―――その夜、
天翔船に戻り自室で休むことにした八雲達だったが―――
「んっ……んちゅっ……はぁ……今日は短慮なことを口にしてしまって……申し訳ありませんでした……」
ベッドの上に全裸で抱き着いてキスを繰り返すフォウリンが、暗い表情で八雲に謝罪すると、
「まだ気にしてるのか?あの時も言っただろ?怒ってくれて嬉しかったって。だからもう気にするなよ」
「はい……分かりました。ありがとう八雲様……んん、もっと♡」
そう言ってキスをせがんでくるフォウリンの、紅いメッシュの入った金髪を優しく撫でる八雲。
「ちゅ♡……私も……ウルス共和国のこと、我が儘を通してゴメンなさい……」
反対側で八雲の耳に舌を這わせているのはユリエルだ。
「ユリエルもウルスの国民が困っている現状を何とかしたかったんだろう?嫁の希望なら、それが人のことを考えての希望なら俺も手伝いたいって思ってるよ。それに―――」
「―――それに?」
「ウルスのことは、これからシュヴァルツが行っていく他国との外交のモデルに出来るかも知れない」
「外交モデルに?どういうこと?」
左右から抱き着いてくるフォウリンとユリエルに八雲は自分の考えを話す。
「シュヴァルツは四カ国が併合したことで、他国に対しての対応が不安定だ。四カ国のどこか一国が勝手に他国と同盟や条約も決めたり出来ない。だから自然と俺のところにその決定権があるわけだけど……俺自身も今はヴァーミリオンに身を置いていて積極的に外交も出来ていない」
「そう……ですわね」
不安そうなフォウリンの表情を見て、そっとふたりの頭を撫で続ける。
「別に学園を辞めてシュヴァルツに戻ろうって話じゃないさ。だけど今後のことを考えたらシュヴァルツに外交部をしっかりと確立しておかないと窓口が見えないから、どうしても閉鎖的な印象が広まってしまう。その体制だけは確立しないと、今後も他国から勝手な視線を向けられる」
八雲の言葉をジッと見つめて聴き続けているフォウリンとユリエル。
「だからウルス共和国への協力を宣伝にして、今後シュヴァルツの外交体制を他国にもわかるようにしっかりと確立するんだ。対話する窓口がありますよ!ってね」
「なるほど……少しでも八雲君の役に立てたなら、よかった」
そんな会話を割って入る様にして―――
「もぉ!難しい話はそこまでです!……私は折角久しぶりに会ったんですから♡/////」
―――エディスが身を乗り出してきた。
安心したようにユリエルが八雲の胸元に顔を埋めると、徐に八雲の首を舐め始めた―――
「うっ!……ユリエル……気持ちいい……」
「では、わたくしも……八雲様に♡」
そう八雲の耳元で告げたフォウリンは、ゆっくりと八雲の股の間に向かって顔を移動していく―――
「あっ!出遅れました!!それじゃあ私も♡/////」
ふたりに遅れたエディスは八雲の唇を奪ってきた―――
―――その後、三人の美少女に全身を奉仕されて、お返しに八雲は深夜まで三人のことを愛し続け、いつまでも三人の嬌声が部屋に鳴り響き続けていった。
身を震わせて意識を失った三人は八雲を中心にして深い眠りにつくのだった……
―――8月12日
フォスター団長との約束の日、八雲は朝から準備を進めていた―――
天翔船から降下する際に利用するゴンドラに、式典用の装飾を施していく。
ゴンドラは巨大で平らな甲板の周囲に手摺りがあり、その土台のような本体の下部には、無属性魔術を付与した重力部を設置して、独立して昇降可能な乗り物になっている。
その長方形のゴンドラの長い辺の甲板部分に横並びで黒地に黒神龍の龍紋、赤地に紅神龍の龍紋、白地に白神龍の龍紋、蒼地に蒼神龍の龍紋とそれぞれ龍紋を金色で描いた垂れ幕を横並びに取りつける―――
「おおっ!―――これに乗って演説するのか?」
八雲が準備しているところにやってきたノワールを先頭に、天翔船から降り立った者達が周りに集まる。
「ああ!四人にはこれに乗ってもらって、フォックの国民達に話しをしてもらう」
「しかし、一体我は何を話せばいいのだ?」
可愛く首を傾げるノワールに、八雲は―――
「ノワールが大陸で生きる者に、言いたいことを言えばいいと思うぞ」
―――と笑顔で答える。
その八雲の言葉にノワールも笑顔で頷くのだった―――
―――そして聖法庁正面の広場では、
「―――本当に今日、神龍様達のお言葉が頂けるのか?」
「あの
「―――あの『騎士の中の騎士』と謳われたクレブス様なら、きっと大丈夫だ!」
「早く神龍様達のご尊顔を拝みたいものだ」
―――と、大きな広場を埋め尽くさんばかりの『神龍教会』信徒達と、大陸を四分割に縄張りとして生きる神龍達の姿を一目見ようと聖神教会の信徒達までが押し寄せて来て喧騒とした人混みから、そんな会話が飛び交っていた。
今か今かと待ちわびるフォックの国民達の前に龍紋を描いた四色の垂れ幕を下げた巨大なゴンドラが、聖法庁の中から静かに浮かび上がって正門の手前で広場の民衆が見えるところまで来て停止する―――
―――その左右にはジェロームや多くの教会関係者が乗るゴンドラと、神龍の眷属達が乗ったゴンドラも浮かび上がり、宛ら三面の特設のステージのようになっている。
広間に集まった国民達からはどよめきや歓声が沸き上がり、さながらステージのように正門の上に浮かぶゴンドラに向かって、ある者は手を振り、またある者は祈りを捧げていた―――
それぞれの色で別れた垂れ幕のところに四人の神龍達が立ち、その前にはマイクスタンドのような形をして魔術を付与した特製の拡声器が立てられている。
それは八雲が『創造』したスタンドマイク型の拡声器魔道具であり、先端のマイクのような形をした部分に風属性魔術
そして右から黒神龍、紅神龍、白神龍、蒼神龍と並び立っている―――
―――実は以前から、こういった式典用にとレギンレイヴ監修の元、アルブムにいた頃から四人の式典衣装が製作されていて、今まさにそれらが初お披露目となってレギンレイヴも満足気だった。
この式典衣装については発案した張本人でもある雪菜もレギンレイヴのデザインに協力しており、四人の着ている衣装のデザインは日本の着物をベースとした豪華絢爛な刺繍を施した衣装で、まさに式典に立ち会う神龍達に相応しい現実離れした美しさと、その神々しい魅力を聖法庁に広げていた。
まるで金箔のような黄金のオーラが周囲に漂い、民衆のところまで広がっていく―――
ノワールの衣装は―――
黒の着物地に金の龍が描かれており、その長い黒髪はハーフアップにされ、金で造られた簪が纏めた髪に刺されて神々しい美しさと褐色の肌から醸し出される魅力に国民も息を呑む。
そしてノワールの希望で帯には黒大太刀=因陀羅が太刀紐を使用して腰から下げられている。
大太刀は本来、担ぐか手に持つか家臣に持たせるのが基本だが、今回は式典ということで腰に下げる形で帯刀していた。
ノワールと同じデザインの着物だが紅の着物地に金の龍が描かれ、紅い髪はノワール同様ハーフアップに纏められているところに金の簪の装飾が刺さり、普段の巫女服のような衣装とはまた違う美しさを放っていた。
その穏やかな微笑みは国民達の心を引き寄せていった。
白雪の衣装は―――
白の着物地に金の龍が描かれて白く長い髪はハーフアップに纏められており、その髪にも金の簪と装飾が刺されていることで純白の姿に清廉さと煌びやかさが合わさり、天女の如き美しさを現世に体現していた。
無表情な顔立ちだが人間とは比べようもない美しい女神のような容姿に、その場にいる誰もが息を呑んだ。
セレストの衣装は―――
蒼の着物地に金の龍が描かれ、その蒼く長い髪をハーフアップに纏めて金の簪や装飾を鏤めており、大人びた容姿とその衣装から放たれる神々しさと魅力に国民達はまた釘付けになっていた。
清浄な空気を纏う彼女の清らかな雰囲気に、それを目にした広場の者達はまるで心が洗われ救われるような感動を受けていた。
―――四人の纏う神聖な
この世の者とは思えない神々しい絶世の美女達が立ち並ぶその後ろには、黒・紅・白・蒼の色地の龍旗を手に握り、自身の右側に旗を床に立てた八雲、イェンリン、雪菜、マキシの四人の神龍の御子が立ち並んでいる。
ザワザワと騒がしかった広場は、やがてその四人の姿に自然と静まり帰り、神龍達の言葉を待ちわびるようになっていた。
そんな中で―――
―――立ち並ぶ神龍達の中から紅神龍
「―――親愛なるオーヴェストの民達。私は紅神龍
マイクスタンドから遠くまで響き渡る
「北部ノルドを預かる私はそのノルドと同じく、このフロンテ大陸全土に生きる者達の生きる力を信じたいと考えてきました―――」
民衆は静かに耳を傾ける。
「―――貴方達はどのような苦難にあろうとも、生きることを諦めない強い心を持っています。
生きることを諦めない貴方達は皆、美しいのです。
この世界に生を受け、その天寿を全うするまでの間、懸命に生きることを続けなさい。
貴方達は、そうして何かを成すために生まれてきたのだから……どうかそのことを忘れないで」
美しい詩のように響く
そして次に白雪が入れ替わりで前に出た―――
「―――南部スッドに住まう白神龍
紅蓮とはまた雰囲気の違う白雪の言葉にも、聴き逃すまいとして誰も声を上げない。
「私からの言葉は―――人々よ、これからも学びなさい」
民衆は白雪から視線を外せない。
「いつ如何なる時も、貴方達が生きている間には多くの学びがある。
誰かに師事して学ぶこと、自ら探求して学び取ること、そして無意識に学んでいること、それは貴方達の生きた証明であり何物にも代えがたい財産。
そしてその学んだことを後世の者達に伝えていきなさい。
それが後の世の幸福へと繋がっていく。
貴方達は未来に繋がる無限の可能性の糸。
その糸は未来へと繋がり、そしてまた新たな糸に結ばれて……この世界で永遠に続いていくのだから」
白雪のその言葉が胸に届いた者達は胸の奥で確かに高鳴る可能性の鼓動を感じ取っていた。
白雪に替わり、今度はセレストが前に出る―――
「わたくしは東部エストの蒼神龍セレスト=ブルースカイ・ドラゴンです。フォック聖法国に来訪して、この様な場を設けてくれましたことに感謝します」
穏やかで丁寧なセレストの言葉は国民達を引き付けていく。
「わたくしが皆さんにお伝えしたいことは、心の癒しを求めなさい」
響くセレストの美しく優しい声は民衆を魅了していく。
「生きることは時に過酷で、苦しさも哀しさも押し寄せることがあるでしょう。
その中で貴方達は立ち向かい、傷つき、それでも立ち上がって前に進むでしょう。
けれど、それは貴方達が傷ついていいことの免罪符にはなりません。
立ち止まってもいいのです。
蹲り、休むことをしてもいいのです。
それは誰に咎められることもない、貴方が生きるための心の安らぎ。
だから、貴方の心にとって癒してくれるものを見つけなさい。
そして、その見つけたものを大切になさい。
人は強さと同じく弱さもまた合わせ持っています。
貴方の弱い心を……他者に見せることをどうか恐れないで」
セレストの慈愛に満ちた言葉に、これまでの神龍達の言葉を噛み締めた国民達の瞳には涙が光っていた……
そして―――
漆黒の衣装に金の装飾で全身が輝き、腰に太刀紐で黒大太刀=因陀羅を佩いた黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴンが皆の前に立った。
スゥーと息を吸い込むノワールは、マイクに向かって凛とした声をフォックの国民に知らしめるように響かせた。
「―――我が愛するオーヴェストの民よ!我こそはオーヴェストの黒神龍ノワール=ミッドナイト・ドラゴンである!」
最後に立ったこの西部オーヴェストを縄張りとする黒神龍の言葉に、静まり返っていた国民達もノワールの勢いの余り―――
「―――オオオッ!!」
と歓声を上げる―――
「―――我が盟友にして姉妹とも言える神龍達の言葉は、お前達の心に届いたであろうか?
……きっと届いていることだろう。
では最後に、この我からお前達に言葉を贈ろう―――」
オーヴェストの盟主とも言える黒神龍からの言葉と聴いて広場の国民達は鎮まり返った。
「我はお前達を―――愛している」
マイクから鳴り響く優しい母の様な慈愛に満ちたノワールの声に民衆はその目を見開いた―――
「―――我はこのオーヴェストに生まれた生きとし生けるもの達を見守ってきた。
それはとても長くもあり、とても寂しくもあり、とても孤独な悠久の時の中にあって過ぎ去っていく出会いと別れの繰り返しだった。
我はお前達と出会い、別れていくことが幸せであり哀しみでもある。
それは、お前達もお前達を生んだ母も、その父も、その父母を産んだ母も、お前達のすべてを見てきた我にとって、この哀しみは我が神によってこの身に与えられた試練だ……
だが、そんな悠久の時の中でドラゴンにとって、ほんの瞬きのような人の一生であっても……お前達の見せる喜びの笑みや歌声、産まれてきた赤子の産声、そして何かを目指し続ける不屈の心、それらすべてを持つお前達が我にとって何物にも代えがたい愛しい存在なのだ―――」
「ノワール……」
龍旗を手にする八雲は、後ろからそんなノワールの背中を愛おしく見つめている。
「―――もう一度言おう。
我は―――お前達を愛している。
だからお前達も誰かを愛する心を忘れないでほしい。
誰かに向けられた愛情を恐れないでほしい。
我の愛しき子らよ―――お前達を愛する我の想いをどうか忘れないで。
そして―――
―――お前達を愛しているものがいるのだということを忘れないでくれ!!」
ノワールの言葉に広場にいた国民達はひとり、またひとりとその場に両膝をついて祈りを捧げ始める。
そんなオーヴェストの民達の姿を見たノワールが―――
「―――龍旗を掲げよぉ!!!」
―――真っ青な大空に響き渡る号令を掛ける。
その放たれた号令に八雲、イェンリン、雪菜、マキシの四人の神龍の御子達はその手にしていたそれぞれの龍旗を高々と空に掲げた―――
広場に集った何十万という人々の波がはためく龍旗と共に歓声を上げると、それがいつまでも続いていく……
―――青空に掲げられて風にはためく四色の龍旗の光景を、
この場に集った民達はいつまでも、その胸に刻みつけたのだった―――
―――大陸歴1010年 8月12日
この日はフロンテ大陸西部オーヴェストの一国
フォック聖法国にて
歴史上、この地で初めて四神龍の言葉が公式に記録された歴史的記念の日となった―――
―――後にこの神龍達の言葉は、
『神龍の
と題された生きることへの強さと向上する心、安らぎを求める思い、そして他者を愛することを厳かに穏やかにそして愛おしさの溢れる神龍から伝えられた詩として、吟遊詩人の唄や書物にされて遥か遠くの地まで長く伝わっていくことになるのだった―――