


八雲達はそれぞれ天翔船の部屋に戻って休むことになった。


明日はティーグルへと帰還する予定で、既にそのことは『伝心』を通してアクアーリオに伝えており、そこからアークイラ城へと知らせてもらっていた。


そんな八雲の寝室には、ふたりの美女がベッドの上で八雲とキスを交わしていた―――


「んん……ちゅ……ちゅ♡……ハァ♡……八雲様/////」


ひとりはこのリオン議会領の代表の娘であるカタリーナ=ロッシ。


「あん♡……んんっ……チュ♡……八雲さん/////」


そしてもうひとりは、レオパール魔導国の代表相談役であるエヴリンの娘であるエディス=アイネソンだ。


カタリーナは扇情的な透けている赤いベビードールにブラは付けておらず、紐で結んだ赤い紐パンだけを身に着けている。


エディスは大人びていて透けている黒いベビードールに同じくブラは付けておらず、黒い紐パンだけを身に着けていた。


そのベビードールの下からふたりの大きな胸があって、左右から八雲に抱き着いて交代でキスを求めてくる姿に八雲も興奮していた。


「ふたりとこの船でこうしていると、ディオネの悪戯を思い出すな……」


「そうですわね♪ でも……わたくしはディオネさんに感謝しておりますわ。あの時があればこそ、こうして八雲様のものになれましたもの/////」


「私もです!ディオネさんには感謝しています。ですから、その、彼女のこともちゃんとしてあげてくださいね?」


エディスの言葉に八雲は複雑な心境もあるのだが、自分の大切な女の頼みを断れるはずもなければ、ディオネの気持ちを蔑ろにするつもりもない。


「分かってる。ディオネとは落ち着いたらデートしようって言ってあるんだ。この動乱が片付いた辺りで、ふたりで出かけるよ」


八雲の言葉に安心したエディスとカタリーナは―――


「でも今は―――」


「―――私達のことを、可愛がってくださいね♡/////」


―――抱き着いた八雲にそう言って、破壊力抜群の上目遣いで見上げてくるのだった。


「そんなこと言って……ふたりとも、朝まで寝かせないぞ」


そんな愛おしいふたりを抱き締めて、八雲はベッドに倒れ込むのだった―――



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