―――唇を優しくなぞるようにしながら自分の唇を動かす八雲。
「あ…んん……はぁ……ちゅ/////」
それから暫くは潤いのある唇を楽しんでいた八雲だったが漸くそれを離して、
「寝室に行こう」
「……はい/////」
少し照れながらコクリと頷いたクレーブスの手を引いて、本棚を設置した部屋の隣に造った寝室に入る―――
部屋に入ると、八雲はクレーブスの後ろに回って白衣を脱がせて、その下から抜群のプロポーションを隠した黒いメイド服が出てくる。
白衣を床に落とすと、そのまま後ろからクレーブスの胸に両手を回して鷲掴みにした。
「あ!…うん……あん、八雲…様/////」
グニグニと弾力のある胸を左右上下にゆっくりと動かすと、それに合わせてクレーブスの熱い吐息が聞こえてきた。
「あ…んん……あん……はぁあ/////」
顔を紅潮させているクレーブスを横目に、八雲はメイド服の上着のボタンをひとつずつ外していく―――
するとその下から、紫色をしたレースが施されたブラジャーが顔を出した。
そのブラをゆっくり上に捲り上げると、大きくて形の良い胸がボロンと飛び出す―――
「ああ、こんな恥ずかしいという感情……感じたことありません/////」
他人の前でおっぱいをモロ出しにされる経験などもちろんしたことのないクレーブスは、ただされるが儘にして顔を羞恥で歪ませていた。
寝室のベッドの上には、紫色の下着だけを纏ったクレーブスが横になっている。
―――そこから八雲とクレーブスは、
ひとつになってお互いの存在を確かめ合うように何度も交わっていく―――
―――30分後
―――2時間後
―――朦朧とした意識の中で刻まれた『龍紋』……
嬉しそうに笑顔を浮かべたクレーブスに優しくキスをして八雲は夜会まで少し眠ることにした―――
―――そこからまた暫くしてアサド評議会議事堂の広間では、
八雲とその腕にエスコートされた黒いドレスに黄金のアクセサリーを鏤めたノワールが入場し、続いてティーグルの王族の面々が入場すると会場で待っていた商業国家リオンの評議員達や今回の夜会に招待された大商人達が拍手で出迎えた。
おのおのが簡単な挨拶の言葉を述べて、八雲も今回の話しの中核となる道の整備についてと関税の撤廃について語った。
波のように押し寄せる商人達の挨拶をそれなりに受け流しながら、漸く一息入れる八雲に蒼いドレスを身に纏い黄金とシルバーのアクセサリーを鏤めたカタリーナが傍へとやって来た。
「―――お疲れ様です。黒帝陛下」
「ああ、ドレス姿も似合うなぁカタリーナは」
「エッ!あ、ありがとうございます♪ 皆の質問攻めは大変だったでしょう?/////」
そう言って手に持っていたグラスの酒を八雲に渡す。
この世界の成人は十六歳であり、飲酒はそれに準じて許されている。
「まあ予想通り質問は
「ウフフッ♪さすがですわね。あの……黒帝陛下/////」
「ん?どうしたんだ?」
「無理を承知でお願い致しますが、明日一日わたくしにお付き合い頂けませんでしょうか?/////」
顔を赤らめてそう伝えるカタリーナは今まで男に興味を持たなかった分、こうして自分から男性を誘うようなことは初体験なのだ。
「今日で方針は話も終わったし、明日はリオンの街を歩いてみたかったから、案内頼んでもいいか?」
本当にその予定だったので八雲の言葉に嘘はない。
その返事にカタリーナの顔は一気に破顔して満面の笑みが浮かんでいた。
「お任せくださいませ♪ このカタリーナ=ロッシ!しっかりと黒帝陛下をエスコート致しますわ!」
「ああ、楽しみにしてるよ」
八雲の言葉にカタリーナはこの後ずっとニコニコ笑顔で夜会を過ごすほど喜びに包まれていた―――
―――夜会を終えた翌日の朝
晴天に恵まれた商業国家リオンだった。
アサド評議会議事堂の正面で待ち合わせをした八雲は敷地内に入って目の前に止まった馬車を見ていると、
「―――お待たせ致しました。黒帝陛下/////」
馬車の中から、白いブラウスの首元には赤いリボンを結び、その上からピンク色のカーディガンを羽織って短めの水色と白と黒のチェック柄をしたミニスカートを履いたカタリーナが降りてきた。
「いや、いま来たところ」
デートの待ち合わせで遅れてきた彼女に男が言うテンプレみたいな台詞で応えた八雲だったが、その言葉を聴いても顔を赤らめてニコニコしているカタリーナは八雲の目から見ても正直に言って可愛い女の子だった。
「では、参りましょうか♪」
そう言って自らの馬車を指差すカタリーナだったが八雲は一瞬考えて、
「どうせ移動するなら面白い乗り物に乗りたくないか?」
「エッ?……」
少し驚いたカタリーナに八雲は笑みを浮かべた―――
「―――キャアア~♪ 凄いですわ!アハハッ♪」
街中を馬車より少し早いくらいで疾走するのは、
「落ちないようにシッカリ掴まっていてくれよ」
ハンドルを握る八雲の腰に掴まりペダルのところにあるステップに足を置いて横向きに座るカタリーナは、まるで子供のようにはしゃいでいる。
商業国家というだけあって大通りには大小様々な店舗が並び、商品を扱う店や飲食店その他にも衣服を売っている店や化粧品の店もあって八雲が今まで見てきたティーグルやエーグル、エレファンと比較しても商業の発展が著しい国だ。
そんな大通りを進む際には少しスピードを落として、カタリーナに通り沿いに見える店舗のことを紹介してもらったり、その店舗がどのくらいのチェーン店を出しているのか教えてもらったりと自分のブランドとライバル関係にある店舗でも相手の良いところは素直に褒めて、それでも負けないように闘志を燃やす姿勢は八雲には眩しく思えた。
しかし大通り側では見たこともない宙に浮いた乗り物に乗った若いカップルが楽しそうに疾走しているのだ。
「―――ありゃ一体!?誰があんな凄い物造ったんだ!?」
「―――あれ浮いてるの!?やだ!スゴイ!私も乗ってみたいわぁ♡」
「―――あれは魔術式?だとするとあの乗り物も魔術で浮いているのか!」
「―――あの男性、けっこうカッコよくない?黒髪に黒い瞳って東の大陸出身かしら?」
「―――え?あの女性って……もしかしてロッシ商会のカタリーナさんじゃ!?」
「―――ホントだわ!ということはあれってロッシ商会の新商品なの!?大変!うちの人に知らせないと!!」
段々と騒ぎが大きくなってきているが、そこはスルーするのが八雲クオリティーだった。
カタリーナも商売上自分のブランドの売り込みや何やで人の目に晒される舞台も慣れているので、この程度の好奇の目はどこ吹く風だ。
大通りは議事堂を中心にして東西南北にあるので、カタリーナの案内で彼方此方を見て回っていたが次第に八雲はお腹が減って来ていた。
「そろそろ昼飯にしないか?」
「あ、はい♪ でしたら、わたくしのお勧めのお店にご案内しても宜しいでしょうか?」
「ああ、任せるよ。それとカタリーナ。街中で陛下はやめてくれ。八雲でいいから」
「エ?あ……は、はい!で、では……八雲様、と/////」
少し頬を紅潮させたカタリーナの案内で
決して目立つ店といった派手な造りではないが、そこが逆に老舗感があって知る人ぞ知るといった雰囲気を漂わせている。
赤やオレンジ色のレンガ造りの明るい外装をしていて三階建てのしっかりした造りで、窓から見ても店内は広い印象を受ける。
看板には『リオン料理・ミネア』と書かれていて、食欲をそそる美味しそうな匂いも漂ってきていた。
「へぇ……」
「あの、このような庶民的なお店はお気に召しませんか?」
少し自信なさ気に聞いてくるカタリーナに八雲は少し微笑んで、
「いや、いい雰囲気だなって思っていただけだ。それに連れてきてくれたってことは美味しいってことだろ?」
「はい♪ 味の方は保証致しますわ!さあ、こちらへ」
そう言って店の入口へと促すカタリーナに八雲は従って足を進めた―――
「―――いらっしゃいませ♪ あら、カタリーナちゃん!いらっしゃい♪」
「こんにちわソフィーさん。お昼を頂きに参りました」
ソフィーと呼ばれた女性は八雲やカタリーナよりも少しだけ年上に見える亜麻色のセミロングの髪を後ろでひとつに纏めた美人だった。
八雲と目が合うとニコリと微笑みカタリーナに向き直ると―――
「あのカタリーナちゃんが男の子連れて来るなんてねぇ♪ どういう風の吹き回し?」
「ちょ、ちょっとソフィーさん?!な、何を言いますの!此方の方はその様な方では/////」
「はいはい♪ そういうことにしておくわ♪ あ、食事だったわね!お好きな席にどうぞ」
広めのホールにはテーブル席が十個ほど並び、それとは別に団体用なのか大きなテーブルがふたつ奥に置いてあった。
「あちらの席に参りましょう」
知っているカタリーナが手頃な窓際の席を差して八雲もそれに従って進む。
するとメニューを持った女の子が八雲達の席に近づいてきて、
「いらっしゃいませ!―――カタリーナ先輩」
元気に挨拶してくる女の子はカタリーナと八雲に満面の笑みを浮かべる。
「ごきげんよう、サリーさん」
サリーと呼ばれた女の子は先ほどのソフィーとよく似た顔で亜麻色のロングヘア―をしている美少女だった。
「八雲様、こちらは私と同じ『聖ミニオン女学院』の一回生であるサリー=ミネアさんですわ」
「サリー=ミネアです!よろしくお願いします」
「俺は九頭竜八雲だ。よろしく」
「さきほどのソフィーさんと彼女は姉妹なんですの」
「なるほど。よく似ているな。ふたりとも美人だ」
「そ、そんな、あ、ありがとうございます/////」
八雲に正面切って美少女と言われて面食らって照れるサリーは赤面していた。
「サリーさん、メニューが決まったら呼びますわ」
「あ、はい♪ ごゆっくり!」
そういってサリーは厨房に戻っていく。
「あのふたりは……わたくしと血のつながった姉妹ですの」
「……はぁ?……それって……」
「あのふたりの母親はわたくしの父の愛人でした。ですからふたりはわたくしと異母姉妹なのです」
「……そうか。そのこと、ふたりは知ってるのか?」
「……はい。それでもこうして仲良くしてくれています」
八雲は両親を喪ったとはいえ、そういった複雑な家庭環境ではなく、ごく一般的な家庭で育っていたので話を聴いてどう反応すればいいのか内心戸惑っていた。
「あのふたりの母は病気で二年前に亡くなりました。それからは姉のソフィーさんがサリーの面倒を見ながら、母親の店を引き継いだのです。父が援助を申し出たのですが、ふたりはそれを固辞しました。このお店ひとつ自分達でやっていけないようではダメだと言って……」
「そうか。立派なことだと思うよ。自立心がしっかりしているんだな」
「ええ……ですが、このお店はそれほど上手くいっていません。味は身内贔屓無しで、とても美味しいのですが上手くいかないのです」
「まずは立地だな。ここは大通りから脇道に入って目立たない。味が良くても新規顧客が集まらなければ、いずれは落ちていく。流行り廃りは世の常だろ」
八雲の指摘にカタリーナは苦笑いを浮かべる。
「八雲様のおっしゃる通りですわ。ですがわたくしが直接手を貸すことをふたりは良しとしません」
そう言って俯くカタリーナの様子に八雲もまだいい案が浮かばないので、手元に置かれたメニューに手を伸ばした。
「……」
無言でパラパラとメニューに一通り目を通して―――
「リオン料理って魚介料理がそうなのか?」
「え?はい、そうですわ。リオンは海に面しておりますから、この国の代表的な料理といえば海に関係した料理となりますわ」
「ダメだな」
「え?―――まだ食べてすらいないのに!一体どういうことですの!!」
料理を食べてもいない八雲にいきなりダメ出しをされて、カタリーナは思わずその場で立ち上がり上から八雲を睨みつけていた。
「ああ、すまん。言い方が悪かったな。料理がダメだって意味じゃないんだ」
一から説明するとカタリーナに着席を促す。
「地元の料理に誇りを持って商売するのは悪いことじゃない―――だけどカタリーナ。この首都レオーネにリオン料理を出す店が一体何軒あるんだ?」
「それは……」
八雲はそこでテーブルの上に
「この店も入れて1235軒だ。しかもこの店の位置は議事堂から見ても北側の大通り沿いから更に曲がった奥にあって、西側の海に向かう通り沿いにあるリオン料理の店と比較しても、旅人や観光客に目立つ要因がない。それがダメだって言ったんだ」
始めは浮かび上がった地図に驚いていたカタリーナだったが、八雲の話しにすぐ顔色が変わり真剣に地図を見つめていた。
「ですが西側の土地も貸店舗も値段が段違いに高いのです。だとしたら八雲様……八雲様ならこの店を流行らせるとしたら、どうなさいますの?」
「ひとつ訊いておくカタリーナ。それは自分自身のためか?それとも家族のためか?」
鋭い眼差しに変わった八雲の視線にカタリーナは一瞬ゾクッとした感覚が背筋を走る……
しかし―――
「―――わたくしの家族のためですわ。大切な姉妹のためです」
「だそうだが、おふたりさん」
「エッ?」
八雲の言葉に振り返ると、そこにはソフィーとサリーが黙って立っていた。
「カタリーナちゃん……」
「カタリーナ……姉さん……」
「サリー、貴女……」
ふたりと見つめ合うカタリーナと姉と呼んだサリーの言葉で八雲も漸く腰を上げて、
「それを聴いて安心した。それじゃあ、作戦会議といこうか」
そうして三人を奥に促して、これからの『リオン料理ミネア』の営業戦略を開始することになった―――
―――ソフィーにいって今日は店を閉店させた八雲。
「ふたりもさっきの地図を見て、俺の話しを聴いていたな?何か言いたいことはあるか?」
八雲の言葉にソフィーは首を横に振って、
「いいえ。君の言う通りよ。うちは昔馴染みのお客様に支えられているような状況で食べていくなら何とかなるけど、これからもサリーには学院で学んで欲しいし、それには学費も掛かる。今の状況に甘んじていたら続かない」
「だったら私が学院を退学して―――」
「―――それはダメ!!」
ソフィーとカタリーナが同時に叫んで顔を見合わせた。
「まあ事情は大体分かった。元々の料理を全部やめようって訳じゃない。新メニューを加えながら、それをメニューの主軸にしていこうって話だ」
「ですが、そんな簡単に新メニューなんて……しかもお店の武器になるような料理なんてすぐに出来ませんわ」
カタリーナの言葉は尤もな話である。
「だから今回は―――俺の料理を出す」
「八雲様の!?って、八雲様お料理が出来ますの?」
「ああ、俺は両親が早くに死んでから祖父母の家で家事をやっていたからな」
「あ、わたくし知らなくて……申し訳ございません……」
「そんな気にしなくていいって。さあそれじゃあ材料を揃えよう」
八雲がソフィーに言って用意させたのは―――
強力粉
薄力粉
ドライイースト
砂糖
塩
オリーブオイル
水
それを纏めて生地にしたら、常温で休ませる。
「パンでも作るの?」
サリーの質問にニコッと笑顔を向けた八雲は、
「―――半分正解」
と答えて、次にトマトベースのソースを作る。
ニンニク
玉ねぎ
トマトを裏ごしした物
塩
胡椒
ワイン
始めにニンニクを炒めて次に刻んだ玉ねぎを入れ、そして裏ごししたトマトにワインを少し混ぜて塩胡椒で味を調えて煮込んでいく。
次に具材として―――
エビ
イカ
ホタテ貝
ソーセージ
ベーコン
ピーマン
マッシュルーム
色々と店にあった材料を使って輪切りなどにして刻む。
そうしている間に休ませた生地を器から取り出して、打ち粉した調理台で形を整えながら丸く平たく伸ばしていく。
薄い生地にまでしたところで、その上に作ったトマトソースを塗り込んで、その上にさきほどの刻んだ具材を並べる。
魚介とソーセージ、ベーコンといった肉を半々に持ったハーフタイプにした。
そしてソフィーに、
「―――グラタンに使うチーズある?」
「あ、はい!―――どうぞ」
呆気に取られて八雲の手際を見ていたソフィーがグラタンに使う蕩けるチーズを差し出すと、包丁で細かく切り刻んでたっぷりと上から降り掛ける。
「よし、次にこれに火を通すんだけど、ソフィーさん厨房のこのスペース使ってもいい?」
広めの厨房に何もないスペースがあったので八雲はそこを指差す。
「え?ええ。でも火を通すなら厨房の釜で―――」
「ああ、この料理は普通の釜じゃダメなんだ」
「エッ?」
「まぁ見ていて―――
「―――キャア?!なに?こ、これは?」
八雲の魔術により一瞬にして厨房の地面が盛り上がって高さ二mほどの四角いレンガ造りの壁が立ち上がり、その中ほどの高さに物を出入りさせる開口部が付いた箱が出来上がった。
「八雲様、これは一体何なのです?」
「これは―――『石窯』だ!」
「いし、がま?石で出来た釜ということですわよね?どうして態々それを造りましたの?」
「それは料理を作りながら説明するよ」
そう言うと八雲は石窯内部の下に描かれた火属性魔術の魔法陣で火を起こすと、石窯の中を高温に熱していく。
八雲のいた日本の石窯と違い、この世界での石窯は内部で起こした火属性魔術とレンガを作るのに使用した土属性魔術を調整して発生させた熱をすぐにレンガに蓄熱させることが出来る。
そして次に八雲は木で出来たボートのオールの様なピザピールを『収納』から取り出すと、ピザ生地を載せて既に蓄熱出来て火を止めた石窯の中に入れる。
―――この石窯は中がドーム状になっており、開口部は内部の高さのおよそ三分の二に納めるのが石窯の性能を発揮する比率と言われている。
そしてこの石窯の高性能なところは薪を使って蓄熱するわけではないので煙突が不要なのである。
それはつまり余計な熱の放射口がないことで100%内部の熱が利用出来るという利点がある。
そんな説明をしている間に、石窯の中で完成した料理を取り出し切り分けると―――
「完成!!」
八雲が叫び、カタリーナ、ソフィー、サリーの三人は拍手を贈っていた。
パリッと焼けた薄い生地の上に塗られたトマトソースに、先ほどの魚介とソーセージなどをトッピングし、最後に降り掛けたチーズが今もまだトロリと蕩けてチーズの良い香りが鼻孔を刺激してくる。
「―――八雲様、このお料理の名前は何といいますの?」
「これこそは―――『ピッツァ』だ!!」
「ぴっつあ?聞いたことありませんわね?ソフィーさん達は?」
「私も聞いたことないわ」
「私もない……でも、美味しそう♪」
サリーは早くも涎を出しそうな顔でピッツァを見つめている。
聴いたことがないのは当然だ。
作る前に八雲は『思考加速』の中で様々な料理を『索敵』スキルで検索したが、この街にピザ、ピッツァに当たる料理は検索されなかったからだ。
「熱いうちが美味しいから、こうして手で取って―――」
そう言って八雲が放射状に切られた一欠けらを持ち上げると、蕩けたチーズがどこまでもトロリと伸びる。
「うわあ~♪」
楽しそうに見ていた三人も、それぞれ手に取って試食に入る。
「頂きます!」
パクリ!と頬張った八雲の口の中はチーズの熱とトマトソースの酸味や玉ねぎの甘味など、風味豊かな味わいが広がり、その上に盛られたエビのプリプリした歯ごたえやソーセージなどから溢れる肉汁が合わさって最高の出来だった。
そしてその味に貢献したのがやはり石窯の存在だった。
「すごく美味しい~♪ こんなの食べたことない!」
「ホント!こんな料理初めて食べたけど、すごく美味しくて、それにこれは乗せる具によって幾つでもメニューが出来そう!」
「八雲様はスゴイですわ!こんなお料理と、調理器具まで造ってしまわれるなんて♡/////」
褒めちぎる三人に少し照れ臭くなった八雲だが、
「さて、ここからは広告宣伝だ!忙しくなるぞ!!」
「オオ―――ッ!!!」
―――これが後に商業国家リオンで『リオン名物』として名を残していく『ミネアピッツァ』誕生の瞬間であったことは、今の八雲は知らない。
新メニュー『ミネアピッツァ』の完成から、次は宣伝の準備を宣言する八雲だった―――