目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報

第242話 ウルスへの出発

―――神龍達の言葉が民達に贈られて、


フォック聖法国の聖法庁正門から民衆は徐々に日常へと戻っていき、平穏へと馴染み始めた―――


ノワール達は大切な式典用の衣装を汚さないように、レギンレイヴに先導されて天翔船に戻っていく。


衣装を着替えている間に八雲は次の準備を進めた。


それは―――


「ユリエル、此処の診療所に案内してくれないか?」


「あ、うん!」


診療所という言葉にユリエルは八雲の目的を察したのか、嬉しそうに笑みを浮かべて返事をする。


「黒帝陛下、診療所に行かれるということは……」


聖法王ジェロームは、ユリエルと同じく八雲の目的を察する。


「ええ、此処の診療所にアーティファクトを設置しに行きます。患者さんも多いだろうし、早い方が良いでしょう」


「おお、なんと!黒帝陛下のその御慈悲に我等、教会に名を連ねる者として心から感謝を。我等もご一緒させて頂いてもよろしいですかな?」


「ええ、勿論。では一緒に行きましょうか!」


「八雲様!吾輩もご一緒して宜しいですかな?」


参加を希望したのはバンドリンであり、エヴリンも共に行くと言い出す。


「―――面白そうじゃない♪ そんな奇跡のアーティファクトなら是非見ておきたいわ」


「でも診療所に大人数で行くのは迷惑だろうから後は―――リヴァー!」


八雲の呼びかけに、八雲の胸から青い光が飛び出し、


「―――呼んだ?マスター。またアレ造るの?」


と、水の妖精リヴァーが飛び出して八雲の目の前でふわふわと浮かんでいる。


「ああ、またサポート宜しく」


「仕方ないなぁ~♪ ホントにマスターは私がいないと駄目なんだからぁ~♪」


「アア、ホント、ソウデスネ……」


得意気なリヴァーに八雲は苦虫を噛み潰したような片言の喋り方になり、ジト目でリヴァーを睨みながら返事する。


そんな中で―――


「ちょっと!?まさかその子って―――水の妖精なの!?」


エヴリンが驚きの表情で八雲に詰め寄る。


「うおっ?!あ、ああ、そうだよ。水の精霊オンディーヌと契約したとき、分身体として水の妖精を俺につけてくれたんだ」


「―――水の精霊オンディーヌと契約!?四大精霊の一柱と契約したですって!?……ホントにうちの娘の夫様はとんでもないわね」


「フフン♪ そうでしょう♪」


何故か得意気なドヤ顔になっているエディス。


「それじゃあ、診療所に向かおうか!」


ユリエルの案内で八雲達は診療所へと向かうのだった―――






―――聖法庁から程なく行ったところ、すぐに目的の診療所はあった。


始めにユリエルが診療所に向かうと、診療所の患者達の世話係をしているシスター達は―――


「―――聖女様!聖女様ではございませんか!ああ、また御会い出来て本当に嬉しいですわ」


―――と、ユリエルを囲んで心から嬉しそうに笑い合っていた。


そして、ここに来た目的をユリエルから説明してもらって、八雲は診療所の中の丁度いい場所を見定めた。


「それじゃ―――リヴァー!よろしく!」


「りょ~かいよぉ~♪」


―――水の妖精であるリヴァーからサポートを受けながら、『命の水』の精製とその水の塊を氷結して固定する土台にガラスのケースまで、アルブム皇国で造った物とそっくりそのままのアーティファクトがそこに『創造』されて出来上がる。


相変わらず精霊の加護による『命の水』の精製には大幅に魔力を持っていかれたが、ユリエルが患者に説明して順番にその効果を実感させると周囲からは八雲にお礼と祈りを捧げる者たちでいっぱいになっていく。


「―――八雲様は本当に凄い御方ですなぁ……吾輩などとは出来が違うわい!ワハハッ!!」


バンドリンは目の前で起こった奇跡に終始、八雲のことを褒め称えていた。


ジェロームも―――


「黒帝陛下。このような奇跡のアーティファクトを御贈り頂いて、私達はどう御礼を申し上げてよいのやら言葉も見つかりません。貴方と、貴方に巡り合わせてくださいました神に心から感謝を」


―――と、教会の関係者達と共に深々と頭を下げる。


こうして、二カ所目の『命の水』の設置を終えた八雲は次にバンドリンの国、ウルス共和国に向かう準備に入るのだった―――






―――八雲がフォック聖法国で『命の水』を『創造』していた頃、


フォック聖法国の東側に隣接するイロンデル公国の首都アンドリーニアにあるロンディネ城では―――


執務室の大きな椅子に腰掛けている見た目三十代といった男が書簡に目を通していた。


そんな時、徐にドアにノックの音が響き、ひとりの貴族衣装に身を包んだ若い男が入ってくる。


「失礼致します陛下。先ほどフォーコンに向かっておりましたエンリーチ卿からの使者が参りまして、レーツェル=ブルート・フォーコン女王陛下より『シュヴァルツ包囲網構築条約』に賛同のご意志を示されたとの知らせが参りました」


その言葉に執務席で書簡を見ていた男の動きが止まり、口元をニヤリと歪ませていく。


「そうか……あの吸血鬼の女王、乗ってきたか。エンリーチみたいな胡散臭い男の話など乗ってくるかどうか怪しいところであったが、案外あの女王もシュヴァルツに対して危機感を覚えていたのかも知れん」


そう呟くように言葉を吐いたのは―――


―――イロンデル公国公王ワインド=グラット・イロンデルである。


「しかし陛下、あのエンリーチとかいう余所者をいつまで丁重に扱うおつもりなのですか?」


机を挟んで公王の前に立つのは―――


―――イロンデル公国宰相デビロ=グラチェ・エンドーサだった。


「フフッ……ティーグルの小倅の腰巾着をしているダニのようなあの男のことなど、いつでも切り捨てられる。今は此方のいいように使い倒しておいて構わぬ。それよりも―――例の物は順調か?」


「はい。あの女の言った通り、此方には従順に従っております。今はシュヴァルツとの国境に近い国有地の山間に止めているところです」


「そうか……事を起こすかどうかは残りのレオパール、ウルス、そしてフォック聖法国の返事を待ってからでも遅くはない。如何に黒神龍の御子といえども、ポッと出の男にあのような大国を治めさせるなど、エドワード王もレオン王もヤキが回ったか」


そう言って苦々しい表情を浮かべながら、手元にある黒い靄のようなものが中で蠢く水晶を手にするワインド―――


「この力さえあれば儂はオーヴェスト、いや大陸の制覇とて夢とは思わぬ。デビロよ……これからオーヴェストは激しく動乱の渦と化すぞ。お前もそのことをよく心に留めておいてくれ」


―――引き締めた表情でデビロにそう言い渡すワインドに、デビロは深々と頭を下げる。


「―――すべては公王陛下の御意のままに」


城の窓から遠くシュヴァルツを見る様にワインドは景色を眺め続けていた―――






―――8月13日


神龍の言葉が贈られた日の翌日、八雲は早速だがバンドリンの国、ウルス共和国に向かうことにした。


黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーへと乗り込んでいく八雲達をシリウスと並んでガルムに跨ったチビッ子四人組が、何故かキリッとした表情で横並びに並んで敬礼して見送ってくれた。


その最後尾にはコゼロークも―――ん?コゼローク!?と八雲は二度見する。


「コゼローク!?―――そう言えば、ずっと一緒に来ていたのに全然姿を見なかったけど、どこか具合でも悪かったのか?」


そう……ノワール達とアルブムで合流した時にコゼロークも一緒に来ていたのだが、それから八雲の前に一度も姿を見せていなかったのだ。


「いえ……身体は……何ともありません……ご心配なく……」


「そ、そうか?まあ、それならいいんだけど……」


するとアリエスが近づいて来て、


「―――八雲様。コゼロークはずっと子供達の面倒を見ていたり、得意の人形作りで子供達に渡す人形を製作していたりして、部屋に入り浸りになってしまっていたのです。どうぞご容赦ください」


と、姿を見なかった経緯を説明する。


「そうだったのか。この子達の面倒をよく見てくれてありがとうな。コゼロークは良いお姉ちゃんだよ」


「い、いえ……そんな……/////」


頬を赤らめて照れるコゼロークだったが、「お姉ちゃん」という言葉に反応するシェーナ達。


「コゼ……おねえしゃん?」


シェーナが八雲に問い掛けるので、その頭を軽く撫でながら、


「ああ、そうだぞ。ガルム達のお姉ちゃんのシェーナ達のお姉ちゃんだ!だからコゼロークの言う事をちゃんと聞いて待ってるんだぞ?」


柔らかい子供の髪を撫で心地よく思っていると、途端にシェーナ達の瞳がキラキラと光りだしているのがわかった。


「あ、これもしかして……コゼローク、この子達を頼んだ。たぶん、後から大変だと思うけどな……」


「えっ?……はい?……分かりました……」


この時のコゼロークは八雲の言葉の意味がわかっていなかったようだが、その後チビッ子達からシリウス同様ストーキングされる対象となり、自然とチビッ子騎士団の御守り役のひとりになってしまった。


丁度エヴリンがレオパールに帰るとのことだったので、ついでに送っていくことにして今回は―――


八雲


ノワール


ユリエル


クレーブス


フォウリン


フロック


雪菜


サファイア


オパール


マキシ


ウェンス


それとエヴリンにバンドリンの以上の十三名が黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーで出航することになった。


ノワールはエヴリンを送るために同行して、エディスは八雲の元に残ることにした。


実はギルド長サイモンより―――


『黒帝陛下に嫁ぐお前をギルドに置いておくと、お前自身の身が危険になるかも知れない』


―――と暇を出されてしまい、ギルドに来る時は誰か護衛をつけろとまで言われてきていたので、このままヴァーミリオンにもついて行くと八雲に意思表示を告げていた。


ユリエルは八雲にお願いした手前、ついて行くと言って譲らずにフォウリンと雪菜にマキシは神龍達やイェンリンから、


「見聞を広める良い機会」


と言われて同行することにした。


クレーブスは識者としての見解を八雲が求めたので今回は同行している。


サファイアは雪菜の護衛と言って聞かないので同行を許した。


フロックとオパールは現地で何か必要な物があれば造ってもらう可能性があったので、同じく同行してもらった。


ウェンスはマキシの護衛ということだが、やたらと八雲と視線を合わせてはプイッ!と視線を逸らす行為を繰り返している……


雪の女王スノー・クイーンはそのままフォック聖法国に残して、黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーは大空へと飛び立っていった―――


―――空に飛翔して一気に雲を突き抜け、その雲上に広がる青空に飛び出した黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーの艦橋で、


「や、八雲様ッ?!い、い、今!く、雲の中を突っ切りましたぞい!!こ、此処は雲の上ですか!?」


興奮冷めやまないバンドリンが窓の外を指差して、八雲にアワアワと今の状況の確認を求めてくる。


「落ち着けってバンドリン。まあ一日も経たないうちにウルス共和国に到着するから、それまでは娯楽室で寛いでいてくれよ」


「そこに窓はありますかの!?」


「気になるところ、そこかよ……ああ、ちゃんと外が見える窓があるから安心しろ」


「分かり申した!」


バンドリンとエヴリンを娯楽室に案内してもらって、艦橋には艦長のディオネと八雲そしてノワールが残っていた。


「なあ、八雲。お前、ウルス共和国をどうするつもりなんだ?」


ノワールが徐に八雲に問い掛けてきた。


「正直言って、まだ分からん……ユリエルとエヴリンの説明で何となくイメージはついたのはついたんだけど、そのイメージが過酷過ぎて余計に憂鬱になったわ……」


そう言って肩を落とす八雲にノワールがフッと笑みを浮かべながら、


「それでも、お前なら何とか出来るさ」


そう言って八雲の落ちた肩にそっと手を置いた。


「なんでそう言い切れるんだよ?」


きっとノワールは自分に対して絶対の信頼を置いているからだろうことは八雲も感じていたが、それでも八雲はノワールに言葉にして言って欲しかった。


「そんなもの、お前が我の御子だからに決まっているだろう!!」


「え?―――それだけ?なんか根拠薄くない?ねぇ?それだけってちょっと寂しくない?」


なんか思ってたのと違う!?とノワールの答えに不満気にしつこく問いかける八雲に少し眉を顰めたノワールだが、


「我の愛を一番受けている男だからだ/////」


少し頬を赤らめてそう答えたノワールに八雲は満足を得たのだった。


因みにそんな甘々な空間を隣で見せられたディオネだったが、今度は彼女が眉を顰めていったことは言うまでもない……


そして、眉を顰めたままのディオネが―――


「ウルス共和国首都ベアへの飛行時間は約6時間。マスター、速度はこのままで?」


―――と、問いかけてくる。


「そんなもの―――超超超神速に決まってるだろ♪」


いつかのノワールみたいなノリで答える八雲に顰め面だったディオネがフッと笑みを溢して―――


「了解した!推進部への魔力注入いっぱいで!―――最大船速に突入する!!」


―――黒の皇帝シュヴァルツ・カイザーは流線形の船体で弾丸の様な高速で風を切りながら、ウルス共和国へと進んでいった。


次の舞台はウルス共和国となる―――



この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?