―――エーグル帝国と商業国家リオンの中枢が迷走・議論・暗躍している頃、
エレファン獣王国では八雲に譲渡された『災禍』の骸を持ち帰ってレオン王が帰国したが、強引な徴兵をされて働き手を一気に持ち去られた国民の怒りや不満が国中に満ち満ちていた―――
一歩間違えば反乱が起こってもおかしくはない状況だが、そこでレオン王は首都の広場で『災禍』の経緯を国民に演説で説明していった。
始めは野次や暴言が飛び交ったがレオンが事の経緯を初めから説明していくうちに、やがて静まり返って最後には『災禍』への恨みへと変わっていく。
実際に『災禍』の骸が広場に置かれていたことも国王の演説に現実味を持たせ、そして途中からは黒神龍の御子の参戦による圧倒的な戦況と『災禍』を討伐した説明へと移り、御子への『災禍』を討伐した尊敬と畏怖の感情が会場を染め上げていた―――
「今回の遠征によって国民に多大な悲しみと不安を与えた俺は―――王の座を降りる!即時退位する!」
―――そこまで話して突然飛び出したレオンの退位宣言に国民も重臣達も驚愕してしまう。
元々は獣人のために善政を敷いてきたレオンは人気の高い為政者であったため、ここにきて退位するという宣言に誰もが止めたい衝動に駆られたが今回の件に責任を取ることを誰も止めることも出来ない。
そして、この後にエレファン獣王国の新国王としてアンジェラ王女の弟にあたる王子エミリオ=天獅・ライオネルが国王に即位することとなる―――
―――そうした各国の動きから、早くも一週間が過ぎ去っていった頃、
ティーグル皇国のアークイラ城にはエドワードとアルフォンス、ゲオルクにクリストフと重臣達が玉座の間で一堂に会していた。
「―――以上のようにエレファン獣王国、エーグル帝国、商業国家リオンより我がティーグル皇国に対しての謝罪の書簡と、今回の賠償についての話し合いを行いたいと会談の申し出が届いております」
外交担当の重臣から各国の書簡と、それらの内容を纏めた報告書が読み上げられた。
「さて、陛下。これらの申し出に対して、どう対処致しますか?」
そこで真っ先に発言したのはエアスト公爵クリストフだった。
「伯父上!そのようなこと決まっているでしょう!我が国は薄汚い獣人と近隣の野心家達に母国を蹂躙されたのです!!なればこそ父上!!ここは多大な賠償!いやもはや我が国への属国化を言い渡しましょう!」
「ゲオルク!私は陛下にお伺いしているのだ。ここでの勝手な発言はやめなさい」
クリストフは甥であるゲオルクを諫めるのだが、そこでエドワードが―――
「それは、いい話だな」
―――なんとゲオルクを擁護する言葉を告げる。
「―――え?」
「―――親父殿?!今なんと!?」
エドワードから発言された属国化を肯定するかのような返事に、クリストフもアルフォンスも驚くがゲオルクだけは笑顔を浮かべて、
「さ、さすがは父上!!私の考えをご理解頂けてこのゲオルク!感動の極みでございます!」
王に対して深々と頭を下げる。
「ふむ……クリストフよ。急ぎ三国にティーグルへ来るように使者を遣わせよ。四カ国会談を行う!」
「いやしかし陛下?!……ハァ……畏まりました。すぐに陛下の名前で書簡を認めて、三国に送り出します」
一瞬エドワードの正気を疑ったクリストフだったが、その時の兄の悪戯を思いついた表情は子供の頃から変わっていないな、と何かエドワードに考えがあるのを感じ取って素直に指示に従うことにした―――
―――そんな四国会談の準備が進められている頃、黒龍城では……
城に戻ってから数日したある日の夕食後、八雲の寝室では八雲と他にふたりの人物の姿があった。
「おおお……ふたりとも綺麗だ」
感嘆の声を上げる八雲の目の前にいるのは、アクアーリオとフィッツェのふたりだった。
だが、今のふたりの姿は、普段のメイド服姿ではない―――と言うよりもメイド服だけない状況、つまり全裸にエプロンだけをした姿という男のロマンの結晶、『裸エプロン』姿をして立っているのだ。
「あの、八雲様……このような格好、恥ずかしいです/////」
アクアーリオは見えていないものの、胸元と股間にそれぞれ手を当てて顔を真っ赤にして俯いている。
「そうですわね……さすがに恥ずかしいですわ♪/////」
フィッツェも顔を紅潮させているが、その
「フィッツェはそうでもないみたいだけど?ちょっと嬉しそうだし?」
八雲も服を脱ぎながらそう言うとフィッツェはウフフ♪ と笑みを浮かべ、
「それはこうして漸く、わたくし達の番が回ってきたからですわ八雲様♡」
そう言ってウインクを飛ばしてきた。
本来、裸エプロンでプレイするなら厨房ですよ!と思う者もいるかも知れないが、八雲自身も自炊して料理をしていた経験からも厨房で不衛生な行為をすることは望まない。興奮はするが……
それは台所を任されているアクアーリオとフィッツェも同様で、では何故裸エプロンかと言えば単純に八雲の趣向である。
裸エプロンという男のロマン自体は否定していないのだ。
「それじゃふたりとも、こっちに来て」
ベッドの傍で立っている八雲に、アクアーリオもフィッツェもゆっくりと近づく。
ふたりとも八雲の目からすると、女子大生くらいの少し年上のお姉さんといった見た目だ。
蒼色の髪を後ろに纏めて黒い瞳を潤ませながら上目づかいで見つめてくるアクアーリオ……
紫色でゆるいウェーブの掛かった長い髪と茶色の瞳を潤ませて、爆乳で八雲の腕を包み込むフィッツェ……
『災禍』との戦いのあと黒龍城に戻った八雲達だが、葵御前を皆に紹介した時にノワールが葵にはもう『龍紋』が刻まれていると発言したところからアクアーリオとフィッツェの顔色が明らかに変わった。
葵を客待遇で受け入れるのに文句はなかったが、自分達より先に八雲の御手付きとなったことにふたりは危機感を覚えたのだ。
そうしてふたりで相談して、ノワールにわざわざ許可を貰いにいったのだが、
「我に一々断らなくてもいい。抱かれたいと思ったときに突撃せよ!」
―――と発破を掛けられてしまい今に至る。
そんなふたりの申し出を八雲が断るはずもなく、だったら八雲の発案で裸エプロンに至ったのである……
そんなふたりの肩を抱き、そっと抱き寄せると八雲はまずアクアーリオとキスをする。
「ん……ちゅ!……ん、はあぁ/////」
そうして次にフィッツェの唇に触れる。
「ちゅ……ん、ちゅっ……うふふ/////」
そこから八雲はふたりの身体を抱き抱えるようにしてベッドに上がるとふたりを背中側から抱きしめて、そのエプロンの端から胸に向かって手を滑り込ませた。
しっとりとしたふたりの肌は吸いつく様にきめ細やかで、いつまで触っていても飽きない。
元々料理をするふたりは常に清潔であろうと心掛けていて、今日も此処に来る前にふたりで入浴を済ませてきたのだ。
アクアーリオの胸も決して小さいわけではない。
フィッツェの胸がロケット胸の爆乳であるため、普通に見えがちだが充分な大きさを備えていた。
そんなふたりの胸を揉みしだきながら、八雲はその掌に徐々に『神の手』を発動させていく……
「…ん……あん……なんだか……とっても……あん……気持ち良くなって……/////」
「これは……はあ……八雲様の手……温かくて……ん……/////」
ふたりの美女に絡まれて、八雲は最高の時を堪能していった……
そして今夜もまた八雲の部屋から、朝まで喘ぎ声が途切れることはなかった―――
―――そんな八雲達の熱い夜からさらにニ週間が過ぎて、ティーグル皇国には次々に隣国からの高位の客達が入国していた。
商業国家リオンからは、ジョヴァンニ=ロッシ評議会議長と評議会委員幹部に護衛の兵士が二百名来ている。
エーグル帝国からは、皇帝フレデリック=エル・エーグルと重臣達が兵士二百名と入国している。
そしてエレファン獣王国からは先代国王となったレオン=天獅・ライオネルが、新国王エミリオ=天獅・ライオネルと重臣達と数名の護衛のみでアークイラ城に入城していた。
ティーグル皇国からの書簡では随伴する兵士は二百名までと指定されていたが、エレファンのレオン達は自分達の罪の重さを弁えて同時にもしもティーグルが自分達を亡き者とするならば、これ以上自分達に巻き込まれて犠牲になる者を減らすため、少数での訪問としたのだ。
「―――お父様!エミリオ!」
アークイラ城内を進むレオンとエミリオに走り寄って呼び掛ける声に振り返ったふたりの目に映ったのは、
「……アンジェラか」
「姉上……お久しぶりです」
それはティーグルの第一王子正室となったレオンの娘でありエミリオの姉にあたる人物―――アンジェラ王女だった。
「父上、エミリオ……こうして再びお会いできて、わたくしは……」
「……すまぬアンジェラ。不甲斐ないこの父のせいで、お前もさぞや肩身の狭い思いをしていることだろう……すべてはこの父の責任だ。本当にすまない」
そう言って目を伏せるレオンに、アンジェラは思わず涙ぐんでしまい、
「何を仰いますか父上。多くの犠牲が出たことは伺いました……でもそれは『災禍』が原因のこと!父上やエミリオが気に負う必要など―――」
そこから先の言葉を遮るように、レオンは掌をアンジェラへ向けて首を振った。
「アンジェラ、それでは済まないのが国王というものだ。お前もいずれアルフォンス王子が王となった暁には、王妃として様々な局面に立たされることがあろう。だが、その時には俺の言っている意味がきっと分かる」
そこから先を言おうとしていたアンジェラも、父の言葉を無下にするような娘ではない。
理解はしていても、納得は出来ていない……そんなアンジェラの気持ちはレオンも、そして弟のエミリオもまた理解していた。
そして再び歩き始めて進む父と弟の背中を見送りながら、アンジェラはふたりの無事だけを願って、その場に膝を着いて天にいる自らの信奉する『原初の獣』へと祈りを捧げるのだった……
―――玉座の間とは違う国家間の会談で使用される特別な部屋に設置されている巨大な円卓に、ティーグル皇国のエドワード王とエアスト公爵、アルフォンス王子にゲオルク王子が座席に着いていた。
同じく円卓にはエーグル帝国皇帝フレデリックと重臣が三名、商業国家リオンからジョヴァンニ議長と評議会幹部が三名、そしてエレファン獣王国から先代国王レオンと新国王エミリオ、そして重臣が二名席に着いていた。
和やかな部屋の装飾とは裏腹にティーグル以外の三国の心境は穏やかではない。
そんな中、エーグルのフレデリックは―――
(なんという面々だ……表の商売のみならず、裏の汚れ仕事でも噂の絶えないリオンのジョヴァンニ=ロッソに、エレファンはレオン王が退位したと聞いた……一緒にいるのが息子のエミリオか。そしてティーグルのエドワード王にこの国の重鎮にしてやり手と噂のエアスト公爵、それにアルフォンスにゲオルクのふたりの王子と。この会談、余が思っている以上に難航することになりそうだ……)
―――と、集合した各国の陣営を見回して、早くも胃が痛み出していた。
一方、リオンのジョヴァンニ議長は―――
(わざわざ各国に書簡で会談の招集をかけてくるほどだ。エドワード王には何か腹に抱える案があるのだろうが、それを素直に聞いていてはリオンの……ロッシの商売が滞る可能性もある。ここは如何にリオンに有利な妥協点で着地させるかを模索しなくては。そのための妥協案は多数用意していきた。一時的な損失を生み出しても、そこは期間を設けて調整をして巻き返せる体制を構築する)
―――と、既に会談の中で持ち出される提案にも、ある程度までは対応出来る案をリストアップして提案書に纏め、どのような要請にも対応出来る自信をもって来訪していた。
そしてエレファンのレオンは―――
(今回のこと、如何に『災禍』が原因とはいえ、その切掛けとなったのは俺の浅はかな密約があってのこと……たとえこの命を差し出すことになろうと文句は言えん。だが、エミリオだけは何としても生きて国に帰さねば死んでも死にきれん。本来はこの場にも連れてきたくはなかったが、リオンやエーグルの手前、即位仕立てとは言え国王が来ないとなれば更なる不信を招きかねなかった……何としても生きて息子を国に帰す!)
三国三者三様の思惑を抱えながら、常に緊張感は絶えず部屋の中を渦巻いていた―――
そんな中、エアスト公爵クリストフが会談の開会宣言を行う。
「本日、お集まり頂きました大陸西部オーヴァストの三国を統治され纏めておられます皆様には、ご多忙の折にティーグル皇国へとお集まり頂きましたこと感謝申し上げます」
穏やかな口調でゆっくりと丁寧に述べられるクリストフの挨拶ですら、その場にいる者達の緊張を解くことは出来ずにいた。
だが、ティーグルで参加しているゲオルクだけは―――
(クックックッ!三国の者ども、表面上は澄ました顔をしているが父上から属国化の言葉を聞いた瞬間どんな顔をするのやら♪ しかし抵抗しようにも先の戦争で軍事力は削ぎに削がれ、今やうちの騎士団一軍とですら対峙出来ぬ状況♪ これでエレファンが属国となれば、それこそ私の大好きなマンハントや拷問に獣人を手に入れることも楽になる……ククッ!クックックッ!!!これは笑いが止まらぬ♪)
―――ひとり気持ち悪いニヤニヤとした笑みを浮かべていた。
「それでは、我がティーグル皇国国王エドワード=オーベン・ティーグル陛下よりお言葉を頂戴致します」
クリストフがエドワードの言葉に繋げる形で挨拶を終えるとエドワードが無表情から口を開けた。
「―――まずは遠路遥々ティーグル皇国への来訪、感謝する」
エドワードの言葉を三国の為政者達は耳を澄ませて一言一句逃すまいと身構えていた。
「このような場を設けた理由は、今さら申し上げるまでもないであろう……単刀直入に言おう。儂は今回の件により―――」
その先のエドワード王の言葉にその場にいた誰もが驚愕するしかなかったと、後の世の歴史家達にそう伝えられていくことになるのだった……