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第43話 黒神龍装の新たな創造

―――冒険者ギルドをあとにした八雲とノワール、ジュディ・ジェナ姉妹はともに商店街へと向かう。


店が立ち並ぶ商店街は商人ギルドから近いこともあり、多くの人出が見える活気のある区画で自分達の欲しいものを買おうとジュディとジェナの冒険者ギルドカードに―――


「必要な物があったら買えばいい」


―――大銀貨二枚をジュディとジェナのギルドカードに1枚ずつ移し渡す。


ジュディはそれに驚いて、


「本当に……宜しいのですか?」


と遠慮しまくりの様子だったが、ジェナはカードを見てニコニコして、


「ありがとうお兄ちゃん!」


と満面の笑みを浮かべ、八雲と一緒に並ぶノワールまでほっこりした笑みを浮かべる。


「おお、かまわん!かまわん!好きな物を買えばいい。足らなかったら我が出してやるからな♪」


と勢いよく笑顔で答えていた。


その姿が、八雲にはまるで……


(ノワールさん……孫を甘やかす婆ちゃんみたいになってるんですけど……)


と、思いながらそう見えていたが女性にそんなことを言うのは、いやノワールにそんなことを言った日には、この国が滅亡してしまうかも知れないと昨日の夜に黒龍城で起こったカレー戦争を思い出して口には出さなかった。


それから女性組は雑貨店などを回ってエレファン獣王国に向かう際に必要な物を見繕い始めて、歯ブラシなど細かい物まで見ていた。


それがいつの間にか着替えの服を三人は、キャッキャ!と騒ぎながら選びだしたかと思ったら、次は下着店に訪問……流石の八雲もそこは遠慮する。


「―――なんだ!お前に選んでもらいたいのに、どこに行く八雲!」


と呼び止められそうになるが大声を上げるノワールの声に店内にいた他の女性達から一斉にジト目の視線攻撃を受け、下着選びは断固拒否して八雲は外で待つことにした。


正直に言えば八雲は幼馴染の下着選びにもついて行って、その手の服選びには慣れていて下着も気にせずに選ぶ性格なのだが、流石に異世界に来てすぐにその行動はないだろうと自制していたのだ。


漸く買い物が終わって、かなりの荷物になっていたはずがノワールの『収納』にすべて仕舞っていたので帰りも手ぶらで黒龍城に戻るのだった―――






―――ノワールの命令で、そのまま書斎へと移動する。


書斎はこの世界に来て初めてノワールと御子の話しをして契約した場所で、そのことが八雲にとってはつい先日のことなのに懐かしさを思い起こさせていた。


そうしていると扉がノックされ、その向こうからアリエスともうひとりのメイド……メイド?なのか……という雰囲気の女が入って来た。


その女の歳は八雲と同じくらいでヒールの為か身長は八雲とほぼ変わらず、長いブロンドの癖毛で右目には黒い眼帯を付け、左目は赤い瞳が鋭い視線を飛ばす。


顔は無表情であるが肌は白く見惚れるほど美人でアリエス達と同じメイド服ではあるのだが、下はジェーヴァと同じミニスカートに深いスリットまで入っており、黒いニーソックスとガーターベルトが妙に艶めかしい……いやキャバ嬢?厨二?というド派手な痛い雰囲気を醸し出したキャラだった。


「八雲様。此方に控えているのは序列06位の左の牙レフト・ファング、スコーピオと申します。どうぞお見知りおきを」


そう言って隣の女、スコーピオを紹介するアリエス。


「お前が御子か。俺はスコーピオだ。左の牙レフト・ファングの序列06位で、国外の情報収集が主な任務だ。今回お前とノワール様がエレファン獣王国に向かうとのことで情報員として同行することになる」


「そ、そうか。初めまして九頭竜八雲だ。此方にいるふたりは俺がエレファンの道案内に雇ったジュディとジェナの姉妹だ。ふたりも同行することになるから、よろしく頼む」


「ジュディ=天狼・サデンです。よろしくお願い致します」


「ジェナ=天狼・サデンです!よろしくお願いします!」


スコーピオにお辞儀をして挨拶をするふたりを、赤い片目でジッと見つめているスコーピオだったがやがて口を開いて、


「話はジェーヴァから聞いている。お互いを思いやる優しい心をもった姉妹だと。お前達のことも含めて俺が護ると約束しよう」


(何この子!イケメンすぎるでしょ?!)


と思った八雲だが、どうやらジェーヴァからふたりの話を聞いていたようで何があったか知っているといった口振りなので、改めて話す必要もないだろうと考えた。


「御子よ。お前もノワール様が選んだ男だけのことはあるようだ。是非とも一度手合わせを願いたいものだな」


「あはは……お手柔らかに頼む」


龍牙騎士ドラゴン・ファング・ナイトの序列12位までの子達はどの子も八雲の実力を以てしても拮抗する、いや負けるのではないかと思える強者達が揃っている。


そんな相手と手合わせしようものなら、下手をすれば周辺を焦土と化すかも知れないと八雲は冗談抜きで思っていた。


「八雲様。暫く城を空けることになるのですからアクアーリオとフィッツェ、それにこのスコーピオにも『黒神龍装ノワール・シリーズ』をお与え願えませんでしょうか?」


「ああ、そうだ!アクアーリオとフィッツェに何が欲しいか聞こうと思ってたんだ!そうだな、今から三人の武器を『創造』しようか」


八雲はエレファン獣王国に向かうため出発前に三人に黒神龍装ノワール・シリーズを造っておこうと考え、そこでシュティーアの工房にアクアーリオとフィッツェも呼ぶようにアリエスに伝えると、スコーピオとノワール達も連れて工房に向かった―――






―――シュティーアの工房に集合したアクアーリオ、フィッツェ、スコーピオ。


「あら♪ お久しぶりね、スコーピオ。城に戻っていたのね」


アクアーリオがスコーピオの顔を見て嬉しそうに声をかけると、スコーピオが無表情から少し顔を綻ばせて、


「ああ、今日戻ったところだ。明日には御子とノワール様の御供でエレファンへ向かう」


「ゆっくりする間もないのはいつものことね♪ ところでわたくし達は、どうして此処に呼ばれたのでしょうか?」


フィッツェの言葉に全員の視線が八雲に集中すると、この招集の理由を説明した。


「わたくし達にまで黒神龍装ノワール・シリーズを?」


「よろしいのでしょうか?ノワール様」


アクアーリオとフィッツェは遠慮していたが、スコーピオは逆に貰えるというのなら有難く頂こうと八雲の話しを受け入れてくれた。


「八雲が渡したいと言っているのだから、受け取るかどうかは我が口を挟むことではない。己で決めよ」


ノワールも自身で決めろと諭すのでアクア―リオとフィッツェも納得した。


そこで三人にそれぞれ使い慣れた武器について訊いてみると、


アクアーリオは……


「―――包丁ですね♪」


(んん?それは武器なのかな?武器……なのか……確かに使い慣れているだろうけど)


フィッツェは……


「―――鞭ですわ♪」


(んん?それってどこで使っているのかな?……と言うか誰に?)


スコーピオは……


「―――ダガーだな」


(まさかのスコーピオが一番武器らしい武器を選ぶとは……)


と、三者三様の返事を聞いて色々と言いたいこともあった八雲だが、もうここは黙って『創造』に入ることにした―――






―――『収納』から取り出す黒神龍の鱗。


ドンドン!と床に積み、まずはアクアーリオの包丁から造っていくことにする―――


いつものように『創造』を発動し、目の前の鱗が変形して姿を変えていくとジュディとジェナは驚きの目でその様子を見つめていて、同じくスコーピオもクールな表情が驚きの顔に変わって見つめている……


鱗を二枚使い、アクアーリオの望んだ姿が現れた―――




―――黒包丁、銘を肉斬にくきり骨斬ほねきり


二本ともに刃渡りは四十cmほどで全体が鏡面クロムメッキ仕上げとなって肉斬は洋包丁の牛刀に似ていて長い形をしており、骨斬は和包丁にある骨切包丁に似た形で肉斬より分厚く、骨も両断出来る丈夫な包丁の形をしている。これでますます料理が捗る業物だ。




(だが、これは武器と言えるのか……)


いや普段使い慣れたものが一番能力を発揮するので、これでいいだろうと八雲は無理矢理に自分を納得させる。


次にフィッツェの希望に応えるため、再び『創造』を発動する―――


そして細長い形に姿を変えていく鱗を周囲の者は興味深く見つめていた。




―――黒鞭、銘を雷公らいこう


黒神龍の鱗を超極小の鎖状繊維に加工し、さらにその繊維を高密度で編み込み形成した黒い鞭。黒神龍の鱗で造られているため、当然刃物などで切断することは不可能。使い手により攻撃・防御を両立させる武器。ちなみに今までの『創造』の中ではトップクラスの精密度を必要とした一品だった。繊維ひとつひとつがクロムメッキ調に仕上げられているため、振るうと黒い稲妻が走ったかのように見える。




(しかし鞭って……)


フィッツェのお淑やかな雰囲気からは想像もできない得物だが、八雲はボンテージファッションに身を包んだフィッツェの所謂『女王様』を想像すると身震いした……色々な意味で。


気を取り直して、最後にスコーピオの武器を『創造』する―――


彼女の希望はダガーということで八雲は自分の世界で有名な映画で、某ベトナム帰還兵が使っていたサバイバルナイフを連想する。




―――黒短剣、銘を奈落ならく


全長四十五cmの短剣ダガーで鏡面加工された片刃で刃幅は広く、背にはノコギリ刃も付いた大型のサバイバルナイフ。本格的な戦闘から暗殺、料理からサバイバルにまで幅広い用途に使える万能ダガーである。八雲の世界で有名な映画のベトナム帰還兵の乱暴者が使用していた乱暴ナイフを参考にした。




一気に三つの武器を造り終わって、


「ありがとうございます八雲様♪ ちょうど新しい包丁が欲しかったんです♪ 特に骨が切れるなんて、ますます料理が捗ります♪」


「そ、そうか。喜んでもらえてよかったよ……」


(なんか主婦みたいな感想になってるんですけど?)


「こんな精巧な鞭を頂けるなんて、これは夜が楽しみですわ♡」


「そ、そうなんだ。……ほどほどにね?」


(あれあれ?それって……誰に使う前提なのかな?)


「話には聞いていたが、これが黒神龍装ノワール・シリーズ……この輝きの中に実用性を兼ねたディテール。素晴らしいな」


「お前分かってるやつだな!スコーピオ!!」


「うお!突然どうした御子?どこか調子でもおかしいのか?」


一番武器としての評価をくれるスコーピオが八雲にとって一番の理解者に見えて彼女の両肩をパンパン叩いて喜ぶ八雲と、それを見たシュティーアは武器を造る側として八雲の気持ちを何となく察していた……


「さてと、武器の『創造』も終わったことだし、今日は早く休んで明日の朝には出発するぞ!」


ノワールの号令に、元気なジェナが、オオ~♪ と元気に返事をして、その場を締め括ったのだった―――






―――そうして寝不足だった八雲も一晩しっかり睡眠を取り翌朝を迎える。


黒龍城の正門前には黒麒麟四頭引きのキャンピング馬車が乗車客を待ちわびていた。


新たに揃えた服で出てくるノワール、ジュディ・ジェナ姉妹と今回同行するスコーピオ。


全員乗り込み、いつも通り門兵に挨拶をしながら城門を通過して、まずはエディスから受けた希少鉱石の受け取りのためアードラーの依頼主の商会へ赴き無事に鉱石を受け取る。


商会の主は依頼を受けた冒険者がまさか黒神龍とその御子とは思ってもいなかったため、本当に依頼していいのか恐縮して確認してきたが八雲は気にしないでと主に言って納得させた。


「よし!受け取り完了!と言っても、そのまま『収納』行きにしただけだけど……」


希少鉱石は大きめの木箱二十箱あったので、そのまま『収納』に仕舞うと商店の主が目玉が飛び出さんばかりに驚いていた。


そして馬車を発車し、約千kmの道のりを行く旅に出発したのだった―――






―――道のりはティーグル皇国から平野が続き国境にはプロミス山脈という連峰が横たわっているが昔から国交があり、山と山の間に山道が整備されている。


山脈を越えればエレファン獣王国の首都レーヴェまでは再び平野が続く道のりとなるので、山脈以外は比較的安全な道程だった。


約千kmの道のりを安全も考慮して時速五十km/hの速度で走行し約二十時間。


途中で夜になるので一旦停車し、一晩野営をして翌朝にエレファン獣王国に入国する計画を立てた。


「―――凄ぉい♪ この馬車本当に速いね!お兄ちゃん♪」


窓の外の流れる景色を見ながらジェナはキャッキャとはしゃいでおり、その姿を見てジュディはニコニコ、ノワールはニヤニヤ……


「八雲が我のために造った馬車だからな!」


とノワールは相変わらずの馬車自慢をベラベラとジェナに聞かせているが、ジェナもその話に瞳をキラキラさせて聞いていた。


「しかし《空中浮揚《レビテーション》》を付与することで荷重が掛からない馬車とは、発想の転換ひとつでこれほど快適な旅ができるとはな。俺が今まで使っていた普通の馬車にはもう乗れなくなるな」


スコーピオも外の流れる景色を見ながら今まで任務のために使用していた馬車の乗り心地の悪さを思い出して比較し、これから普通の馬車を利用することには躊躇してしまうだろうと溜め息を吐いていた。


馬車はティーグルの草原の中を貫く道を、エレファン獣王国に向けて進んで行った―――



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