―――全身に雷を纏う白い鱗に覆われた巨大な飛竜サンダーワイバーンと対峙した八雲。
これまで相手にしてきた魔物とは明らかに違う迫力を纏ったサンダーワイバーンに思わず武者震いを起こす―――
「コイツはとんでもない迫力だな……流石に死ぬか……」
悲壮感を漂わせる八雲だったが、同時に『思考加速』の中で目に映る敵の分析を進めていく。
(あの全身に纏う放電の様子からしても雷撃を攻撃手段としてくることは確実だろう。名前にもサンダーってあるくらいだし……)
すると空中で放電しながら八雲を見下すように睨みつけていたサンダーワイバーンが力強く羽ばたきを始めると、その翼に纏った雷が雨のように地上にいる八雲に向かって襲い掛かってきた―――
「うおぉ!?―――羽ばたきだけで雷攻撃になるのかよ!!」
―――八雲は叫ぶと同時に、
『身体加速』
『身体強化』
『思考加速』
を発動させて光速の雷撃を何とか回避する八雲だが、
「―――気をつけろ!サンダーワイバーンはその巨体も雷撃並みに速いぞ!!!」
ノワールがそう叫んだ次の瞬間には八雲の目の前に飛竜の巨大な顔が迫っていた。
「―――ッ?!」
突然目の前に巨大な飛竜の顔が迫っていた事実にゾクリとした悪寒が背筋に走る八雲―――
―――巨大な顎を開いて八雲に襲い掛かるサンダーワイバーン。
何とか地面に顎を引き摺りながら襲い掛かってきたワイバーンの攻撃を躱した八雲が、返す刀で白い鱗に夜叉で斬りつける―――
―――すると斬りつけたワイバーンの白い鱗が真っ赤な鮮血を噴き出す。
【GYAAAAAAA―――ッ!!!】
獣のような怒声を上げて空中に翻って舞い上がるワイバーンを見て―――
「―――逃がすか!!」
―――八雲も空中に飛び上がって巨体のワイバーンを追い掛ける。
「いかん!―――空中戦は危険だ!!」
地上で叫ぶノワールだったが―――
【GURURURUUUUU―――ッ!!】
―――空中で唸り声を上げたサンダーワイバーンが突然オールレンジで身体に纏った放電を一気に解放する。
「なにっ!!―――グアァアアァ―――ッ!!!」
そこで直撃する雷撃の嵐―――
―――雷光に包まれた八雲の強化された身体に電撃が駆け抜ける。
空中を駆け抜ける雷撃に撃たれた八雲は高電圧の雷によってその身が焼かれ、黒煙を上げながら地上に向かって落下していった―――
―――ドスン!と地上に激突した八雲から今も燻った焼けた肉の臭いと煙が上がり続けていく。
しかしサンダーワイバーンはそれでも空中から次の放電を始めると、地上の八雲に向かって雷の雨を降らせていった―――
「―――八雲様!」
―――アリエスが八雲の身を案じて叫ぶ。
地上に落ちた雷撃が地表で衝撃から土煙を舞い上げると八雲の身体を覆い隠していった―――
「ッ!?―――なんだ、あれは!!」
―――しかしその時、土煙の中で何かが突然、空に向かって立ち上がっていく。
すると電柱のようにその場に立ち上がった棒状の物体に向かって、サンダーワイバーンの雷撃が次々に吸い寄せられていく―――
―――そして、その棒に流れ込んだ雷撃は地中深くにまで突き刺さっていて、棒を伝導して地中深くに放電されていくが、それはもう地表の八雲達にはまったく影響を与えるものではなかった。
「……ハァ……まったく酷い目にあった。Levelが上がったからといって、攻撃を受けない訳じゃないからな」
その場に駆けつけたノワールが叫ぶ―――
「―――八雲!無事だったのか!!」
―――その場に立ち上がり、身体に受けた雷撃の傷を『回復』の加護で癒していく八雲の姿を見つけてノワールは笑顔を浮かべた。
その八雲の傍に立っている棒は地中深くから鉄分だけを集束させ、地表からサンダーワイバーンの飛行する高さまで伸ばされた鉄の棒だった。
「―――やっぱり避雷針は大切だな♪」
―――八雲が造り出した鉄の棒は、元いた世界でいうところの避雷針だ。
電気器具の電線を繋ぐアース線は地面に接地することで漏電といった電気事故を防ぐための防止策として使用されている。
八雲はそのアースの要領を参考に『創造』の加護を発動して、地面の中に含まれる鉄分を集束させると地中深くに埋め込まれた鉄棒を地表から空中高くまで伸ばし立てて避雷針としたのだ。
しかしそんな科学的理屈など知らないサンダーワイバーンは立て続けに雷撃を放ち、そして放った傍から雷撃を鉄棒に吸い寄せられて地中深くに放電を繰り返していく―――
「もうそれは効かないよ。雷撃が通用しなければ、お前は―――」
―――再びワイバーンが飛ぶ空中へと一気に飛び上がった八雲。
「―――只の蜥蜴だァアアアッ!!!」
サンダーワイバーンの頭上まで飛び上がった八雲が、夜叉と羅刹を同時に鱗の身体に斬りつける―――
【GYABUUUUUUU―――ッ!!!】
―――ザクリッ!と分厚い鱗を斬り裂いて進む二本の刃がそこから傷口を広げていき、血を噴き出すワイバーンは旋回して叫んだ。
そんなワイバーンに八雲が追撃を仕掛けていくも、空中で旋回したワイバーンが―――
「―――ッ?!」
―――太く長い尻尾を振り被り、もの凄い勢いで八雲にブンッ!と振り抜いた。
その尾の先端にある棘が『思考加速』の中で、スローモーションのように八雲の瞳の前を通り過ぎていく―――
(―――凄い迫力だっ!直撃したらバラバラになってもおかしくない!!)
―――人生でこれほどの迫力あるシーンを経験したことがない八雲は脳から分泌されるアドレナリンの興奮が止まない。
更に執拗に尾を振り回して八雲を狙うが、紙一重で次々と躱していく―――
―――これまでの魔物とは違う、目の前に現れた高い戦闘力をもつ魔物サンダーワイバーンを前に脳内の興奮剤がフル分泌されて八雲の全身を駆け巡っていた。
尻尾の鞭の様な攻撃を空中で躱し、錐揉み状に空を駆ける八雲に向かってワイバーンは顎を大きく開くと―――
「ッ!―――
―――地上からノワールが八雲に叫ぶ。
【BUHYAAAAAAAA―――ッ!!!】
同時にワイバーンの顎から猛烈な勢いで熱線が放たれると空中の八雲に直撃した―――
―――しかし、
「―――っぶねぇ!!もう少し遅かったら丸焼きだったな」
八雲は『収納』から黒神龍の鱗を取り出すと空中に固定し、それを盾のようにしてサンダーワイバーンの
―――その直後に『身体加速』を駆使して八雲は空中から高速で移動すると、
「オォオオオオオ―――ッ!!!」
その手にした夜叉と羅刹をサンダーワイバーンの頭上から打ち込むと顔面を通り抜けて下顎まで一気に斬り裂いていった―――
―――その二本の斬撃が深い傷を刻みつけたサンダーワイバーンは、裂けた頭部から血を噴き出しながら空中で何度ものた打ち回ると、やがて錐揉み状に旋回しながら大地に向かって流星のように落下していく。
そして八雲が地面に着地すると同時にドスンッ!と衝撃を起こしながら、サンダーワイバーンは地面に叩きつけられて遂に絶命したのだった―――
―――そして、どこからともなく耳に響く教会の鐘のような音色……
動きを止めた八雲の脳裏には―――
―――ガラァーン♪ ガラァーン♪
と、まるで教会の荘厳な鐘のような音が八雲の脳裏に鳴り響き渡る―――
そして……意識もしていないのにステータス表示が勝手に八雲の脳裏に浮かび上がり、そこに表示されている自身の能力を八雲は見つめていた。
「……Level……100……」
この胎内世界で立てた目標Level.100を目指して、只管に魔物を斬り続けてここに至ったことはノワールやアリエス達
「―――八雲!!お前、まさかこんな短期間で、本当にLevel.100に……よくやったな」
ノワールも、、まさかこの短期間でLevel.100に到達した八雲に驚愕したが、それ以上に自分の選んだ御子が成長した姿を感慨深そうに、まるで母親のような表情で優しい笑みを浮かべていた。
「まさか……本当にLevel.100まで到達されるとは……八雲様にはまだまだ謎が多くて興味が尽きないな……」
呆れ気味の表情を混ぜながらもクレーブスは笑みを浮かべている。
「え?え?―――兄ちゃんLevel.100になったの?まだ此処に来て数日だよね?兄ちゃんスゴーイ!!」
「あ、あの、兄さま!おめでとうございます/////」
数日でLevel.100に到達した八雲をジェミオス・ヘミオス姉妹は兄として慕う八雲に憧れを抱いた瞳を向けて笑い合う。
「信じられないねぇホント。でも、八雲様ならって何故か納得しているアタイもどうかと思うよ♪」
シュティーアは呆れながらも、八雲なら仕方がないという謎の方程式を導き出して、ひとり納得していた。
そして、ゆっくりと八雲に近づくアリエスは―――
そのまま真っ直ぐに八雲に飛び込んで、唇にキスをしていた。
「ん?!ン!んんッ!……ちゅ……ん、ふはぁ!ア、アリエス!?」
「ん♪……八雲様、大好きです♡/////」
そんな二人だけの世界に八雲を連れ去ろうとしたアリエスだったが―――
「なぁにをしとるかァアア―――っ!!!」
目の前で御子の唇を奪われたノワールの殺気と怒号が一気に場を包み込む。
ドスン!ドスン!と一歩ずつ八雲とアリエスに近づくノワールに、八雲は日本人でいえば浮気の現場に突撃された旦那の気分を思い浮かべて青い顔をしていたが、そのアリエスは―――
「八雲様との関係をお認めになったのはノワール様ご自身ではありませんか?」
―――と、平然とした顔で言ってのけた。
その言葉に先ほどまで鬼のような顔をして接近していたノワールだが、途端に狼狽える。
「う!いや!―――確かにそう言ったが……いや、一度言ったことを覆すなどよくないな。しかしアリエスよ、時間と場所を弁えよ」
「あら?では夜であれば問題無いのですね?八雲様、今夜にでも―――」
「ダメだッ!!Level.100になったら我を迎えると約束しているのだ!!!」
「―――あら、では仕方ございませんね♪ ノワール様どうぞ頑張って下さいませ」
「あ……アリエス……お前……わざと……/////」
自ら口に出来るようにアリエスにどうぞ♪ どうぞ♪ と誘導されたことに顔を真っ赤にしてグヌヌッ!と唸るノワールだが、アリエスはそんなことどこ吹く風と全く気にしていない。
そんな青春ラブコメの1ページを眺めつつも、八雲は先ほど現れたステータスが気になっていた……
【ステータス】
Name:九頭竜 八雲(ヤクモ=クズリュウ)
年齢 18歳
Level 100
Class 超越者 転移者
超越者:Level.100以上になった者
生命 1436591/1436591
魔力 957727/957727
体力 957727/957727
攻撃 1436591/1436591
防御 957727/957727
知力 100/100
器用 100/100
速度 100/100
物理耐性 100/100
魔法耐性 100/100
《神の加護》
『成長』
取得経験値の大量増加
各能力のLevel UP時の上昇数値の大量増加
理性の強化
スキルの取得向上強化
『回復』
HP減少時に回復・超加速
MP減少時に回復・超加速
自身が直接接触している他者の回復・超加速
広域範囲回復・超加速
『創造』
素材を加工する能力
武器・防具の創造能力
創造物への付与能力
疑似生命の創造能力
《黒神龍の加護》
『位置把握』
自身の位置と黒神龍、さらに眷属のいる位置が把握出来る
『従属』
黒神龍の眷属、自身の加えた眷属を従える
『伝心』
黒神龍とその眷属、さらに自身が加えた眷属との念話が可能
『収納』
空間を開閉して物質を保管する能力
『共有』
黒神龍と同じ寿命を得る
『空間創造』
自身の固有空間を創造し、その中に建造物、生物を置く能力
《取得魔法》
『身体強化』
魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇
『対魔法防御』
魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力が上昇
『火属性魔術』中位/極位
『水属性魔術』基礎/極位
『土属性魔術』基礎/極位
『風属性魔術』基礎/極位
『光属性魔術』基礎/極位
『闇属性魔術』基礎/極位
『無属性魔術』基礎/極位
《取得スキル》
『鑑定眼』
物質の理を視る
『言語解読』
あらゆる種族の言語理解・文字解読
『酸耐性』
あらゆる酸に対する耐性
『毒耐性』
あらゆる毒に対する耐性
『精神耐性』
あらゆる精神攻撃に対する耐性
『身体加速』
速度を瞬発的に上昇させる
『思考加速』
任意で思考を加速させる
『索敵』
周囲の索敵能力 索敵対象:生物・物質
『威圧』
殺気により恐慌状態へと堕とす
『受精操作』
妊娠操作が可能
『絶倫』
精力の増加
『神の手』
愛情をもって触れる異性に快感を与える
《九頭竜昂明流古武術(八雲強化)》
剣術(強化)
槍術(強化)
弓術(強化)
組討術(強化)
『超越者』という表示……だが実際にLevelが100になった今もさっきまでの状態とそれほど違いはない。
(ただの称号なのか?それとも―――何か意味があるのか?)
他にもところどころの能力が強化されたりしているが、まだまだ自分のことなのに謎が多いことが八雲自身の心に霞のようなものが掛かっているような感覚を覚えていた。
それに魔法属性に『無属性魔術』が新たに加わっていたが、魔法の講義でも聞いたことがない八雲は少し困惑する。
そんなとき、ノワール達の話し合いはいつの間にか―――
「よし!アクアーリオを呼べ!八雲が捌いたベヒーモス肉で祝いの席を用意させろ!ベヒーモス食い放題の飲み放題だ!!」
「え?―――あれ食うの!?」
ベヒーモスを食材扱いするノワールと、それを聞いて歓喜する牙娘達に八雲は顔を引きつらせてドン引きしていた……