―――軍議が終わり急ぎ自身の騎士団へと戻っていく者達の中で、ハインリヒに第二騎士団の副長が近づく。
「―――ハインリヒ様!ラースの作戦にこのまま従われるのですか!」
捲し立てるようにして大声を張り上げる副長をハインリヒは睨みつけるようにして振り返ると、
「仕方がなかろう!ナディアまでラースの意見に賛同してしまって、下手に軍が瓦解してしまっては意味が無い!」
「それはそうですが、わたくしに考えがあります。我らは同調すると見せかけてエーグルの軍に向かって進軍するのです。我らが東から迫るエーグル軍に向かっていけばリオン軍から各個撃破を仕掛けようと考えているラースとナディアの背後をエレファン軍が突くでしょう。そうなればヤツらは五万五千対二万の戦闘になり擦り潰されて終わりです」
「だが、我らも二万対一万の戦闘に入るのだぞ?」
「ですから我らは軍を一当てしてから南に転進して戦場を離脱するのです。そうすれば我らは乱戦の中、軍を立て直そうと後退したと言えましょう。エーグル軍も後退する我らを深追いするよりもエレファン軍に合流してラース達を潰すことに向くはずです!」
ドヤ顔でそう言ってくる副長の案にハインリヒは、
「……なるほどなぁ、フフッ……よし、その手でいくぞ。千人隊長にも急ぎその旨を伝えよ!」
「―――ハッ!」
この絶対的に危険な状況の中でハインリヒはその醜い欲望を……願っていたラースを始末することがもうすぐ実現出来るということだけに目が眩み、その他のことに目がいっていなかったことが後にハインリヒの悲劇を生むこととなる……
―――平野で陣形を整えるティーグル皇国騎士団
目標であるリオン軍に向けて第一騎士団、第二騎士団、第三騎士団それぞれ三列の隊列を編成する。
―――この世界の軍隊は基本的に騎馬隊・歩兵隊(大盾・重装歩兵・歩兵)・弓隊と魔術師の遠距離攻撃部隊に分かれる。
今ラースが指示しているのは八雲の世界でいうところの―――ローマ式陣形『レギオー』に近い陣形であった。
―――レギオーとは、
レギオーはローマ軍団を表す言葉であり中隊歩兵陣形とも呼ばれ、共和政後期には三列に並ぶ陣形が組まれた。
レギオーはガリア人の散開戦術に度重なる敗戦を強いられたローマ軍が対抗策として発案したものである。
その根幹は隊列の柔軟さで散開による包囲殲滅に移れる動き、三列に並んだ兵士を必要に応じて入れ替えることで得られる持久力にあった。
因みに当時の軍兵運用に芸術的な才能を発揮したのはカルタゴの将軍ハンニバルであり、当時より二千年以上経た現在でも彼の戦術は研究対象とされている。
そして―――
「全軍―――前進!!!」
馬に乗った第一騎士団団長ラースの大号令によりティーグル軍は足並みを揃えて平野を行進する―――
ラースの両隣にはルドルフとレベッカが馬に乗って着き従っていた。
敵軍のひとつであるリオン軍はもう誰の肉眼でも捉えられる位置にまで来ている。
―――行進する兵の中からはこれから命の取り合いになる開戦前の空気に、
ある者は武者震いし、またあるものはゴクリと唾を呑み込み、そしてまたある者は愛する家族の名前を祈る様に呟いている……
―――そしてついに、
魔術師部隊の攻撃射程に入ると同時に―――
「魔術師隊!―――攻撃始めぇええ!!!」
―――ラースの号令と同時に隊列の中の魔術師達から一斉に《火球《ファイヤー・ボール》》が撃ち出される。
一直線にリオン軍に撃ち込まれる《火球》に、その身を炎で包まれた兵士達が周りの兵も巻き込んで燃え崩れていくのが見えた。
「弓隊!―――弓引けぇえ!一斉射ぁああ!!!」
ティーグル軍の魔術師隊の攻撃に対しリオン軍も弓隊で応戦してくることとなるが、ティーグル軍も弓隊からの一斉射が日頃の訓練通り綺麗に放たれていく。
―――雨のように降り注ぐ弓矢に串刺しにされていくリオン軍の兵士達。
だが同じく弓矢で兵が負傷しているのはティーグルも同様であった―――
このまま遠距離攻撃の撃ち合いになればリオン軍は間違いなく突撃を開始してくる。
―――ならば、
先に突撃してリオン軍の出鼻を挫き、その勢いのまま撤退の流れに入るとラースは決意した。
「全軍!―――突撃ぃいい!!!」
再び全軍への大号令がラースより発せられ―――
「オオオオ―――ッ!!!」
雄叫びのような声を上げた兵達が先陣を切るラース達を追うようにして一斉に騎馬・歩兵部隊がまだ距離のあるリオン軍に突撃を開始した。
だがその時―――
「ラース殿ぉおお!!!」
大声を張り上げ、ラースに近づくのは第三皇国騎士団の団長ナディアだった。
「―――ナディア殿!?何事ですか?」
馬上のラースが振り返って問い掛けるとナディアは表情を苦しそうに歪ませながら―――
「第二騎士団がエーグル軍に向かって行きます!ハインリヒが軍議の内容を無視して勝手に動いています!」
「ハァッ!?……あ、あの―――ボンクラがぁああ!!!」
普段は努めて冷静なラースだが怒りが沸点を越えることで最早礼儀も何もない平民育ちの汚い言葉が吐き出され、貴族だろうと遠慮などしなくなるのだ。
今、戦場の状況はラースの提案した第一・第二・第三騎士団で兵数の一番少ないリオン軍を蹴散らし、その流れで南に回り込んで一路アードラーを目指す作戦だったのだが第二騎士団長ハインリヒによる軍議での決定事項に反する行動で第一・第三騎士団だけとなり、この兵数が減ったところをエレファン軍に突かれれば一溜まりもなく殲滅される姿しか浮かんでこない……
「あのお坊ちゃん!頭おかしくなっちまったのかよ!!!」
ルドルフが怒声を上げるがもう取り返しはつかない。
「アイツの頭がおかしいのは元から。ラース、ここは私達だけでも生き残ることに専念しなければ駄目よ」
戦場で少し表情が出始めて饒舌になりだしたレベッカの進言にラースは冷静さを取り戻した。
「すまない!もうこの突撃も全員が走り出している以上、止められない。だったら―――鋒矢陣形で中央突破する!!!」
ラースの指示に千人隊長クラスは一斉に陣形を整えると中央をラース、ルドルフ、レベッカ、ナディアが受け持ち、決して立ち止まらない布陣を展開する。
「それじゃラース……ぶつかる前に一発大きいの撃ち込むよ」
レベッカの言葉にラースは愛用のロングソードを掲げて、
「ああ!!デカいのお見舞いしてやれ!!!」
ラースは馬上で勝鬨を上げる様に大声で言い放つとレベッカの魔力が集束する―――
「いくわよ……
―――その美しい姿からは想像も出来ない魔力の奔流が現れて、風属性魔法・上位の魔術の《嵐爆》を発動するレベッカ。
放たれた巨大な魔力は大気を巻き込みながら竜巻状の龍が舞っているような動きを見せ、地面ギリギリを這うかの如くリオン軍に向かって行くと先鋒から多くのリオン軍兵士を巻き込んで中央に大きく開いた道を刻んでいった―――
竜巻に巻き込まれて空中に舞い上がり、そこから地面に打ちつけられることで潰れていく兵士や《嵐爆》の中で発生した急激な気圧と気圧のぶつかり合いに巻き込まれて五体を引き千切られる兵士が次々と死体に変わって戦場に降り注いでいく。
「相変わらず、えげつない魔術使うよなぁ……さて、こっちも本気出しますか!」
レベッカの強烈な魔法に顔を顰めたルドルフだが敵軍の中央に亀裂が入ったとはいえ、まだ多数の敵は残っている。
そこに『身体強化』を掛けて、さらには手に持った槍に自身の火属性魔術を付与する―――
「オラオラオラァア!!!英雄『炎槍のルドルフ』に焼かれたいヤツは前にでろやぁああ!!!」
英雄の二つ名を誇張して戦場を駆け、穂先の刃が炎に包まれてまさに炎の槍と化した愛槍を敵兵に馳走していくルドルフだが、自ら二つ名を叫んだ理由は少しでも相手がそれで怯むことを考慮に入れた行動だった。
「―――え、英雄だとぉおお?!」
「さっきの魔術を使った、あ、あっちのエルフは『天災のレベッカ』だぞ?!」
ルドルフが名のりを上げたことでリオン軍の兵士からは次々と恐れ慄く姿が見える。
レベッカの二つ名まで叫ぶリオン軍兵士は前線から瓦解し始めていった。
「あとは……エレファン軍の追撃だけか」
戦場を駆け抜けながら、ラースは後方から迫ってくるであろう四万の軍勢を意識せずにはいられなかった―――
―――ラース達が突撃を開始した頃、
ハインリヒの指揮する第二皇国騎士団は東から侵攻してくるエーグル軍二万に向かって行った。
「我らは敵と一度剣を交えた後にすぐ南へ転進する!!!追いかけてくる敵には目もくれるな!後はアードラーまで撤退し、第四・第五騎士団と合流することだけを考えろ!!!」
「オオオオオ―――ッ!!!」
ハインリヒの思惑など知らない兵達は、それが指揮官の指示ならばと意気揚々と高い士気を維持していた。
「では、コホン!全軍、突げ―――」
「伝令!!!―――後方よりエレファン軍が此方に向かって来ております!!!」
突撃の大号令をカッコよくキメようとしていたハインリヒの言葉は伝令に遮られてしまった。
「……は?……な、な、なにぃいい!!!」
騎士団後方から物見の報告を伝えに来た伝令の言葉に、ハインリヒの叫びが木霊していく……
「―――な、何故だ!?何故こちらに向かってくる!!!向かうならラースの方であろう!!!」
突然の状況にハインリヒは混乱を隠せないでいる。
それもそうだろう前方にはエーグル軍二万、後方にはエレファン軍四万、合わせて六万の軍に取り囲まれている事態なのだ。
エレファン軍は第二皇国騎士団の後方横合いから襲い掛かってきたかと思うと、そのまま後方に回り込むようにして包囲し始めている。
だがラースへの対抗心ばかりで気づいていないが、一体いつからエレファン軍がラースの軍に向かうと思ったのか?
敵からして見れば離脱して一万の軍勢が孤立しているならば、各個撃破の目標にされることなどハインリヒの幼稚な戦術では思い浮かぶことすら出来ないでいた……
「な、何とかしろぉ!!!こんなはずでは!ラースの方に向かって行くのが普通ではないか!私は大貴族ホルツマン家の次期当主なのだぞ!!!獣如きが私の背後を突こうなどとぉおお!!!」
もはや戦場とはかけ離れた次元の言葉を放ち出したハインリヒに、彼についてきた兵達も困惑を隠せないでいる。
そして、そんなハインリヒの事情も心情もまったく関係のないエーグル軍とエレファン軍はまるで二匹の蛇が同じ得物を頭と足から呑み込んでいくかのようにして、第二皇国騎士団に襲い掛かっていくのだった―――
―――その頃、
ティーグルに侵攻するエレファン軍の中央辺り、国王直属の精鋭達の部隊に取り囲まれて護衛されている人物がいた。
エレファン獣王国国王レオン=天獅・ライオネルである。
屈強な身体つきで身長は二mに近くあり髪は茶色で自身の崇める原初の獣『獅子』の系統に恥じることのない鬣のような癖のある長髪に、茶色の鋭い瞳、口髭を蓄えている口元を開けば牙が見える。
巨体を包む王族専用に伝え引き継がれてきた黄金の鎧をこの戦場で纏い、その胸元のプレートには獅子の彫刻が刻まれている。
だが今のレオンは端正な顔立ちをしている割にその瞳には光が見えず、どこか虚ろな瞳で正気ではない雰囲気を醸し出していた。
そんなレオンがゆっくりとした口調で―――
「御前……指示通り先鋒がティーグルの離脱した東側の軍に喰いついたぞ……エーグル軍と挟撃状態で兵士どもを擦り潰している状況だ」
―――と、隣にある大きな御輿の中に向かって語りかける。
「ああ♡……うふふ……ひとりも逃してはダメよレオン♪ 妾はより醜い者には鼻が利く……あちらの敵軍には醜い者が上に立っていたみたいだからのう。あん♡……これから、もっともっとこの国に生きとし生けるものすべての命を踏みにじるの……そう、妾が求めるは千の悲鳴、万の断末魔、川という川はすべて血で赤く染め上げ、死体を積み上げたところに松明代わりとして火を灯し、美しい娘は魔物の餌とし、孕ませ、子を生ませて、その赤子をまた魔物の餌にする……そんな地獄を妾は見たい。そうであろうレオン♪ ああ♡」
御輿の中に敷かれた絨毯の上で、胸元を開けさせた和装の着物のような形状をした紫の着物をその身に纏い、横になって煙管に火を着け、煙を吹く美女がそこにはいた―――
金色の美しい長い髪と頭の上には狐の耳、腰の辺りからは一本のふわふわとした狐の尻尾を振り出し、瞳は血の様に赤く、美しい顔から零れる笑顔はこの世のものとは思えないほどに冷徹な言葉を奏でていた。
「……御前の……御心のままに」
正気ではないレオンが一言、御前と呼ぶ女、『災禍』の狐に虚ろな瞳で静かに返事をする。
「ああ♡ 早く、この国を、このオーヴェストを、このフロンテ大陸を妾の地獄に作り変えたい……そのためにも……」
御輿の中に置かれた棚に置かれていた盃に静かに酒を注いで、一口にそれを呷った『災禍』は口元をいつまでもニヤニヤと歪ませながら、クククッと笑いをこみ上げさせていた。
「はぁはぁ……御前様……ぺちゃ……/////」
「あん♡ もっと舌を伸ばして、そうだ上手いぞ♡ あ、あ、そう、そこじゃ♡/////」
御前と呼ばれる狐女の股の間には、犬のような耳をした白髪の少年が必死に舌を伸ばして舐め回している姿がある。
「ほれ♡ ちゃんとこっちを見ながら舐めるのじゃ♡ 妾の目をよぉく見るのじゃ!」
「れろ、ぺちゃ、はぁはぁ、ああ、御前様……」
少年は上目づかいに『災禍』狐女の妖しく輝く赤い瞳を見つめながら溢れる欲望に溺れそうになるのだが、その赤い瞳を見つめると彼女の言葉が何よりも優先されてしまう状態に陥っていく……
「おおう♡ あはは♪ もっと上手になれば、妾のそこにお前の可愛い物を迎えてやっても、ん♡ よいのだぞ?あん♡ 小さいくせに盛りおって♡/////」
「はあ、はあ―――!/////」
御前の言葉に少年は必死にそこを舐め回す―――
「あああ―――ッ!!!そこ、いい!ああ♡ あ、あ、妾は、こんな、こんな子供に♡ ア、アアア―――ッ!!!/////」
そして虚ろな目をした少年は満足気に笑みを浮かべ、その後も御輿の中からは妖艶な女の喘ぎ声が絶えず聞こえてきていた……
―――その一方で、
戦場に向かう最中で刺客に襲撃されたエドワードとアルフォンスは、
「オラアアアア―――ッ!!!」
気合いを入れた大声と共に目の前の刺客を一刀両断するアルフォンスが抵抗していた。
二十騎の警護だけで戦場に急いだことが裏目となり、戦地手前の平野に入ったところで黒い装束を身に纏って顔も黒い布で覆った異様な刺客達およそ三百に取り囲まれたエドワード王と第一王子のアルフォンスが奮戦していく。
襲い来る敵に果敢にも立ち向かい、されど護衛の騎士達はひとり、またひとりと次々に命を刈り取られてエドワードまで負傷して動けなくなっていた。
「へ、陛下……申し訳……ございません……最後までお護りすること……できず」
負傷して動けないエドワードの周りには傷を負って動けなくなった騎士達が集まり、その周囲をアルフォンスとまだ動ける騎士達が死守しているが、それもいつまでもつのか時間の問題という絶体絶命の窮地に陥っていた。
「何を言うか馬鹿者め。年寄りの儂よりも……先に冥府に逝くヤツがあるものか。生きよ!お前達、若い者が……先に逝くことは……王である儂が許さぬ!」
脇腹から出血するエドワードは自分を護り、胸を突かれて出血して今まさに息絶えんとする若い騎士を地面から抱き上げて、胸元のその若者に冥府へ逝くことを許可しない。
「勿体ない……お言葉……」
そう呟いて血の気のない顔に薄っすらと笑みを浮かべた若い騎士は、そっと自分の胸元の傷に置いていた手をゆっくり地面にゴトリと落とした……
「……この大馬鹿者め……冥聖神よ……今、御身の元に向かった若者の魂に……どうか安らぎを与えたまえ」
自分の様な年長者が生き残り、目の前の前途ある若者が命を落とした……
エドワードの胸には深い悲しみが去来するが、その瞳に涙は浮かんでこない……
「すまぬ……儂はもう、涙も枯れているようだ……すまぬ」
だがエドワードは若者の死を無駄にして彼に救われた己の命を、目の前の薄汚い刺客達にくれてやる気などありはしない。
だからこそこのような地面に座り込んでいる訳にはいかないのだと、エドワードは傷の痛みに耐えながらその場に立ち上がる。
「―――傷が開くぞ!無理するな!親父殿!!」
その立ち上がったエドワードを見て傷の深さから動くなと叫ぶアルフォンスだったが、悲しみと怒りで奮い立ったエドワードにはその叫びも届いていない。
「儂よりも若い者が命を落としたのだ……貴様らのような薄汚い刺客風情がこのティーグル皇国国王エドワード=オーベン・ティーグルの首、簡単に取れると思うなよ!アルフォンス!―――お前は生きよ!!!」
手に持った剣をかまえるエドワードだったが、ここまでに何人も刺客を切り続けて今は致命傷まで脇腹に受けているため額には冷たい汗を流し、顔に血の気はなく肩で息をして立っているのがやっとだった。
だがそれでも目の前の刺客を前にして屈することだけは断じてできないのだと、その一念で剣を構え続ける。
しかし目の前にいる未だ二百人以上残っている刺客達は、そのような王の矜持も護衛する騎士達の命も等しく価値がないものと思っている。
そんな冷酷な刺客がすぐにエドワードへ向かって襲い掛かり剣と剣を激しくぶつけると同時に傷を負ったエドワードの脇腹に向かって蹴りを入れ、その激痛と勢いでエドワードは思わず後方に倒れ込む。
「ぐううおお―――ッ」
痛みに顔を歪ませて地面に寝転がるエドワード―――
「ウオオオオッ!!!―――親父ぃいい!!!」
父の窮地に目の前の襲い来る刺客を斬り捨てるアルフォンスだが、次々に襲い掛かる刺客達に阻まれて父の傍に近づけない。
―――そして倒れたエドワードの目に剣を大きく振り被る刺客の姿が映ったとき、
(無念だ……アルフォンス……ティーグルを……頼む)
エドワードの脳裏にそんな言葉が浮かび、そして刺客の剣が無情にも勢いよく振り下ろされた。
「―――ッ!!!」
しかし―――
―――キィン!という金属と金属がぶつかる甲高い音と同時に剣はエドワードの頭を割ることはなく寸前で黒い刃に阻まれている……
「……今度は間に合った」
エドワードの耳に聞こえてきた小さく呟くような一言。
そんなエドワードの目の前には漆黒に輝く鏡面の刃をした美しい刀で、薄汚い刺客の刃を横から受け止めている―――
「ああ―――そなたは……」
―――九頭竜八雲が立っていたのだ。
エドワードは神々しいものを見るような目で八雲を見つめるのだった―――