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第38話 キャンピング馬車で初めての夜

「―――八雲様、お背中を流させて欲しいッス/////」


振り返った八雲の目の前には一糸纏わぬ健康的な引き締まった裸体で入って来たジェーヴァが顔を赤くして立っていた。


「ちょっとジェーヴァさん?!―――突然どうした?!」


一瞬呆気に取られたものの、すぐに我に返った八雲は冷静に考えることを試みるが、ジェーヴァの健康的な肉体が真正面から目に入りイマイチ考えが纏まらない。


「突然じゃないッス。今夜、八雲様と一夜を共にすることをノワール様にお話したら自分の気持ちを伝えて、甘えていいってお許しを頂きましたッス/////」


「気持ちって……」


その時ジェーヴァは深く深呼吸をする―――


「……お慕いしています八雲様。こんな機会は次いつ来るかわかんないッス!でも……八雲様がご迷惑だったら―――/////」


―――その瞬間、八雲は無言で湯船から立ち上がった。


「ヒャッ?!や、八雲様……/////」


ジェーヴァは真っ赤な顔を両手で覆いつつも、指の間からはしっかりと翡翠のような瞳が覗いていた。


「迷惑なんて思うわけない。今日だって俺のために頑張ってくれたし、正直言ってジェーヴァは綺麗だ」


「じ、自分、綺麗ッスか?!/////」


慕っている八雲に綺麗だと言われ、頭の中が沸騰したように熱くなるジェーヴァに続けて八雲は問い掛ける。


「ノワールとも話したけど皆が俺のことを想ってくれているなら、俺は全力でその想いに応えたい。本当にいいんだな?ジェーヴァ」


「は、はいッス!/////」


その返事を聞いた八雲は湯船から出て立っているジェーヴァの目の前に立つとシャワーを出し、その下でそっと彼女を抱きしめる。


「あ!/////」


下を見るとジェーヴァの健康的で張りのある大きな胸が八雲の胸板に擦り付けられていた。


「あううっ…/////」


恥ずかしそうにして俯くジェーヴァの顎を手でクイッと上を向かせた八雲は、そのままジェーヴァの潤いのある唇に優しくキスをする。


「ンウッ?!/////」


生まれて初めての男との口づけにジェーヴァはビクリッ!と身体を震わせるも、優しく触れてくれる八雲の唇の感触が次第に快感へと脳内変換されて感情が溢れてきていた。


そんなジェーヴァの様子を見て、八雲は少しずつジェーヴァの下唇に舌を這わせ、彼女に舌を出すようシグナルを送る。


すると、それに応えるようにしてジェ―ヴァも八雲の唇に舌を接触させて、やがてお互いの舌が出会った―――


「んっ/////」


そこからはあらゆるキスを繰り返すふたり……


「ぷはっ!―――ジェーヴァ、お互いの身体を洗い合おうか」


「え、あ、はい/////」


キスに夢中になりすぎて、ボオ~としていたジェーヴァの水色の髪を撫でながら八雲は黒龍城から持ち込んだ石鹸を手に取る。


そしてジェーヴァと一緒に両手で泡を立て、ゆっくりとお互いの身体に撫でつけていった。


「まだ、夜は長いからな。ジェーヴァ」


耳元で囁かれる八雲の囁きにジェーヴァの脳は蕩け、身体はビクリッ!と震えて喜んでいた。


「はぁい……やくもさま/////」


ジェーヴァの感情はとっくに振り切れて、頭の中は八雲のことですべて塗り潰されていった―――






―――翌朝、ジェーヴァと首都アードラーに戻った八雲達


「おお―――ようやく戻ったか、八雲」


エアスト公爵邸の門を通り抜けて屋敷の正面にキャンピング馬車を止めて、中から降りてきた八雲にノワールが近寄って来た。


「―――ただいまノワール。公爵は?」


「ああ、今日は朝早くから昨日のゴルゴダ山の件で城に登城した。お前達にも戻ったら城に来て欲しいとのことだ」


「そうなるだろうな……ふぁ~・・・」


「なんだ?寝不足か?」


「いや、寝てない……」


「は?……お前……それって、まさか―――」


途端に鋭い目つきで八雲を見るノワール、だがそんなところに馬車からジェーヴァが、やや振らつく足取りで降りてきた。


「お、おはようございます、ノワール様/////」


顔を紅潮させたジェーヴァをジト目で見つめるノワール。


そしてそんなノワールがジェーヴァに一言―――


「―――垂れてるぞ」


「エッ?!」


その言葉に思わず両手でミニスカートの上から股の辺りを抑え込むジェーヴァを見て、


「あはははは!!お前も寝ていないのかジェーヴァ?だから八雲は凄いと言っておいたろう?―――それで?どうだった?んん?」


高笑いしてなおもジェーヴァを追い込むおっさん臭いノワールの態度に、顔を真っ赤にしたジェーヴァが、


「さ、最高だったッス/////」


と、ぼそりと一言答えたのを見て、ノワールは「そうか!そうか!」と肩を叩いて喜んでいた。


「おめでとう、ジェーヴァ」


一頻り笑ったノワールは、少し表情を引き締めてジェーヴァを祝福する。


アリエスに続いて八雲の妻という立場になる『龍紋』をその身に刻んだジェーヴァはノワールに頭を下げる。


「ノワール様、この度のご配慮、心から感謝を」


改まって一礼するジェーヴァに笑みを浮かべて答えるノワール。


「気にするな!さて、それじゃふたりとも!疲れているだろうが、このまま城までつき合ってもらうぞ!」


ゴルゴダ山の件について当事者である八雲とジェーヴァが行かない訳にもいかず、ノワールの言葉に当然同意した。


そして改めて三人で馬車に乗り込み、アークイラ城へ向けて出発するのだった―――






―――アークイラ城・玉座の間にて、


到着したノワール、八雲、ジェーヴァの姿を見て玉座を退こうとするエドワードだが、


「気をつかわなくていい。玉座は人の王のものだ。それに我の玉座は八雲の隣だけだ」


(―――え?何それ惚気?)


と思った八雲だがノワールがそう言ったことで玉座にはそのままエドワードが座したまま、今回の経緯を説明する八雲の話しを玉座の間に集まった者達は黙って聞き続け、一通りすべての話を聞き終えると―――


「―――そんなことが……それは誠の話なのか?御子殿」


―――エドワードが問い掛けた。


「はい。あくまでリッチの話というだけで確証も何もありませんが」


今、玉座の間にはエドワード王と息子のアルフォンス王子、ゲオルク王子、そしてヴァレリア王女とエアスト公爵クリストフに大臣が数名、近衛騎士団のラルフ団長と軍部の騎士団長が参列していた。


ゲオルクは謹慎していたが危急の内容だっただけに今回この場に参列している。


「エレファン獣王国とはここ五百年間、戦争をした歴史はないが話にも出てきた奴隷問題が火種として燻っているのは事実だ。しかし暗躍に走る真似をするような王ではないと思っていたのだが……」


口髭に手をやりながらエドワードは困惑した表情を漂わせている。


「―――父上!これは由々しき問題です!エレファン獣王国に使者を遣わせ、すぐにでも真意を問うべきでしょう」


そこでゲオルクが進言してくるがエドワードの表情は固い。


また、それと同じくアルフォンスも曇った表情のまま歯を食いしばっているのが八雲にも見えている。


それもそうだろう、第一王子アルフォンスの正室はエレファン獣王国の第一王女なのだから、この状況はアルフォンスにとっては身内同士の問題だ。


「アルフォンス殿下の正室はエレファン獣王国の王女と伺いましたが、そうなんですか?」


八雲の言葉が玉座に響くと、王族の面々はアルフォンスに視線を向けて沈黙している。


「……ああ、確かに妻はエレファン獣王国の第一王女だが」


「―――此処に呼んでもらえませんか?」


この場に呼べと言い出した八雲の言葉に、アルフォンスの表情が烈火の如く赤くなり眉間に皺を寄せて―――


「妻は関係無い!―――御子殿は我が妻が今回の件に関与していると言いたいのか!!!」


玉座に轟くアルフォンスの怒声にヴァレリアと文官の大臣達はビクリ!と肩を竦めて、ゲオルクはニヤリと嫌味な笑みを溢していた。


「落ち着けアルフォンス。今は冷静に事に当たらなければ取り返しのつかぬことにも成る……御子殿、何故此処に王女を呼べと言われるのか?」


「俺の言い方が悪かったか。謝罪します。件のゴルゴダ山に住み着いたリッチが、エレファン獣王国の国王について気になることを言っていたので、その真偽を確かめたいだけです」


「気になること?それは王女でなければわからないことか?」


エドワードが更に問い掛けると、


「長く身近にいた人に訊くのが、一番確証に近い答えを得られると思います」


揺るぎない八雲の瞳を覗き込むように見つめ、呼ばなければ先に話が進まないと結論を出したエドワードは、


「うむ……アルフォンス、王女を此処へ呼べ」


「親父殿!!……ハァ……わかった……」


激昂しそうになったアルフォンスをエドワードは片手を上げて制止したがそれは王である父の、この場でこれ以上の醜態を晒すなという自制を促す意味と、妻を信じているなら狼狽えずに呼べという意味が込められていると無言の中に読み取り、玉座に控えていた従者に妻の呼び出しを命じる。


「王女が来られるまでに、ひとつ訊いておきたいんですけど?」


間が空いてしまうので八雲がエドワードに訊きたいことがあると言うと、王はそれに頷いて了承する。


「俺はこの国に来て日が浅い。だからティーグルとエレファン獣王国について、現状はどのような状況なのか把握しておきたい。先のゴルゴダ山の鉱山の中には、鎖で繋がれて慰み者にされていた獣人の女達がゾンビにその身を堕としていた。奴隷制度があるのは知っているけど、あんな扱いを見ると恨みを買うには充分な理由になると思うけど?」


「黙れ!―――王の御前だぞ!如何に御子といえども、一国の王の前で無礼であろう!」


八雲の言葉にゲオルクが怒声を上げて口を挟むが、その瞬間その場がドス黒い『威圧』に包まれる―――


「今は我の御子と王が話している……お前こそ弁えよ、小僧……」


八雲の隣で黙っていたノワールが広大な玉座の間を一瞬で満たすほどの『威圧』を生じさせたことで、王族も大臣達も、武人たるラルフや他の騎士団の団長達も戦慄と死を同時に感じとって声も出せない。


「ノワール、もういいよ。それを続けちゃうと話出来ないから」


「……」


ノワールは無言で『威圧』を解除するが、まだ誰も言葉が出せない。


「俺はただ二国間の現状を知りたいだけだ。アルフォンス殿下の正室がエレファン獣王国の王女というのも、国同士で関係をどうにか良くしようっていう考えがあってのことじゃないんですか?」


するとアルフォンスが先に答える。


「……確かに、俺と妻の婚姻は国同士の関係を良好にしようという意図はある。だが、それ以前に俺と妻は幼い頃から知っている間柄でな。俺達が幼い頃は、まだ今ほど奴隷問題などが表面化している情勢じゃなかった。俺達が幼い頃には、もう婚約者として決まっていたことで互いの国を行き来することも珍しいことじゃなかったくらいだ」


「なるほど……いわゆる幼馴染、という間柄だったんですね」


幼馴染という言葉に八雲は元いた向こうの世界にいる幼馴染の顔を思い浮かべてしまい、アルフォンスの複雑な気持ちもわからない訳ではなかった―――



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