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第248話 フォーコンの女王

―――8月16日


早朝、空が白んできた頃―――


昨夜、イザベルは八雲の夜這いに処女を捧げ、『龍紋』を刻まれてから続けて朝まで愛されて『神の手』の快感と『完堕ち』による八雲への愛情が促進していた。


「……イザベル」


そう言って頭を撫でてやると、


「んん~♪/////」


嬉しそうに喉を鳴らしながら、『神の手』によって身体の奥まで快感を刻まれたイザベルは指先にそれを込められただけでも絶頂に達しそうな快感に全身が包まれていた。


「最高だった。まだ朝早い。このまま一緒に休もう」


「はい♡……八雲様/////」


そうして、ふたりで抱き合いながら眠るのだった―――






―――その日の朝、


フォーコン王国へと向かったスコーピオ、ジェミオス、ヘミオスの三人。


フォーコン王国の首都ファルコのすぐ近くまで到着していた。


「―――それでスコーピオ。これからどうするのさ?」


黒麒麟に乗ったヘミオスが、同じく黒麒麟に跨り並んで歩むスコーピオに問い掛ける。


「まずは首都での聞き込みをふたりで行ってくれ。いつも通りにな。俺はアルコン城を見に行って来る」


するとスコーピオの言葉にジェミオスが、


「―――待ってください!アルコン城はあの吸血鬼の女王レーツェル陛下と、その眷属達のいる城です!イロンデルのロンディネ城とは訳が違いますよ」


スコーピオに単身での潜入は危険だと進言する。


「心配するなジェミオス。いきなり中までは入ったりしないさ。まずは周辺から様子を見て兵達の出入りなどを観察する」


「……分かりました。でも、無茶はしないでくださいね?」


「状況によるが、善処する」


その言葉にジェミオスも納得するしかなく、それ以上の言及はなかった。


「では―――いくぞ!」


そうして三人は首都ファルコの外壁門へと向かって進み出した―――






―――その頃、起床した八雲達は、


ウルス共和国を出国するため、天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーに乗り込む準備を進める。


「八雲様。この度は本当に色々とありがとうございました!吾輩、この御恩は一生をかけてお返し申す!!」


バンドリンを始め城の重臣達のみならず城の家臣達も見送りに出て、八雲が行った農業・酪農の基礎を打ち立ててくれたことへの感謝を述べる。


「良いって、そんな堅苦しく考えなくても。それより―――」


「―――イロンデルのことですな?」


バンドリンが八雲の言葉を先回りして答えると、ニヤリと笑った八雲は、


「ああ、イロンデルに動きがあった場合、ウルスは絶対に動かないでくれ」


「……それで、よろしいので?」


「最悪の場合、相手の国を吹き飛ばすくらいの大魔術を発動することも想定している。そんなものにウルスの国民を巻き込みたくはないだろ?まあそこまでやりたくないけど力を貸して欲しい時はイザベルに伝えるから、その時はよろしく頼むよ」


「サラッと恐ろしいこと仰いますな……畏まりました。我が娘のこと……末永くお引き回しのほどを」


「こっちこそ、これからもよろしくだよ―――オヤジ殿」


「こ、これは……なんだか照れ臭いですな/////」


「親父の照れ顔なんて誰が見たいのさ!サッサとあっち行きな!」


「おまっ?!イザベル!!お前は女になってもそんな態度を―――」


「―――うっさいよ!いいから、あっち行ってて!!/////」


バンドリンを喚き散らして追いやったイザベルが八雲の前に立つと、先ほどまでの威勢はどこにいったのか、借りてきた猫のようにしおらしくなる。


「イザベル、朝教えた『伝心』の使い方は大丈夫だな?」


「はい八雲様!何かあれば必ずご報告いたします」


「別に、何か無くても連絡してきてくれよ?」


「ヒャッ!……は、はいぃ/////」


耳元で八雲にそう囁かれたイザベルは、顔を真っ赤にして嬉しそうに返事をするのだった。


「それじゃあ―――出発だ!!」


天翔船黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーは一路レオパールに向けて進路を取り、ウルス共和国を飛び立っていくのだった―――






―――再びフォーコン王国


その首都ファルコに潜入したスコーピオ達。


ファルコの市場や商店を回るジェミオスとヘミオスだったが、イロンデルと違ってファルコには戦争の匂いや民達の不穏な空気など微塵も感じ取れないでいた。


戦争が近づくとなれば、まずは城がざわつき出してそれが市井に広まり、物資や食料などにその影響が表れてくるものである。


『シュヴァルツ包囲網構築条約』では、具体的に戦争を仕掛ける内容ではなく、脅威となる九頭竜八雲の侵略行為から同盟国で侵略を防ごうといった内容の条約となっていた。


だが、それはつまり防衛線を敷いて戦争に突入することへの対応をしなければならないはずである。


イロンデルではその動きが顕著に見られていたが、このフォーコンでは中心である首都ですらそのような騒々しい動きは見られないことを、ジェミオスとヘミオスは逆にそら恐ろしく感じていた……


【どう思う?ジェミオス】


別行動で首都の調査を行っていたヘミオスは『伝心』でジェミオスへと事の次第を話して考えを訊く。


【やっぱり、そっちもなんだね……今のところ、この国で戦争の匂いは感じられないよね】


【うん……でも、それが逆に不気味っていうか……】


【ヘミオスもなの?私も……この平穏な空気が逆に不気味に感じられて……】


【一旦、スコーピオと合流する?】


【そうだね……いえ、もう少しファルコを調べましょう。まだ来て時間も経ってないし、これから動きがあるかも】


【りょ~かい♪ それじゃ、また連絡するね!】


そう言って『伝心』を終えるヘミオス。


「さてとっ!それじゃあ……流行りのスイーツでも調べながらいきますか♪」


道の向こうに立ち並ぶ商店にヘミオスは目を向けながら、トテトテと走り去っていくのだった―――






―――首都ファルコにあるアルコン城の傍。


スコーピオは首都の西に聳え立つ白い壁に幾つもの塔が立ち、幾重にも城壁で囲まれたアルコン城を眺めていた。


ファルコに到着して既に数時間が経過していたが、その間に城で大掛かりな兵の動きは見られなかった。


普段から行っているのであろうファルコ内の警邏任務を行う少数の兵達の出入りはあるものの、これと言って怪しい動きは見えない。


―――だが、相手はノワールですら一目置く吸血鬼ヴァンパイアの女王である。


神算鬼謀を張り巡らせてあったとしても不思議ではない。


だが、このままでは埒が明かないのもまた事実だ。


「潜入するか……いや、下手な動きをする訳にはいかない。もう少し様子を見てみるか……」


スコーピオは自らに焦っては事を仕損じるということを言いきかせてジッと城の状況について監視を継続するのだった―――






―――同じ頃、


アルコン城内の女王の部屋。


気品溢れる調度品に囲まれた部屋にある執務用の机に、この国の女王レーツェル=ブルート・フォーコンは椅子に腰掛けて手元に届いた書簡に目を通していた。


だが、そんなレーツェルの羽ペンを握った手元が不意に止まった。


「―――如何なさいましたか?レーツェル様」


隣で執務の進捗を見守っていた若い美男子が、その様子に気がついて声を掛ける。


「……お客様が来ているようね。この気配は……どうやら黒神龍様の眷属の様だわ」


レーツェルが冷たい声と共に告げた内容に、傍にいた美男子の顔は真剣なものへと変貌する。


「如何致しましょうか?―――殲滅、致しますか?」


静かに物騒な物言いを問い掛ける美男子に、レーツェルは無表情のまま―――


「いいえ。折角お越し頂いたのです……お招き致しましょう」


―――静かにそう告げる。


「アラミス、お出迎えとお茶の用意を」


「―――畏まりました。陛下」


命じられたこの美男子は、アラミス=シュヴルーズ。


レーツェルの忠実な執事であり、眷属でもある吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトである。


金髪の長い髪を後ろの青いリボンで緩く纏めた蒼眼の美男子であり、女王の忠実な眷属である騎士団最高位の四騎士のひとりでもある。


レーツェルに返事をした途端に、アラミスはその場から霧の様に消えた。


「では、私もお出迎えの準備を致しましょうか……アトス」


「―――お呼びでしょうか?陛下」


名前を呼ばれて今度はアラミスとは別の紳士がその場に現れた。


銀髪をオールバックにして口髭を生やした黒い瞳のダンディズムを湛えるその男の名はアトス=ラ・フェール。


アラミスと同じく四騎士のひとりであり、その騎士団長であるアトスはレーツェルの眷属の中では彼女の参謀的な立場にある。


「お客様をお迎えするから、着替えを手伝ってちょうだい」


「畏まりました」


そうしてアトスを連れて、隣の部屋へと向かっていくレーツェルは無表情ではあるも、どこか楽しげな空気を漂わせていた―――






―――その頃、


アルコン城の監視を続けるスコーピオ。


「やはり潜入するのが手っ取り早いか―――ッ?!……誰だ?」


城から少し離れた街路樹の影に潜んで思案していたスコーピオのすぐ傍で、突然その気配が現れたことに警戒を強める。


そこには頭を下げて礼をするひとりの男が立っていた……


「わたくしはフォーコン王国女王レーツェル=ブルート・フォーコン陛下の眷属、吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトのひとり―――アラミス=シュヴルーズと申します。黒神龍様の眷属に連なる方と御見受け致しますが、間違いございませんでしょうか?」


無表情にアラミスを見つめるスコーピオだったが、内心ではここまで気づかずに他者の接近を許したことがなかったので激しく動揺した。


「警戒なさるのも無理からぬことです。ですが、わたくしの主君は貴方様を城でお茶の席へとお招きするように、わたくしに申し付けました。敵意はないと我が女王に誓って申し上げます」


アラミスは胸に右手を当てて、頭を下げる。


「……女王陛下の御招きとあれば、断るのは礼を失するだろう。黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴン様の龍の牙ドラゴン・ファング所属、スコーピオ……たしかに承る」


スコーピオの承諾の言葉を受けてアラミスはニコリと微笑みを浮かべると城の城門へと案内を始め、先を歩き出す。


その彼の背中について行くスコーピオは、現状をジェミオスとヘミオスに『伝心』で伝える。


【―――そんな!危険です!スコーピオ!】


【そうだよ!そんなの、すぐに離脱して逃げてきなよ!!】


ジェミオスとヘミオスの心配は尤もな話だが、


【城外にいた俺を見つけて態々招待しに来たんだ。きっと何か目的があるのだろう。それほどの『索敵』能力を秘めた相手だ。俺に何かあれば、お前達は必ずファルコから脱出してサジテールの元へ帰るんだ】


―――今更ここで引き返すことなど出来ない。


そう覚悟を決めたスコーピオは開かれたアルコン城の城門を通り、吸血鬼の城へと脚を踏み入れたのだった―――






―――アルコン城の広く美しい廊下を案内され、スコーピオは両開きの巨大な扉の前に案内される。


「どうぞ、此方で陛下が御待ちでございます」


そう言ってアラミスは扉を開き、スコーピオを中へと促す。


そこには―――


丸いテーブルに椅子が用意され、奥の席に鎮座する女王レーツェル=ブルート・フォーコンが佇んでいた。


その両隣には先ほどのアトスと、もうひとり大柄な男が立っていた―――


「ようこそ……黒神龍様の眷属……確か貴方は……スコーピオ……だったかしら?」


「憶えていたか。久しぶりだな。レーツェル=ブルート・フォーコン陛下。本日はお招きに感謝する」


スコーピオの不遜な態度にアトスの反対側に立つ大柄の男がピクリと反応する。


「いいのよ、ポルトス……彼女とは古き時代からの知己であり、私よりもずっと年上の方よ。それに……貴方は昔からそんな口調でしたわね」


「……失礼致しました。陛下、スコーピオ様」


レーツェルに諫められ、静かに謝罪の言葉を述べた大柄な男の名前はポルトス=コクナール。


アラミス、アトスと同じくレーツェルの四騎士に名を連ねる吸血鬼騎士ヴァンパイア・ナイトであり、茶色の長い癖毛を後ろに纏めて茶色い瞳をした豪傑の筋肉に身を固めた男である。


「ごめんなさい……私の眷属が失礼な態度を取ってしまって」


「いや、気にしてはいない。此方も礼を欠いているところがあるだろうが、それはご容赦願いたい」


「勿論、気にしないわ。どうぞ……席に座ってちょうだい。古き時代から生きる知人との再会を祝って、お茶を楽しみましょう」


レーツェルの無表情ながらも、どこか重く威圧感のある声にスコーピオは全身から警戒の意識を周囲に伸ばして、この部屋にいる者達の一挙手一投足に集中する。


「今日は何もするつもりなんてないわ。本当に……お茶を一緒にしたかっただけよ」


「ほう……『今日は』と、言うことは……また別の日はどうなんだ?」


「……そのことについて、これから話しをしましょう」


毛先が赤く染まっている長い白髪をそっと手で掻き上げて、大きな紅い瞳で真っ白な素肌をしたこの世のものとは思えないほどの美女が、スコーピオをその瞳で見つめ続けていた……



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