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第69話 八雲訪問記・エレファン獣王国(4)

―――魔術飛行艇エア・ライドに跨り、後ろにノワールを乗せて荒野を疾走する八雲だったが、


「聞いていた通りエレファンの土地はかなり痩せているみたいだな……これだと農作物は厳しいだろう」


八雲のその呟きは後ろのノワールにも聞こえていて、


「昔からエレファンの地は限定的な作物しか育たん。その作物も国民にとっては十分とは言えん」


確かに首都レーヴェに接近するにつれて見えてくる畑には、今にも枯れてしまいそうな作物が土に刺さっているといった閑散とした状況にしか見えなかった。


「ノワール、ちょっと遠回りするぞ」


「ん?我は八雲と一緒なら、どこにでも行くぞ♪」


ご機嫌で豊満な胸を押し付けてくるノワールの感触を背中で、たぷん♪と感じながら八雲は首都レーヴェの周辺を探索するために街の外周へと魔術飛行艇エア・ライドを向けていった―――






―――その頃、黒翼シュヴァルツ・フリューゲルでは、


「エドワード陛下!義兄上、姉上!エアスト公爵もこの度は我が国の危急にご足労頂きまして、心より感謝致します」


エミリオの連れていた五百騎の騎士団をディオネはどうせ同じレーヴェに向かうのだし、ついでだからと言って乗船させたのだった。


もちろんそのことはマスターである八雲に『伝心』で断りを入れてある。


エミリオの言葉にエドワードが笑みを浮かべて、


「いや、今回の件はすべて黒帝殿の判断と行動によるものだ。現に我らは何も出来ずに此処で見ていただけだからな」


「我ながら情けないが親父殿の言う通り。すべては黒帝殿の助力あってのことだ。エミリオ陛下」


「義兄上、義弟に陛下などと言わないでください。公的な場所ではありませんから」


「まあ♪ あのエミリオも、そんなことが言えるようになったのね!」


「姉上!いつまでも子供扱いはおやめください」


顔を顰めながらも、すぐに笑顔となって姉弟の笑い声が艦橋に響いているところに、ディオネが出発に問題がないことを確認して黒翼シュヴァルツ・フリューゲルを発進させた―――






―――首都レーヴェの外周を走る八雲とノワールは土地の状況や地形について調べていた。


そんな時に丁度首都の北側に向かう途中から緑の草が増えだして、次第に木々も生い茂る場所に入っていった。


「ここだけはなんだか緑が多いな」


八雲の疑問に後ろからノワールが、


「おそらく水源が近くにあるのだろう。スンスン……水の臭いもするからな」


可愛い鼻で臭いを嗅ぐ仕草をするノワールが水源の話をしたので、八雲も周囲に注意して進むと木陰の間に陽の光を反射させる水面が見えた。


「川だ。ノワール、ちょっと行ってみよう」


「おお、かまわんぞ。どうせなら汗も埃も流したい」


ノワールの返事を聞いて魔術飛行艇エア・ライドを水源に向けた八雲―――


木々の間を抜けるとその先に広がってきたのは、


「おお!―――綺麗な川だなぁ!」


思った以上に川幅は広く、小さな滝のようになった三段の棚をゆっくりと流れ落ちる綺麗な水と、その水底は丸い砂利が敷き詰められたように揃っていて青い空と美しい川、透明で底に並ぶ玉砂利といった風景が広がっていた。


「八雲!―――水浴びしたい!」


その場で魔術飛行艇エア・ライドから飛び降りたノワールが懇願してくるので、


「俺も浴びようかな。気温もちょうど良いし」


既に太陽は天頂に昇り、気温は日本の初夏に近い陽気となっているので、八雲も汗と埃を川で流そうと考えた。


「―――フフン♪ フン♪ フンッ♪」


八雲の返事もまたないうちにノワールは服を脱ぎ捨てて魔術飛行艇エア・ライドの座席に掛けて置き、ぷりん♪ としたお尻を八雲に振りながら黒いTバックを下ろしていく―――


「おお……眼福」


その揺れる尻の谷間を後ろから眺めながら、八雲も次々に服を脱ぎ捨てていく―――


「先にいくぞ!八雲!」


全裸になったノワールがパシャ!パシャ!と玉砂利の敷き詰められている岸から川の中央に向かっていき、そして飛び込んでいくと水が大きく跳ね上がった。


「ぷはぁ~♪ ああ~気持ちいい♡」


川の中央辺りは腰の高さくらいまで深さがある所があるようで、そこで立ち上がったノワールは両手で身体を摩りながら次に黒く艶やかな長い髪を水で流している。


キラキラと反射する川面と褐色の肌に雫を伝わらせるノワールは、まるで一枚の絵画のように完成された芸術のようだった。


そんな全裸のノワールに見惚れていた八雲も―――


「―――ホイッ!」


服を脱ぎ終わって水に入った八雲は川の中程の深くなる所で水にバシャァン!と飛び込むと潜ってからノワールの前にバシャ!と浮かび上がって飛び出してくる。


「プハァ!―――すげぇ~気持ちいい!」


黒髪を後ろに流してオールバックになった八雲にノワールが全裸のまま飛びついてくる。


「うふふ♪ 八雲♡―――ちゅ……ん、んう……/////」


「ちゅぷ……ん……くちゅ……」


ノワールから押しつけられた唇を貪るようにして可愛いその舌に自らの舌を絡ませると八雲の胸板に、むにゅり♪ と押し付けられた豊満な胸の感触とその先端あるコリッとした感触が伝わって八雲も興奮し始めていた。


そして―――


「―――フンッ!!」


―――自然と重なったふたりの身体がゆっくりとした動きから徐々に動きを速めていき、いつしか何かぶつかり合う音が川音の響く川の中で繰り返されてノワールの声が木霊していった―――






―――野外での熱い交わりが終わり、お互いに水で汗を流してから身嗜みを整えていくふたり。


そんな中で八雲はふとした疑問を思い浮かべていた。


何故これほどの水源になる美しい川があるのに、レーヴェの傍にまで水を引かないのか?と。


川の周辺には充分な草や木が生い茂っており、この水を痩せた土地まで引くだけでも随分と事情が変わってくるのではないか?と思っていた。


だが、そのあたりの疑問は城でエミリオかレオンにでも尋ねれば分かるだろうと一旦置いておき、八雲は魔術飛行艇エア・ライドに飛び乗る。


「そろそろ城に行こうノワール!」


「―――ああ!そうだな♪」


八雲と川でイチャイチャ♡ できたノワールもご機嫌で魔術飛行艇エア・ライドの八雲の後ろに飛び乗ってくる。


「それじゃあ少し飛ばすぞ!」


そう言って魔力を込め、浮き上がった魔術飛行艇エア・ライドは、瞬間的に時速百km/hを越えるスピードに到達して、周りの景色もグングン後ろへ流れていく。


「ヒャッハアアア―――ッ!!!」


まるでバイクに乗ったモヒカンや入れ墨の筋肉マッチョな男達が叫びそうな声を上げてノワールがはしゃいでいるのを見て、八雲は笑みを浮かべながら一路首都レーヴェへと向かって速度を上げていった―――






―――城に着く頃には少し西に太陽が傾き出していたが、まだ外は明るい時間だった。


「黒帝陛下!遅かったので心配致しました」


玉座の間ではなく会談に使うような、それでいて寛げるソファーやテーブルなども置かれた部屋に案内された八雲とノワール。


そこには既にエドワード王、レオン先代王、アルフォンス王子、エアスト侯爵、それにアンジェラとヴァレリア、シャルロットも揃っている。


「すまない。ちょっと首都の周りを見て回ってたんだ。それで俺が黒帝の話を承諾したことはもう聞いたと思うけど?」


「はい、そのことは真っ先にエドワード王からお伺い致しました」


エミリオの返事に八雲は頷き返して、


「それならそのことはもういいな。だったら俺からエレファンについて訊きたいことと、提案があるんだが俺はこの土地に詳しい訳じゃないんで皆の意見を聴きたいんだけど、いいかな?」


「早速エレファンの為になりそうな事でも思い浮かびましたか黒帝殿」


エドワードが先のエーグルでのことを踏まえて声を掛ける。


「それはこれからの話し次第かな」


そう答える八雲に、エミリオの瞳は輝いていた。


「おお!早速そのようなお話が伺えるとは!しばしお待ち頂けますか?我が国の文官も同席させたいのですが?」


「その方がこっちも聴きたいことが聴けそうだし、別にかまわないけど」


その言葉に、従者に命じてすぐに十人ほど文官がこの場に呼付けられていた―――






「―――改めまして九頭竜八雲です。一応黒帝と呼ばれる立場です。今後宜しくお願いします」


まずは集まった文官も含めて、改めて挨拶をする八雲だったがすぐに次の話題に移る。


「それで、エーグルでの件はどこまで聞いた?」


まず話の始めに八雲がエミリオに問い掛ける。


「……フレデリック陛下の件と……その首謀者の話しを、それと次期皇帝は皇女殿下のフレデリカ皇女がお継ぎになることを」


「そうか、それで道の話しは聞いた?」


「はい。その件で黒帝陛下には我が国も道を築くことについて、ご相談しようかと―――」


「―――ああ、それは大丈夫。ちゃんと考えてるから」


八雲のその言葉にエミリオは笑みが零れて、それを見た八雲は、


(感情が丸出しの表情になるエミリオはまだ交渉事には向いていないな)


と心の中で思ったが、それはエミリオの隣りで見ていたレオンも同じようで八雲と目が合うと黙って頭を下げた。


「その話しとは別にして、さっき周りを見てきた際に三段の小さな滝がある幅の広い綺麗な川を見たんだけど、あの川から水を引いたりはしてないのか?」


八雲は訊きたかった事柄を尋ねるとエミリオは難しい顔をして、


「その件は今まで何度も話し合って実行したこともあるにはあるのですが……」


「―――何か問題でも?」


そこでエミリオの呼んだ文官のひとりである中年の獣人が説明を始める。


「あの川は普段は大人しく美しい川なのですが、雨期に入って氾濫を起こすと手がつけられない状態となるのです。そのため、用水工事を行っても雨季がくるたびに流されてしまい、遅々として進まないのです……」


「なるほどなぁ。確かに普段普通の川も、一度氾濫すると雨が収まるまでは手がつけようないな……」


八雲は日本の川を思い浮かべるも、近代発展した日本ですら大雨の際には川の氾濫を防げないでいるのが実情だ。


それが中世レベルの文明であるこの異世界で求めるには、余りに無謀としか言いようがない。


だが八雲が今日見た川は古代メソポタミアやエジプトや中国で大河の流れに逆らうようなレベルの治水ではない。


少なくともあの水源を有効活用する方法があるのではないか?と八雲は知恵を振り絞ると、


「あ、クレーブスに訊いてみよう!クレーブスの知識と俺の知識を合わせれば少なくとも水源は確保できるかも」


という結論に至り八雲は急ぎ『伝心』でクレーブスを呼び出す。


【クレーブス!重要な要件があるんだ。今すぐ黒翼シュヴァルツ・フリューゲルからこっちに来てくれ】


【八雲様?残念ながら私は今、自分の研究で忙しいのですが?何のご用でしょうか?】


すると少し不満そうなクレーブスの声が『伝心』を通して返ってくる。


【俺の知識とお前の知識を合わせて大工事しようかと思ったんだけど、無理なら別に―――】


【―――すぐに向かいます!何か必要な資料などございますか?】


八雲の知識と聞いて、クレーブスの返事が食い気味で返ってきた。


そこでクレーブスにエレファン獣王国の地形地質などの資料と川の治水工事関係の資料があれば持って来て欲しいと頼む。


「今うちの専門家を呼んだから、あの川からの水源確保を考えていこう」


そうエミリオとレオンに話すとふたりは驚いた顔をして、でもすぐに笑顔を溢れさせていく。


「この国は特に強くしておかないと共和国のバランスが崩れるからな」


その言葉の意味はレオンもエミリオもすぐに理解していた―――


『災禍』の戦後状況が一番厳しいことと、今後の政策次第でエレファン獣王国は厳しい時代を突き進むことは目に見えている。


八雲の考える『共和国』の体勢は、四カ国のパワーバランスが重要だった。


今一番弱っているエレファン獣王国こそ、この復興と共に強国化しておかなければ後々もしこの共和国という均衡が崩されたときに、この国がひとたまりもなく滅亡の道を辿ることを八雲は予想していたのだ。


だからこそ共和国の共存繁栄のためにも、この国のテコ入れには全力で臨むつもりの八雲だった―――



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