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第51話 それぞれの思惑と開戦間近

―――急報を告げられた八雲


ジェミオス・ヘミオス姉妹からエーグル軍とリオン軍の動向を常に報告してもらうことにして、スコーピオに『伝心』を飛ばす―――


【―――スコーピオ聞こえるか?】


【こちらスコーピオ―――どうした御子?】


【実は―――】


八雲は現在のエーグル軍とリオン軍の侵攻を端的にスコーピオへ説明し、現在のエレファン軍の動向を確かめる。


【―――なるほど。エレファン軍はプロミス山脈の山道を進軍中だ】


【山道を?ティーグルは伏兵も何も無しか?】


【ああ、そういった伏兵の気配はない】


(ティーグル軍は何を考えているんだ!?)


と八雲は頭を抱えて絶句する。


本来なら敵の軍が隊列の間延びする山道を進軍しているなら細かい伏兵を忍ばせて何度も襲撃を仕掛けることで、精神的に士気と兵数を削ぐ手を打たないなんて八雲には信じられない話だった。


【ジェーヴァ!ティーグルの騎士団は何をしてる?】


ティーグル皇国騎士団にはジェーヴァに見張りとして着いてもらっていた。


【はい!―――今はプロミス山脈の山道から出たところ……広がっている平野に陣を敷いて待ち受けてるッス……】


そのことに八雲はクラッと眩暈がして倒れそうになる。


【はぁ?―――いやいやいや!それじゃダメだ!今エーグルとリオンの軍がプロミス山脈の麓を迂回しながら、そっちに向かってるんだぞ!そんな呑気にかまえていたら、三方向からタコ殴りだ!】


(出陣したティーグル騎士団は何を考えている!?物見も出していないのか?)


と八雲は現状の状況に苛立ちが止まらない。


「このまま放っておくか……それとも参戦するか……クソッ!」


苛立っているのはティーグルの用兵についてもだが今回のまるで八雲の先回りをしたような見えない策略の影がチラチラして、このままやられっぱなしでいいのかとそれが八雲を不快にさせる一番の要因だった。


「このまま此処にいても何も変わらない。だったら、行くか!」


それから八雲は着替えてコートを羽織ると、そのまま黒龍城を飛び出し『収納』から黒戦車チャリオットを取り出すとアークイラ城に向かって走らせる。


すると―――


空中からいきなり黒い影が黒戦車に飛び乗ってくることに八雲は驚くが、


「―――どこに行くんだ八雲?」


「ノワール?!」


飛び乗って来たのはなんと翼を生やしたノワールだった。


朝、窓の外を見れば黒戦車を出して急いで飛び出す八雲を見てしまい、これは只事ではない!と考えたノワールは背中から羽根だけをドラゴンモードで生やして空を飛んで追いかけてきたのだ。


「そんなこと出来んの!?」


(何その飛行フォーム?!―――超カッコイイ!!)


と思わず感動する八雲にノワールは笑みを浮かべながら、


「ふふん♪ 女には秘密が多いものだ!それで急いでどこにいく?」


「ああ、実は―――」


八雲はジェミオス達からの報告内容を一通りノワールに説明して今からアークイラ城に向かうことを伝えると、


「ふむ……我も着いて行こう」


と、同行の意志を伝えてきたので八雲は黙って頷いてアークイラ城に向かって黒戦車を引く黒麒麟の速度を上げていくのだった―――






―――八雲がアークイラ城に向かっていた頃


ティーグルからエレファンに向かって行く国境の境にある連峰


プロミス山脈の麓にある平野に駐屯して陣を敷くティーグル皇国第一皇国騎士団団長ラース=シュレーダーは、同行している英雄クラスのルドルフとレベッカと一緒に陣地に設置した指揮官用のテントで話していた。


「―――おいラース。本当にハインリヒの意見を通してよかったのか?エレファン軍は都合よく山道を進軍して来てくれてるって言うのに、奇襲を仕掛けないなんて俺には信じられないぜ?」


呆れるようなルドルフの言葉にラースは少し苦笑しつつ、


「分かってるよ。ルドルフ……だがハインリヒは貴族出身でもない俺が栄光ある第一皇国騎士団の団長なのが気に入らないのさ。俺達のような平民の戦法を『泥臭い戦い方だ』と切り捨てて、あの軍議の場で不協和音を起こしていた。これ以上足並みが揃わないなんてことになれば、只でさえ四万対三万の戦なんだ。余計な不安要素を増やすわけにはいかない」


ラースが言ったハインリヒとはティーグル皇国の第二皇国騎士団団長を拝命している男で、ハインリヒ=セム・ホルツマンという―――


―――ティーゲルの大貴族ホルツマン家の長男であり、剣の腕はそこそこあるのだが今の騎士団長の地位はホルツマン家の威光によって手に入れたと言っても過言ではない男だった。


そんな時ルドルフ、レベッカと共に冒険者をしていたラースがティーグルでその年開催された武術大会に優勝し、それを観覧しに来ていたエドワード王から声が掛かった。


王の一声で当時の団長が病死し空席となったばかりの第一皇国騎士団団長の地位に取り立てられたことで、ハインリヒは何かと言うとラースを平民出身だの賤しい出身だのと馬鹿にしながら嫌味を振り撒きつつ対抗することとなって現在に至る。


第一皇国騎士団の団員達は副長を始め人間の出来た者が多く、また腕を買われて平民から取り立てられたラースと同じ境遇の者も多く在籍していたため、ハインリヒが団長になるよりはルドルフとレベッカと共にパーティーを組んでいた有名なラースが団長になることの方を歓迎してくれたのが唯一の救いだった。


「……もうこの戦場でサッサとあんな馬鹿片付けようか?」


無表情の美形エルフ魔術師レベッカが突き出した人差し指の指先に魔術で炎を噴き出す。


「滅多なこと言うなよ!レベッカ!そんなことしたら、お前が賞金首になっちまうだろうが!」


レベッカの言葉に慌てて周囲に聞かれていないかを確認しながら諫めるルドルフを見て、ラースは冒険者の頃ふたりとのパーティー時代を思い出してきて思わず吹き出してしまう。


「ラースは……笑っている方が可愛い」


「可愛いって……俺もう23歳だぞ?だけどふたりとも、こんな戦場まで来てくれて本当にありがとう!」


礼を言うラースの態度に少しばかり恥ずかしくなったルドルフは、話題を変えようと思ったときにふと思い出した。


「そう言えば今回あの御子様は参戦なさらないそうだぞ?」


その言葉を聞いてラースはレベッカの言葉で笑顔になっていたが、真剣な面持ちへと切り替わる。


「九頭竜……八雲様か。あの方とは玉座の間で御会いしたが、只の人間のように見えて黒神龍様に向かってお前が悪い!みたいなことを言ってのける胆力といい、只者ではないと思ったが……やはり参戦されないのか」


「サイモン曰く、御子様は国政に関わる依頼は好まないらしい。あれほどの『威圧』を放てるヤツなんて初めて会ったが間違いなく九頭竜八雲はとんでもない化け物だと思うぜ」


ルドルフの言葉にラースは身が引き締まる感覚を覚えてレベッカもまた、


「あの子は……まだまだその力を隠している。あの時……ルドルフも私も武器を手にしていたらと思うと……今でもゾッとする」


そう言って両手で我が身を抱きしめるような仕草をしている。


「レベッカにまで、そこまで言わせるのか……だが玉座の間では王達を救うために慈悲を見せてくれた。戦争にまであの方に頼るべきじゃないが、あの方ならどんな窮地であっても俺達を導いてくれる気がするんだがな……」


その言葉に今度はルドルフとレベッカが顔を見合わせて、噴き出していた。


「あのラースにそこまで言わせるなんてなぁ~!黒神龍の御子様はやっぱり只者じゃない!」


「アードラーで『武神ラース』とまで呼ばれたラースが導かれたいだなんて……熱でもあるんじゃないの?」


ふたりの酷い言い様に少し顔を顰めるラースだったが釣られて自身も笑みが零れる。


だが、そんな三人の元に―――


「―――失礼します!!!物見より報告!!プロミス山脈の西側よりリオンの軍勢がおよそ一万五千!同じく東側よりエーグルの軍勢がおよそ二万!ティーグルの国境を越え、この平野に向かって進軍しております!!!」


「なんだと!!!一体それは、どういうことだ!?」


突然の報告に狼狽えるラース達だが伝令の兵も詳細までは分からず、騎士団長の指示を乞いに来たのだ。


「すぐに第二騎士団長と第三騎士団長に連絡を!今すぐ対策を話し合う!」


その急報に顔が歪むラースを固い表情で見つめるしかないルドルフとレベッカだった―――






―――アークイラ城に到着した八雲とノワールが王への謁見を申し出ると、そこにはクリストフと嫌な笑みを浮かべるゲオルク王子と何名かの大臣と思しき者達が玉座にいた。


「エアスト公爵!エドワード王はどちらに?」


声を掛ける八雲の姿に驚いていたクリストフだったが、普段のパパモードではなく努めて冷静な雰囲気で―――


「これは八雲殿。今日はどうされましたかな?陛下に何かご用でしたら申し訳ないが陛下は今、席を外しておられる。何か言伝があるならば承るが?」


「リオンとエーグルの軍が国境を越えて出陣している皇国騎士団に向かっているんだ!このままエレファンの軍勢と合流されたら、七万五千対三万で倍以上の敵を相手にすることになる!」


八雲の剣幕にクリストフも他の大臣達もポカーンと呆気に取られてしまう。


ただひとり、笑いながら語り掛けるゲオルク王子を除いて……


「ハハハッ!何を言うかと思えば昨日御子殿は此処でリオンとエーグルの軍がエレファンの国境を越えた、と話していたではありませんか?それが何故今ティーグルの国境を越え、あまつさえ我が皇国騎士団に向かっているなどと言えるのです?」


厭らしい笑みを浮かべながら馬鹿にしたような目のゲオルクを、頭がひしゃげるほどぶん殴ってやろうかと思った八雲だが、


「ノワールの部下が特殊な能力で伝えてきた話だ。疑うならノワールに直接訊いてみたらどうだ?嘘じゃないですよねぇ?って」


「―――なんだ?我の部下が嘘をついているとでも言っているのか?」


「ウウッ、いや、その、黒神龍様のことを疑うつもりなど微塵もありません!」


ノワールの言葉に一瞬目を向けたゲオルクだったが、さすがに面と向かってそんなことは訊けないと怯えながら目を逸らす。


「先ほどのことが本当ならこれは非常事態だ。だが……これは不味いことになった」


不味いことになったと言い放ったクリストフは、いつになく顔面を蒼白にして八雲を見つめる。


「……どうしたんですか?そんな顔して」


その表情に嫌な予感が押し寄せる八雲だが訊かずにはいられない。


「今朝……日も昇らぬうちから陛下とアルフォンス王子が、戦場に向かって出発したんだ……」


「なん……だと……」


一瞬、思考が停止しかけた八雲だが事が事だけにすぐ意識を再起動してクリストフに近づくと、


「―――どうして王様と王子が戦場に出発したんだ?援軍の要請でも来たのか?」


と捲し立てて問い掛けるも、


「いや、援軍ではないよ……この国は小さな小競り合いはあっても国家間の戦争なんて数百年振りのことだ。そのため戦争に不慣れな兵を少しでも鼓舞しようと、陛下が自分から戦場に向かうと仰ってね……皆でお止めしたんだが聴いてもらえなくて、それでアルフォンス殿下も恐らくアンジェラ王女のことを考えて……共に出発したんだ」


「護衛はどのくらいついていったんですか?」


その問いかけにクリストフの表情はますます暗くなり……


「アルフォンス殿下と……護衛が二十騎ほどの騎士だけで」


「クッ!こんな時に―――ノワールッ!!」


「分かっている。おいクリストフ……最悪の覚悟だけはしておけよ?」


―――ノワールのその言葉にクリストフはゴクリと息を呑んだ。


八雲は踵を返すとノワールと共に玉座の間を飛び出した―――






―――そしてリオン軍とエーグル軍侵攻の知らせを聞いた第一、第二、第三皇国騎士団長達はラースのいるテントに集まっていた。


「なんだと!完全な侵略行為だろう!一体エーグルとリオンは何を考えているのだ!!」


ラースの説明を聞いて、まずハインリヒが怒声を上げた。


「ハインリヒ殿、今は目の前で起こっていることを話し合いましょう。それでラース殿のお考えは?」


ハインリヒを宥めてラースに意見を訊いたのは第三皇国騎士団団長ナディア=エル・バーテルスだった。


歳は二十歳頃で編み込んだ長い金髪を後ろで纏め、やや切れ長の蒼い瞳をした如何にも令嬢といった美女で彼女もティーグルの大貴族バーテルス家の出身ではあるが、ハインリヒと違い彼女の剣の腕は近衛騎士団長ラルフも認めるほどの腕前で、実力で騎士団長にまで伸し上がった女騎士である。


「待て!ナディア殿!何故私より先にラースに意見を求めるのか?平民の意見など聞く必要などない!」


ここにきてラースを平民と見下す言い方に同じテントで控えているルドルフとレベッカは怒気を発しているが、我が道を突き進むハインリヒは無神経過ぎて気づいてもいない。


「ではハインリヒ殿、貴殿には何か策でもおありなのか?」


ナディアは冷静にハインリヒの意見を求めるが鼻息を荒くしたハインリヒは、さも当たり前のように―――


「ふん!神聖なる皇国の領土を土足で踏み躙る輩など正面から相手して撃ち砕けばいい話であろうが!!」


―――と言い放つが、


「―――貴重なご意見ありがとうございました。ではラース殿、如何致しますか?」


ナディアはハインリヒの意見をバッサリぶった斬って再度ラースに今後の方針を問い掛けるのだが、その姿に思わずルドルフとレベッカは吹き出していた。


「な、何が可笑しいか!この冒険者風情がぁ!!!/////」


と恥をかいたことの八つ当たりをルドルフとレベッカに向けるも、その途端にふたりから―――


「―――あ?」


「―――は?」


「アウウッ?!……」


と冷徹な眼差しと共に放たれた殺気でハインリヒは顔面蒼白になり固まってしまう。


いい加減ラースもハインリヒがウザいと感じていたので、無視してナディアの質問に応えることにする。


「相手は三国合わせて兵およそ七万五千だ。対してこっちは三万と半分以下の兵力差。普通なら撤退して首都の第四、第五騎士団と合流してから反転総攻撃するのが一番いいんだが、ここまで接近されていてはいずれ追いつかれるし援軍も間に合わない。だったら……」


そこで全員がラースを見る―――


「―――リオンの軍を各個撃破の後、即時撤退するしかない」


―――そう言って騎士団の方針を決定した。


それにナディア、ルドルフ、レベッカの三人は黙って頷いて返したのだった―――






―――同じ頃、


未だリオンとエーグルがエレファンと共に侵攻していることを知らず出発したエドワード王とアルフォンス王子は……


「―――別にお前までついて来る必要はなかったのだぞ?アルフォンス……」


馬上で隣を進む息子に声を掛けるエドワードにアルフォンスは軽く笑みを浮かべながら、


「何を言っている親父殿。その歳で戦場の最前線に向かうなどと言い出す王がいれば、それを護るのが第一王子の務めだろう」


「その歳で、は余計じゃ馬鹿息子め!じゃが、お前まで出て来てしまってはアンジェラ王女が不安がるであろう?」


馬上に揺られながら妻アンジェラの名前が出たことに一瞬顔を曇らせるアルフォンスだったが、父親が気に掛けているのは何もアンジェラだけではない。


獣王国の第一王女を娶ったアルフォンスが獣王国のティーグルへの侵攻に対して出陣するとなれば、妻であるアンジェアの心が休まることがないだろうという事情を父エドワードが汲んでくれたことは、アルフォンスもとっくに気づいていたことだった。


だが、だからといってこの戦争に不参加となれば次期王となる自分に国民からの不信感やあらぬ疑いを向けられる事になり、延いてはそれが妻アンジェラにも向くことは必至。


そうならないためにもこの戦争にアルフォンスが出陣した、という既成事実が必要だったのだ。


「アンジェラは頭のいい妻だ。俺の出陣の意味も理解してくれていたよ。だから―――甘えるわけにはいかねぇよ」


固い決心を胸に秘めたその顔にエドワードは最早何も言うまいと黙って前を向いた。


まだ距離はあるものの朝日が昇る前から城を出発した甲斐もあって、あと少し―――


この林を走り抜けていけば自軍の陣地へはまもなく到着する―――その雑木林の出口が見えてきた矢先、広がる平野の先には全身黒い装束を身に纏った異様な集団が待ち構えていた。


「何者だ!貴様達!―――どこの手のものかぁ!!」


異様な集団の前にエドワード王を庇うようにしてアルフォンスが立ちはだかると、返事をする代わりに目の前の集団は次々とその手に武器を抜いていく。


―――数にしておよそ三百……対するこちらは二十騎ほどの護衛しか連れてきていない。


エドワードとアルフォンスに冷たい汗が流れるが構わず不気味な集団は武器を向け、無言のまま一斉に襲い掛かっていた―――






―――その頃、


遠く離れた地ヴァーミリオン皇国の首都レッド。


フロンテ大陸北部ノルドにあって広大な支配地をもつヴァーミリオン皇国はフロンテ大陸最大の国家であり、またその首都であるレッドはティーグル皇国の首都アードラーの数倍の大きさを有する。


その中央には巨大な紅の城壁に囲まれた皇帝の城―――『紅龍城』が聳え立っていた。


黒龍城よりも広い敷地と建造物、幾重にも囲まれた城壁と中央の城も紅の色に全面染め上げられており、その中でも特に高い位置にある空中庭園のように張り出しているテラスでイェンリンと紅蓮がテーブルに着いてお茶を楽しんでいた。


「―――そろそろ八雲のヤツも気づいた頃かも知れんな。あの甘ちゃん振りではまだまだだが、今回の件で幾分かマシになろう。まぁ余としては早く八雲に強くなってもらわなければな♪」


イェンリンの言葉に紅蓮の表情は曇る。


「やっぱり……あの時に教えてあげればよかったんじゃないの?イェンリン……」


楽しそうにお茶を飲むイェンリンに、紅蓮が以前に言ったことをもう一度ここで問い直すが、


「それはもう今さらだ、紅蓮。自分の縄張りである皇国の王と王子に対して暗殺の手が迫っていることに気づけんのは、平和ボケした世界に長年浸かっていた報いだと思い知ることとなるだろう」


そう語りながら紅茶を口にするイェンリンは続けて、


「数百年、戦がないことは民にとってはめでたいことだがそんな時こそ上に立つ存在の者は己を律する考えがなければ、こうして足元を掬われる。八雲にはここでそれを学んでもらわなければこれから先、余を倒す者に成長できぬ。だが、それに八雲にも―――国を手にしてもらわねば面白くないではないか?」


笑顔に思えない悍ましい笑顔を浮かべる返事と炎のように紅に染まったイェンリンの瞳を見つめながら、紅蓮は悲しそうな表情を浮かべており、横に控えているフレイアもまた紅蓮の悲痛な心情を汲み取ってその美しい表情を曇らせるのだった―――



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