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第245話 八雲のウルス農法

―――八雲の耕した広大な畑に接近する土煙。


ウルス共和国に生息する魔物―――


ロック・バッファローの群れが接近しているところに、八雲とノワールは武器を手に駆け出していった。


畑にした土地が途切れたところで、八雲とノワールは立ち止まる。


接近するロック・バッファローの群れを目の前にして、ノワールが八雲に向かって―――


「八雲、仕留める時に内臓は傷つけるなよ?臓器を破ると肉が臭くなるからな。仕留めるなら眉間を貫くか首を斬り落とせ」


―――狩りの手法についてレクチャーを施す。


「おう、了解だ」


「それと仔牛は狙うなよ」


「え?うん、でもどうして?」


「ロック・バッファローもまた自然の摂理の一端なのだ。後から説明してやるから群れを全滅させるのだけは駄目だぞ」


ノワールの言葉に考え込んだ八雲は、


「それじゃ―――捕まえるのはありなのか?」


と、問い掛けると、


「殺さないのであればかまわんが、何をする気だ?」


首を傾げて問い返すノワールに八雲はニヤリと笑みを浮かべる。


「後から説明してやるよ」


自分が言ったことを言い返されて、コイツめ!と笑って返すノワールだったがロック・バッファローの群れはもう肉眼でもハッキリと見えるほどの距離に来ていた。


「それじゃ―――行くぞ!!」


―――『身体加速』


―――『身体強化』


―――『思考加速』


強化能力を発動して黒い一閃となり前に飛び出す八雲―――


―――その八雲に同じく黒い閃光となって、平然とした顔でついてくるノワール。


そして、まず先に群れの前に飛び出た八雲の黒刀=夜叉が、先頭を突撃していたロック・バッファローの眉間を貫き一撃で脳を破壊して停止させた―――


―――更に疾走してくる二番目のロック・バッファローを回り込んだノワールの黒大太刀=因陀羅が真横から振り下ろされると、首が切断されたロック・バッファローは切断面から血飛沫を上げながら数mそのまま駆けていき、やがて地面の上にバタンッと倒れ込んだ。


「今日もいい斬れ味だ―――因陀羅よ」


因陀羅の斬れ味に満足気なノワールの横では八雲が三番目、四番目とロック・バッファローの首を跳ね飛ばすと、流石にロック・バッファローの群れも動きを鈍らせて寧ろ辺り一面に撒き散らされ充満しだした血の臭いに野生の勘が働いたのか、散り散りになって逃げ出そうとし始めていた―――


―――そこから更に数頭を仕留めた八雲とノワール。


ロック・バッファローも血気盛んな個体は、その大きな角を振り翳して突き刺そうと八雲とノワールに襲い掛かってくる―――


―――大きな角を剥き出しにして頭を低く構えて突撃してくるバッファロー達だが、それこそ八雲達の餌食にしてくれと言っているようなものだった。


次々と群れの先頭近くにいたロック・バッファロー達は八雲の夜叉と羅刹、ノワールの因陀羅の餌食になっていく―――


―――だが、それで群れが散るのを目撃した八雲は焦った声で、


「あ、ヤバい!―――逃げられちまう!!」


しまったという顔を見せる八雲に対して、ノワールは―――


「別に逃がしてやってもいいだろう?」


―――と、興味がないように言い放つ。


だが―――


「俺に考えがある。だから逃げられると困るんだよ!」


―――と、『索敵』スキルを発動し、更に精度を上げると逃げ惑うロック・バッファローに対して頭の中で次々に照準マークをオールレンジでロックオンしていく。


そして両手を地面に着けた八雲は―――


「―――鋼縛鎖スティール・チェーン!!!」


―――土属性魔術の《鋼縛鎖》を発動して、『索敵』でロックオンしたバッファローの首に鋼の鎖を巻き付けて一斉に捕縛していった。


するとそこには―――


―――百頭以上のロック・バッファロー達が、地面から飛び出した鋼の鎖に首を繋がれて拘束された景色が並んでいた。


「よしっ!捕獲完了っと♪」


嬉しそうにしている八雲に近づいてきたノワールは、肩に抜き身の因陀羅を担ぎながら話し掛ける。


「お前……いくらなんでも、こんなには食えないぞ?」


と、呆れた顔で八雲に告げる。


「いや、全部食ったりしねぇし……」


ちょうどそんなところに、イザベルが息を切らして農夫達と一緒に走って近づいていた。


「ハァ、ハァ、ハァ!へ、陛下……お、お怪我は?」


「ああ、大丈夫だ。イザベルこそ息切れてるぞ?大丈夫か?」


息も絶え絶えのイザベルは突然ロック・バッファローの群れに突進していった八雲達に肝が冷えて追いかけてきたのだが、周囲の仕留められたロック・バッファローの状況を見れば余計な心配だったことを理解する。


しかし目の前に黒い鎖で繋がれているロック・バッファローの群れは理解出来なかった。


「あの、陛下?このロック・バッファローは一体?」


イザベルの質問に八雲は笑顔を向けると、


「それは後で説明するから。今は―――」


【―――クレーブス。聴こえるか?】


八雲は『伝心』でオルソ城に残っているクレーブスを呼び出す。


【―――はい。如何されましたか?八雲様】


【バンドリン達を連れて、農園まで来て欲しいんだ。クレーブスにも来て欲しい】


【承知いたしました。すぐに向かいます】


そうして『伝心』を終えると―――


「こっちにバンドリン達が来るから、それまでに準備しておかないとな!」


「……えっ?父上達が?」


―――その突然の八雲の言葉にイザベルは困惑の表情を浮かべる。


しかし八雲はただ笑顔を浮かべているだけだった―――






―――それから暫くして、


「な、な、な―――なんじゃゴラァああああ!?」


クレーブスに告げられて農園にやって来たバンドリンの驚愕の雄叫びが響き渡る。


「うっさい!!!―――静かにしなよ!親父!!」


「い、いや、しかしお前、これは一体……イザベル、何があったんじゃ?」


目の前の昨日とは全く変わってしまった農園の姿にバンドリンは唖然としていた。


それもそのはずで―――


昨日までの小さな農園は、今や一大農作物の産地になれそうな程の広大な畑が広がり、その畦道には用水路となった側溝に勢いよく水が流れていて、最後は枯れていた川へと流れ込んで息を吹き返している上に、何よりも―――


「ロック・バッファローが、あんなにも……」


畑の隣の広大な土地には、黒くて太くて硬い鋼の杭に渡した鋼の鉄板が三枚張り巡らされた巨大な柵に覆われた土地が出来上がっていて、その柵の中にはロック・バッファローが百頭近くもウロウロと動きまわっているのがバンドリンの目に飛び込んできたのだ。


その広大な牧場の中には、ロック・バッファロー達が雨風を凌げるような幾つかの牛舎も鋼鉄を使い、柵と同じく表面は錆びない様にコーティング加工を施して建てられている。


彼方此方と見回しているバンドリン達のところに、


「来たか。どうだ?バンドリン。畑を作ったついでに突撃してきたロック・バッファローも捕まえて牧場も作ってみた」


平然とそう言ってのける八雲が姿を現したら、


「牧場……ロック・バッファローの……へ、へ―――陛下ぁあああ!!!」


そう叫んだかと思うとバンドリンは八雲に抱き着いてくる。


「ぶわぁ!ちょっ!落ち着け!バンドリン!!いや、オッサン臭!!―――いいから離れろください!お願いします!!!」


言葉までおかしくなりながら無理矢理に引き剥がしてバンドリンを落ち着かせると、八雲が説明を始めた。


「ま、まずは話を聴いてくれ。此処に見学に来て、俺はエレファンで行ったような土地の開発を魔術で行ってみた。そして水が足りないって話だったから、水の妖精にも力を借りて水脈を探り当てて、あの丘の上に人工の溜め池を造って用水路も引いた」


「そ、そんなことが……まさに神の如き所業ですな……」


話しを聴いているバンドリンも神妙な面持ちになる。


「まあ神様については置いておいて、そうして出来上がったところにあのロック・バッファローの群れが突撃してきた。イザベルに聴いた話しだと、アイツ等は普段、岩を食べているけど偶に農地の作物を荒らしにきて食べるってことを聴いた」


「うむ。ロック・バッファローはそういう生態をしておりますな」


そこで八雲はバンドリンに同行してきたクレーブスに問い掛ける。


「―――クレーブスはロック・バッファローの生態には詳しいのか?」


するとクレーブスは眼鏡をクイッと軽く持ち上げると、


「そうですね……ロック・バッファローはウルスのような乾燥した岩山などがある地域を好み生息しています。それは主食が岩石であることが大体の理由です。此処より北のレオパールに行っても、南のフォックに下っても、東のティーグルに抜けても、そこからは緑の多い土地になりますから」


「なるほどな……」


そしてクレーブスは続ける。


「ロック・バッファローは魔物に分類されてはいますが食用としても使えますし、乳製品用に搾乳することも可能です。それと、ロック・バッファローが岩石を食した排泄物は、実は栄養価の高い肥沃土になるのです」


「―――それは凄いな!あ、だからさっきノワールはロック・バッファローも自然の摂理だって言ったのか」


突撃前にノワールの言っていたことを思い出す八雲とそれに頷くクレーブス。


「そうです。バッファローが排泄した後は、肥沃な土地に変わっていきます。しかし、あの様に群れをなして彼方此方に移動するため、その肥沃土も一カ所に止まらず、点在していくので土地の彼方此方に緑を芽吹かせたりしている訳です」


「それじゃあロック・バッファローを牧場化して、その肥沃土を肥料にして作物を得るのは?」


「ウルス共和国にとって、とても効率のいい農業の形と言っていいでしょう。肥料が回収出来て、それで農作物が育ちバッファロー自体も肉に加工や乳製品も作れますし、一石四鳥といったところでしょうか」


「ロック・バッファローは大体どのくらいの周期で出産する?」


「ロック・バッファローは凡そですが年間に二度、卵を産みます」


その返事に八雲は思わず、


「えっ!?―――ロック・バッファローって卵から生まれるの!?」


と驚愕の表情を浮かべる。


「八雲様、この世界では普通に卵から生まれる動物もいますが、アンデッドを除いて魔物はすべて卵から生まれる特性があります。ロック・バッファローもこうして家畜化することは出来ますが、魔物であることに変わりはありません。ですので卵で生まれます」


「そうか……でも年に二回も卵を産むなら、数が減っていくこともないだろうし、むしろ肉にしても問題ないだろう」


―――そこでバンドリンが口を挟んだ。


「しかし陛下、これだけの数のロック・バッファローとなりますと、岩は与えられても作物を与えるには数が多すぎますぞ?」


「ロック・バッファローは周期的に植物を取らなければ血が循環出来なくなって最悪死亡します」


クレーブスの説明を聴いて、八雲が牧場の中を指差す。


「その点は解決済みだ。偶々だが、この牧場の土地を柵で覆う際に、ムラサキウマゴヤシを見つけたんだ」


「ムラサキ……ウマ……ゴヤシ?」


バンドリンは何のことだといった風に首を傾げる。


「なるほど……ムラサキウマゴヤシですか」


クレーブスは既に何のことだか理解している顔つきだ。




―――ムラサキウマゴヤシとは、


マメ科ウマゴヤシ属の多年草。アルファルファ、ルーサンとも呼ばれ、頑丈な根株から多数の茎を叢生して伸びると一m程になる。


夏に濃紫色から白色の蝶形花を付ける。


種子は硬実種子で、螺旋状に巻いた果実の中にあって、その草自体は主に牛に与える牧草として使われる。


アルファルファと呼称されたりもして、スプラウトの状態でサラダなどに使う人にとっての食材でもある。


八雲のいた日本では、牧草として明治時代に導入された経緯があり、人間の生食用としては播種後三~七日目のものが、アルファルファ・スプラウトとして利用出来る。




ここに生えているムラサキウマゴヤシもまた、ロック・バッファローが排泄した肥沃土から自生したものであった。


「これを先に肥沃土で成長を促しておけば、ロック・バッファローが摂取するのにも追いつかないことはないでしょう。餌はその辺りから拾った岩を与えておけば勝手に食べてくれますし」


「だったら、これで問題ないな。バンドリン、このバッファローの牧場―――国を挙げてやってみないか?あいつ等の作る肥沃土を利用すれば、この隣の畑にも農作物が作れるようになると思うんだけど」


そう説明する八雲の前に改めてバンドリン、そしてイザベル達が膝をついて頭を深々と下げる―――


「お、おい!だから俺はそういうのはいいって―――」


「―――黒帝陛下!!!ウルス共和国の王として、この国の国民達の代表として!心からお礼を申し上げます」


深々と頭を下げて八雲に心から感謝の意を示していた。


「はぁ……もう、分かったから、頭を上げてくれ」


「ありがとうございます、八雲様」


そして立ち上がるバンドリン達に、八雲はニヤリとした笑みを浮かべながら―――


「ところでバンドリン―――バーベキューって知ってる?」


「はぁ?バーベ……なんですと?」


八雲の問い掛けに素っ頓狂な声を上げて首を傾げるのだった―――






―――それから、


オルソ城に戻った八雲は、先に仕留めていて『収納』に仕舞っておいたロック・バッファローの肉を解体していく。


それには料理の出来る同行メンバーも手伝い、その間に八雲はバンドリンに断って城の中庭にバーベキューテラスを『創造』していく。


そうして出来上がったバーベキューテラスに城中の者達や農園を手伝っていた農夫達も交えて、贅沢なロック・バッファローの串焼きやステーキを堪能するのだった。


「―――ヤバい!!これ、マジで美味い!!!」


ロック・バッファローはテリトリーの中を周回するように常に移動しているため、その肉と脂が程よく混ざり合い、焼いている間も肉から溢れる肉汁の香りが城の中庭に漂って食欲をそそっていた。


「そうだろう!!―――我が仕留めたロック・バッファローだからな♪」


「いや、何言ってくれちゃってんの?ノワールさん。これは俺が仕留めたヤツだって」


「は?……なにぃ?そんな訳がなかろう!これは我が仕留めたヤツだ!!」


「―――いや俺だ!!」


「いや我だ!!我だ!!我だ!!」


「いや、どっちも凄いのは分かったから、喧嘩していると皆に食べられちゃうよ?」


呆れ顔の雪菜に仲裁されて、それは大変とばかりに肉にかぶりつくふたり。


そんなふたりの姿を少し離れたところから羨ましそうに見つめる者がいた―――


「―――お前が望むのなら儂から八雲様に執り成して、お前を傍に上げてもらうように頼んでもよいのだぞ?」


―――八雲達を見つめていたイザベルにバンドリンがそっと語りかける。


しかし―――


「ううん、いいよ。私は何にも出来てなかった。父上が国を何とかしたいと思っているのを手伝いたくて農園にも通っていたけど、結局は陛下がたった一日でこの国を救えるくらいのことをしちゃったんだから。どの面下げて傍に行くのさ?」


自虐気味なイザベルの肩に、バンドリンはそっと手を置いて、


「そんなことはない。あの後、八雲様は父親想いの良い娘を持ったことは誇りだなと褒めて下さっていたわい。長い間お前にも苦しい思いをさせてすまなかった」


そう言って謝るバンドリンの手の上に、イザベルはそっと自分の手を重ねる……


―――この日の宴は夜遅くまで続くこととなる。


そして次の日からは新たなウルス共和国としての産声を上げるのだった―――



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