―――八雲の造った田畑用の区画はおよそ二百面の数に上った。
荒野だった土地が今では水路によって二百の区画に区切られ、その水路にはまだ貯水池に水が溜まり切っていないので水は流れていないが、このまま貯水池を貯めておけば水も入るだろう―――
八雲は更にその水路から流れ込むだろう水の出口として別の小川の近くにもうひとつの貯水池を造り、そこから小川に排水出来るように整えた。
「ここから後はエレファンで頼むよ」
八雲が作業に着いて来ていた国王のエミリオにそう伝えると、エミリオも喜んで頷いた。
そして今日は八雲が
「さて、それじゃ
レアオン城のバルコニー近くに浮遊していた
「―――それじゃ明日の朝に!」
シュバッ!と右手を上げて言い放つと、そのまま飛び上がって
「―――八雲は忙しいようだから、今日はこっちの城で世話になるが構わないか?」
置いていかれたノワールとジュディ、ジェナとアリエス始め
「勿論です!黒神龍様は我ら獣人にとって神に等しきお方です。どうぞ心ゆくまでお寛ぎください」
そう言ってエドワード達とともにノワール達を城内へと案内をするエミリオだった―――
―――
その
「八雲様!待ってたよ♪」
他にも
「―――入渠の船体固定急げ!!!」
「クレーンの作業は後だって言ってるだろぉお!!!まずは船体の固定だ!!!馬鹿野郎!!!」
あちこちからドワーフの喧騒が響き渡る中、シュティーアは八雲に寄り添ってくる。
「エヘヘ♪/////」
八雲と一夜を共にしてからシュティーアは奥手ながらも少しずつ積極的になってきていて、八雲もそこまで鈍感ではないのでそんな彼女の些細な変化に嬉しく思えた。
だからこそ男として彼女に試してみたいことがある。
それはカップルになった男女であれば、男であれば一度は試してみたくなること……
『どこまで彼女は許してくれるのか?』
―――という純粋な興味だ。
勿論だが八雲も無理なお願いやシュティーアの嫌がるようなことをさせるつもりはない。
「シュティーア、
遠回しに今からしようと誘う八雲の言葉に―――
「……え!?―――あうう……えっと、は、はい/////」
―――小さく返事したシュティーアの手を取って、
手を引かれて赤い髪のポニテ―ルを揺らしながら着いて行くシュティーアを見て、周りのドワーフ達はすぐに察して皆がグッ!と親指を立てて見送っていた。
それを見て余計に顔を赤らめるシュティーアの様子に八雲は笑って足を早めていった―――
―――自室に造った浴室のシャワーの下で、シュティーアと抱き合いながらキスを繰り返して舌を絡める八雲。
部屋に入るとすぐに八雲は一緒に風呂に入ろうと誘って、シュティーアも顔を赤くしたままついてきた。
そしてボイラー設備を、火属性魔術を付与して『創造』して水属性魔術の水を熱してシャワーと湯船にお湯を供給する設備を整えている浴場は、
その温かいシャワーを浴びながら、
「うん……はあ……ちゅう……ん……/////」
夢中で舌を絡めてくるシュティーアが愛しくなって背中と尻に腕を回して抱き寄せ、同時に八雲は自身の胸板に柔らかい二つの塊が押しつけられていた。
「ん……それじゃシュティーア、俺のメンテナンス始めてくれ」
唇を離してそう言われたシュティーアはコクリと頷いてその場に跪く。
見つめるシュティーアの頭に、八雲がそっと手を置くとシュティーアはハッとして、
「あ、はい!すぐにメンテナンスします/////」
あくまでメンテナンスというスタンスは変えない八雲に、シュティーアも―――
後ろを向いて浴室の壁に手を着くと、クイッと腰を突き出して形のいい尻を向けると―――
「こっちで……本格的にメンテナンスしてみないと/////」
―――今までになかった妖艶な瞳を八雲に向ける。
「それじゃあ―――しっかりと診てもらわないとな!」
そう言って全身隈なくメンテナンスに耽る八雲とシュティーアだった……
―――そして一頻りメンテナンスという名の情事を終えた八雲とシュティーア。
空間船渠の中ではドワーフ達に指揮を出すディオネの姿があった。
「マスター、何処に行っていたのです?」
知ってか知らずか無表情で八雲に問い掛けるディオネに八雲は苦笑いを浮かべながらも
「―――シュティーアとちょっとな!」
と、無難な答えを返したつもりだったが、
「なるほど。シュティーアと交尾していて作業が遅れたと」
そのディオネの言葉に八雲は思わず―――ブゥッ!と吹き出す。
「もう少しオブラートに包めよ!ストレート過ぎるだろっ!!」
まるで動物のような扱いをするディオネに思わずツッコミを入れる八雲。
「オブラートとは、マスターの記憶にあるところの―――ばれいしょでん粉や、かんしょでん粉を主原料とする薬を飲む際に包み込む物だな。人間は会話をそんな物に包み込む魔術が使えるのか?」
「それはただの例えだ!あまり直接的に言わないのが人間の配慮や奥ゆかしさって話!」
八雲の説教に首を傾げてから、
「なるほど。次回からは善処しよう」
と、また無表情に答えるディオネを見て、八雲は言っても無駄なんだと悟る。
「それ絶対善処しないやつ……お前ホントに俺の人格が根本にあるんだな……」
すると、ディオネが当たり前のように答える。
「―――貴方が私を生み出したのだ。その私が貴方に性格が似ているのは当然だろう」
何を当たり前のことを言っているんだ?と言わんばかりの表情で告げる。
「もういいよ……それで?作業の方は進んでいるのか?」
そう言って
「ああ、至って順調だぞ。何ならもう一度シュティーアと連結してきてはどうか?」
「機械的になってるけど、言ってること全く包めてないからな!」
自らが生み出した
完成したてだった
しかし、必要な資材と人材(ドワーフ)達は一緒に積んできているので、この
ドックの中を今も彼方此方でドワーフ達が大声で叫びながら作業は進む。
身形を整え直したシュティーアもまたドワーフ達に混ざって作業に入る。
時折シュティーアを揶揄ったであろうドワーフ達が何人も吹き飛ばされて気絶しているのが目に入るが、八雲はそれも日常風景といった風に最早気にもとめていない。
「マスター。こちらの魔法陣と魔術回路の接続を確認してみてほしい」
「どこだ?ああ、此処か。此処は―――」
ディオネから確認を求められる箇所を何カ所も巡りながら、八雲は天翔船の新たな姿に期待と皆の驚く表情を思い浮かべて笑みが込み上げるのだった―――
―――翌日の朝、八雲がレアオン城に姿を見せる。
「おはよう八雲。船のメンテナンスとやらは終わったのか?」
「―――おはようノワール。ああ、ここまでの飛行で問題がなかったかのチェックだよ。特に問題はなかったけど、クレーブスに教えてもらった各種魔術用の魔法陣や紋様でお色直ししたのさ」
「んん?お色直しだと?それは―――」
ノワールが丁度聴き返そうとしたときに、
「―――おはようございます黒帝陛下!」
エミリオ達エレファンの一団と、エドワード王達が一緒に城の前に集まって来た。
「おはよう。エレファンの皆には世話になったな」
「いえいえ!お世話になったのは我々の方です!」
恐縮した態度を取るエミリオに八雲は、
「これから『共和国』の一員として出来ることは支援するから頑張ってくれ」
「はい!この御恩は獣人族一同、決して忘れません!」
爽やかな笑顔で言い切るエミリオに八雲も笑顔で答える。
そしてエミリオの姉であるアンジェラ王女が歩み寄り、
「エミリオ、また暫くは会えないと思うけど、元気で。お父様のこと、お願いね」
「分かっております姉上。姉上もどうかお幸せに」
姉弟で別れの挨拶を済ませているのを見届けた八雲は、
「むうう?八雲!あれは!?」
「新しくマーキングを施した
八雲が言ったお色直しとは、その船体に様々な魔術術式が込められたマーキングを施された雄姿だった。
「認識阻害や対魔術攻撃の耐性や船内への衝撃緩和といった安全面の対策だ」
「クレーブスに教えてもらったのか。確かにあいつは魔術特化したヤツだからな」
その出來にノワールも満足そうな表情を浮かべ、他の者達は一晩で変わった巨大な船体を見上げて呆気に取られている。
「それじゃあ―――次は商業国家リオンに向けて出発だ!」
八雲はそう宣言してエレファン獣王国を後にするのだった。
次は一路、商業国家リオンへと向かう―――