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第65話 八雲訪問記・エーグル帝国(3)

―――ベッドの上のノワールとシュティーアに両手を広げて、おいでと誘う八雲に慣れているノワールはすぐに寄って来て恥ずかしがるシュティーアは顔を真っ赤にしてオロオロしていた。


「おいでシュティーア」


「あ、あう、はい/////」


声を掛けられて少し落ち着いてきたシュティーアはゆっくりとノワール同様に八雲の胸元にやってきた―――


そんなふたりを八雲はそっと抱きしめて、綺麗で肌触り最高のその背中をゆっくりと撫でる。


「ムフウ~♡/////」


「はああ~♡/////」


まるで撫でられて安心した猫のようにふたりの顔は徐々に蕩けだし、いつの間にか八雲の胸板にふたりとも顔をくっつけてスリスリと頬を擦りつけている。


八雲は掌に『神の手』スキルをジワリと発動させて背中を撫でられても快感に繋がるようにしていたので、ふたりの顔が蕩けだすのも当然だった。


「シュティーア……こっち向いて」


「はう……はい……/////」


上目づかいで見上げるシュティーアの唇に、八雲の唇を重ねると―――


「はうん?!ん!……んちゅ……ん…ちゅ…」


始め驚いたシュティーアだったが赤い髪のポニーテールを振り乱して次第に唇を押し付けるように、次第に誘うような八雲の舌が唇に触れだすと、自分の舌を恐る恐る出してお互い絡め合いだす。


「んちゅ…れろ、ちゅ!…んちゅ…ちゅ/////」


もう完全にキスに夢中になっているシュティーアから、そっと唇を離すと名残惜しそうなキラキラとした橋がお互いの舌先に繋がっているのが目に映っていた。


「八雲……ちゅ♡」


ふたりが離れたのを見て、すぐに八雲の唇を奪うノワールに再び激しく舌を絡ませる八雲の姿を見て、


「あ……いいな……」


―――シュティーアは無意識にその言葉を口にしていた。


「んちゅ、ちゅ……ふふっ、心配するなシュティーア。まだまだこれからだぞ♪」


「ふえっ!?あ、その……はい、がんばります/////」


モヤモヤした気持ちを感じて無意識に言ってしまった言葉をノワールに聞かれて、また顔を赤くするシュティーアを、ノワールも八雲も内心―――


(―――何この子、可愛い!)


―――とふたり揃って考えていた。


そして八雲の眼は獲物を目の前にした獣のように変わっていた―――






―――八雲がノワール、シュティーアとお楽しみで『龍紋』を刻んでいた頃、


夜会がお開きになったあと少し時間を置いてフレデリカは、父であるフレデリック皇帝と今後についての話をするため父の書斎に向かっていた。


そして部屋の前に着き、ドアをノックするも中からはゴトッ!ドカッ!ガシャン!!―――と尋常ではない喧騒が聞こえてくる。


『貴様!!!やめろ!!!ギャアアア―――ッ!!!』


中からは大きな悲鳴が響き渡る!


「父上!どうされました!!!何事ですか!―――ッ?!」


ドアを開いて部屋に飛び込んだフレデリカの目にしたものは―――


全身黒ずくめの不審な侵入者が窓から飛び出すところと―――


その胸に短剣を突き立てられて鮮血を噴き出す―――フレデリック皇帝だった。


夜闇に続く開かれた窓から月明かりがぼんやりと照らす中、フレデリカは身動きできずに立ち尽くしていた……






―――空が白みだす頃までノワールとシュティーア相手の激しい行為に耽り、その朝は少し遅めに目が覚めた八雲とノワールが身嗜みを整えてティグリス城に向かうと城内は騒然としていた。


重臣達は青ざめていて騎士や皇族達も暗い顔をしている……


そこで城内で宿泊していたエドワード達に合流して何があったのか尋ねると―――


「―――エッ?」


―――信じられない言葉が返って来た。


昨夜、夜会のあとにフレデリック皇帝が暗殺されたと―――


「嘘だろ……」


―――そして、その犯人がフレデリカだということになっていて既に投獄されていると聴いて八雲は激しく動揺する。


話を聴いた八雲は努めて冷静に、そうしながらも内心では怒りと後悔とが渦巻いて激しく膨れ上がり、フレデリックの『国に誇りを持っている』と言ったあの笑顔がフラッシュバックのように浮かび上がってきた。


その怒りの矛先は当然フレデリカに向けているものではない―――


向かって行った玉座の間で幼き少年を玉座に座らせて、その横で歪んだ笑みを浮かべながら踏ん反り返っている金髪で派手な赤いドレスを纏った女―――ライネス=フラット公爵夫人に対してだった。


「―――此度のフレデリカ皇女の暴挙は妾も驚きと悲しみを隠せぬ。しかし……国政を投げ出して国民に不安を与えるのは上に立つ者として示しがつかぬ。故にフレデリック帝の忘れ形見にして我が子テスラーを皇帝位に就けて、これよりエーグル帝国の未来を担っていくこととなろう。皆もそのつもりで新たな皇帝に従うように」


玉座で高らかに宣言するライネス夫人に、同じ場にいる皇族達もエドワード王達も動揺している。


「エドワード陛下。此度の『共和国』への参入も一旦返事を待って頂き、まずは陛下の国葬を執り行ってから改めて貴国にお話させて頂きます」


「いや!それは……」


エドワードがそのライネスの発言に異を唱えようとするも国の皇帝を暗殺された直後のこの現状、周囲も嘆き悲しむ皇族で満たされていて強く言うのは難しい状況にあった。


ここまで黙っていた八雲は漸くここで口を開く。


「フレデリック帝には昨晩、国のためにと色々な考えをお聴きしてエーグルの素晴らしさも語り聴かせて頂いた御恩がある。そのような素晴らしい皇帝を弑逆した皇女を俺も許すことなど出来ない。よって我が手で処刑することをお許し願いたいが、どうでしょうか?」


急に八雲がそんなことを言い出したのでエドワード、アルフォンス、それにクリストフも驚いて八雲を見る。


朝、旅立つための挨拶に来たアンジェラ王女、ヴァレリア王女、シャルロットは八雲の言葉に不安を隠せないでいるようだった。


「噂の黒帝殿か……申し訳ないがフレデリカ皇女は皇帝であり父であるフレデリック様を弑逆した罪により投獄しておる。この国のことは、この国の法に則って裁きを下すこと。部外者は口を挟まないで頂こうか」


そう返したライネス夫人の言葉に―――


玉座の間に黒い稲妻が何本も八雲を中心に床を走り、そして八雲の周囲に雷が落ちて床を焦がしていた。


「ヒイィィ―――ッ?!」


突然のことに腰を抜かして後ろに倒れそうになるライネス夫人と玉座の間の皇族達……


「俺が『お願い』と言っている間にサッサと表にフレデリカを連れてこい……それとも、またあの『神の雷』を国ごと喰らってエーグル帝国を地図から完全に消したいか?」


そして尋常ではない『威圧』を玉座の間に振り撒きながら、怒りを露わにしてライネス夫人に言い渡す八雲。


周りのものは息をするのも必死だが、当然エドワード達は『威圧』から除外している。


周囲からは―――


「―――あの『災禍』で見た『神の雷』だぁああ!!」


―――という叫び声まで上がり出したことでライネスも目の前にいる青年にしか見えない『黒帝』がとんでもない存在だと、今ここで漸く理解した。


「ううう、わ、分かった!分かりました!―――だ、誰かぁあ!フレデリカを檻から出して中庭へ連れ出してきなさい!!」


「分かればいい……」


そう言って『威圧』を消したことでようやく他の者達も正常に息が出来るくらいになった。


八雲の異常さを知ったライネスだったが、それでも八雲の怒りはフレデリックを弑逆したフレデリカに向いていると、まだこの時は思っていた―――






―――ティグリス城にある中庭に移動した一同。


そこに手枷をハメられて鎖で身体を縛られたフレデリカが引き摺られるようにして連れて来られる。


その身体には痛々しい鞭で打たれたような生傷が刻まれ、昨日見たドレスは一晩でボロボロにされてしまっていた。


顔にも殴られた痕と思しき傷があって頬は腫れ上がり、目の周りも青く変色して昨晩の美しい姿は見る影もない。


あまりの痛々しい姿にアンジェラとヴァレリア、シャルロットも顔を手で覆って震えているくらいだった。


兵士に連れられてきたフレデリカは八雲の立つ場所から数mのところに跪かされた―――


「フレデリカ皇女殿下……昨日貴女がフレデリック陛下を弑逆したことに間違いないか?」


周囲が静まり返る中、八雲が静かに問い掛けると血を垂らして腫れ上がらせた顔を持ち上げてフレデリカは、傷ついた身体と額の傷から流れる血を庭の大地に滴らせながらも、


「……恐れ、ながら……黒帝陛下…わた…くしは……無実で…ございます……」


と、話すのも苦しい状況ながら、ゆっくりと途切れ途切れにそう返していた。


だが、そこでライネスが―――


「何をふざけたことを!!!お前が陛下を弑逆したことは明白!証拠も証人もいるのですから!」


―――と鋭い眼つきと醜く歪ませた顔で捲し立てる。


「証人?それは誰だ?」


八雲の冷たい視線で睨まれたライネスは一瞬ビクリと身体を振るわせるが―――


「陛下の書斎にお茶を持っていったメイドが見たのです!短剣を胸に突き立てられた陛下と、このフレデリカが部屋にいたのを!!!」


―――勢いでそう捲し立てるライネス。


「だ、そうだが?それについて言いたいことはあるか?フレデリカ皇女」


冷静に彼女に問い掛けるとフレデリカは―――


「わたくし…が……部屋に…向かった…際には……すでに……父上は…暗殺者に……胸を……」


―――振るえる声で見たままのことを八雲に伝える。


「その暗殺者はどうした?」


「……開いていた……窓から…クッ…逃亡……致しました……」


そこで痛みに耐え切れず、ガクリと身体を前に突っ伏する。


そこでライネスが畳み掛ける様にして捲し立てる―――


「そのような言い訳を!!!見苦しいわ!!皇族としての立場も顧みず、普段からおかしな言動や行動をしていたお前の言葉など誰が聴く耳を持とうか!!!」


「……義母上」


たとえ血は繋がらずとも父が妻にと向かえた女性ならば受け入れようと考えてきたフレデリカの気持ちはライネスの姿を見て、心の中で音を立てて崩れていく。


罵倒を浴びせるライネスにフレデリカは最早すべてを諦めたような瞳を向けていた。


「状況は分かった。だがそれでは直接手にかけたかどうかは、分からないということだな?だが、俺にはそんな証人も証言も関係ないけどな」


「―――エッ?」


そう言い放った八雲を見上げるフレデリカが声を上げると同時に八雲は『収納』から黒弓=暗影あんえいを取り出すと、周囲にいた皇族も衛兵達も何もないところから弓を出したことにザワめき注目する。


そして『災禍』の戦争に参加したものが―――


「あれは―――神の弓矢だぁあ!!」


―――と声を上げると、これが数万の兵士を葬った超兵器だという恐怖の認識が波のように人々へと伝わり広がっていく。


「この黒弓=暗影あんえいは神の力によって狙う者に必中する神の矢を撃つ!!!」


そう叫び、更に『収納』から一本の黒い矢を出して暗影に番えると―――天に向けて引き絞る。


天を向いた矢の鏃から黒い稲妻がバチバチと周囲に放電し始め、まるで神々しい力を見るかのように周囲が静まり返っていると―――




「―――皇帝の暗殺を画策した首謀者に、神罰を下す!!!」




弓矢が放たれ、シュバッ!と黒い稲妻を纏いながら空気を切り裂いて天高く飛翔していく矢の行く先を全員が天を仰いで見つめている―――


「―――あの矢は神の裁きとなって暗殺を画策した首謀者の頭を貫く!!!」


「な、なにをバカな?!首謀者は此処にいるフレデリカで―――!!」


「―――だったら、フレデリカの脳天が神の矢に貫かれるだけだ!!!」


「―――ッ?!」


半信半疑といったライネスがフレデリカを指差して叫ぶと被せる様にして八雲の言葉に遮られる。


『威圧』と共に言い放たれた八雲の声にライネスはその場で固まってしまう。


天を仰ぐ者の肉眼に空中で黒い稲妻を放電しながら落下してくる『神の矢』が近づいて来るのが捉えられる。


ライネスも見上げて、次第にその額に汗が浮かびだしていた。


フレデリカは地に跪いて瞳を閉じながら、まるで祈る様にして静かにその時を待っていた。


そして八雲が―――


「堕ちてくるぞ!!!さあ―――覚悟しろぉ!!!」


そう大声で言い放った瞬間、ライネスと目を合わせた八雲は光のない虚無の様な黒い瞳で睨みつけて、その鋭い視線で―――


『―――お前に堕ちるぞ』


―――という意志を『殺気』と共に伝える。


「ヒイイイイ―――ッ!!!やめてぇえ!!!」


極限の恐怖に陥ったライネスが頭を抱えて地面に這いつくばると同時に―――


ドシュ!!と雷を纏った矢が頭を抱えたまま這いつくばるライネスの目の前の地面に突き刺さった……


周囲の者達はフレデリカも含めて暗殺の憶えなど勿論ないので、自分自身に堕ちてくるなどと思ってはいない―――本物の首謀者を除いては。


八雲は跪くフレデリカに近づくと呆然とした表情で見上げてくるフレデリカの身体を拘束する手枷と鎖を『創造』の力で砂粒に変えてやり、その粒子はサラサラとフレデリカの身体から零れ落ちていく。


次に跪くフレデリカの頭に手を置いて、『回復』を発動すると未だに生傷から血が滲むフレデリカの身体が昨晩の綺麗な肌に戻っていく―――


―――ボロボロにされたドレスが開けていることを気にしてフレデリカがその身を抱くように身を竦めているのを見て、八雲は『収納』から白い布地を取り出しフレデリカに纏わせると『創造』で八雲の現代世界でいうウェディングドレス調の純白のドレスへと『創造』し作り変えた。


跪いたフレデリカの手を取り立ち上がらせると純白のドレスが広がって、その場で奇跡の行使を目の当りにした皇族達は思わず、


「おお……」


―――と見惚れた声を上げていた。


八雲から離れて、ひとりライネスの前に立つフレデリカを全員が見守っていると恐る恐るライネスがその顔を上げてフレデリカの変貌に驚きの眼差しを向ける。


「……義母上……これが、あなたのしたかったことですか?」


「……エッ?」


「父上を弑逆して貴方が成し得たかったことが、これですか?」


「……わ、妾はそんなこと―――ヒイイイ―――ッ!!!」


ライネスが言い訳を放とうとした瞬間、八雲の黒い稲妻が周囲でスパークして跳ねるとライネスは再び頭を抱えて蹲る。


「この国は神の裁きを信じない不信心な者を許す国なのか?だったら豊穣の神も天の神も、さぞお怒りだろうな」


周囲に聞こえるように八雲はそう言い放って再び稲妻を大地に迸らせると周囲の皇族達も衛兵もライネスをまるで親の仇を見るような目で睨みだす。


「神の怒りを買う者がエーグルの皇族にいるなど許されることでは断じてない!!!」


「その不信心者に裁きを!!!陛下の無念を晴らすべき!!!」


誰かが挙げた声から一瞬で周囲に伝播したライネスの悪行に対する罵詈雑言が城の庭を埋め尽くしていく……


「あ……ああ……」


少し前に玉座で国の頂点を極めたと笑みを浮かべていた女が、すぐに地に伏せて罵声を浴びせられるまでになる転落劇など八雲の手助けがなければ成し得ない力業であったが、周囲の殺気立った言葉にライネスは涙目になって顔が醜く歪んでいた。


そんなライネスにフレデリカの言葉が続く。


「これで、わたくしは弟を―――殺さなければならなくなりました」


フレデリカの言葉にライネスの顔が硬直する。


「あ、ああ、そんな―――どうして!!!」


縋るようにフレデリカに叫ぶライネスに、フレデリカは冷たく固まった表情で、


「……そうさせたのは義母上、あなたです」


その言葉を聞いたライネスは


「あ“、あ”あ“、あ”あ“」


と言葉にならない声を上げ、フレデリカは衛兵に目配せしてライネスを捕らえさせる。


「いや、そんな!ま、待ってフレデリカ!!!違うの!!あの子は何も知らないのよ!!!だから!だからお願いフレデリカ!!テスラーだけは!!!あの子だけは助けてあげてぇえ―――!!!」


捕縛されて城の方向に引き摺られるようにして連れて行かれるライネスの悲鳴が、すべての終わりを告げて皇帝を失ったティグリス城に響き渡っていった……






―――その後、


玉座に座っていたテスラー皇子は衛兵に連れられてその姿を消した。


「この度は義母の暴挙、暗殺を暴くことにご助力を賜りまして黒帝陛下には感謝の念が絶えません」


「いや……皇女殿下が直接俺に皇帝暗殺の疑いがあることを相談しに来てくれたのに、こんな結果になってしまってこちらこそすまない」


八雲の謝罪の言葉にフレデリカはゆっくりと首を横に振った。


「父のことは……残念ですが、あのままライネスに国をいいようにされた方が父も無念だったことでしょう。ですから黒帝陛下はどうかお気を病まずにいてくださいませ」


無理をして少し笑みを浮かべたその言葉に八雲の気持ちも簡単には重さが消えない。


「それで皇帝位はフレデリカ皇女殿下が継承するということで間違いないですかな?」


そこにエドワード王が皇帝位について話を切り出す。


「……はい。エドワード陛下の御心配は分かります。わたくしが『共和国』制についてどう考えているのか。それが御心配なのでしょう?」


「うむ、フレデリック皇帝のことは心からお悔やみを申し上げるがフレデリック皇帝自身も代替わりされたばかりのことで、さらに代替わりとなれば民心の不安を増長することとなろう。であればこそ我らは同じ共和国となる貴国を支えるのが使命と思っておる」


エドワードの話しを黙って聴いていたフレデリカはその意志を口にする―――


「エドワード陛下のお言葉、この未熟な身に余るほどの温情を賜りまして嬉しく思います。わたくしは父を尊敬しておりました。その父が英断した共和国への参加はわたくしに代わりましても、このまま進めることを決心しております。どうかこれからも宜しくお願い申し上げます」


自らの考えを述べて頭を下げるフレデリカにエドワードは笑顔で、


「元を辿れば同じ血脈に連なる我がティーグルとエーグルのこと。このエドワードが責任をもって貴国の支えとなること今この場でお約束しよう」


エドワードの言葉で締める様にその場での話し合いは終わり、八雲達は次の訪問先エレファン獣王国へと向かう準備に入る―――






―――ティグリス城に空中で停泊していた黒翼シュヴァルツ・フリューゲルに向かう八雲達を、バルコニーまで見送りに来たフレデリカは八雲に声を掛ける。


「―――このドレスは、お返ししないといけませんね」


「ん?―――ああ、別にいいよ。それはあげる」


「え?ですが、このような豪華なドレス……そもそもこのドレスは?」


スカートの裾を摘まんで軽くカーテシーのような恰好をしたフレデリカの纏うドレスは、細かいレースが重なり高級感のあるウェディングドレスになっている。


それについて八雲は―――


「ああ、それは俺の故郷で女性が着る結婚式用のドレスだよ。あの時はそれくらいしか思い浮かばなかったから」


―――と応えると八雲以外のノワール、ヴァレリア、シャルロットがビクリと反応した。


さらにエドワード王が―――


「花嫁衣裳を贈るとは―――黒帝殿はエーグルの風習をご存知だったか!」


―――と言い出した。


それに対して八雲は何のことだと返すと―――


「エーグルで殿方が意中の相手に花嫁衣裳を贈るのは、求婚の証しなのですわ/////」


―――とフレデリカが頬を赤らめて答えた。


「え、嘘、いや!それは―――」


「―――まさか次期女皇帝に求婚しておいて、いまさら間違いだったなどと純真な乙女心を裏切るような真似は男としてありますまいな?このエドワードが立会人となってこの婚姻、しかと進めてよろしいか?」


「―――はい♪/////」


「え?そこで即答?」


フレデリカの即答に思わず仰け反る八雲だったが、


「ひとり増えるくらいなんだ!!シッカリしろ!」


といつものようにノワールから背中を叩かれ、ヴァレリアとシャルロットは早速同じ立場同士だと言ってフレデリカに話しかけて笑い合っていた……


まずはフレデリックの国葬と皇帝位の即位が優先でということで話しをして、その後婚約ということでエドワードとエーグル皇族達との間で話も纏められた。




「それじゃあ、出発しようか!」




という八雲の言葉に全員が黒翼シュヴァルツ・フリューゲルに乗り込むと、ゆっくりと後退してティグリス城から離れていくその黒い天翔船を、フレデリカは見えなくなるまで見送っていたのだった。


そして舞台はエレファン獣王国へと移る―――



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