―――アラクネ戦を周回して、八雲は空も暗がりになりだしたところで自分のステータスを確認してみた。
【ステータス】
Name:九頭竜 八雲(ヤクモ=クズリュウ)
年齢 18歳
Level 75
Class 転移者
生命 94506/94506
魔力 63004/63004
体力 63004/63004
攻撃 94506/94506
防御 63004/63004
知力 85/100
器用 85/100
速度 85/100
物理耐性 85/100
魔法耐性 85/100
《神の加護》
『成長』
取得経験値の増加
各能力のLevel UP時の上昇数値の増加
理性の強化
スキルの取得向上
『回復』
HP減少時に回復加速
MP減少時に回復加速
自身が直接接触している他者の回復
広域範囲回復
『創造』
素材を加工する能力
武器・防具の創造能力
創造物への付与能力
疑似生命の創造能力
《黒神龍の加護》
『位置把握』
自身の位置と黒神龍のいる位置が把握出来る
『従属』
黒神龍の眷属を従える
『伝心』
黒神龍とその眷属と念話が可能
『収納』
空間を開閉して物質を保管する能力
『共有』
黒神龍と同じ寿命を得る
《取得魔法》
『身体強化』
魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇
『対魔法防御』
魔力量に応じて対魔法攻撃防御能力が上昇
『火属性魔術』
中位
『水属性魔術』
基礎
『土属性魔術』
基礎
『風属性魔術』
基礎
『光属性魔術』
基礎
『闇属性魔術』
基礎
《取得スキル》
『鑑定眼』
物質の理を視る
『言語解読』
あらゆる種族の言語理解・文字解読
『酸耐性』
あらゆる酸に対する耐性
『毒耐性』
あらゆる毒に対する耐性
『精神耐性』
あらゆる精神攻撃に対する耐性
『身体加速』
速度を瞬発的に上昇させる
『思考加速』
任意で思考を加速させる
『索敵』
周囲の索敵能力
『威圧』
殺気により恐慌状態へと堕とす
『神の手』
愛情をもって触れる異性に快感を与える
《九頭竜昂明流古武術(八雲強化)》
剣術(強化)
槍術(強化)
弓術(強化)
組討術(強化)
新たに神の加護『成長』にスキルの取得向上という加護が現れ、《取得魔法》には《対魔法防御》、そして『毒耐性』もクレーブスの予測通りスキル欄に追加されていた―――
それ以前のLevel UPで神の加護『創造』の項目に『疑似生命の創造』などと興味が湧くしかない能力まで発現していた。
まだまだ試していかなければいけない能力も多いが、今日の
三日でLevel.75というのは八雲自身も我ながら異常だとは思うが、この世界で生き抜くためにはLevelが高くても悪いことはないと、ひとり納得した。
「しかし……数字が出鱈目過ぎる……もう気分は世界最強無双ですけど?」
明らかに桁がおかしくなっているステータスに八雲は、驚くよりも先に何故か諦めのような気分が先に来ていた。
それは自分でも納得したと思っている人間をやめたという心境に、まだ頭がついてきていないという一面も作用していた。
―――その後、食事の間でアクアーリオの夕飯を食べて今度八雲の世界の料理を作る約束を交わした。
部屋に戻って風呂も済ませて明日はクレーブスの講義一日目だと思い浮かべつつ、八雲はベッドの中へと入り昼間の疲れもあって深い眠りについた―――
―――そして次の日、
部屋の窓には再び朝の光が降り注いでいた。
まどろむ朝の時間、八雲は少しずつ意識が覚醒していく中で誰かの話す声が聞こえてくる。
「……ほらリブラ、もう少しこっちに寄って」
「……う、うん。ねえレオ……本当にいいのかなぁ?/////」
「今さらここまで来て何を言っているの?ノワール様もアリエスも許してくれたじゃない。ここで引いたら、そのお気持ちを裏切ることにもなるのよ」
「そ、そうだよね。せっかくお許しを頂いたんだもの!でも……これどうしたら……/////」
「―――そのまま素直に起こしてくれたらいいと思うよ?もしくは寝顔鑑賞」
「あ、なる…ほ……ど?!」
八雲と目が合うレオとリブラはその瞳をパチクリさせながら―――
「―――八雲様?!お、起こしてしまいましたか?/////」
会話の合間に乱入した八雲だったが、会話の内容やベッドの上に上がって自分の顔に顔を近づけているレオとリブラを見てデジャブらない訳もなく、二人が嫌じゃなくて此処に来たのなら、もうこれでいいと結論づけた。
「先に訊いておくけど、二人はこういうこと嫌じゃないのか?」
男の部屋にこれほど可愛いメイド達がベッドにまで上がってくるとなると八雲の方が気をつかわずにはいられない。
しかし問い掛けられたレオとリブラは真剣な顔をして、
「―――はい!私は八雲様の専属メイドとして、アリエスのように八雲様へご奉仕させて頂きたいです!」
その茶色い澄んだ瞳を大きく開き、その瞳の中に八雲を映しながらハッキリとレオが応えた。
「わ、私も八雲様の専属です!それに、正直アリエスがとても羨ましく思えました。だからレオと一緒にどうかご奉仕させて下さい/////」
顔を真っ赤にしながら、その黒い瞳には少し涙まで溜まっていた。
「ご奉仕って……言い方……」
要らぬ淫らな行為を思い浮かべそうになってしまう言葉に困り顔になった八雲は、その二人に向かってゆっくりと膝立ちになり、二人の頭に手を置くと優しく撫でていく。
「専属メイドだからって気負わなくてもいいさ♪ こんなに可愛いメイドさんに朝起こしてもらえるだけで俺には贅沢だよ」
「―――まあ♪」
「―――か、可愛い……/////」
八雲の不器用ながらも優しい手の温もりに、レオとリブラはお互い顔を見合わせながら、「ふふふっ♪」と笑い合っていた―――
―――それから二人に着替えを手伝ってもらう。
「―――八雲様、シャツをどうぞ」
レオの手にした黒いシャツに袖を通すと―――
「―――八雲様!コートをどうぞ♪」
―――リブラが漆黒のコートを持って八雲に差し出す。
八雲はそのコートに袖を通すとこの異世界の普段の恰好が完成した―――
今日はクレーブスの講義を受ける予定の八雲は食事の間でアクアーリオの朝食を食べて、そのあと先日訪れた地下に向かって階段を下りる。
クレーブスの部屋の前に立ち、扉をトントンとノックをすると中から―――
「―――はぁ~い!ただいまぁ~!」
―――と、どう聞いてもこの間のクレーブスとは明らかに違う他人の返事が聞こえてきた。
「―――お待たせしましたぁ~」
そう言って扉を開いてくれた人物は、見た目は中学生くらいでまるで人形のように整った可愛らしい顔をした少女―――
―――蒼い瞳に金髪をショートカットにしているメイド服を着た女の子だった。
「あ、御子様ですね。どうぞ中へ。クレーブスも中で待っております」
丁寧に中へと案内してくれる少女に、
「ありがとう」
と軽く返事をして、ツカツカと中に入る八雲。
「おお~!―――もしかして御子様?ねぇ御子様?」
中に入るともう一人、先ほど中に入れてくれた女の子と同じ顔をして、同じ蒼い瞳をしているがサイドポニーにした銀髪と髪の色だけが相違点という女の子が八雲の爪先から頭の天辺までジロジロ見つめながら声を掛けてきた。
「もしかして双子か?そっくりだな……」
「ああ、八雲様おはようございます。この子達と会うのは初めてですか?」
昨日と違って山積みにされた本は片付けられていて広くなった書斎に机と椅子が用意され、黒板まで用意されていることに八雲は少し感動して、そこに講義の準備を終えたクレーブスが挨拶してきた。
「うん、おはよう。この子達って双子?」
「ええ、この子達は媒体になった牙が半分に割れてしまっていたのですが、ノワール様がそれでもいいと媒体として使い生み出したのです。元が一本の牙だったのでこうして双子となって顕現した訳です」
「へえ、そんなことあるんだな」
クレーブスの説明に二人を見つめる八雲の視線に金髪の子は顔を赤らめるとモジモジして、銀髪の子はニヤニヤしながら見つめ返してくる。
「二人とも、こちらはノワール様の御子となった九頭竜八雲様です。ご挨拶なさい」
クレーブスに促された二人は、お互いに顔を見合わせてから―――
「はじめまして八雲様。
「僕はヘミオス!
「―――へ、ヘミオス?!御子様に失礼だよ!」
「別にいいじゃん!僕、兄ちゃん欲しかったし!ジェミオスも兄ちゃんて呼べばいいじゃん!」
「そ、そんな恐れ多いこと?!」
どうやらヘミオスが八雲のことを「兄ちゃん」と呼んだことをジェミオスが諫めているようだが、当のヘミオスはどこ吹く風といった具合に気にしていない。
「別にいいよ。変に畏まられるよりも俺もその方が気楽に接しやすいから」
八雲の言葉にヘミオスは鬼の首を取ったかのような表情と雰囲気で、
「ほらぁ~!兄ちゃんもそう言ってくれてるしさぁ~!ジェミオスも呼びたいように呼んでみなよ♪」
「え?えと、そ、それじゃ……兄さま……とお呼びしても―――」
「―――むしろ推奨」
「ふぇっ!?あ、ありがとう、ございます/////」
八雲の食い気味の返事にジェミオスの顔は真っ赤になり、ヘミオスはしてやったりといった表情を浮かべて笑っていた。
「ん、んんっ!―――それでは、講義を始めてもよろしいでしょうか?お兄様?」
ようやく落ち着いたところで、待ち構えていたクレーブスが問い掛けてきた。
「いやお前までお兄様って……ところでこの子たちは二人とも序列11位なのか?」
八雲は先ほど二人とも自己紹介が同じ序列だったことをクレーブスに問い掛ける。
「ああ、この子達だけ特別でノワール様が二人で一本の牙なので、問題無いと」
「なるほど……すまないな。それじゃ講義よろしくお願いします」
ノワールの案外適当な一面を知って、用意された大きな机と椅子をクレーブスに促されたまま座ると何故か、どこからか椅子を抱えてきたジェミオスとヘミオスも八雲の左右に分かれて、その持ってきた椅子に座ってニコニコしている。
「えへへ♪/////」
「にしし♪/////」
二人ともその人形のように可愛いらしい顔に満面の笑みを八雲に向かって浮かべている。
「この子達はこう見えて
―――城内の執務を執り行う
―――城外の諜報活動を行う
ジェミオスとヘミオスはその内の左の牙に所属するメイドだとクレーブスから紹介され、八雲は幼い双子の姉妹の仕事を聴いて、
「―――え?マジで!?すごいな二人とも!」
魔物も徘徊するという外の世界に出て活動しているというだけで、八雲にとっては驚きの対象だった。
「そ、そんなこと/////」
「もっと褒めてくれてもいいよぉ~♪」
中学生にしか見えない美少女双子姉妹が実は情報工作員として外の世界を飛び回っているスパイのような姿を勝手に想像して、八雲は驚きの表情で素直に感心していた。
実際に双子姉妹は無垢な少女に見えて
「この二人がいれば外の世界の知識について八雲様に、より詳しい説明も出来ますので一緒にこの講義へ参加してもらうことに致しました」
(うん、あなたは引き籠りですもんね……)
と、心の中でツッコミを入れた八雲。
「それじゃ三人ともよろしくお願いします!」
しかし習うのは自分の側だとキッチリと挨拶を述べて講義を促す。
「はい、ではまずこの世界についてから、ご説明していきましょう。そのあとに魔法・魔術についてご説明します」
「わかりました先生!」
元気よく返事を決める八雲。
「先生……なんだかむず痒いですね……では―――まずはこちらから」
クレーブスがそう言った途端に目の前の黒板にノワールにも見せてもらった、この世界の地図が浮かび上がった。
「おお!この地図は前に一度ノワールに見せてもらったことがある」
「そうでしたか。では地図を見ながら、この世界の地理について説明します」
クレーブスは地図の大陸を指し棒で示しながら説明していく―――
―――その内容とは、
まずこの世界には―――
【フロンテ大陸】
【デストラ大陸】
【アンゴロ大陸】
【グラント大陸】
―――という四つの大陸があり、それぞれに多数の国家が存在する。
また、その大陸とは別に大陸の周辺には単一国家として島国である―――
【シニストラ帝国】
フロンテ大陸北部ノルドの西方、海を越えたところにある島国を単一国家で統一している国。
皇帝一族の絶対的な権力と強力な軍事力を誇る。
北部の寒冷な地域の為、農耕作物が育ちは悪く食料は海産物と輸入に頼っている傾向。
しかし希少金属鉱石が採掘されるため、貿易にて経済を回している。
【ソプラ諸島連合国】
古に列島の部族同士が盟約で繋がり、のちに現在のソプラ諸島連合国として成り立った。
海産物・漁業が主な生活基盤となっており、オーヴェストと海産物交易も行っている。
南方のゾット列島国とは漁業漁師同士の小競り合いが絶えない。
【ゾット列島国】
元々ソプラと同じ部族が統一していた列島国家。
ソプラ諸島連合国と同じく海産物・漁業が生活基盤であり、スッドと交易を行っている。
ソプラ諸島連合国とは漁業権の小競り合いが絶えず、一触即発の状況となっている。
といった強力な軍事力・経済力をもった国家が存在する。
「―――ここまでは、よろしいですか?」
「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」
日本で学力の下地がある八雲にとっては、このくらいの地理的な講義についていけないことはない。
「では、次に龍の縄張りについて―――」
―――新たな地図が黒板に浮かび上がる。
「これはフロンテ大陸を四つに分けた龍の縄張りを示したものですが―――」
クレーブスが続ける―――
フロンテ大陸
【大陸東部エスト】
蒼神龍ブルースカイ・ドラゴン
【大陸西部オーヴェスト】
黒神龍ミッドナイト・ドラゴン
【大陸南部スッド】
白神龍スノーホワイト・ドラゴン
【大陸北部ノルド】
紅神龍クリムゾン・ドラゴン
―――以上の四大神龍の縄張りが決まっており、この大陸の東西南北は古から神龍同士で不可侵の盟約があり、侵略行為は禁止されている。
そこで八雲が疑問に思うことをクレーブスに質問した。
「もし縄張りを挟んだ隣同士の国が戦争になると、どうなるんだ?」
「歴史上で何度かそういう事態が発生しましたが、人類の侵略行為というものは神龍にとっては関係無いのです。互いの縄張りの不可侵とは、あくまで神龍同士が侵攻しないことを意味しています」
「国同士が争って、その領土が変わっても龍同士が争って縄張りが変わらなければ我関せず、ということか」
「―――ええ。それと、それぞれの縄張りには国名に『皇国』とついた国がひとつあります。皇国とはそれぞれの縄張りでドラゴンが初めて人類と盟約を行った地が皇国となっています。そしてフロンテ大陸には神龍信仰という独自の信仰があります」
神龍信仰とは―――
神龍の棲息するフロンテ大陸独自の信仰で神龍を神格化して崇め奉り、各地に神龍信仰の教会もある。
ただ【四柱神】の信仰も並行して大陸には存在し、その信仰を妨げたり、他の信仰を馬鹿にしたりする行為は禁忌とされ、宗教戦争は許されない大罪とのことだった。
四柱神信仰とは―――
【地聖神】
【海聖神】
【天聖神】
【冥聖神】
この四柱の神を信仰する宗教会派が存在する。
生活基盤が農耕関係の者は地聖神を、海洋沿岸では海聖神、首都や都市部では天聖神、地方の農村部などで冥聖神が主に信仰されている。
「オーヴェストの皇国って―――」
八雲の声にクレーブスが黒板に映し出した地図をスライドして拡大するようにその場所を示す―――
「この『ティーグル皇国』がそうです。この地でノワール様は初めて、その地の人類と盟約を交わしました」
拡大されたオーヴェストの地図には、その中央辺りにティーグル皇国と書かれた国があった。
「その盟約って一体どんな内容の盟約なんだ?」
当然の様に疑問に思ったことを口にした八雲。
「それは、それぞれのドラゴンによって内容は異なるようです。ノワール様が当時どのような盟約を交わされたのかは、ノワール様しか知りません」
クレーブスですら知らないノワールの盟約内容が気になった八雲だが誰にも言っていないということは、きっとおいそれと口にしてはいけない内容なのだろうとなんとなくだが察して、それでも少し胸の奥がモヤモヤした気分になる。
そんなことを考えていると―――
「はいはぁ~い!兄ちゃん!ティーグルはパンケーキが滅茶苦茶美味しいぃんだよ♪」
右に座っていたヘミオスが手を上げて得意気な表情で甘味情報を教えてくれた。
「へ?あ、そう、そうなんだ。へぇ、パンケーキかぁ……トッピングとかあるのか?」
「ふふん♪ 蜂蜜はもちろん、クリームとかチョコとか果物とか自分で選べるお店もあるんだよ!今度一緒に行こうよ!」
「ヘミオス!今はお勉強中だよ!」
「ジェミオスは真面目だなぁ。別に情報を伝えた方が臨場感とかあるじゃん」
「ハハッ♪ そうだな。此処を出てティーグル皇国に行ったら真っ先に食べたいな」
「うん!その時はジェミオスと三人で行こうね♪ デート♪ デート♪」
「ふぇ!?デ、デート……兄さまと……/////」
ウキウキとした顔のヘミオスと純情可憐な雰囲気を醸し出すジェミオスを見て八雲も顔が綻んでいた。
「ん、んんっ!……続けてもよろしいですか八雲様?」
「あ、ハイ、サーセン……オネガイシマス……」
クレーブスの冷たい視線に晒された八雲は、無意識にロボット口調で返事していた……