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第47話 終末

(……ノワール)


闘技場コロシアムの中央で血溜の中、膝をついた八雲―――






生命 0/6661221【限界突破発動中】






「終わりか……だがこの程度で終わるようではこれから先の長い御子として生きる道を歩むことは叶わぬ。黒神龍ミッドナイトには悪いことをしたが……」


そう呟いたイェンリンは最早動くことのない八雲に背を向けて、闘技場コロシアムの外に向かって歩みを進める―――


―――だがそこで、


「―――ッ!?」


すぐ背後から闘技場に敷き詰められた地面の土をジャリッ!と踏みしだく音に気がついてイェンリンが振り返ると―――






そこには静かに立ち尽くしている―――九頭竜八雲がいた。






「これは驚いた……確実に心の臓を貫いたはずなのだが、どういう仕掛けだ?」


「……」


沈黙を続ける八雲の状態を確認しても先ほどまでの満身創痍の状況と変わっていないが、何故かイェンリンにはまったく別の生き物がそこに佇んでいるように目に映る。


すると立ち尽くす八雲の貫かれた心臓の辺りから白い光が徐々に大きく輝きだすと―――


―――この世界には無い機械的な音声が静かな闘技場に響き渡る。






【―――生命ゼロを確認

カテゴリ《神の加護》に

『終末』をインストール開始―――】






「なんだ?―――これは誰の声だ?」


イェンリンは八雲の声とは明らかに違う女の声が響いたことで八雲に何かしらの変化が起こるのかと周囲を含めて警戒するが、八雲以外に他者の気配は『索敵』出来ない―――






【―――『終末』インストールと並行して

『創造』に

『完全複製能力』をインストール―――】




【―――インストール完了

過去24時間前のボディーを複製―――】




【―――『終末』インストールと並行して

『回復』に

『複製交換』をインストール―――】




【―――インストール完了

生命活動停止ボディーと創造複製を交換―――】






―――今起きている信じられないものを目の当りにして驚愕するイェンリン。


八雲の傷だらけの身体を包むまでに大きくなった光の球の中に、もうひとつの八雲の身体が何もない空間から現れたかと思うと傷だらけの身体と傷ひとつない身体が重なっていき、やがてそれらがひとつになる―――




【―――複製交換完了

ボディーの再起動を開始―――】




【―――インストール完了『終末』を発動】




―――強烈な光が急激に広がり、闘技場を満たしたそれはやがて天井のない上空へと立ち上がり、エレファン獣王国の中央部にある闘技場コロシアムから天を貫く勢いの光の柱が立ち上がった。


「なんだこれは!?巻き込まれ―――」


―――それは一瞬で広がった光


それに飲み込まれるイェンリン―――


―――そうして静かに音もなく闘技場は消滅を迎える。


観客席から外壁まですべてが崩れ落ちて何もかもが白い光の柱へと飲み込まれていく光景はまさに世界の終末だった―――






―――レーヴェにある高い塔から事の次第を目にしたノワールはそこから飛び降りてすぐ下の建物の屋根に立つと、屋根を蹴破る勢いで加速して光の柱に向かって宙を駆ける。


【おい八雲!―――返事しろ!八雲ォオオッ!!】


『伝心』で呼び掛けても返事をしない八雲にノワールの焦燥感はますます強くなる―――


【フレイア!どうなっているの!?状況を説明しなさい!】


紅蓮は同じく『伝心』で闘技場に結界を張っていた紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの筆頭フレイアに連絡を取ろうとする。


【紅蓮様!―――分かりません!突然この光の柱が立ち上がって今結界を解除すると……レーヴェが吹き飛ぶほどの威力です!】


『伝心』に動揺した声で応えるフレイアと呼ばれた女の声に動揺する紅蓮。


【―――イェンリンはどうしたの?】


【クッ……黒神龍様の御子と、この光の中です……】


「なんてこと……こんなことになるなんて……」


紅蓮は九頭竜八雲への接触を反対すべきだったと今更ながら後悔する……


―――イェンリンの経験と最強の力を信じ切っていて自惚れていたところがあったのだ。


ノワールと紅蓮は速度を上げ、闘技場に近づいていくと同時に光の柱は伸縮していき細々と静かに薄れて、やがて立ち消えていく。


街中は闘技場から立ち上がった光の柱に彼方此方から悲鳴や恐怖を口にする声が上がり、逃げ惑う姿があったがそのような喧騒は今のノワールの目には映らない。


やがてノワールが闘技場のあった場所に辿り着いた時にはそこに歴史的な風格を持った闘技場コロシアムはなく、殆ど外壁が吹き飛んで先ほどの光に飲まれ消滅していた。


辛うじて観客席や中央の闘技場部分と見分けることができるほどの壁の一部などが瓦礫となって残っているくらいの悲惨な状況になっていた……


「そこにいるのは……黒神龍ミッドナイトか……」


自分を呼ぶ人の声に反応して振り返ると、そこには辛うじて残っていた壁に背中を打ちつけて座り込むイェンリンの姿があった。


「貴様!―――イェンリンか!!これは何があった!いやそれより八雲は?八雲はどこだっ!!」


イェンリンの目の前に立つノワールの声は、込められた気迫と殺気と威圧の混ざりあった負の感情オーラで満たされていた。


「九頭竜八雲……あれは何者なのだ?」


「我の夫だ!それ以上でもそれ以下でもない!いいから八雲はどこだっ!!」


するとイェンリンは座ったまま黙ってゆっくりと―――上空を指差す。


「―――ッ!?」


その指差す方向の空中には消えた光の柱の中で最後に残った真っ白な光球が、ゆっくりと闘技場だった場所に舞い降りてきていた。


「―――八雲……やくもぉおお!!!」


その球が地面に触れるかどうかという高さに降りたところで光球は消滅し、中から無傷の八雲が倒れ込んでくるのを走り込んだノワールがしっかりと抱きとめる。


「よかった……八雲……無事だった……」


抱きしめながら八雲の頭を撫で続けるノワールに、ようやく立ち上がったイェンリンが近づいていく。


「説明してもらうぞ……炎零イェンリン=ロッソ・ヴァーミリオン……事と次第によっては、お前を地上から消滅させることに我は何の躊躇もない……」


八雲を抱きしめたまま、振り向くことのないノワールがイェンリンに殺意の塊を込めた言葉を放つ。


「屠られるのは余にとっては本望だが神龍にそれをされるのは望まぬ。余も正直なところ分からぬことが多いが、何があったのかは偽りなく話すと約束しよう。それに、そこの八雲にも更に興味が湧いてきたことだしな。今はまだだが、いずれ『天璽』も授けよう。まずは余の別邸へ場所を移すとして話はそれからでいいか?黒神龍ミッドナイトよ」


そして到着した紅蓮と結界を張っていたフレイアがその場に現れる。


全身を白い光に焼かれて衣服はボロボロになり、衝撃で身体を打ちつけてダメージを負っているイェンリンをフレイアが支える。


イェンリンの提案にノワールは殺気を放ちつつも八雲を大事そうに抱えながら黙って立ち上がった―――






―――とても柔らかな感触に包まれて同時に温かい感触で八雲は此処が天国かと、ひとり夢見心地で微睡みの中を漂う……


この温かい感触は八雲にも覚えのある温もりだった……


遠い昔には母、家族を失ってからは幼馴染、そして異世界に来てからは……






その部屋全体には花の香りが漂い、窓からは陽射しが八雲の顔に優しく差し込む。


ようやく重たい瞼を上げる八雲の目に映ったものは―――


「―――目覚めたか?」


「……ウォオオオ―――ッ!!!」


―――その目に映った人物は他ならぬ自分にトドメを刺した相手だった。


イェンリンを見て一気に覚醒した八雲は思わず大声を上げて身体を起こす―――


「―――余の顔を見た瞬間に悲鳴を上げるとは、なんたる不敬か」


「お前のしたことを思い出してみろ!馬鹿者め……おい八雲、身体は大丈夫か?」


「―――え?あ?ノワールか?」


イェンリンのすぐ横にはノワールが心配そうに覗き込んでいた。


「身体は……大丈夫みたいだけど、でも、どうして?それと、此処はどこなんだ?」


どこかの屋敷の一室といった高級な造りの部屋を見渡しながら八雲が問い掛ける。


「此処は身分を隠して手に入れたエレファン獣王国にある余の別邸だ。倒れたまま意識を失っていたお前を運び込んだというわけだ」


「そうか……それは、ありがとう?」


「ムッ?何故、疑問形なのだ?」


「貴女がそうなるようにしたからでしょう!イェンリン!」


ノワールの横にいて八雲が初めて会うその女性はノワールのように耳が尖り、真紅の髪を腰まで垂らして巫女服に似たような着物を着ており、イェンリンを呼び捨てにして上から目線で叱っていた。


その様子を見て八雲は思ったことを問い掛ける―――


「もしかして……紅神龍?」


そう恐る恐る八雲が尋ねると、


「ウフフッ♪」


と笑みを溢しながら彼女は答える。


「初めまして。わたくしが紅神龍クリムゾン・ドラゴンであり、今は紅蓮ぐれんと名乗っています。どうぞお見知りおきを」


「あ、どうも……九頭竜八雲です」


「さて、八雲も目を覚ましたことだし!下に行ってお茶でもしながら話そうではないか。余も八雲に訊きたいことがあるしな」


「はあ?え、ああ……」


(というか俺、あんたに殺されたんですけど?あっさりしているというか無神経というか何というか……)


自身を殺した相手に対してそれなりに憎い感情がない訳ではないが、同じ部屋にいるノワールも落ち着いている状態で紅蓮もいる以上、自分が今どうこう言ったり暴れたりしたところで埒が明かないし暴れても簡単に負けるだろうという考えに至る八雲。


何よりも今一体どうなっているのかが知りたい気持ちが優先してここは黙って従うことにした。


自分を簡単に葬ることの出来る相手に―――


「……」


―――生物として無意識にでも恐怖を感じない訳がない。


ここは至って冷静に対応している相手に合わせるのが得策だと己に言い聞かせて、傍にノワールもいることで八雲は一旦ここでは普段の自分の対応を装うことにする。


だが、このイェンリンこそがノワールの意識の中で人間から除外していた存在―――


―――この世界で唯一Level.100を越える超越者その人だった。


それからベッドの横に置かれていた自分のコートを羽織って八雲は二階で寝ていた部屋から一階の応接室へと向かう。


イェンリンの別邸はエアスト公爵家の公爵邸ほどではない。


だがそれでも充分に大きな屋敷であり、一般人を装っていたイェンリンが「良いところのお嬢様」と偽っていたがこの屋敷ならその偽装も十分過ぎるほど通るだろうと八雲はひとり思っていた。


通された応接室の中には白いブラウスに赤いロングスカートを履いた、長いストレートの銀髪をした美女がお茶の用意をしていた。


「紹介しよう。紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリーの筆頭―――名前はフレイアだ」


「初めまして黒神龍様の御子―――九頭竜八雲様」


紅の戦乙女クリムゾン・ヴァルキリー……というと、あのとき結界を張っていたのは……」


「―――はい。わたくし達です」


「……」


あの時イェンリンに追い詰められた状況でノワールへの『伝心』を妨害した張本人だと言われて、


(こいつが……)


と押し黙る八雲。


「フレイアは余の命に従っただけだ。恨むなら余を恨め、八雲」


とイェンリンに口を挟まれ、八雲は黙って席に着くことにしたがフレイアは八雲を見て複雑な表情をしていた。


一通りお茶も注がれてイェンリンがまず口を開く―――


「まず八雲よ。お前はどこまで覚えている?」


「―――その前に、殺した相手に何か言うことはないのか?」


ここまで黙っていた八雲だったが、もういい加減に謝罪の一言もないイェンリンに対して嫌気が差して一言返すことにした。


「……すまなかったと謝れば気が済むのか?だったら幾らでも言ってやろう。それでお前の自尊心を保てるのなら」


「イェンリン!貴女言い過ぎよ!八雲さんを襲ったのは此方だったのだから、ここは謝罪しなさい」


八雲に睨み返していたイェンリンを紅蓮が諫めるが、


「プライドなんか野良犬にでも喰わせてろ!ただ殺した相手に何も感じないならアンタはとっくに壊れてるって言いたいだけだ!壊れた相手に話が通じるのか?―――帰るぞノワール!」


「八雲が帰るというなら帰ろう。ではな。紅蓮、イェンリン」


そう言って席を立つ八雲とノワールだったがイェンリンが―――


「待て……プライドなど野良犬に喰わせろ、か。懐かしい言葉を聞いた。確かに余は壊れているのかも知れん。御子となって七百年……正常な精神でいろと言うにはあまりに長すぎると思わんか?」


「……」


その質問に当然だが十数年しか生きていない八雲は答えることなど出来ない。


「お前の怒りは言葉だけの謝罪で納得できるものではあるまい。ならば余に出来る範囲で、これからお前の力になることでしか償えん。だから話だけでも聞いてもらえないだろうか?」


「……」


長い沈黙のあとに八雲は席に戻ってゆっくりと腰を下ろすと、それを見たノワールも黙って席に腰を下ろしてハラハラしながら見ていた紅蓮とフレイアはホッと胸を撫で下した。


―――八雲自身はイェンリンの言葉をすべて納得した訳ではない。


だが自分自身死んでから何故か復活していて、その場にいたイェンリンに話を聞かなければ何も分からないまま不安要素を抱えてこの異世界で生きなければならないことは不安要素が大き過ぎる。


「寛大な心に感謝しよう。では改めて八雲、あの闘技場でのことだ。どこまで記憶にあるのか聞きたい」


ゆっくりとした口調で問い掛けるイェンリンの言葉に八雲は闘技場でのことを思い返してみるが、


「……イェンリンに心臓を突かれて、そこで死を体感したところまで、かな?」


「声は、聞こえなかったか?」


「―――声?」


「ああ。女の声だ。息絶えたはずのお前が再び立ち上がって、そして闘技場全体に響き渡るほどの女の声が聞こえていた。憶えはないか?」


「あ、そういえば……何かをインストールするとか聞こえたような……」


「―――それだ!やはり余の幻聴などではなかったようだな」


「八雲、お前のステータスを確認しろ」


そこでノワールからステータスの確認を促されて八雲はステータスを呼び出す。


するとそこには―――




【ステータス】

Name:九頭竜 八雲(ヤクモ=クズリュウ)

年齢 18歳

Level 105

Class 黒神龍の伴侶 超越者 転移者


超越者:Level.100を越えた者


生命 2475754/2475754

魔力 1650503/1650503

体力 1650503/1650503

攻撃 2475754/2475754

防御 1650503/1650503

知力 100/100

器用 100/100

速度 100/100

物理耐性 100/100

魔法耐性 100/100



《神の加護》

『成長』

取得経験値の大量増加

各能力のLevel UP時の上昇数値の大量増加

理性の強化

スキルの取得向上強化


『回復』

HP減少時に回復・超加速

MP減少時に回復・超加速

自身が直接接触している他者の回復・超加速

自身・他者同時に広域範囲回復・超加速

自身・他者の欠損部位の再生

死亡時に完全複製した身体を交換・過去24時間前の身体と交換


『創造』

素材を加工する能力

武器・防具の創造能力

創造物への付与能力

疑似生命の創造能力

疑似生命への自我の移植能力

死亡時に完全複製した身体を創造・過去24時間前の身体を複製


『終末』

自身が死亡時に万物を滅する白き光を放つ

(自己のlevel能力を越える者は耐性によりダメージを負う)



《黒神龍の加護》

『位置把握』

自身の位置と黒神龍、さらに眷属のいる位置が把握出来る

『従属』

黒神龍の眷属、自身の加えた眷属を従える

『伝心』

黒神龍とその眷属、さらに自身が加えた眷属との念話が可能

『収納』

空間を開閉して物質を保管する能力

『共有』

黒神龍と同じ寿命を得る

『空間創造』

自身の固有空間を創造し、その中に建造物、生物を置く能力

『龍印』

性交にて精を受けた全ての異性に『龍紋』の紋章が現れる

加護を贈与した黒神龍以外の異性で御子が性交し紋章を持つものは能力が向上する



《取得魔法》

『身体強化』

魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇

『対魔法防御』

魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力が上昇

『火属性魔術』極位/極位

『水属性魔術』極位/極位

『土属性魔術』極位/極位

『風属性魔術』極位/極位

『光属性魔術』極位/極位

『闇属性魔術』極位/極位

『無属性魔術』極位/極位


《取得スキル》

『鑑定眼』

物質の理を視る

『言語解読』

あらゆる種族の言語理解・文字解読・筆記可能

『酸耐性』

あらゆる酸に対する耐性

『毒耐性』

あらゆる毒に対する耐性

『精神耐性』

あらゆる精神攻撃に対する耐性

『身体加速』

速度を瞬発的に上昇させる・【覚醒】

『思考加速』

任意で思考を加速させる【覚醒】

『索敵』

周囲の索敵能力 索敵対象:生物・物質

索敵マップにマッピング能力

『威圧』

殺気により恐慌状態へ堕とす

Levelの低い対象では死に繋がる

『寒暑耐性』

極寒・灼熱エリアでの体温調整

『限界突破』

能力の上限を一定時間✕3倍(現在突破維持時間0.5時間)


『受精操作』

妊娠操作が可能

『絶倫』

精力の増加

『神の手』

愛情をもって触れる異性に快感を与える

感度の調整が可能

『完堕ち』

性交によって異性を完全に陥落させる

堕とされた異性は性交に関してあらゆる命令に従う


《九頭竜昂明流古武術(八雲強化)》

剣術(強化)

 『凪』『風柳』『破斬』『一閃』

槍術(強化)

弓術(強化)

組討術(強化)

 『衝』




Levelは105へと上がり《神の加護》に新たな項目が加わって『回復』と『創造』の組み合わせで二十四時間前の身体を複製、その身体を入れ換えることで『死』から復活するという不死と言っていい加護と新たに『終末』というカテゴリーが加護に増えていた。


「神の加護の『回復』には複製交換と『創造』に複製創造っていうのが増えて……死んだら新しい身体と入れ換える能力と……それと『終末』っていう項目が増えた。俺が死亡すると万物を滅する白い光が放たれるらしい……」


八雲の説明にイェンリン、ノワール、紅蓮、フレイアの四人が顔を見合わせる。


「なるほどな……余の疑問がこれで解けた」


「―――えっ?」


「まずは八雲の記憶にないところから話をするとしよう―――」


そこからはイェンリンが説明を始めた。


―――イェンリンが見た、あのとき八雲に起こった複製との融合と白い光の爆発について八雲は驚きながら聞いていたが、自分のステータスに新しく加わった能力とも合致する話の内容だった。


「―――あの後に、そんなことが……」


「余の見解を言わせてもらえば、あの女の声は冥聖神だと考えているが?」


「恐らくそうだろう。八雲の『終末』の加護の発動条件からみてもその可能性が高い……いやそれしかないだろう」


「そうね……でも冥聖神はどうしてそんな力を八雲さんに?」


イェンリンが八雲の『終末』の加護について推理してノワールは冥聖神の加護だと断言し、紅蓮はどうしてそんな力を与えたのかと疑問を述べるもイェンリンにはその答えが見えている気がした。


「これはあくまで余の私見だが……『終末』の力は冥聖神の戒めの意味を込めた加護ではないかと考えている」


「―――戒め?どういうこと?」


神の加護が戒めとは、と紅蓮が問い掛けると続けてイェンリンが語っていく。


「神の御心は人などには図り知れぬものだ。余であろうと神龍であろうと、な。加護とは本来何なのか?一般人の中には『回復』といった地聖神の加護を与えられる者もいる」


八雲は不信感を拭えないイェンリンだが、その話しの内容には興味がある。


「だが、八雲の冥聖神の加護を知ったところで、お前はその加護とレーヴェを吹き飛ばしそうになったことを聞いて正直なところ、どう思った?」


そこまで言われて八雲もノワールも紅蓮もハッとした表情になる。


「加護を便利な道具か金儲けの道具などと考えている不届き者もいる世の中だが、それでは駄目なのだ。八雲のその加護は自身の命に対して多大な責任を背負わせているもののように余は感じている」


イェンリンのその考えに反論する意見はない。


「御子という存在となって奢ることも道を違えることもないように何より命を軽んじるなと。尤も広範囲を消滅させるような力など代償が大き過ぎるのだがな……それに余にはとてもそのような生き方は出来ぬし、今までも出来ておらんが」


そう告げたイェンリンは最後に悲し気な表情に変わる。


「お前は命を軽んじ過ぎているだろう?俺を殺したくらいだからな!」


ここぞとばかりに八雲は嫌味をイェンリンに放つ。


「―――それは大昔、余を殺しにきた黒神龍ミッドナイトに言うがいい。その御子を余が狙っても、それでお互い様だろう?」


そう言い返された八雲は驚いてノワールに視線を向ける。


「……それは事実だ」


その言葉を信じられないと八雲は更に驚くがノワールは八雲に向き直して話しを続ける。


「八雲は人よりも神々の多大な加護を与えられている。であれば、このくらいの重責を背負わせるのも当然だと分からなくもないが、それでも……この冥聖神の戒めは人の身には大きすぎるものだ」


そのノワールの言葉に八雲は冥聖神の与えた加護に重責を感じてしまうが、今まで神には様々な力を与えられてきたのだ……


であれば奢らず他者を気づかい、自身を顧みるためにもイェンリンの言う通り『終末』は文字通り神の戒めなのだろうと八雲は強引に今は納得することにした。


「分かった。これからは自分以外の人を巻き込むようなことがないように、自分自身の命について考えを深くもって行動するよ」


八雲の言葉にノワール、紅蓮、そしてイェンリンが頷いて応える。


(―――いや、お前はもう少し人の命を大切にしろよ!)


そうイェンリンに心の中でだけツッコミを入れる八雲。


「さて、では次の話だが八雲とノワールはこのエレファンの不穏な動きについて調べにきたのだろう?」


突然その話しを振られたイェンリンの言葉に思わず八雲とノワールは顔を見合わせてしまう。


「ホント遠くまで見える目と、良く聴こえる耳を持ってますね……」


半ば呆れながらも八雲はイェンリンの話しの先を待つのだった―――



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