―――聖ミニオン女学院の学院祭から議事堂に戻った八雲達はリオンでの最後の夜ということで、ジョヴァンニから夜会としての食事会が開かれることを伝えられた。
さすがにそれは断れないので八雲も快く承諾して夜を迎える―――
「おお……これは……」
漆黒のドレスに金銀と宝石を鏤めた装飾を纏ったノワール―――
真紅のドレスを纏い、外交時に王女のティアラを着けたヴァレリア―――
薄い水色の可愛らしいレースに宝石を鏤めた装飾のドレスというシャルロット―――
白と蒼色のシックなドレスに身を包み、銀の装飾で清楚に纏めたユリエル―――
明るい黄色のドレスに金と銀の装飾という装いのカタリーナ―――
濃い緑の身体にピッタリとフィットしたドレスのエディス―――
同じく身体にピッタリとフィットした紅のドレスを着たエヴリン―――
白い巫女装束に金の冠を被った葵御前―――
誰もが見惚れる美女と美少女が集い、夜会の装いで会場となった議事堂の広間に現れると、その場にいたリオンの評議会議員や街の要人達から拍手が起こっていた―――
「―――どうだ?八雲。似合っているか?」
―――漆黒のドレスで少し体をくねらせ艶のある表情で笑みを浮かべるノワール。
「ああ、皆すごく綺麗だ。俺の方が場違いなくらいだな」
「―――なにを言っている?これはお前のための夜会なのだぞ。曲りなりにも皇帝位に就いたのだ。一発挨拶をかまして後はしっかり自分の妻達をエスコートしろ!」
ノワールに背中を押され、皆の前に出ると会場の警備兼給仕をしているサジテールからグラスを渡される。
どうやら挨拶しろということらしい……広間の中心になっている八雲はその場にいる全員を見回すと、深呼吸をして話し出した。
「本日はこのような素晴らしい夜会を催して頂いたこと心より感謝している。つい先日我がシュヴァルツ皇国とレオパール魔導国との同盟が締結されることになった。これは俺からレオパールに持ちかけた話だ」
八雲は今最も新しい国際事情をまず口にした。
「レオパールでは三導師のひとりだったルドナ=クレイシアの暴挙により一時混乱したが、それも無事終息した。そして今後は我等の皇国と正常な国交を今までより強くするために今回の同盟へと繋がったという経緯だ」
八雲の口から語られるレオパールとの同盟について広間の誰もが黙って聴いている。
「明日からまたシュヴァルツとレオパールの新しい日が始まる。その明日に向けて今夜は皆で楽しみたいと思う―――それでは、乾杯!!!」
「―――乾杯ぃい!!!」
掲げたグラスを八雲は飲み干し会場にいた者達から拍手が巻き起こってきた。
「随分と皇帝が板についてきたではないか♪ これからも励めよ!」
ニヤニヤとしているノワールに、やれやれと肩を窄めた八雲だがそこに美女軍団が集まってくる。
「―――八雲様♪ このドレスは如何でしょうか?似合いますか☆」
シャルロットがいつものニコニコした笑顔で八雲に問い掛けてくる……下着を持って追い詰めてきた時にアンヌのオーラが見えたのは見間違いだと思いたい八雲。
「―――ああ!とっても可愛いよ!シャルロット」
「えへへ♪ ありがとうございます!ヴァレリアお姉さまもお似合いでしょう?」
「ちょ、ちょっとシャルロット?!……あ、あのどうでしょうか?/////」
上目づかいで訊ねてくるヴァレリアに、
「―――ヴァレリアはその髪と同じ赤が良く似合うよ。綺麗だ」
「あ、ありがとうございましゅ/////」
(あ、最後ちょっと噛んだ?なにそれ可愛い)
―――と、ツッコミたいところを我慢して、八雲はふたりと別の話題で会話を弾ませていく。
その様子を見ていたユリエルとカタリーナにエディスとエヴリンが近づく。
「―――あらあら♪ 御子様の周りはいつも美女達が笑顔を咲かせているわね♪」
エヴリンがユリエルとカタリーナに声を掛けると、
「あら♪ エヴリン様!強い殿方に美女が侍るのは世の常では?」
カタリーナが笑顔ではっきりと告げた。
「ふふっ♪ 確かにそうね。しかも大国の皇帝ともなれば尚更だわ」
エヴリンの言葉にエディスが横から顔を出して、
「―――八雲さんの魅力は皇帝とか強さじゃないの!八雲さんだからいいの!」
と母の言葉に異論を唱える。
「あらエディスは随分と御子様にご執心ね♪ 貴女がそれほどまで愛せる殿方が見つかって本当に良かった。お母さん安心したわ」
「もう……恥ずかしいじゃない!」
母親の言葉にエディスは顔を赤くして俯いた。
「照れちゃって♪ ああ~私も御子様のハーレムに加えてもらおうかしら♡」
俯いていたエディスはエヴリンのその言葉にハッとしたような表情で顔を上げると、
「―――ちょっとホントにやめてよ!お母さんはレオパールでエルドナさんの相談役って仕事があるじゃない!」
「なぁに~?お母さんはもう恋をしちゃダメってこと?こう見えてまだまだ貴女にも負けないわよ?エディス」
そういって腰をくねらせ胸を前に強調する母の姿にエディスは溜め息を吐く。
「ホント勘弁して……」
「まぁ冗談はさておき、聖女様も巡礼でいらっしゃった時以来ね。聖法王猊下はお元気かしら?」
突然話しを振られてユリエルは驚いたが、そこは聖女として世界中を回っていた経験もあり落ち着いて返す。
「はい。猊下はまだまだ変わりなくお元気で、稽古もお祈りも恙無く勤めていらっしゃいます」
「昔、若い頃は魔術と祈祷とどちらが上か!とか張り合っていた時代もあったけど、天聖神拳伝承者はまだまだ健在のようね」
「アハハ……元気過ぎるくらいです」
「そして、あなたが地聖神様の御使い様でしょうか?」
ユリエル達と一緒にいた葵に向かい合って挨拶するエヴリン。
「ああ、妾は白面金毛九尾狐の『空狐』の位、葵という。お主のことは主様から伺っておる。以後見知り置いてくれ」
「ありがとうございます。我らエルフは地聖神様へ信仰厚き種族。森と共にあることで生きる糧を頂く身ですから今度レオパールにいらっしゃった際には森への感謝を伝える祈祷をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「―――勿論、慶んでお受けしましょう。森や山も地聖神様の大切な領域。豊穣を祈るのが我が巫女としての勤め」
「ありがとうございます」
エヴリンは葵に頭を下げ感謝を示すとそこからはやはり八雲の話しに花を咲かせていく。
そうして夜会の美女達の会話は夜遅く、終わりを告げられるまで続いていくのだった―――
―――翌日の朝
八雲のベッドには、ドレスと下着を床に脱ぎ捨てたカタリーナがいた。
昨日夜会が終了してからカタリーナは八雲と再び離れることになるため八雲の寝室を訪れた―――
「んん♡! ちゅ―――ンンンンッ?!/////」
ベッドの前で抱き合って激しくキスを交わすだけで八雲はカタリーナの気持ちを察したので黙ってそれを受け入れ、抱きしめてキスをしながら全身に『神の手』スキルを纏わせると、それにより一気にカタリーナの身体に快感が走った。
キスをしながらそのドレスを剥ぎ取り、腰の横で紐に結ばれたTバックの下着を履いていたカタリーナを、そのまま抱き上げてベッドに押し倒した―――
―――それから激しい時を過ごし、そうして長い夜を過ごしたふたりはいつの間にか並んで深い眠りについた。
朝を迎えて―――
「―――おはようございます八雲様♡」
ゆっくりと微睡みの中から目覚めたカタリーナは眠りから覚める八雲に、別れを惜しむため愛情を込めたキスを贈るのだった―――
―――それからアサド議事堂の前に集合した八雲達一行だったが、
「―――私もティーグルまで連れて行ってちょうだい」
そう言ってきたのはエヴリンだ。
「え?かまわないけど、エドワード王に会うのか?」
「ええ、そのつもりよ。出来れば御子様にも一緒に行って説明してもらえるとありがたいのだけれど」
説明とは今回のレオパールでルドナが起こした事件と魔神の件、それらから同盟に至った経緯を話して欲しいということだった。
「俺は別にいいけど、でもその後はどうするんだ?俺はその後に葵を連れてエーグルとエレファンに向かうつもりだけど」
「あら♪ 丁度いいわ!ならそちらもご一緒させて頂けるかしら?エーグルとエレファンにもご挨拶しようと思っていたから」
今回の同盟の挨拶も兼ねてエーグルやエレファンとも懇意になっておこうという、エヴリンの考えだろうと八雲も理解出来たので承諾した。
リオンの皆との別れ際には誰憚ることなくカタリーナとキスをして、
「―――また、会いに来てくださいますか?」
少し不安そうなカタリーナに、
「当然だ。そして学院を卒業したら迎えに来るからな」
そう八雲が答えると瞳に薄っすら涙を浮かべたカタリーナが―――
「―――はい♪」
―――と笑顔で答えた。
そうして八雲達は議事堂の傍に着陸させていた
「まさかこれが空を飛ぶなんて……信じられない技術と魔術だわ……」
地上から上昇していく
「私も此処にくる時に初めて乗せてもらって、怖くて震えちゃったわ……」
エディスがエヴリンに当時のことを話すとエヴリンはクスクスと笑いながら、
「―――それで御子様に身体で慰めてもらったって訳ね♪」
「ち、違うわよ!!ち、ちょっと違わないかもだけど……/////」
ゴニョゴニョ言い出した娘を見て目を細めながら笑みを浮かべていた。
その頃、艦橋では―――
「航路はティーグル公王領黒龍城で固定した」
―――ディオネが船の航路を艦橋の索敵マップを付与した羅針盤にて設定し、八雲とノワールは戻ってからのことを話していた。
「エヴリンが一緒に来るのはいいとして、戻ったら今度はエーグルとエレファンか。まったく落ち着けない状況だな」
「―――まったくだが、政はそれぞれの国が執り行ってくれているから、皇帝としてのお前の責務はこうした皇国全体に関わる案件になる。皇帝の公務とはそういった役回りだ」
「まあ、それはいいけど……それよりも一昨日くらいからアリエスの様子がおかしな気がするんだけど、気のせいかな?」
「アリエスが?特に報告もなかったが?どうおかしいんだ?」
「いや話していることは普通なんだけど……なんて言うのか、何か隠しているような……そんな感じ?」
「別にアリエスも何から何まで報告しなければなんてこともないだろう?むしろ細かいことはアリエスの判断に任せているし、必要なことは言ってくるヤツだしな。それに……女には秘密が多い。察してやれ」
ノワールの言葉に八雲もそう言われると納得するしかないと自分に言い聞かせる。
「―――もしかすると長い間、城を空けて遊んでいるお前を困らせようとして何か企んでいるのかも知れないぞ?」
ニヤニヤしながらそう言い放つノワールに、
「怖いこと言わないでくれよ……アリエスに限ってそんなことは―――あるかな?」
何故か不安が拭え切れない八雲だった―――
―――そうして数時間の
もう目視でも黒龍城が目に入ってきた八雲達。
その頃、地上の黒龍城では―――
「―――な、なんだ!あれはぁあああ!!!」
黒龍城のテラスから空を見上げたイェンリンが
「あれって何!?空飛んでるよ!?戦艦?―――宇宙戦艦なの!?」
隣で同じく
「―――八雲様のお造りになられました天翔船『
ふたりの傍にいるアリエスが説明すると紅蓮と白雪も呆気に取られていた。
「八雲さん……あんなものまで造ってしまうなんて……」
「……雪菜の幼馴染って一体何者なの?神の化身かしら?」
紅蓮は八雲のキャンピング馬車も見ているので更に巨大な物を造ったという認識だが、初めて見る白雪には全長三百mを超える巨大な船を空に飛ばしていること自体が神の御業に見えていた。
「おのれ八雲め……サプライズするつもりが先に仕掛けてくるとはな!」
イェンリンは何故か筋の通らない対抗心に燃えていて、
「―――ホントそうだよね!八雲って昔からこっちの考えもしないことして驚かしてきて!!」
昔から八雲を知っている雪菜も、ここはやり返さないと!と何故か張り切り出した。
そんな二人を見ているアリエスと紅蓮、白雪は八雲に対して、
(お気の毒に……)
と、まだ見ぬ八雲に同情を寄せるのであった―――