―――翌日の朝
『リオン料理・ミネア』の店前。
「よし!それじゃ、まずはあの看板なんだけど、ちょっとだけ書き加えてもいいかな?」
「え?ええ……それは大丈夫だけど?」
その返事を聞くと、八雲は
【リオン料理・ミネア 黒神龍の御子直伝 ピッツァのある店】
と書き込まれ、ついでに汚れや痛みも一緒に直しておいた。
「や、八雲君……これって……」
「や、八雲さん……黒神龍様の……御子様!?」
「カ、カタリーナちゃん、貴女このことを?」
「ソフィー姉さん、申し訳ありませんでした。けれど、八雲様の立場は簡単に明かすわけにもいかない御方ですから」
「カタリーナは悪くない。俺に気をつかってくれただけなんだ。許してやってください」
ふたりに頭を下げられてはソフィーの方が恐縮して、
「あ、いいのよ!別に怒っている訳じゃなくて、本当に驚いただけだから。あの御子様、昨日はたいへん失礼なことを―――」
「ああ、いいんだよ!俺も楽しかったし、ここを手伝いたいって動いたのは俺の方だから。だから気にしないで今まで通りで接して欲しい」
「そう……分かったわ。それじゃ、八雲君!カタリーナちゃん!今日はお願いね♪」
ふたりに笑顔を向けたソフィーに、八雲とカタリーナは「はい!」と気持ちよく返事するのだった―――
―――そうして開店準備は滞りなく進み、
「よし!準備はいいか!」
勢いよく声を張り上げた八雲だったが―――
「あ、あの、八雲君/////」
「八雲さん……これは/////」
「わたくしも着るのですか?/////」
そこには
「―――バッチリ似合っているぞ!三人とも最高!」
ひとりパチパチ!と拍手をする八雲に三姉妹はますます赤くなる。
そんな八雲も接客用に白のカッターシャツにグレーのベストといった執事調の服装に着替えていた。
そんな八雲の後ろから声が掛かる―――
「―――お待たせ致しました八雲様」
―――声が聞こえて振り返ると、そこに立っていたのはアクアーリオとフィッツェだった。
しかも改造版ミネア用メイド服を着ている……フィッツェの爆乳がはみ出そうだった。
「おお!!ちょうど良いところに!三人とも紹介する。彼女はアクアーリオ、そしてフィッツェだ。今日は店の手伝いに来てもらった。腕前はふたりとも黒神龍の料理番だから安心してくれ」
「へ?こ、黒神龍様の料……理……番……」
「そ、そんなスゴイ人達が……うちのお店に……」
ソフィーとサリーは青い顔をしてフラフラしており、カタリーナはアワアワと焦っていた……
「ま、まぁそんなに緊張しないでいいですから♪ 今日はわたくしたちもお店のお仕事を勉強しに来た身ですので、どうぞお気になさらずに手伝わせてくださいね♪」
そう言ったアクアーリオの女神のような笑顔に三人はようやく正気に戻った。
「そうですわ♪ こんな機会滅多にありませんから、今から楽しみです♪」
同じく女神のようなフィッツェの笑顔と今日もまた、たゆん♪ と揺れる爆乳が八雲の目を万乳引力で引き付ける。
カタリーナはそれを見てちょっとムッとしていたが、八雲は気づいていなかった。
「それじゃあ開店の合図をぶち上げるから、皆しっかりと働こう!!」
「―――ハイッ!!!」
気合いの入った返事を聞いて、八雲が空に向かって手を上げると―――
「―――
八雲は光属性魔術の《投影》を発動して、その膨大な魔力で首都の空一面に大きく一枚の広告を映し出した。
『リオン料理・ミネアの新メニュー登場!』
『あの空飛ぶ黒い船でやってきた黒神龍の御子直伝!』
『新メニュー【ピッツァ】本日より販売開始!』
『数に限りがございますので、お早めにご来店くださいませ!』
『お店の住所―――』
『お店の地図―――』
大空一面に巨大な一枚の広告が、どこにいる誰の目にも止まる広告が映し出され、しかも街の大通りの曲がる角やそれまでの道筋にも《投影》で映し出された案内が女性の目線くらいの高さに合わせて映し出されていた。
それを見上げたカタリーナ達やアクアーリオ達でさえ、ポカーンと呆気に取られている。
「呆けている場合じゃないぞ!さあ皆、ここからこの店は地獄になると思えよ!」
「八雲様、言い方~♪」
アクアーリオの可愛いツッコミも入り、おのおのが店内に入って準備を進めるのだった―――
「―――3番テーブルオーダー、ソーセージのピッツァとシーフードピッツァ一枚ずつ入りました!」
「5番テーブルのベーコンエッグピッツァ焼き上がったわよ!」
「アクアーリオ!仕込みの野菜が減ってきた!切って追加しておいてくれ!」
「10番テーブルオーダー入りま~す!」
「2番テーブル空いたから次のお客様をお通しして!」
「八雲様!このソーセージピッツァ4番テーブルへお願いしますわ!」
「あいよ!―――お待たせ致しました。ソーセージピッツァです」
開店してすぐ、この首都すべての人間が来ているんじゃないかというくらいに長蛇、長蛇、超長蛇の列が続き、その列は中央のアサド評議会議事堂まで伸びていた……
八雲が宣言した通り、店内は満員御礼の大型のテーブルには相席もしてもらっているくらいの大盛況だった。
「うわあ♪ すごくいい香り!これは…チーズね♪……うわ!伸びる!伸びる!こんなの見たことないわぁ♪」
「この生地、パンみたいだけど薄くて外はサクッとしているのに中は柔らかくて、この上に乗ってるソースとも相性抜群だよ!」
「でもこれどうやって焼いてるんだ!?具が載ってるから、ひっくり返したりも出来ないだろうし?」
家族連れから若者カップル、老夫婦など客層は幅広かったが、それこそが八雲の狙いでもある。
八雲は年齢層の幅が広ければ広いほど支持を得られて、リピート客を構築できると踏んでいたのだ。
しかし―――
「い、忙しすぎる……広告効果を甘く見過ぎていたな」
途切れることの無い行列を見つめながら八雲は見通しの甘さを喜びながら悔いる。
だが、そこに新たに響く声が聴こえる―――
「ハッハッハッ!!―――苦しそうだな八雲!喜べ!我が応援に来てやったぞ!」
「八雲様が執事のような凛々しいお姿で給仕を/////」
「専属メイド参上致しました八雲様!ご指示を!」
「リブラも参りました!頑張ります!」
「ノワール!?それにアリエスとレオにリブラも!応援に来てくれたのか!助かる!」
声の主であるノワール、アリエス、レオ、リブラが、やはり改造版ミネア用メイド服を着て登場した。
「……そのメイド服、気に入ったの?」
「八雲様のお好みの服と聞けば、私達に着ないという選択肢がありますか?いえありません」
それが常識と言わんばかりのドヤ顔で言い切るアリエスに、八雲はそれ以上ツッコミを入れるのをやめた。
「よし!それじゃあレオとリブラは外の列の整理を!通行の邪魔になっていないか体調の悪い人がいないか確認も頼む。あと迷惑掛けているヤツがいたら遠慮せず列から外せ。殺さない程度ならいい。ノワールとアリエスはホールで注文頼む!」
八雲の指示に元気に返事をして一斉に仕事を始める。
「なに?シーフードだと?男なら肉を食べよ!我が許さん!!」
「―――ノワールさ~ん!!お客様に強要しない!!」
多少の問題は八雲がフォローして外の列でもやはり順番を抜かす行為が行われていたので、レオとリブラが注意すると殴り掛かってきたため地面にメリ込む勢いで不良客は半殺しにして対処し、その華麗なふたりの戦闘に並んでいた人達も退屈しのぎになったようで歓声を上げていた。
夕方になる前に今日の営業終了時間を考慮して、列に並ぶお客様に早めに対応人数はここまでと説明して最後尾のお客達には丁寧にお断りを入れる。
もちろんその役目はレオとリブラで人を地面にメリ込ませるメイド達に頭を下げられると皆、納得して明日以降にまたくるから!と笑顔で解散してくれた。
そうして夜まで残った行列をなんとか応対し、ピッツァは大盛況の結果と共に閉店を迎えたのだった―――
―――閉店後のリオン料理・ミネアでは、
「乾杯~♪♪」
ピッツァ販売の大盛況を祝して、皆で打ち上げを始めているのだった。
テーブルの上には、八雲が用意した数々のピッツァが並んでいる。
―――シーフードピッツァ。
―――ソーセージピッツァ。
―――ベーコンエッグピッツァ。
今日のメインの3種類とは別に、
―――チーズ追加盛り厚切りベーコンピッツァ。
―――照りチキンマヨネーズピッツァ。
―――コーンポテトピッツァ。
―――ベーコン・ソーセージ・野菜・のミックスピッツァ。
と4種類のピッツァが並び、それを見つめる皆が涎を溢さん勢いで見つめていた。
「新しいメニュー用も作ったから、ソフィーはそれぞれ味見して自分なりにアレンジしてもいいから考えてみてくれ」
「分かったわ。でも、ここまでしてもらって、私達どうやって恩を返せばいいのか……」
ここまでしてもらって何も返すことができない自分に歯痒い想いをしているソフィーに、八雲はそっと肩に手を置いて応える。
「最初に言っただろ?これは俺の造った物が実際にお店で通用するかテストしているって。それに今回アクアーリオとフィッツェにもお店の空気を味わってもらいたかったし」
「はい、ありがとうございます八雲様。わたくしたちも貴重な体験をさせて頂きました」
「そうですね。ですからソフィーさんもそんなにお気になさらないように。八雲様のご厚意ですから」
「アクアーリオさん……フィッツェさん……」
アクアーリオとフィッツェの言葉に、ソフィーは瞳を潤ませて笑顔を見せてくれる。
「私もアクアーリオさんみたいな包丁捌きが出来るよう頑張ります!」
サリーは営業中にアクアーリオが見せていた肉の塊を空中に放り投げて黒包丁=肉斬りと骨斬りで均等にブロック角に切り分けていたのを言っているようだが、
「いや、あれは無理だから、やめなさい」
とソフィーに窘められていた。
「なぁ~八雲ぉ!もう食べてもいいんだろ?」
ノワールは並ぶピッツァにワキワキと両手の指を動かして今にも飛び掛かりそうだった。
「ああ、熱いうちに食べようか」
八雲の言葉に皆、一斉に手を伸ばしてピッツァを楽しむのだった―――
「―――俺達は明日、ティーグルに帰るから」
「え?明日……もう帰ってしまわれるのですか!?」
一息入れたところで、八雲の突然の発表にカタリーナは声を上げてしまう。
「ああ。エドワード王達ティーグルの王族も一緒だし、エーグル、エレファン、リオンとけっこうな時間、国を空けさせているからな。まぁもう来ないってことはないから。道の整備の件や途中の警備府のことでもまた打ち合わせが必要になるだろうし、何よりピッツァの販売具合も見たいからすぐ会える」
「そう……ですわよね……ええ!ミネア・ピッツァをもっと人気の商品にしておきますわ!」
「その意気だ。あと石窯の件は他人に教えるなら使用料を貰うといい。契約書を作成して使用権利を請求するんだ」
「だったら評議会に商業道具の登録をしておきましょう。そうすれば権利を主張できますわ!」
「そういうのがあるんだな。だったら、その手続きはカタリーナに任せる。ソフィーの名義で作っておいてくれ」
「そ、そんな!商業道具の登録は物によって物凄い金額になるのよ!この石窯なら瞬く間に同業者も使用権を買いにくるだろうし」
慌てるソフィーに八雲は、
「この石窯は俺がこの店にプレゼントしたんだから、その店の主人の物だろ?俺、なにかおかしなこと言ったか?」
と答えると、ソフィーはますます恐縮してしまうものの、その肩に手を置いたカタリーナが、
「何もおかしなことなんて言っておりませんわ。ソフィー姉さん。八雲様のご厚意をお断りする方が失礼ですわ。だから、皆でいつかご恩を返せるように、今はお受けしておきましょう」
「八雲君……カタリーナちゃん。ありがとう……」
そういって涙ぐみ、カタリーナと抱き合うソフィー。
そんなふたりからそっと離れて、ひとり店の外に出る八雲は建物の影にいる人物に声を掛ける。
「ご一緒にピッツァ如何ですか?―――ロッシ評議長」
建物隠れて様子を見ていたのは、誰あろうこの国のトップ、ジョヴァンニ=ロッシだった。
「ハハハ、バレていましたか……しかし朝から首都を巻き込むとんでもないことをしてくれましたな。黒帝陛下」
「自分の家族を助けたいっていう女の子の願いをきいただけだよ。俺にはもう血縁者はいないからね。そんな家族を想う気持ちを見せられたら放っておけないだろう?」
「家族……ですか」
ジョヴァンニはそう呟くと俯いている。
「貴方も家族でしょう?だからあれだけの警備をこの店の周りに配置して警戒してくれていた」
「ッ?!……それもお気づきとは、恐れ入ります。まあ、陛下のメイド達がいたので無駄でしたが」
ジョヴァンニは大量の民衆が集まったことで暴動や喧嘩など娘達が危険な目に合わないかを考慮して、警備隊を大量に付近へと配備していたのだった。
「さあ!それじゃあ警備をしてくれた功労者も打ち上げに参加しましょう!」
突然ジョヴァンニの背中を押して店に入る八雲。
「お父様!どうしてここに!?」
「ロッシ評議長!?」
入店してきた人物にカタリーナとソフィーが思わず大声を上げた。
「さあ今日この店の安全のために、一日中周りに警備隊を配備してくれていたんだから、打ち上げに参加する権利があるだろ?」
「え?うちの周りの……警備を?」
「いや、まあ、その、余計なことをしたかも知れないが……」
所作なさ気にして答えるジョヴァンニの前にアクアーリオが新しく追加で焼いたソーセージピッツァを置いた。
「今日はお疲れ様でした♪ ミネア・ピッツァ、どうか味わってくださいませ」
「あ、ありがとう。それじゃあ、いただくよ」
一切れ手に取って、伸びたチーズを千切ることもなく、そのまま口にするジョヴァンニ―――
「……美味いな。すごく食べやすく、見た目にも楽しめて、色々な具も乗せられる……本当に素晴らしい料理だ」
感想を述べるジョヴァンニの顔は、議事堂にいるときの引き締めた表情ではなく、ひとりの父親としての優しい笑みを浮かべた表情だった。
「ありがとう……お父さん」
「お父さん……」
ソフィーとサリーも、そしてカタリーナも皆、初めて家族という感情に全員揃って包まれたのを感じていた―――
―――そして一夜明けてアサド評議会議事堂。
「黒帝陛下には公私共にお世話になりっ放しとなってしまい、心苦しい限りです」
「俺が好きでしたことだし、これからは俺が世話になることもあるよ」
「黒帝陛下が困ることなど、この世にありますかな?」
「絶賛、今現在困っているんですけど……」
八雲の後ろでは昨日の大空の広告を見て、「ピッツァを食べに行きたい!」と言い出したヴァレリアとシャルロットが、いざ行ってみれば大通りの彼方まで並ぶ行列を見て、泣いて帰って来たそうで、
「―――どうして連れて行ってくださいませんでしたの!わたくし達もお手伝い致しましたのに!!/////」
と涙目で今日の朝から訴えられてしまい、さすがの八雲もタジタジになっていた。
「いや一国のお姫様と公爵令嬢を働かせるとか、普通ダメでしょ?」
とエドワードとクリストフに目を向けるも、
「……」
無言で視線を思い切りワザと逸らしている……
「おいコラそこの親父共!娘に嫌われたくないからって、なに現実逃避してんだ!」
と攻めようとする八雲の腕をシャルロットが掴んで、
「八雲様!聴いてますか!/////」
「あ……はい」
ショボーンとなる八雲……
「残念ですか黒帝陛下。わたくしも家族を助けて頂きましたこと感謝しておりますが、ここは奥方様達に素直に従うのが吉かと具申致します」
ジョヴァンニの言葉に、白旗を上げた八雲は姫様達にも帰ったら黒龍城の石窯でピッツァを作ると約束して、ようやく帰路に着くのだった。
漸く場も収まった頃、カタリーナが八雲の前に進み出て、
「八雲様……わたくしは、必ず貴方のお傍に参ります。わたくしは八雲様を……お慕いしております/////」
一大決心をして八雲に告白する……
そしてヴァレリアにシャルロットもニコニコと笑みを浮かべていて、ノワールはニヤリと厭らしい笑みを浮かべていた。
「分かった。でも今はカタリーナも学生だから、卒業したら迎えに来るよ。もちろんそれまでの間も会いに来る」
「はい♪ 楽しみにしてお待ちしております/////」
そうして、
「それじゃディオネ!目指すはティーグルのアークイラ城だ!」
「了解した。航路確認。ティーグルのアークイラ城へ!」
アサド議事堂の上空に停泊していた
―――そして今、懐かしく感じるティーグルへの帰路に着き、速度を上げていくのだった。
舞台はティーグルへと移っていく―――
―――リオンからティーグルまではエレファンと同じくらいに距離が長いため、帰りの道のりも同じくらいの時間が掛かる。
皆はまたそれぞれ思い思いにゆっくりと寛いで過ごすことになり、八雲はというと自室のベッドで……
―――フィッツェとアクアーリオのふたりが八雲と同じベッドで激しく蠢いていく。
甘い香りと何度も入れ替わって響くふたりの艶のある声が寝室に響く―――
―――このあと、
ティーグルに着く寸前まで、何度も八雲のご褒美を貰って喜びに身体を震わせるアクアーリオとフィッツェだった―――
―――そして、
八雲は『創造』でアークイラ城のバルコニーに丈夫な桟橋状の長いバルコニーを造り、その横に停泊した
設置された桟橋にエドワード王達、ティーグルの王族が降り立ち、そしてエドワードから話があると八雲とノワールを城内へと招き入れた。
会談室に向かった一同は、エドワードの話しを待つ。
「これで黒帝殿は四カ国すべてを見て来られて、儂も各国の王や重臣達とも話をつけられた。これから各国にて正式に黒帝陛下の誕生が公布され、国名も変わることが告げられていく。そして、このティーグルに三カ国の王達が集まり、儂と共に黒帝陛下の戴冠式に出席してもらう手筈になっておるが、エーグルも皇帝がまた代わってバタバタしておるだろうし、まずは道の整備を先に進めていこうと思うのじゃが、黒帝陛下のお考えはどうだろう?」
会談室で語り出したエドワードの話しに、八雲は一瞬考えたあとで、
「俺もそれでかまわないと思う。突然皇帝だとか言われても庶民だって戸惑うだろうし、だったら先に道を整備して警備府を立てて、やることやって既成事実を作ってから話を切り出した方が民も受け入れ易いだろうし」
「その例えがなんとなく寒気のする例えだが、我もその方がわかりやすいとは思うぞ」
やることやって既成事実の例えに少し引っ掛かったノワールさんだが、そこで全員の意見は一致した。
ヴァレリアとシャルロットには後日黒龍城の石窯でピッツァをご馳走する日を約束して、ようやく八雲は懐かしの黒龍城へと船を向けるのだった―――
―――そして黒龍城。
ディオネにその監督を任せて八雲はここ暫くの忙しく駆け回った日々を思い出して、また明日からは道の整備に入らなければと考えていた。
クレーブスは今後の警備府の配置から想定される新たな野盗達の被害が増えそうなところがないか検討に入るため自室へと戻り、葵もその検討に参加したいと勉強がてらついて行った。
そしてノワールは自室でやることがあるとジュディとジェナを連れて戻っていったが、それが八雲に隠れて行っているふたりの特訓だとは八雲が知る由もない。
そうしてひとり、部屋にいる八雲の自室にノックの音が響く。
「―――開いてるよ」
返事した八雲の前に現れたのはアリエス、レオ、リブラだった。
「三人揃ってどうしたんだ?」
何か約束でもしたかと思い返す八雲だったが、これといったことは思い当たらない。
そんな八雲にアリエス達は静かに近づくと、やがてアリエスが―――
「八雲様、アクアーリオとフィッツェだけ、ご褒美を与えるのですか?/////」
と顔を赤らめて言うと、後ろのレオは期待の籠った笑顔を、リブラはアリエスと同じく顔を赤らめていた。
その様子に察した八雲は、ソファーから立ち上がると、
「そうだな。皆も手伝ってくれたからな。だったら、全員にお礼をしなくちゃ筋が通らないよな?」
八雲は三人にそう伝えると、途端に三人の表情が蕩け始めていく。
「それじゃ、ベッドに行こうか―――」
「はい♡ 八雲様/////」
三人は導かれるままに、寝室のベッドへと向かうのだった……
―――そして翌日の朝、
八雲は黒龍城の門前で
エアライドにはあの魔術術式ローラーを取り付け、
一台目の黒戦車にはアリエスとコゼロークが、二台目の黒戦車にはレオとリブラが乗っていた。
「よし!俺とノワールはティーグルからエーグルに向かって道を整備してその後、エーグルからエレファンの道を担当する。アリエスとコゼロークはティーグルからエレファンの道を整備して、エレファンからリオンに向かう道の分岐点までを担当してくれ。レオとリブラは戻ることになって悪いがティーグルからリオンまでの道を頼む……それと―――」
「ミネアのお店の状況を確認してくればよろしいのですね?」
八雲の考えを察したレオが先に答えると、八雲はやられたなと思いながらも、
「ああ、頼む。一応二日目からはカタリーナが飲食店経験のある従業員を応援に出していると聞いたけど、ちゃんと回っているか確認しておいてくれ」
と確認事項を伝える。
初日は八雲達が総出で対応したから多少のことは何とでもなっていたが、あれほど派手な広告を打ち上げて二日目が無事とは思えなかった八雲はそれが心残りだった。
ならば八雲が出張っていけばいいのだがエーグルもまた皇帝が暗殺により崩御されて、今どうなっているのかが気になっているのも正直な気持ちだった。
「お任せください。何かあれば『伝心』でお伝え致します」
レオの言葉に頷いて、八雲は号令を掛ける―――
「それじゃあ出発だ!」
ここから『シュヴァルツ皇国』としての発展が開始されることとなる。
そして新たな展開へと続いていく―――