―――黒い魔力の奔流は竜巻状になり、鉱山洞窟の広大な広間で唸りを上げていた。
【この期に及んで、ふざけた奴だ……だが招いた覚えのない侵入者に掛ける情けはない】
言葉を終えた瞬間に黒い竜巻は弾け、周囲に衝撃を撒き散らしながら竜巻のあった場所に黒いローブ姿が現れる―――
「……お前がこの洞窟に住み着いたリッチか?」
八雲は目の前のローブの男、いや殆ど白骨化していて性別は不明だが、重低音の野太い声からして恐らく男だと推測している相手に言い放つ。
【如何にも……我はエレファン獣王国より、この地に舞い降りし不死なる存在】
「エレファン獣王国?確か隣の国だったよな?そんなのが何で態々国境を越えて隣の国まで来たんだ?」
【……これから死の旅路に出る汝らに……教える義理はない】
そこで骨だけの右腕を前に突き出して―――
【―――
闇属性魔術・
―――八雲は『思考加速』と『身体加速』を発動し、襲い来る闇の魔弾を黒刀=夜叉で高速の連撃を繰り出し尽く弾き飛ばす。
ジェーヴァもまた『身体加速』で襲い来る闇弾を的確に黒籠手=黒鉄でミートして一発も自身には命中させずに消滅させていく―――
【ほう……只の冒険者ではないか……ならば―――】
そう言って右手を繰り出したリッチは、強大な魔力の収束を始める。
【闇へと帰れ
―――
―――そう唱えた途端、収束された魔力が八雲達に向かって飛来して、そこから真暗闇の電をスパークさせた闇属性魔術・上位
「オオオォ―――ッ!」
「―――八雲様!!」
洞窟全体を揺るがすほどの衝撃と轟音を撒き散らす黒い魔力は八雲とジェーヴァを飲み込んで洞窟の天井を突き抜け、天井の岩盤が崩れて落下してくると同時にゴルゴダ山の中腹辺りから天に向かって黒い雷光の柱が立ち上がった―――
―――ガラガラと今も崩れ落ちる天井の岩盤
周辺は
【……フッ……姿も残らずに弾け飛んだか……】
リッチは立ち込めた土煙を見つめながら八雲達の生命反応を感知出来ないことで、ふたりの死を確信していた。
だが次の瞬間―――
ズバアァ―――ッ!とローブが切断される音と同時に、リッチの左肩から腰の右側まで一直線に断裂される。
それは頭上より握り締めた黒刀=夜叉を振り下ろし、地面へと着地した八雲の仕業であり、同時に今度は八雲に続いてジェーヴァがリッチの断裂された上半身に向かって―――
「―――喰らえッス!!!」
―――黒籠手=黒鉄を捻りコークスクリューの魔力を乗せて、残像を繰り出す拳の連撃をリッチに叩きつけて粉々に粉砕した。
だが、上半身と下半身を袈裟斬りに分断され、さらには粉々にまでされたリッチだったが再び身体の破片同士が集合し、再生を始めていく―――
【―――貴様ら!あの爆発を受けても……生きていただと!?】
―――ほぼ再生されたリッチは、声に驚愕の空気を漂わせて八雲に問い掛ける。
「ああ、まあビックリしたけど
「八雲様、あの骸骨やっぱり再生するみたいッスねぇ。もう元に戻ってるッスよ」
【
「―――魔力の大きい方が勝つんだよな?どうやら俺の魔力が上だったみたいだ」
―――八雲の言葉に表情の作れない骸骨のリッチだが、確実にその声は焦りと得体の知れない相手を目の前にして理解出来ない不気味な者に対する恐怖が芽生えていた。
【そんな……人間如きが……リッチである我が魔力を超えている……だと!?―――そんなことあるはずが!!】
突きつけられた現実に狼狽えたリッチは、お構いなしといった混乱状態に陥って無数の
―――既にリッチは己の力が及ばないことを突きつけられたが、それでもまだ己には無限に近い再生能力があることを自負して八雲達に対して無駄な攻撃をしながらも自らを鼓舞していた。
そんな状況の中でジェーヴァがある提案を八雲に持ちかける―――
「―――八雲様、こいつならLevel上げに良いんじゃないッスか?死なないッスから」
ジェーヴァの突然の提案に、八雲は驚愕の表情で―――
「ジェーヴァ―――お前、天才か?!」
―――リッチを用いてLevelを上げる手段を思いついた。
【は?……Level上げ……だと?】
「よし!
―――
ふたりの話に着いていけないリッチが困惑しているところに八雲が光属性・中位
【―――な?!貴様!一体何を!!放せぇ!!!】
―――光属性の鎖に繋がれ、上手く魔力を操ることも出来なくなったリッチが身体を揺らして逃れようとするが、それを見て八雲がゆらりと近づいてくる。
「……お前、何回でも再生できるんだよな?」
【は?何を言って……】
「だったら、何回切り刻んでも……勝手に再生してくれるんだよな?」
【お、おい、まさか……貴様……】
不死の身体を得て久しく覚えていなかったもの―――『恐怖』という感情がリッチを包み込む。
ニタリと不気味な笑顔を浮かべて問い掛ける八雲に、リッチはその意図を察して鎖を解こうと藻掻くが時既に遅しである。
「それじゃ、俺のLevel上げにシッカリ付き合ってくれよ?―――サンドバッグ君♪」
この世界のLevelとは―――
敵のトドメを刺すことでも経験値は獲得出来るが、繰り返し攻撃を行って熟練度を上げていくことで獲得することも出来る。
そうしてLevel上昇に必要な経験値に達することによって次のLevelへと上昇することが出来るのだ。
だとすれば、拘束されて何度も再生するリッチは―――
―――八雲にとって最高のサンドバッグだった。
【や……や、やめろぉ―――!!!】
洞窟の広間に響くリッチの叫びと同時に、
「
―――『
Level.100を目指した際にも繰り出した『破斬』を思う存分リッチに撃ち込むのだった―――
―――そこから5時間……八雲は『破斬』のみならず『衝』『凪』『一閃』など、九頭竜昂明流の剣術や体術を繰り返し、まるで型を確認するように何度も何度もリッチに叩き込み、斬り込むことで充実した鍛錬を行っていた。
斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る・砕く・斬る……
―――エンドレスな破壊の連続だった。
途中、休憩しているとジェーヴァから―――
「自分もちょっと鍛錬していいッスか?」
―――と八雲に言ってきたので、
「どうぞどうぞ」
とリッチ=サンドバッグを譲った―――
「―――シュッ!!」
一息でジェーヴァがリッチに繰り出した拳が顎、鎖骨、肋骨、腰の骨を同時に破壊していたのは八雲の目をもってしてもすべてを見切るのは至難の業だった。
それから更にラッシュを決めていくジェーヴァの身体は高速の動きが冴えわたり、まるでVTRの高速再生のような残像と化した身体が規則正しく動いている様にしか見えない……
【……も、もう……やめろ……】
「あ、気にしなくていいッスよ?まだまだイケるッス♪」
粉砕されて再生したリッチの顎を、再びジェーヴァが砕き飛ばす―――
―――そんなサンドバッグ状態を5時間も喰らっているリッチは、如何に不死者といえども精神的に屈辱と、羞恥と、怒りと、焦燥感で精神崩壊しそうになっていた。
その後、八雲は魔術練度の向上のため、あらゆる属性の魔術をリッチに繰り返し撃ち込む―――
―――光属性魔術では加減を間違って、もう少しでリッチを消滅させてしまうところだった。
そんな状況が延々5時間ほど過ぎて、一旦攻撃の手を止めた八雲は自分のステータスを広げてみる―――
【ステータス】
Name:九頭竜 八雲(ヤクモ=クズリュウ)
年齢 18歳
Level 104
Class 黒神龍の伴侶 超越者 転移者
超越者:Level.100を越えた者
生命 2220407/2220407
魔力 1480271/1480271
体力 1480271/1480271
攻撃 2220407/2220407
防御 1480271/1480271
知力 100/100
器用 100/100
速度 100/100
物理耐性 100/100
魔法耐性 100/100
《神の加護》
『成長』
取得経験値の大量増加
各能力のLevel UP時の上昇数値の大量増加
理性の強化
スキルの取得向上強化
『回復』
HP減少時に回復・超加速
MP減少時に回復・超加速
自身が直接接触している他者の回復・超加速
自身・他者同時に広域範囲回復・超加速
自身・他者の欠損部位の再生
『創造』
素材を加工する能力
武器・防具の創造能力
創造物への付与能力
疑似生命の創造能力
疑似生命への自我の移植能力
《黒神龍の加護》
『位置把握』
自身の位置と黒神龍、さらに眷属のいる位置が把握出来る
『従属』
黒神龍の眷属、自身の加えた眷属を従える
『伝心』
黒神龍とその眷属、さらに自身が加えた眷属との念話が可能
『収納』
空間を開閉して物質を保管する能力
『共有』
黒神龍と同じ寿命を得る
『空間創造』
自身の固有空間を創造し、その中に建造物、生物を置く能力
『龍印』
性交にて精を受けた全ての異性に『龍紋』の紋章が現れる
加護を贈与した黒神龍以外の異性で御子が性交し紋章を持つものは能力が向上する
《取得魔法》
『身体強化』
魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇
『対魔法防御』
魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力が上昇
『火属性魔術』極位/極位
『水属性魔術』極位/極位
『土属性魔術』極位/極位
『風属性魔術』極位/極位
『光属性魔術』極位/極位
『闇属性魔術』極位/極位
『無属性魔術』極位/極位
《取得スキル》
『鑑定眼』
物質の理を視る
『言語解読』
あらゆる種族の言語理解・文字解読
『酸耐性』
あらゆる酸に対する耐性
『毒耐性』
あらゆる毒に対する耐性
『精神耐性』
あらゆる精神攻撃に対する耐性
『身体加速』
速度を瞬発的に上昇させる
『思考加速』
任意で思考を加速させる
『索敵』
周囲の索敵能力 索敵対象:生物・物質
索敵マップにマッピング能力
『威圧』
殺気により恐慌状態へ堕とす
Levelの低い対象では死に繋がる
『寒暑耐性』
極寒・灼熱エリアでの体温調整
『限界突破』
能力の上限を一定時間✕3倍(現在突破維持時間0.5時間)
『受精操作』
妊娠操作が可能
『絶倫』
精力の増加
『神の手』
愛情をもって触れる異性に快感を与える
感度の調整が可能
『完堕ち』
性交によって異性を完全に陥落させる
堕とされた異性は性交に関してあらゆる命令に従う
《九頭竜昂明流古武術(八雲強化)》
剣術(強化)
『凪』『風柳』『破斬』『一閃』
槍術(強化)
弓術(強化)
組討術(強化)
『衝』
―――Levelは104まで上がっていた。
以前と比べると飛躍的には上がらないもののスキルが更新されていて、
『寒暑耐性』
極寒・灼熱エリアでの体温調整
『限界突破』
能力の上限を一定時間✕3倍(現在突破維持時間0.5時間)
というスキルが目につき、他にも元々あったスキルのグレードアップした能力も追加されていた。
《神の加護》にも疑似生命へ自我を植え付ける能力という試したくなるような能力も目についた。
「Level.100……そこから更に越えられるんだな……104まで上がったぞ」
「おお!さすが八雲様!やっぱリッチを使って正解だったッスねぇ♪」
「そうだな。リッチ様々だったな」
【……お、終わったのか……】
時間もいい頃になったので八雲達が鍛練を終えたような会話を交わしているのを聞いて、リッチは見た目再生しているが精神的にはボロボロに追い込まれていた中で呟く。
「ああ、お前のおかげでLevelも104まで上がった。ありがとな」
【Level.104だと!?……まさか……そ、そんな人間が……存在するなんて……信じられん……】
八雲のLevelに驚愕するリッチだが自分が受けたあらゆる攻撃の拷問を思い返せば、英雄Levelの60を超えているのは嫌でも納得出来ることだった……
「さて、それじゃ―――次はお前の話だ」
【ッ?!……話とは?】
急に真面目な表情で睨む八雲にリッチは緊張が走る。
「お前はエレファン獣王国から来たって言っていたよな?改めて訊くが、どうしてティーグルのこんな内陸までやってきた?目的は何だ?」
【……それは……エレファン獣王国の王と……契約を交わしたからだ】
「―――王と契約?それはどんな契約だ?」
【このティーグル皇国で……アンデッドを増やせ、とな……いずれこの地はエレファン獣王国のものになると……それに協力すれば……アンデッドの領地を与えるという契約だ】
リッチの告白にジェーヴァが驚愕する。
「エレファン獣王国が、このティーグルに攻めてくるってことッスか!?―――あり得ないッス!」
「どういうことだ?」
この世界の国際情勢にはまだまだ疎い八雲には、ジェーヴァの驚愕の表情の意味が分からなかった。
「―――確かにエレファン獣王国とティーグル皇国には獣人の奴隷問題という火種が燻ってはいるッスけど、それでも五百年以上戦争を起こしたことなんてなかったッス。それに、ティーグル皇国現国王の第一王子アルフォンス殿下の正室はエレファン獣王国の現国王の娘、つまりエレファン獣王国のお姫様ッス!」
「なるほどな。だがそれなら何故こいつを送り込んだんだ?おいリッチ、お前本当にエレファン獣王国の国王から直接言われたのか?」
【ああ、だがその王の傍らには……恐ろしい力を持った女がいた……正直人間ではないということは一目で分かったが……我には関係ないからな】
続けて八雲が問い質す。
「此処でアンデッドを増やして、その後はどうするつもりだったんだ?」
【ここで一千のアンデッド軍団を編成し……この領地で暴れておけとしか言われていない……この地よりアンデッドの軍団をどんどん増やして……エレファン獣王国が国を獲れば、あとは攻め入った土地を我のものに、アンデッドの領地にしていいということだった】
「八雲様、これは……」
「―――ああ、帰ってノワールと公爵に相談しよう」
【で、では……我はもうよいのだな?】
リッチはこれでようやく解放されると思い、内心ホッとすると笑顔の八雲が―――
「ああ、付き合ってくれてありがとな!
―――《死者浄化《ターン・アンデッド》》!!」
【ッ!なにィイイッ!!GYAAAO―――ッ!!!】
―――発動した強烈な清浄の光で身体を焼かれるような感覚を受けると、光の鎖に繋がれたリッチが瞬く間に浄化されていく。
【何故だァアアアッ!!!―――我がこのような終わり方などォオオッ!!!……】
「それはお前の因果応報だ……」
そして消滅する寸前にリッチの頭蓋骨に冒険者ギルドカードを翳すと、カードに記載されていた討伐依頼に依頼完了の印が浮かんでいた―――
―――ようやくゴルゴダ山の鉱山洞窟から外に出た八雲達だったが、既に空は真っ暗な夜の闇に包まれて空には八雲のいた世界では見たことがない配列の星々が輝いている。
「随分と良い時間になったなぁ……」
日本のように街灯が彼方此方にあるような世界ではないこの異世界の夜は純粋な暗闇が広がり、雲から少し顔を出している月明りだけが頼りだった。
「あの……八雲様。今からアードラーに戻っても到着するのは深夜になってしまうッス……なので今日は此処で野営してから戻りませんか?/////」
月明りだけで暗いが、ジェーヴァの顔がほんのりと赤くなっているように八雲には見えていた。
「そうだな……よし!俺は黒神龍の馬車を出すから、今夜はそれで休もう」
「―――了解ッス♪ あっ!ノワール様には自分が『伝心』で報告しておくッス!/////」
「そうか?一応リッチの話も伝えておいてくれ。俺は馬車の用意をしておくよ」
妙に楽しそうなジェーヴァが気になったが、八雲としても黒神龍の馬車によるキャンピングカーとしての機能を確認できることは楽しみで、特に気にしなかった。
―――この後、
八雲がジェーヴァと一夜を共にするのだが……
―――キャンプを楽しむように馬車を用意する八雲。
しかしこれがジェーヴァの初夜になるとは、この時の八雲には思いも寄らないことだった―――