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第27話 アークイラ城へ

―――たった一日で黒龍城に戻った八雲だが、この後の午後をどう過ごすか考えていた時にノワールから我が儘が飛び出した。


「我も馬車が欲しいぞ!八雲!―――だから造ってくれ!」


「……へ?馬車?」


突然の言葉に困惑する八雲だがノワールに理由を聞く―――


「―――クリストフ達の馬車が羨ましかった!あと黒神龍たる者、馬車の一つも持っていないのは恰好がつかんだろう!」


との理由が八雲に返ってきた……


「馬車って言われてもなぁ……大体、馬はいるのか?」


「―――そんなもの、いるわけないだろ!」


と、何言っているのだ?お前は?くらいの表情で当たり前と言わんばかりの返答に、思わずこめかみに青筋が浮かび上がりそうになった八雲だが、ノワールにその手の常識は通じないだろうとサッサと諦めて解決策を『思考加速』のスキルで長考することにした……


すると、自身の能力でも、まだ試していないものがあることに気がつく。


「そうだ―――アレを試そう」


思いついたら即行動と『収納』から次々に黒神龍の鱗を取り出して積み上げていく―――


―――そして、


「それじゃあ―――まずは馬からだな」


そう言うや否や鱗に『創造』の加護を発動した八雲は鱗五枚を使って、それらを別の姿へと変貌させていく―――


「―――出来たぞ!」


―――それは全身が鎧で包まれたような漆黒の馬の形をしたモノが出来上がる。


だが今回の創造は、いつも武器を造っているときの『創造』とは違う能力だった。


ステータスの『創造』の中に現れていた『疑似生命の創造能力』を用いて創造したのが、この目の前で嘶く仕草をする馬だった。


「黒馬、銘は『黒麒麟こくきりん』だな」




―――漆黒の騎馬、銘は『黒麒麟こくきりん


全身を黒神龍の鱗で造られた馬の姿をした疑似生命体であり、その動作や仕草は普通の馬と変わらないが、創造主である八雲の意志に従って行動する。




「オオオッ!馬か!馬なのか!馬並みなのか!『創造』で疑似生命とは、ちょっとゴーレムに似ているな」


「ああ―――そう言えば確かに」


「まあ、それはいいとして、次は馬車か?」


「いや、とりあえず先に馬を造るよ。四頭引きにしようと思ってるんだ」


「なに?それはまた大掛かりな。ということは馬車も大きくしてくれるのか?」


公爵の馬車でも馬は二頭引きだったのに、馬を四頭用意するということは本体の馬車はそれなりの大きさになると予想したノワールはワクワクが止まらないといった表情をしている。


「ああ!どうせなら目立つ馬車にしようぜ!」


ここで八雲の悪ノリが発動してしまい、鱗をさらに五十枚ほど追加して残り三頭の黒麒麟と馬車の本体を『創造』に入る。


途中、シュティーアとドワーフも呼び出して小物など馬車の内装について、ああでもないこうでもないと色々相談して次第にヒートアップしたドワーフ同士で殴り合いまで始まるほど職人魂のぶつかり合いがあったが、そんなことがありながらも夜まで掛かって、ついに黒神龍専用の馬車が完成した。


「で、出来た……」


何度も気に入らない箇所に『創造』を掛け直し、シュティーアやドワーフ達の意見も取り入れながら、馬車の本体に黒麒麟達を繋ぎ、完成したその馬車は―――




―――黒き馬車、銘を……いや馬車は馬車でいいだろ?


黒神龍の鱗で完全防御の黒い馬車は、見た目は八雲のいた日本でいうキャンピングカーのような形をしている。

出入りのドアが左右にあるが、中に入るとソファーが車内前方を囲うように設置され、その前にはテーブルがあり、もちろんしっかりと固定されていてズレたり倒れるようなこともない。

さらにキャンピングカーでもかなり高級で巨大なバスサイズのタイプを意識して『創造』しており、中にはキッチンにシャッターカーテンで囲むシャワールームとドア付きトイレ、更には大きなベッドも設置して、余裕で車中泊できる装備を詰め込んでいた。

そしてこの馬車―――なんと車輪がない。

馬車の底の四隅部分に半円状のパーツが設置されており、このパーツに八雲が無属性魔法の空中浮揚レビテーションを付与しており、空中に浮かんでいる。

こうすることで、黒麒麟に引かれて移動しても地面の凹凸による揺れを受けることがない文字通り本物のエアサスペンションとなっている。




「な、な、なんだこの馬車は!?こんな発想、見たことも聞いたこともないぞ!!」


馬車を見たノワールが感動で声を大きくしてしまうほど、外装は漆黒のパールブラック、内装はシュティーアに頼んでデザインしてもらい、白と黒、そこに金銀をあしらったシックなモノトーンの内装の中に金銀のワンポイントをあしらった贅沢で高級感満載の内装に仕上がっていた。


「たとえ夜寝ている時に盗賊や魔物から襲われても傷一つ付かないからな」


八雲と一緒に物を造ったことでシュティーアとドワーフ達も満足そうな満面の笑みで喜び合っていて、あとから来たジェミオス・ヘミオス姉妹にコゼロークは内装に目をキラキラさせ、そのまま奥に向かった三人はベッドの上でキャッキャとはしゃいで飛び跳ねていた。


そのあとアリエスとレオにリブラ、クレーブスも馬車を見て驚きの表情をしながらもアリエスは八雲にウットリとした笑みを浮かべ、クレーブスはキャンピングカーという発想に興味津々となっている。


レオとリブラは八雲とシュティーアに馬車の中の備品について色々と説明を楽しそうに訊いていた。


「それじゃあ明日はこれでアークイラ城に攻め込むぞぉ!!」


「―――オオオッ!!!」


悪ノリしたノワールにヘミオスとコゼロークは賛同し、真面目なジェミオスはオロオロと取り乱して八雲は苦笑いを浮かべて、


「誰と戦う気なんだ……」


そうひとりツッコミを入れていた……


―――それから、


八雲は今日の馬車製造作業の疲れもあり、明日の朝から城に向かうことになっているので早めの夕食を取って風呂に入り、今日はそのまま眠りに就いた―――






―――翌日


黒龍城の正門前には、四頭の黒麒麟に引かれた巨大な黒い塊に見えるキャンピングカーがあった。


「な、なんじゃごらぁ~!?」


―――貴族とは思えない雄叫びを上げて、クリストフが今にも倒れそうなほど驚いた。


アンヌとシャルロットも、その巨大な黒い箱におっかなびっくりといった表情で特に車輪が無くて浮いている状況に驚愕していた。


「おはようございま―――」


「―――八雲殿ぉ~!!これは一体、何なのかな!?かな!?」


やって来た八雲の挨拶も言い終わらぬうちに、クリストフが飛び掛かる勢いで八雲に掴み掛かっていく。


「昨日ノワールが自分も馬車が欲しいと言い出しまして、それで思いっ切り全力で造ったんですよ。シュティーア達ともアイデアを出し合ったんですけどね。おかげで移動する家みたいになっちゃいましたけど―――後悔はない!むしろ清々しい」


「何故……浮いているのかね?」


車輪がなくて底に付いた半円球によって浮いている状態にクリストフは疑問に思って八雲に問い掛ける。


「あの半円の物体に魔術付与で空中浮揚レビテーションを掛けてるんですよ。だから道が悪くても揺れません」


「なんと……常識の枠を外れていて、ほんと驚きしかないねぇ」


そんなクリストフの横からシャルロットが顔を出して、


「八雲様!中を見せて頂いてもよろしいですか?」


と好奇心を抑えられないといった可愛らしい顔で八雲を見上げてくる。


「もちろんいいよ―――レオ!リブラ!」


「―――はい八雲様」


「何かご用でしょうか八雲様」


八雲の後ろに控えていた専属メイドのふたりが返事をする。


「馬車の車内をシャルロットに見せてあげてくれ。公爵様達も見ますよね?」


「勿論!見たい見たい!パパも見たいよぉ~!!」


「貴方……もう少し他所では静かにして下さいね……」


子供みたいな声を上げて、駄々っ子モードだったクリストフの背中を木槌がスゥッと撫で下ろして行く……


「あ、はい。どうもサーセン……」


この公爵、実は転生者じゃね?と疑いたくなる口調のクリストフに残念な者を見る目を向ける八雲だったが、丁度そこにノワールがアリエスを連れて現れた。


「おお、もう皆、揃っていたか。遅れてすまないな」


「いや、今来たところ―――」


振り返った八雲は、途中で思考が停止してしまった。




今日のノワールは―――


―――スカートの後ろが長く伸びている黒いフィッシュテール・ドレスを身に纏っていた。


―――所々にシースルーが施されて、その褐色の肌を透けて薄く覆い隠しているデザインが艶を演出している。


―――首元にはゴールドの首飾りを纏い、その首飾りには様々な色の宝石が鏤められていた。




「どうした八雲?我の姿に何か言うことがあるのではないか?」


呆けている八雲に対して、ノワールはニヤリと口元を歪めて八雲の言葉を待つ。


「うん、綺麗だ。本当に黒い宝石みたいだノワール」


正直に頭に浮かんだ言葉を伝える八雲の態度に、逆にノワールが―――


「そ、そうか?う、うん、それは―――よかった/////」


―――としっかり照れるハメに陥っていた。


そんな二人の様子をにこやかに見つめる龍の牙ドラゴン・ファングのメイド達だったが、そこへクリストフの奇声が再び響き渡った―――


「―――な、なんじゃごらぁ~!!!」


馬車の中を見ていたクリストフが、その馬車のドアから勢いよく表に飛び出してくるや否や八雲に飛びついてくる。


「頼む!八雲殿!―――言い値を出すから、この馬車を売ってくれ!!」


「ちょ、ちょっと、いきなり何言って、あと引っつくな!気持ち悪い」


「相変わらずパパに辛辣ぅ~!?―――だが世界中探したって、これを超える馬車など存在しないと断言できる!これほどの設備を積み込んで、しかも黒神龍様の鱗で造られているから外敵の攻撃も受け付けない!そんなのパパも絶対欲しい欲しい―――グベファッ?!」


もう見慣れてきたクリストフの地べたに這いつくばる姿に八雲は黙って合唱をしていた……


「ほんとにもう!何度も何度もご迷惑をかけて悪いパパねぇ~♪」


アンヌが木槌を片手にしながら、もう片方の手を頬に当てて、あらあら♪ と言いながら笑顔を振り撒いてくる姿は、八雲にとってはB級ホラー映画のワンシーンを見る様だった……


「あの、八雲様……お願いがあるのですが……」


不安そうな顔をしたシャルロットが八雲の傍に近づいてきた……






―――それから、


「凄い凄い!!―――凄いです八雲様!この馬車、まったく揺れたりしません☆」


黒馬四騎に引かれる巨大な黒神龍の馬車にはノワールと八雲にメイドの中からアリエス、レオ、リブラが指名されて同乗し、更にクリストフ、アンヌ、シャルロットのエアスト公爵家の面々も乗り込んでいた。


シャルロットは黒龍城の前で八雲に、どうか一緒に馬車に乗せて欲しいと懇願した。


それを聞いたノワールは笑い声を上げてシャルロットの頭を撫でながら了承し、クリストフは公爵家の馬車を馭者に命じて公爵邸に帰らせた。


そして今現在、黒神龍の馬車はティーグル皇国首都の街中で我が物顔をして進んでいる。


「本当に揺れないねぇ!しかも馭者もいらないなんて……」


「黒麒麟は俺の命令で動きますから、アークイラ城まで走るよう命じればそれだけで目的地に着きます」


黒麒麟の移動には言葉で命令するのではなく、八雲の『索敵』スキルのマップにポイントを設定して道順をインストールすることにより、ナビゲーションを実行するというプログラムのような行動原理を埋め込まれている。


そのためアークイラ城までのルートを設定して人や障害物があれば停止、回避することも設定したことで安全運転度100%の自動運転馬車となっているのだ。


だが、そんな得体の知れない巨大な黒い箱を引くゴーレムの様な四騎の黒馬の姿は、首都として繁栄しているアードラーでは数多くの民衆が驚きの顔を浮かべて見ていた。


他の馬車など比べるべくもなく大通りを我が物顔で走り、首都の民衆に畏怖と好奇の織り交ざった視線を向けられる馬車の側面には、ノワールの要望で金の『龍紋』を入れている。


「―――あの紋章はどこの貴族様なんだ?」


「―――あんな紋章、今まで見たことないぞ!?」


「―――なんだ!?あの大きな黒い箱は!?浮いてるぞ!!」


などと異様な馬車の疾走する光景に街の端々からそんな声が上がっていた。


そうして黒神龍の馬車は首都の中央へと進み、ついに目的地である王城アードラー城の巨大な城門の前へと到着した―――


「―――な、何者だぁ!!」


到着すると同時に城門にいる門番達は今まで見たことのない巨大な物体に、まるで敵の襲撃を受けたかのような大騒ぎに陥って伝令が城内にも走っており、援軍がやってくる事態にまで発展していた。


「こらこら!―――皆、落ち着かぬか!」


そこで馬車から降りたクリストフが門兵達を諫める声を上げ、正体不明の馬車から公爵が下車してきたことに門兵達は、ますます混乱に陥るのだが、


「さっさと開門しろ!黒神龍様の馬車がお通りだ!!」


「こ、黒神龍様ですと!?それでは、これが今日訪れる黒神龍様の馬車!」


黒神龍と聞いて困惑する兵達だったが、クリストフの命令で一喝されるとすぐに城門を開いていく。


城門は横幅も高さも充分にある巨大な門で黒神龍の馬車も余裕で通れるほどの造りをしており、通過する際に八雲はその門構えだけでも歴史的な価値や技術の高さを感じていた。


元の世界の日本にいた頃に行った修学旅行で見学した寺院や、趣味で有名な城を見学に行くほど歴史的建造物に興味がある八雲にとっては、アークイラ城は興味の塊だった―――






―――城門を抜けて馬車は中庭を進み、次の門へと進んで城の中央を目指して行く。


ついに王宮に辿り着いた馬車から降りたノワール、八雲とエアスト公爵家をアリエス、レオ、リブラは残って見送り、馬車を護るようにノワールに命じられているのを聞いて、八雲はあとから『決して殺すなよ』とだけ付け加えておく……


迎えに来ていたメイドとクリストフの先導で城内へと迎えられるノワールと八雲は、広大な城の廊下を進む。


広い廊下はどことなくエアスト公爵邸の廊下とも通じるような造りをしており、所々に配置された調度品など上品な雰囲気を漂わせていたので八雲にはどことなく既視感が湧いてきていたがクリストフが歩みを止めると、その目の前に他の扉とは違う一際大きな扉があった。


「―――ついに此処まで来たか。いや、戻ってきたと言うべきか……」


「―――えっ?」


ノワールの言葉に違和感を覚えた八雲だったが、その言葉をかき消すようにして目の前の巨大な扉が衛兵によって左右に開かれていく―――


「さて……ここからだぞ!八雲!気張っていけよ!」


「ああ、バッチこいだ!」


開かれた扉の先に玉座まで伸びる敷き詰められた真っ赤な絨毯の上に、八雲とノワールは同時にゆっくりと第一歩を踏み出すのだった―――



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