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第243話 ウルス共和国到着

―――大空を斬り裂くように黒い一閃となった黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーが天翔ける。


ウルス共和国まで数時間の飛行予定だが、黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーは国境を既に越えていた―――


到着時刻まで皆にそれぞれ好きに過ごしてくれと伝えた八雲自身は、自室に戻ってソファーに腰掛けて窓の外を見つめていた。


「ああっ……雪菜……マジでいい……」


そんな八雲の前に跪いて奉仕をする雪菜は、日本にいた時から結ばれていた恋人である八雲の弱いところはすべて把握している。


八雲が満足することが雪菜の幸せであり、八雲が自分の奉仕で感じている顔が雪菜の欲情を滾らせていった。


そうして八雲が雪菜との情事を堪能した頃には、ウルス共和国の首都まで残り僅かといった距離に迫っていた―――






―――飛行中にイチャついた八雲と雪菜は、窓の外に広がるウルス共和国を窓から眺める。


「オゥ……これは、想像以上にフロンティア過ぎるだろ」


「ユリエルがグランドキャニオンって言ってた意味が分かったね……観光地としてならウケそうだけど」


「いや、こんな異世界の大自然に囲まれている人達に、自然がどうのと観光案内してもウケないだろ?」


「そっか……私達とは感覚が違うんだもんね」


「ああ、これは簡単にはいかないぞ。黒神龍の御子始まって以来のピンチかも」


「いや八雲って、もっと命懸けのピンチけっこうあったよね?」


呆れ顔の雪菜を余所に、窓の外を眺めながら幾つかのプランを考えていく八雲だが、まだ材料が足りない。


「兎に角……下に降りてから考えを纏めるしかないか」


窓の外の岩山を見つめながら、そう呟いていた―――






―――そして、ついに首都ベアの北部にある山裾の城であるオルソ城に到着した。


到着した当初、地上はやはり大混乱を起こしていたがゴンドラに乗ってバンドリンが下りてきて、鎮まる様に伝えると騒ぎは収まっていった。


「へ、陛下!?―――こ、これは一体全体、何なんです?」


ゴンドラから降りたバンドリンに重臣らしき者達が一目散に集まってきて質問攻めにあうバンドリンだったが、


「コラッ!鎮まらんかっ!此方におわすのをどなたと心得るっ!!恐れ多くもシュヴァルツ皇国の皇帝!―――九頭竜八雲陛下なるぞ!!!」


「エエエエッ!!!―――ハハァ~!!!」


バンドリンのどこかで聞いたような言い回しに、城外に集まった重臣達は一斉に土下座の体勢を取ってひれ伏した。


「印籠とか今度作ったら?」


その様子を見ていた雪菜が冗談半分に笑いながら八雲に告げる。


「違う、そうじゃない……ああ~バンドリン、皆もそんな畏まらなくていいから」


「ハッ!おい!陛下のご温情で特別に許されたぞ!皆、表をあげよ!」


「いや!立ち上がっていいから!普通で行こう!普通で!」


「ハッ!おい!お前等、いつも通りでいいぞ!とっとと立って挨拶せいっ!」


「陛下ぁ~言ってることが無茶苦茶になってきてますぜぇ?」


重臣達はバンドリンに軽口を言いながら、八雲達と挨拶を交わしていく。


自分達の王に対して歯に衣着せぬ物言いの重臣達が、八雲に互いの信頼関係が厚いのだということを感じさせていた。


それからオルソ城内に案内されて社交用の広間に案内されると、そこからは酒や料理が次々とテーブルに運ばれてきた。


「―――酒の貯蔵量はしっかりありますからな!好きなだけ飲んでくだされ!!ガハハハッ!!!」


豪快に笑いながら小さな樽に入った酒をジョッキに注ぎに来るバンドリン。


「ではっ!シュヴァルツ皇国とウルス共和国!両国の繁栄を願い―――乾杯いいいっ!!!」


バンドリンが音頭を取り全員で乾杯を交わすと、今も続いて運ばれてくる料理を八雲は観察するように見ていた。


「モキュモキュ♪ ゴクン♪―――ん?どうした?八雲」


料理を次々と口に運んではモキュモキュ♪ 豪快且つ可愛く食べていくノワールを、


(なにそのモキュモキュ♪ って?ホントうちの嫁、可愛い過ぎるんですけど?)


と思いながら見ていたが、


「いや、この料理に使われている材料を見ていたのさ」


そう説明する八雲の言葉にバンドリンが血相を変える。


「―――何かお気に召しませんでしたか!?」


焦った表情で問い掛けてくるバンドリンに、八雲は手を振って、


「いや、違う!違う!―――この料理はこの国で獲れた物を使って作っている訳だろ?だからこの国の料理や材料を見て何かのヒントにならないか考えていただけだよ」


八雲の説明に安心したような顔に変わったバンドリンは笑顔で答える。


「この国は痩せた土地と岩山ばかりの国ではありますが、気温に合った野菜は育てることが出来ます。まあ……それも余裕が出来るほどは取れませんが」


最後は少し暗い表情になったバンドリンだったが、


「明日この国を見て回りたい。誰か詳しい人間を案内に貸してくれないか?」


「承知しました!!おい!―――イザベル!!」


バンドリンの呼び掛けに席を立って八雲達のところに近づいてくる者がいた。


「イザベル!明日、八雲様の供をしてウルスを案内してくれ!!しっかりと頼むぞっ!!!」


豪快な声でイザベルと呼ばれたのは、茶髪をポニーテールに纏めた青い瞳の二十歳前後の女性だった。


「父上。私は明日農園の手伝いがある。供をさせるなら大臣にでも言ってくれない?」


(父上!?ってことはバンドリンの娘か……よかったな、母親似で……)


機嫌は悪そうだが、見た目は美人で元々は色白なのだろうが日焼けして健康的な魅力を纏っている。


だが、バンドリンの娘なら国では王女なのにドレスではなく部屋着のような服でパンツスタイルといった何か作業でも始めそうな恰好だった。


あからさまに嫌そうな顔で答えるイザベルにバンドリンが目をひん剥いて顔を赤くしていく。


「コラッ!!―――八雲様はウルスを何とかしようと、態々ここまで足を運んでくださったんじゃぞ!!!なのに……その態度は何だっ!それにその恰好は何だ!!」


「ドレスなんか着てられるか!!!―――父上こそ!イロンデルから包囲網を敷こうと言われている相手国の皇帝を招いて何を考えてんだい!!!」


イザベルのその叫び声に広間の会話は一斉に静寂に包まれ、バンドリンとイザベルに集中していた。


「ば、馬鹿者がっ!!!―――このような場で!しかも八雲様の前で何たる暴言か!!!」


「馬鹿は父上だろうが!この国は今、戦争なんてやってられないんだぞ!!他国に巻き込まれて万一戦争にでもなったらそれこそ国は終わりだろう!!!」


普段なら日常茶飯事であろうこの親子喧嘩も、シュヴァルツの皇帝である八雲の眼前で繰り広げられ始めた時点で重臣達の胃がキュウッと痛くなっていく。


そして―――


「―――この馬鹿娘がぁああ!!!」


「―――この頑固オヤジがぁああ!!!」


―――八雲の目の前で堂々と派手な殴り合いまで始まってしまい、重臣達は卒倒寸前の顔をして顔面蒼白だった。


だが、そんな壮絶な親子喧嘩の応酬の横で―――


「―――この料理、なかなか美味いな」


―――八雲は工夫された味付けとこの土地の伝統的な調理であろう品々を味わっていく。


王と王女の盛り上がった親子喧嘩を意に介さずに食事を楽しむ八雲の姿に、いつの間にかふたりも怒鳴り合いが止まっていた。


「……」


「おっ!こっちもいけるな。ノワールさん、これ美味いよ。はい、あ~ん」


「なにっ!あ~ん♡ パクッ!モキュモキュ♪」


「何このほっこり感♪ 保護欲そそり過ぎでしょ」


「……あの、八雲様?」


喧騒の収まったバンドリンとイザベルが見つめる中、ノワールとの仲の良さを見せつける八雲。


「ん?親子喧嘩は終わった?」


「こ、これはっ?!とんだ恥さらしを!―――申し訳ございません!!」


「……」


バンドリンは必死な様子で謝っているが、イザベルはそっぽを向いている。


「いや、気にしてないから。俺はもう親父がいないから、正直言ってそんな親子喧嘩出来るのが羨ましいよ」


「ッ?!……八雲様」


八雲の言葉にはバンドリンのみならずイザベルも流石に表情を曇らせ、少し後悔の色が浮かんでいた。


そんな表情を見て取った八雲は―――


「―――イザベル、明日農園に手伝いに行くって言っていたよな?」


「へ?あ、ああ、はい……そう……だけど」


「イザベル!言葉遣いに気をつけい!!」


「ああ、良いって♪ 良いって♪ その農園だけど―――俺も連れて行ってくれ」


「……はい?」


「……はい?」


親子喧嘩していた割にその反応は、


「息ピッタリだな……仲良しか」


とだけ八雲はツッコミを入れておいた―――






―――8月14日


親子喧嘩の勃発した食事会の翌日オルソ城の正門前に八雲とノワールがいた。


「ノワールまで見に行きたいなんて、珍しいな?」


問い掛ける八雲に背を反らして伸ばしながら、


「んん~?ああ、ずっと我の天使達と遊んでいる時間が多かったからな。だが今回はお前の傍にいられるから……昨夜もあんなに我のことを可愛がってもらったことだし♡/////」


昨晩あれからノワールを抱きまくった八雲にしな垂れ掛かるようにスリ寄ってくるノワール。


「ンッ!ンンッ!!……おはよう……ございます」


そこに姿を現したイザベルが、ふたりのイチャイチャ空間に咳払いしながら近づいてきて顔を背けながら挨拶する。


「あ、おはようイザベル。それじゃあ行こうか」


イザベルの気まずそうな空気を読まずに軽く挨拶する八雲だったが、


「行くって、農園はけっこう離れているよ?歩いて行くつもりかい?」


とイザベルは訝しんで告げる。


「だったら―――」


と、八雲は『収納』から魔術飛行艇エア・ライドを取り出す。


以前、ジェミオス・ヘミオス姉妹とデートに行ったときに取り付けたサイドシートも取り付けたままだった。


「なっ!?―――なんだい?これは?」


驚いたイザベルの顔にクスリと笑った八雲が魔術飛行艇エア・ライドに跨ると、その背中にピョン♪ と跳ねたノワールが乗る。


「そっちのサイドシートに座ってくれ」


「え?……此処に?こんなものに乗って一体―――ヒャアアッ!!!」


サイドシートに座ったのを確認して、すぐにフワッと浮かび上がった魔術飛行艇エア・ライドにビックリして甲高い声を上げるイザベルに八雲は、


(何だ、可愛い声も出せるんじゃないか。声に出しては言わんけど……)


と、下手なことを言ってイザベルに殴られるのは御免だと心の中で呟きながら走り出す。


「ちょっと!!―――あっち!農園はあっちだよ!!」


逆の方向を指差すイザベル。


「ああ、そうなの?よし―――それじゃ、飛ばすぞ!!しっかり掴まっていろよ!!!」


ビュン!と魔術飛行艇エア・ライドを切り返して、逆方向に方向転換すると風を切って走り出した。


「ヒャッハアアアッ!!!―――飛ばせ♪ 飛ばせぇ~♪」


後部でご機嫌な声を上げるノワール。


「―――ヒィイイッ!!!」


当然だが馬よりも早い乗り物に生まれて初めて乗ったイザベルは、宛らジェットコースターに初めて乗った子供のように可愛らしい悲鳴を上げている。


そんなおかしな状況の魔術飛行艇エア・ライドは、ウルス共和国の農園に向かって疾走して行くのだった―――



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