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第14話 新たな黒神龍装

―――まず初めに戻ってきたのはアリエスだった。


元々アリエスは八雲の黒刀=夜叉よりも少し短めの刀が希望ということで、形などは大体八雲のイメージはついていたので、あとは希望の長さくらいだった―――


「八雲様、このくらいの長さが丁度いいのですが」


差し出されたのは両刃の剣だったが、長さはニ尺(六十cm)未満で丁度脇差の長さに合っていると八雲は思った。




脇差とは―――


刀身の長さが一尺(約三十㎝)以上、二尺(約六十㎝)未満の刀剣のことで、名称の由来については諸説あるが「腰の脇に差したから」というのが定説となっている。

江戸時代以前までの脇差は同時に佩刀する打刀と異なる外装が用いられていたという。

江戸時代以降は大小二本差だいしょうにほんざしが武士の正装として見なされるようになると柄、鞘の素材や色を打刀と統一した拵が使用されるようになっていく。

また、脇差は武士が農民などから無礼な態度を取られた場合、合法的に相手を斬る「斬り捨て御免(無礼討ち)」においても使われていた。

斬り捨て御免では武士は打刀を使い、相手に自分の脇差を与えて刃向かわせてから斬る、といった形式で行なわれたとされている。




「如何でしょうか?」


少し不安そうに聞いてきたアリエスに、


「いや、大丈夫だ。それじゃ皆が揃ってから順番に始めるから、待っていてくれ」


「はい♪」


嬉しそうな笑顔を浮かべて八雲に寄り添うようにしてニコニコしながら、他の武器作製希望者達の悪戦苦闘している様子を眺めている。


(アイツ等……ちゃんと探せるのか?)


ああでもない、こうでもないと言いながら武器を漁るノワール達に八雲は少し不安と呆れ気味な表情になるが、アリエスは八雲の隣でずっとニコニコしていた。


そうして―――漸くして全員が使いやすい武器を手にして持って帰ってきた。


「八雲!―――我はこのくらいの長くて、太くて、硬いのがいい//////」


そういって八雲に長剣を差し出すノワール。


「あ、はいそうですね……Level.100になれるように頑張ります……さて、ふむ、なるほど。確かにノワールは大太刀が合っているみたいだな」


「そうか!だが見た目よりも重たくしてくれ!我に合う大太刀を頼むぞ八雲!!」


八雲はノワールが持ってきた長剣を検分して、三尺(約九十cm)と大太刀に見合う剣だと確信する。




大太刀とは―――


「大太刀」とは、刃長が三尺(約九十㎝)以上ある大型の太刀のことで「野太刀」とも呼ばれており、八雲のいた日本では神社などへ奉納するための太刀だが、騎乗用の武器として実際に戦場でも使用されたと言われている。

戦場で使う場合、従者に鞘を持たせて抜くか、従者に抜かせて主人に渡し、使用していたと言われている武器である。




「ノワール―――あとジェミオスとヘミオスが戻ってくるまで、ちょっと待っていてくれ」


「ああ、構わん。別に急ぐような用事も無いしな」


そう言ってノワールは長い黒髪を指でスゥーと櫛のように梳かしながら、相変わらず美しい笑顔を浮かべて双子姉妹の様子を眺めていた。


「お、お待たせしました/////」


「なかなか思ったのがなくて、ごめ~ん♪」


申し訳なさそうに戻ってきたジェミオスと、悪びれることもなく軽い謝罪で戻って来たヘミオスの二人から希望の双剣に見合う剣を受け取る八雲。


「―――大丈夫だ。長さはこのくらいでいいのか?」


ジェミオスが持ってきた剣は直剣型の剣で長さはニ尺(約六十cm)ないくらいで、ヘミオスが持ってきた物は講義の際に話に出たカットラスのような剣であり、ジェミオスの持ってきた剣と変わらないくらいの長さだった。


八雲の確認に「はい!」と元気よく同時に返事をするジェミオス・ヘミオス姉妹が戻ったことで、全員の武器の参考が集まり八雲は次に移る。


「―――よっこらしょい!」


掛け声と同時に八雲は『収納』の空間から、十三枚の黒神龍の鱗を取り出す。


(う~ん、大太刀に十枚、脇差しに一枚、直剣双剣に一枚、片刃双剣に一枚使って全部で十三枚……ノワールは普通じゃないから十枚で造って、たぶん大丈夫だろうし……うん!まぁこれくらいだろう)


ザックリと素材の量を確認して、八雲はまず一枚の鱗から『創造』を開始する。


そして加護の発動と同時に輝き出した鱗が徐々にその形を変えていく―――


「おお~!スゲーな兄ちゃん?!これが兄ちゃんの『創造』なんだね♪」


横で見ていたヘミオスが面白そうに瞳をキラキラさせながら、八雲の作業を見つめている。


そうして―――そこには一振りの刀がそこに誕生した。




―――黒の脇差、銘を金剛こんごう


長さ二尺より少し短い脇差は、夜叉と同じく黒の柄に金の鍔、だが金の模様が入った鞘は金剛の名に因んで飾られている。刀身は黒くメッキ調の鏡面仕上げに美しい刃紋が入れられており、使いやすい造りとなっている。




「アリエス、持ってみて具合を見てみてくれ」


「はい!……」


アリエスは八雲から黒脇差=金剛を受け取り鞘から抜いて軽く振り、使い勝手を確かめていく。


「―――大丈夫です♪ ありがとうございます八雲様。一生大切にしますね♡」


「そこまで喜んでもらえたら、造った甲斐がある」


「あの……『金剛』という銘には何か由来が?」


聞き慣れない名前にアリエスは問い掛ける。


「ああ、俺の世界の神様に『金剛夜叉明王こんごうやしゃみょうおう』という神様がいるんだけど、その神様が俺の夜叉の由来になった神様なんだ。鬼神から改心して守護神になった神様で俺の夜叉に似ているのが良いって言っていたから、名前もその神様からもらったんだ」


「そうなのですね……金剛夜叉……八雲様の夜叉と同じ神様の御名前から……とても素敵です♪/////」


八雲の説明に納得したようでアリエスはご機嫌な様子で満足すると、その豊かな胸の間に金剛を抱きしめて顔をほんのりと赤らめていた。


(気に入ってもらえてよかった……しかし、脇差が胸に挟まれている姿が、ここまでグッとくるとは……)


胸に挟まれた脇差の姿が卑猥に見える八雲は、自分の男としての欲望が溜まりだしたことに気がついた。


(これだけの美女や美少女に囲まれると感覚が狂っちまう……)


八雲は気持ちを引き締め、気合を入れて次の『創造』に入る。


「―――次はジェミオス・ヘミオスの双剣だ」


「お!やったぁ♪」


「そ、その、ノワール様より先でよろしいのでしょうか?」


ヘミオスは歓喜していたがジェミオスは主であるノワールより先でいいのか、と不安に思っている様子だった。


「かまわん。我の武器は最後に気合を入れて作ってくれるつもりなんだろう?八雲」


不安顔をしているジェミオスにノワールは笑みを浮かべて飄々と答えた。


「ああ、ノワールの大太刀は鱗十枚使って造ろうと思ってるから、先に二人の双剣を造っておこうと思ってな」


「我の武器は十枚か、いいぞ♪ 存分に良い物を造ってくれよ」


「もちろん」と答えた八雲は、再び鱗と向き合って加護『創造』を駆使する。


(さて……ジェミオスは直剣型の双剣、ヘミオスは片刃の双剣か……)


直剣型の双剣は西洋剣の両刃の直剣を、片刃の双剣は同じくらいの長さで、ヘミオスが持ってきたカットラス型の双剣で構造していく―――




―――黒の直双剣、銘を日輪にちりん


西洋剣風の両刃の黒い直剣に金を用いた鍔、白を基調にした柄、そして黒い鞘には太陽を模した蒔絵のような模様を入れてある見事な拵の武器だ。




―――黒の曲双剣、銘を三日月みかづき


カットラス型の黒い曲剣に銀を用いた鍔、白を基調とした柄、そして黒い鞘には三日月を模した蒔絵のような模様を入れてある夜をイメージした双剣である。




出来上がった双剣を八雲はジェミオスには黒直双剣=日輪、ヘミオスには黒曲双剣=三日月と名付けて手渡した。


「はわわわぁ♪ 兄さま、本当にこれを頂いてもよろしいのですか?/////」


「ワァオ~♪ 滅茶苦茶キレイでカッコいいよぉ!!兄ちゃん!ありがとう♪」


受け取った二人はそれぞれの個性的な喜びの声を上げると八雲に羨望の眼差しを向けていて、そのふたりの姿を見た八雲は、


(―――ホント妹は最高だぜ……イカン、なんかグッとくるぞ、これ。無意識に護りたいこの笑顔という衝動が……)


などと考えて感慨に耽っていたとき、黒神龍様の美声が響いた。


「さあぁ!!次はいよいよ我の番だな!ほれ造れ!今すぐ造れ!もう待てないぃ~!!!」


「―――子供かっ!」


放っておけば床に寝転がってジタバタしそうな勢いのノワールにツッコミを入れながら、八雲は用意した十枚の鱗の山に向き合う。


(ノワールの希望は大太刀。長さは三尺(九十cm)くらいで造ってみて、合わないなら微調整していくって感じで―――)


方針が決まった八雲は『創造』を発動し、光に包まれた十枚の鱗はゆっくりとひとつになり圧縮され、形を変えていき、やがて細長い姿に纏まっていく。


(オオォッ!―――こ、これは今までよりも急激に力が吸われていく感覚が?!龍の鱗十枚で造ろうとすると、ここまで力を使うのか……)


―――ステータスの数値とは別の何か、精神的なものが吸い取られていく感覚を覚えながら、八雲は自分の思い描いた大太刀を形造ることに集中していく。


巨大な漆黒の塊と化した十枚の鱗がまるで脈打つように小さく圧縮されていく―――


―――そして山積みにされていた鱗がバスケットボール程の大きさまで圧縮されると、次に横に伸び始めた。


そうして流動的に形を変え、柔らかく見えるその塊が引き締まるように圧縮されていくと、やがて―――


「―――ハァハァ……出来た……」


そこに現れた一振りの大太刀は漆黒でありながら神々しい光を放ち―――八雲の前に顕現した。




―――暗黒の大太刀、銘を因陀羅いんだら


暗黒と呼ぶに相応しい闇色の刀身は鏡面仕様で怪しく光り、その長さ三尺(九十cm)。

黒い柄もより長く取り、鍔は夜叉と同じく金拵えで造りをして長大な鞘は漆黒に流れる水のような金と銀の線が絡まる模様を蒔絵のように入れた。

十枚の鱗を圧縮しただけあって、その重さも普通の人間には扱えない代物となり、Levelが高い八雲でも重く感じる出来だった。




その黒大太刀=因陀羅を受け取ったノワールは―――


「オオオッ!これが、八雲が我のために造ってくれた大太刀か……うむ、この確かな重さと風格は我の手にする武器に相応しい」


―――と、ご満悦の表情でウットリしながら因陀羅を見つめていた。


「ハァ、流石に十枚はかなり疲れた……」


「うむ!存分に休め!ところで八雲……因陀羅という銘の由来を聞いてもいいか?」


名前の意味が気になったノワールは、期待した表情で八雲に詰め寄る。


「うん。その因陀羅っていうのは、俺の世界の神様なんだけど雷霆神、天候神、軍神、英雄神と言われていて天帝、天空の神として神々の中心的な神様の名前なんだ」


八雲の説明にノワールのみならず、アリエス達からシュティーアの工房のドワーフ達まで聞き入っていた。


「そのような神が……ノワール様に相応しい武器の銘ですね。それに八雲様の世界の神話も興味深い」


と、クレーブスが眼鏡をクイッと上げ直す。


「まぁ俺の世界の話はまた今度ゆっくりしよう。それより、新しい武器を造ったら―――恒例の試し斬りだろ!」


八雲の声に、ノワールと龍の牙ドラゴン・ファング達は黒い笑みを浮かべて、その瞳を怪しく輝かせていた……






―――武器を手に皆で城を出て、鍛練場となったお決まりの広い平原までやって来るとノワールが自分で召喚魔術を発動させた。


「試し斬りは我からいかせてもらうぞ!―――召喚サモン!!!」


血気盛んな勢いで召喚を発動したことで浮かび上がった魔法陣は、八雲が今まで此処で見てきた魔法陣とはケタ違いに巨大なものだった。


魔法陣から膨大な光が放たれて、ドスンッ!!といった重たい何かの塊が地面に落ちたような地響きが起こった直後、地面から舞い上がった砂煙がモウモウと周囲に立ち上る。


―――そして、ゆっくりと収まり始める砂煙の中から何かが姿を現す。


そこには―――岩山のように巨大な体躯があった。


その巨大な存在は見た目が犀のような姿で、鼻先には曲線を描いた立派な角がそそり立っている。


だが―――その大きさは八雲の世界の知っている犀とは根本的に別物の巨大な姿をしていた。


「これは……犀?」


「サイ?なんだそれは?コイツは―――ベヒーモスだ!」


「ベヒーモス……」


足元にいけば見上げる必要があるほど巨大な魔物に、八雲は空いた口が塞がらない。


「さてと……獲物は召喚したし、あとは―――試し斬りだあぁあ!!!」


叫ぶノワールは両手で柄を握って、長大な黒大太刀=因陀羅を引き抜く。


大太刀は本来であれば従者が鞘を握って主人が抜くか、従者が抜いた大太刀を主人に渡すのだが、ノワールは空中に何等かの力で固定した鞘からスラリと一気に漆黒の刀身を抜刀し、その鞘は空中に浮いたまま残っていると、やがてノワールの『収納』空間に吸い込まれるように仕舞われた。


(―――なるほど。鞘の切っ先の方を『収納』に差して固定してから抜いたのか)


その方法ならどんな長剣でも鞘を抜く時の手間がないなと八雲は感心していたが、ノワールはそんなこと構わずベヒーモスに向かって突進していた―――


―――疾走するノワールを目にしたベヒーモスもまたノワールに向かって突進を開始するが、一歩一歩が大岩を落とすような勢いなので歩むたびに地響きが起きた。


「アハハハハッ!!―――ヤル気だなベヒーモス!我の因陀羅の試し斬りに相応しいぞ!来い来いっ!!」


喜々とした表情で進攻するノワールと地響きを響かせて近づくベヒーモスが、ついに衝突する瞬間ノワールが右手で握って肩に担いでいた因陀羅を両手で握り直し、その雄大な暗黒の大太刀を躊躇いなく振り下ろしたのだった―――


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