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第13話 褐色眼鏡美人教師

「―――それでは、この世界の経済について……と言っても、まずは通貨についてご説明致しましょうか」


「通貨?つまり金ってことか」


クレーブスの言った通貨について学んでいく―――


「はい。この世界の通貨は共通の通貨が使用されています。一部では違う通貨もありましたが、長い歴史の中で共通の通過、というよりも交易に対して強い力を持っていた通貨に統一されていったという歴史があるのですが、そこは割愛しましょう。ただ各大陸の物価に関してはその国毎に差があります。そして通貨の種類についてですが―――」


クレーブスから聞かされた通貨価値と、八雲の元いた世界の金額感覚をジェミオス・ヘミオス姉妹の知っている物価と照らし合わせながら確認してみると―――




【通貨】


銅貨

 形状〇(直径約1cm)=約百円



大銅貨

 形状◇(直径約3cm)=約千円



銀貨

 形状〇(直径約3cm)=約一万円



大銀貨

 形状◇(直径約4cm)=約十万円



金貨

 形状〇(直径約3cm)=約百万円



大金貨

 形状◇(直径約5cm)=約一千万円



白金貨

 形状〇(直径約8cm)=約一億円




―――大銅貨・大銀貨・大金貨は形状が四角形で大金貨は5cm、白金貨は8cmと大きさに差がある。


硬貨価値の感覚は八雲とジェミオス・ヘミオス姉妹の、その硬貨で何が買えるのか?という買える物を基準に擦り合わせることで、概ねの価値を算出した。


一般人では通常生活で使っても金貨まで使うことは滅多にないとのことで、街中の流通ではほぼ銅貨・銀貨で商売は成り立っており、金貨以上となると大きな買い物をするか、それこそ商人や王侯貴族くらいしか使用することはないとのことだった。


因みに硬貨価値の擦り合わせの様子は、どんなやり取りが行われたかと言うと、


「ヘミオス、さっき言っていたパンケーキっていくら?」


「トッピング込みで銅貨5枚!あ、でもお店によっては6枚とかもあるかな」


「なるほど……銅貨は100円と……」


―――といった具合に、それじゃ家は?貴族の屋敷は?といった購入対象を色々と指定しながら、といった様子で高そうな物にしながら価値を算出した。


「―――さて、今日の座学はこのくらいにして次は魔法・魔術の講義に移りましょうか」


そこからクレーブスは次の講義に移っていくのだった―――






―――通貨の話までで今日の座学は終了し、次は外に出ての魔術の講義へと移ることになり八雲とクレーブス、それとジェミオス・ヘミオス姉妹も城から出て広い場所まで移動してきていた。


「―――まずはこれを見て下さい」


そう言って指を空中に向けた先に、投影プロジェクション魔術が発動して―――


「おぉ……これが……」


―――そこには魔術属性の関係性について簡単に説明された図が映し出されていた。


「属性には相性があります。火は風に強く、風は土に強く、土は水に強く、水は火に強い。そういった相性を頭に入れて、もしも八雲様に対峙する敵がいずれかの属性魔術を使用してきた場合、その属性に対して強い属性を使用して攻めるのが基本的な魔術戦闘となります」


「なるほど……」


「そして光属性と闇属性は他の属性よりも上位属性ですが、光と闇と双方で対極関係にあり、その属性がぶつかる場合は魔力量の大小で優劣が決まります」


「それは他の属性ではどうなんだ?」


「はい、例えば水属性で火属性の相手に攻撃した場合、相性からすれば水属性の方が有利ですが、火属性の相手の魔力が強大であった場合は相手を撃ち倒すことも当然あります。最終的にはやはり魔力量がものを言います」


「そうか……因みに俺の魔力量って?」


そう問い掛けるとクレーブスはニッコリと眩しい笑顔を浮かべて―――


「―――もちろん人類最強クラスです♪」


現在のLevelからしても理解出来なくはないが、他人にあっさり言われると八雲自身にも途端に現実味が湧いてきた。


「あと神の加護の中に『創造物への付与能力』っていうのがあるんだけど、これってどう使えばいいか分かるか?」


「創造物への付与、ですか……それは恐らくですが魔術付与エンチャントのことでしょう。武器や防具に魔術属性を付与することで、さきほど説明した相手の苦手な属性で攻めたり、逆に相手の属性に対して強い属性で防御を固めたりする魔術のひとつです。八雲様の場合は自身で造った武器や防具なら、その魔術付与エンチャントが使えるということでしょう。ではそれを試しましょうか」


「わかった。やってみる」


『収納』に仕舞っていた黒刀=夜叉をその開いた空間から取り出すと、隣で見ていたジェミオス・ヘミオス姉妹から―――


「はわぁ~」


「おお~」


―――と夜叉に注目して可愛い声を上げていた。


その夜叉を手に取ってスラリと鞘から抜き放つと―――


「―――魔術付与エンチャント


―――火属性魔術の付与をイメージして八雲は手にした夜叉に意識を込めてみると、刃紋に赤い炎が走ったかと思うと炎の剣と言っても過言ではない燃え盛る夜叉が完成する。


「ふわぁ~!スゲー!兄ちゃん!兄ちゃん!その剣って兄ちゃんが造ったの?変わった形をしてるよねぇ~!シニストラ帝国の『サーベル』やソプラやゾット列島の『カットラス』にも似ているね!片刃だしさ!」


ヘミオスは興奮気味に八雲に話しかけてきて、瞳をキラキラ輝かせている。


「あ、アンゴロ大陸の剣の方が似ているんじゃないかな?同じような片刃だし、細さもけっこう似ているよ?」


ジェミオスも自分の記憶から、刀に近い武器について語ってくれた。


北部のシニストラ帝国の屈強な軍隊ではサーベルが常備帯剣として採用されている。


ソプラ諸島連合国とゾット列島国の海の男達は、昔から伝統的な武器としてカットラスを用いている。


アンゴロ大陸にも刀に似た剣があり、『武士もののふ』という職業ランクが存在し、武士以上の立場の者はその刀の様な剣を持っているという。


八雲は、この世界にも色々な武器があるということを知ると同時に、そんな離れた国のことをここまで知っているジェミオス・ヘミオス姉妹に改めて驚いていた。


「では、その魔術付与エンチャントした武器の威力を直接体感して頂きましょうか―――召喚サモン!」


クレーブスは魔術付与の威力を八雲に確認してもらうために、召喚魔術を使用してその場に魔物を召喚する。


そこに召喚されたのは―――巨大な石で出来た身体で人型の魔物であるゴーレム、それも三体だった。


「八雲様。このゴーレムを相手にして、その効果を確認してみて下さい」


「ああ、分かった。危ないから少し下がっていてくれ」


八雲の指示にクレーブスとジェミオスも下がるがヘミオスは近くで眺めている姿を確認して、


「―――ヘミオス危ないぞ」


「平気♪ 平気♪ これでも序列入りしてるんだよ?心配しなくていいから、兄ちゃんやっちゃいなよ♪」


これが普通の中学生なら頭を叩いてでも下がらせるところだが、ここは異世界。


相手は小さくても龍の牙ドラゴン・ファングと考えたら、八雲もあっさりと納得することにした。


「それじゃ―――推して参る!」


そう掛け声するや否や、八雲は高速の動きで目の前の三体のゴーレムに突進していく。


―――するとゴーレム自体の動きは八雲からしてみれば、とても鈍重で接近する八雲への対応もまるでスローモーションのようであり、一体目が振り上げた腕を振り下ろす前に胴が夜叉で斬りつけられて、その傷口から噴き出すように炎が上がり、石の身体は赤色化して一部溶解が始まっていた。


(―――思った以上に抵抗がなかったな。熱したナイフでバターを斬るみたいな感覚だ)


斬った時の感触にそう思いつつ、二体目のゴーレムには両腕を切り落とす勢いで連撃を仕掛けて斬撃を繰り出して、その両腕は地面にドスン!と落下し、そのまま八雲はゴーレムの頭の高さまで飛び上がると頭頂部から縦に真っ直ぐ夜叉を振り下ろしてゴーレムを真二つに両断する―――


―――着地直後、三体目のゴーレムが接近してきているのを感知していた八雲は腰を低く、しゃがんだまま振り返りつつゴーレムの両脚を斬りつけ切断する。


そこで下半身が不安定になったゴーレムは前のめりに倒れ始めたので、そこから八雲は逆に身体を立たせる形でゴーレムの振り回される腕を躱しながら脇をすり抜け際に脇腹を斬りつけてすれ違う―――


―――脇腹を斬り抜かれたゴーレムはそのまま地面に倒れ込み、そして動かなくなった。


夜叉を振り払い、刀身に纏った炎を振り払うとスッと夜叉を鞘に収めた―――


―――硬い石の身体を斬りつけたが、何の抵抗も感じず斬り裂けたことに当の八雲も魔術付与の威力に驚いていた。


(これも敵の属性や相性を考えて立ち回らないと不利有利があるよな……)


八雲が戦闘分析を冷静に行っていると、ジェミオス・ヘミオス姉妹が近づいてくる。


「スゴイや兄ちゃん!スパスパッ!て斬れてたねぇ♪」


「流石お見事です兄さま/////」


ジェミオス・ヘミオス姉妹に褒めちぎられて少し照れ臭い八雲だったが、その場にしゃがんで倒したゴーレムの切断面を検証する。


「おお……なんだか鏡みたいにツルツルの斬り口だねぇ♪ ほら僕の顔が写ってるよ!」


「思った以上に斬れ味が上がった、と言うより『溶かして斬った』っていうのが正解かもな。魔術付与の上乗せ攻撃力が予想以上でビックリだ」


そこにクレーブスもやってきて同じくゴーレムの切断面を見て、


「どうやら魔術付与に関してはご理解頂けたみたいですね。それでは今日の講義はここまでと致しましょうか。この後にノワール様とアリエスの武器をお造りに行かれるのでしょう?」


「ああ、昨日約束したからな」


昨日、講義の後にノワールには大太刀を、アリエスには脇差を造ることを約束していたので、シュティーアの工房に向かおうかというところで、


「ええ?!ノワール様とアリエスの武器を造るの?!良いな!良いなぁ~!僕も造ってほしい!!」


突然ヘミオスが駄々子のようにして可愛くお強請りをしてきた。


「ちょ、ちょっとヘミオス!ダメだよ!兄さまにそんなお願いしたら―――」


「―――別にいいぞ。二人はどんな武器がいいんだ?得意な武器とかあるか?」


「エエエッ?!い、良いんですか?/////」


「さすが兄ちゃん♪ わかってるねぇ~!」


八雲の即答にジェミオス・ヘミオス姉妹は花が咲いたような笑顔になっていた。


(なんだか、本当に妹ができたみたいだなぁ)


八雲はそんな二人を見て、自分も同じく笑顔を浮かべていた。


「僕ね!僕ね!双剣が好きなんだぁ♪」


「わ、私も……双剣が得意です/////」


さすがは双子と言うべきか、得意な武器も一緒でしかも双剣と聞いた八雲は妙に納得した。


「それじゃ工房に行くか」


そうして八雲達は城に向かって歩みを進めるのだった―――






―――クレーブスの講義を終えて城から出てシュティーアの工房にやってくると、既にノワールとアリエスが待ち構えていた。


「遅いぞ八雲!我を待たせるとは―――」


「―――ああ、はいはい、待たせてゴメンねぇ~あと期待してくれてありがとねぇ~」


「グヌヌッ!/////」


食い気味に丁寧な謝罪と感謝の気持ちを返事すると、ノワールは顔を真っ赤にして唸っていた。


(てか、グヌヌッて言うヤツ初めて会ったわ……)


そうツッコミを入れたかったが、余計にノワールがヘソを曲げても面倒なので八雲は黙っていることにした。


「それで、ジェミオス・ヘミオスの二人も一緒に来たのですね」


「あ、僕達も兄ちゃんに武器造ってもらうんだぁ♪」


「兄さまが一緒に造っていいよと仰って下さいまして/////」


「―――兄ちゃん!?兄さま?!」


二人の話に「兄ちゃん」と「兄さま」というキーワードに反応するノワールとアリエスの顔が、次の瞬間にはジト目に変わって八雲に突き刺さる。


(オゥ……何この視線……俺死ぬの?)


八雲が青い顔をしだしたところで、工房の奥からシュティーアが顔を出してこの場の空気の状況に思わず、んっ?と首を傾げていた。


それから八雲は武器の創造について、参考になる武器を探してきて欲しいことを皆に伝える。


「さてと、それじゃ始めるか!ノワールは大太刀、アリエスには脇差、それにジェミオス・ヘミオスには双剣だな。それじゃ工房にある武器で長さとか重さが似通った武器を持ってきてくれるか?イメージしやすいから」


そう言われた武器作製希望者達は元気に返事をしながら、工房に置かれた武器の山に向かって一斉に駆け出していった。


「―――怪我すんなよ!」


走り出した背中に声をかけながら、八雲も皆の武器についてイメージを始めるのだった―――


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