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第11話 アラクネ戦

―――レオと交代したリブラが新たに十個の魔法陣を作りだす。


「それじゃ、いきます!―――召喚サモン!!」


さきほどと同じくアラクネが十体出現し、蜘蛛の下半身にある八本の足が細かな動きを見せて蠢いている―――


「これは!?召喚された―――」


言い掛けていたそこで、アラクネの言葉と首が―――斬られた。


一体のアラクネが現状を確認しようとして言葉を発した途端に強化した身体能力で瞬発力を生じさせ、超高速で突っ込んだ八雲は最早アラクネの蜘蛛の頭についた八つの眼をもってしても、捉えられない動きを繰り出して速攻倒したのだ。


「アア―――ッ?!八雲様ズルいです!!」


手にした黒大剣=黒曜こくようを片手で掲げながら、リブラは抗議の声を上げているのが八雲には戦場に関わらず、不謹慎にも少し可愛く思えた。


「悪い。なんか油断しまくっていて簡単に斬れそうだなって思ってさ」


目の前で首を飛ばされた同族……その前で気安い言葉を交わす人間……それを見て呆気に取られていたアラクネ達もすぐに正気を取り戻す―――いや怒気と殺気を全身から噴き出す。


「……この人間がぁぁっ!!―――食い殺してやるぅ!!!」


狂気を孕んだ目を鋭い凶器のように細めてアラクネ全員が高速移動に入るが、今の八雲は冷静に『思考加速』を駆使することでスローモーションの映像を見ているようだった。


そこからは至極一方的な惨劇の始まりだ―――


―――黒曜を構えたリブラが今まで見せたこともないスピードで化物のような巨大な剣を高速で振り回し、次々とアラクネを斬る……いや爆ぜ飛ばす。


斬れ味は抜群のはずだが、斬ることもあれば返す刀で側面の刃幅の部分の広い面積で殴り飛ばして強烈な衝突をくらったアラクネは、まるで蠅叩きで叩かれた小虫のようにグシャリと嫌な音を響かせながら身体を潰されていく―――


「八雲様!八雲様!―――この黒曜は凄いです!最高です!!アハハハッ♪」


「そ、そうか、うん。それは、良かったです……」


夜叉と羅刹で竜巻のように回転しながらアラクネの腕や脚を斬り飛ばしていく八雲だが、喜々として魔物叩きを楽しんでいるリブラの表情にゾクリと少し背筋に悪寒が走っていた。


そして間もなく二度目に召喚されたアラクネ達は先ほどよりも早いタイムで討伐され、またも死体の山が出来上がっていた。


「―――少し休憩されますか?」


次のパートナー予定のクレーブスが休憩を提案してくれたことに八雲は息抜きがてら聞きたいことがあったので、ここぞとばかりに訊いてみる。


「それじゃ休憩しながら、少し魔術について訊いてもいいか?」


「ええ、講義は明日からですが今日の戦闘の様子を見ていましたら、余裕もありそうですし簡単にならお教えしましょう」


「ああ、頼む。俺の魔術能力は―――」


そう言って、八雲は自分のステータスについてクレーブスに説明した。




《取得魔法》


『身体強化』

魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇

『火系魔術』基礎

『水系魔術』基礎

『土系魔術』基礎

『風系魔術』基礎

『光系魔術』基礎

『闇系魔術』基礎




「身体強化はさっきのアラクネとの戦闘で完全に掴んだから分かるんだけど、各魔術の基礎っていうのはどういうことかと思って」


八雲の質問に指で眼鏡をクイッと押し上げたクレーブスは、


「なるほど……」


と呟いてゆっくりと説明を始める。


「まず、この世界の『魔法』とは個々の持つ『魔力の法則』という意味です。火・水・風・土・光・闇の六属性に魔力を変換する法則と属性の無い無属性を総称して『魔法』と呼びます。それに対して『魔術』とは、その属性に魔力を注ぎ目的の効果に変換し、具現化する技術を『魔術』と言います」


―――クレーブスの言葉を聞き逃さないように八雲はその話に集中する。


「―――そして魔術の『基礎』とは、それぞれの属性の制御能力コントロールを覚えたという意味です」


「コントロール?」


「―――はい。火属性なら《ファイヤー・コントロール》、水属性なら《ウォーター・コントロール》という基礎の魔術を覚えたのです。そして魔術の行使はイメージが重要です」


そこでクレーブスが掌を上にして


「―――火球ファイヤー・ボール


と詠唱すると火の玉がその掌に浮かぶ。


そしてその火の玉を近場に転がっているアラクネの死体に向けて飛ばすと、着弾した死体は一瞬で炎に包まれて消し炭に変えられていく。


「凄いな……」


魔法のない世界―――現代日本から来た八雲は初めて攻撃魔術を目の当りにして、かなりの衝撃と感動を覚えて少し体が震えていた。


「今のは火属性魔術・下位火球ファイヤー・ボールです。魔術には下位・中位・上位・極位という段階に分かれていて、より強力な魔術を使うには魔力量と、先ほどのコントロール能力の熟練度を積み重ねることで使用できる魔術の段位が上がります。魔力量が多いだけでも、熟練度が上がるだけでもダメです。双方が成長していくことで魔術は向上します」


「なるほど……今の火球ファイヤー・ボールとかいう魔術、俺でも撃てるかな?」


「先ほども言いましたが魔術はイメージが重要です。ですので火球ファイヤー・ボールのイメージがしっかり伝われば―――撃てます」


ハッキリと言い切ったクレーブスの言葉に、八雲はワクワクした感覚が胸に湧き上がった。


「―――よし。やってみる」


そう言って、先ほどのクレーブスのように掌を上にして―――


「―――火球ファイヤー・ボール


そう呟いた途端―――掌から火柱のような炎が吹き上がり、やがてその炎は小さな太陽のようにメラメラと燃え盛って見た目だけで高温だと分かる炎の塊が生まれた。


「ウオオオオォ―――ッ?!なんだ!これ!?」


八雲は先ほどのクレーブスが見せた火の玉と比べて巨大な炎の塊が生まれたことに、魔術が使えたことよりも目の前の危機にパニックを起こしていた。


「―――八雲様!」


レオが慌てて近づこうとしても、炎の高熱に思わず顔を腕で覆ってしまう。


「落ち着いて下さい!八雲様!そのまま……そっとその塊を遠くに、出来るだけ遠くに投げるイメージで飛ばして下さい!」


クレーブスの指導に八雲も神の加護『理性の強化』が発動してスッと冷静さを取り戻すことで、言われた通り炎の塊を出来るだけ遠くに飛ばすイメージで腕を振り被るとそこから放り投げるように撃ち出した。


すると炎の塊は弾丸のように撃ち出され、やがて遠くで着弾した大地が―――


「ウオオォ!?」


―――その場に巨大な爆発を引き起こし、かなり距離が離れていたにも関わらず、その爆風が周囲に広がって遠く離れた八雲達のいる場所まで押し寄せてくる。


爆風に巻かれた土埃が辺りを包み込み、八雲の前髪が逆立って靡く―――


―――土埃と降り掛かる小石から護るため腕を前に出して顔を覆う。


そうして暫くして周囲が漸く落ち着いた頃に……


「……うん、まあ―――成功だな」


「―――なぁにが成功ですか!!なんですかあの火球ファイヤー・ボールは!あんなの上位クラスの威力ですよ!どんな魔力してんですか!」


八雲の何も問題ないだろうという、事無かれ主義なセリフにクレーブスが盛大にツッコミを入れた。


レオとリブラ、シュティーアは只々そこで唖然としていたが、


「―――八雲様!流石です!凄い!凄い!」


しばらくするとその場でぴょん♪ ぴょん♪ 飛び跳ねるリブラに少し緊迫した空気が緩んだ。


だが次の瞬間―――


「コオラァアアア―――ッ!!今、とんでもない魔術使ったのは誰だぁあああ!!!」


離れていた黒龍城から続く道を、砂埃を巻き上げて走りながら怒鳴り声を響かせて接近してくる―――ノワールだった……


「クレーブス!!お前だろ!あんな上位魔術をいきなりぶっ放したのはっ!!!」


「い、いえ!私では……」


「―――俺だ」


ノワールの見たこともない剣幕にたじろぐクレーブスの代わりに八雲が返事をすると、ノワールは驚愕の表情で八雲に視線を向ける。


「なに?!―――八雲が放ったのか?我はてっきりクレーブスが撃ち込んだものだとばかり。怒鳴ったりしてすまなかったな。クレーブス」


「いえ、私もまさか八雲様の火球ファイヤー・ボールがあれほどの威力とは予想出来ず……申し訳ございません」


「ん?火球ファイヤー・ボールだと?さっき撃ったのは火球ファイヤー・ボールなのかっ!?」


上位魔術と勘違いしていたノワールはさらに驚きを隠せず、八雲は頭を掻いて


「―――えへへ♪」


と誤魔化し笑いを浮かべていた。


「ノワール様―――八雲様の魔力量はとてつもなく大きいです。しかしコントロール能力がまだ今は駆け出しの素人レベルのためバランスが合っていません」


「……素人」


「なるほどな……暴走に近い形で具現化したわけか。なんとかなりそうか?」


ノワールも真剣な顔に戻ってクレーブスに問い掛ける。


「恐らくですが数をこなして熟練度を上げていくことでバランスは保たれると予想されます。これは明日からの魔法の講義はやり方を変更しなければいけませんね……」


「なんかマジでごめん」


何となく迷惑をかけている気持ちになって謝る八雲に、ノワールは笑い飛ばして一蹴する。


「アハハハッ!別に気にするな!さすがは我の御子だ!それよりも―――」


と、そこまで言ってノワールは周囲を見回すと、


「―――もうアラクネを相手にしているのか?これほどの成長を見せるとは、これは成長が楽しみだ♪/////」


そう言って潤んだ唇を軽く開いて、ゆっくりその唇を舌で舐める仕草を見せるノワールに八雲は無意識にゾクリとする感覚を覚える。


「あら♪ 八雲様、仰っていただければ必要なら私やリブラにいつでもお申し付け下さい♡ ねぇリブラ♪/////」


「うえぇ?!いえ!はい!!そ、その、頑張りましゅ/////」


その様子を見てノリノリのレオと、顔を真っ赤にして湯気が出そうな勢いのリブラが割り込むようにして前に出てきて八雲は思わず二人といけないことをしている姿を妄想して動揺してしまう。


「―――な、なあ!この世界って、その、一夫多妻制みたいな風習があるのか?」


動揺しつつ、アリエスが好意を寄せていることをノワールが承知していることについて抱いた疑問をここで問い掛ける。


「ええ。この世界では一夫多妻は当たり前ですよ?あくまでも養える貴族や王族、富裕層の商人達くらいですが。血を重んじる一族は血が絶えるということは、お家の断絶に繋がりますからね」


「……なるほど」


クレーブスの説明にやはりそうかと納得する八雲にノワールがニヤニヤしている。


「八雲、別に眷属に手を出すのを躊躇っているなら気にする必要はない。無理矢理は許容出来んが、少なくともお前を慕っている者をどうするかは自分で決めろ。それくらいの度量は示せ」


「そう言ってもノワール、俺のいた国は一夫一妻制なんだよ」


「―――ほう、それは興味深い。しかしそれでは血が絶えることが多いのでは?」


クレーブスの疑問に八雲は応える。


「ああ、確かに少子化問題っていうのはあったけど、少なくとも医療が発達していたから出産時の死産という危険度は昔に比べればはるかに低かったからな」


「なるほど、医療技術の発展が無事な出産を支えていたと……勉強になります」


「まあ、そのあたりは明日の講義の時にでも話せ。それよりまだ鍛錬を行うのだろう?」


「ああ、次はクレーブスだったな」


「そうですね。ですが八雲様……魔術は『身体強化』以外、今は使わないで下さいね?」


「分かってるよ。俺も自爆したくない……」


そうして魔法陣を展開するクレーブスは再びアラクネを召喚した。


八雲は夜叉・羅刹で先ほど同様で着実に自分の『身体強化』を使用して魔物を駆逐していく―――


―――クレーブスはスラリと黒細剣=飛影ひえいを鞘から抜いて、その身体をブンッ!と一瞬で残像を残す高速で走り出したかと思うと一瞬で標的にしたアラクネを蜂の巣のように穴だらけになる高速の刺突を繰り出す。


レオの闇雲も突きで魔物を蜂の巣にするが、クレーブスの飛影による刺突は切先が細いので穴も小さく、しかし刺突の手数が尋常ではない数なので細かな穴が全身を覆っているような錯覚を覚えさせるほどの連突きだった。


あまりに高速の刺突のため、暫く間をおいてアラクネは全身の穴から鮮血を噴き出して断末魔を上げながら地面に倒れていく。


―――そうしてクレーブスのアラクネ戦も終わりを告げ、次はシュティーアの番だ。


「なんか、アタイの番になったと思うと、ちょっと緊張するね……」


「シュティーアらしくないな。一緒に頑張ろう!」


「そうだぞシュティーア!我が見守っているから全力でいけ!」


「八雲様、ノワール様……そうだね!アタイらしくないよね!よお~し!―――叩き潰すぞぉ!」


手にした黒戦鎚=雷神らいじんでドォンッ!と大地を叩き、軽くクレーターを生み出してシュティーアは《召喚》を唱え、アラクネを呼び出す。


そして調子にのったシュティーアは雷神を振り回し、その大地を凹ませる一撃をアラクネに高速で撃ち込む。


平らな面の鎚頭で叩けば、アラクネの身体が平たくひしゃげていき、円錐になった面で叩けばアラクネの身体にクレーターのような跡を残して爆散させる。


八雲はその様子を見ながら倒すことが出来るほど余裕が生まれて、アラクネ戦にも慣れてきたことで彼女達の武器を見ながら、我ながら恐ろしい武器を造ったと軽く身震いしていた。


そうして―――


またレオの番に戻って、八雲は鍛錬を繰り返す。


今日はノワールも最後までつき合って鍛錬の様子を眺めながら、いつの間に来たのかアリエスもその横に控えて様子を見ていた。


空が夕闇に包まれだしたところで今日の鍛錬は切り上げる。


するとアリエスが汗を拭くために用意してくれたのだろう、手拭いを持って八雲の元に近づいてくる。


「お疲れ様でした八雲様」


「お、ありがとな……どうしたアリエス?」


汗を拭きながらジッと自分を見つめるアリエスに、八雲は何か言いたいことがあるのだろうと気がついて問い掛ける。


「その……皆、八雲様の造った武器を頂いているのですよね?」


「あ、ああ、アリエスも欲し―――」


「―――欲しいです!」


「―――うおっ?!喰いつきスゴッ!わ、わかった。それじゃアリエスは得意な武器とかあるか?」


食い気味で返事を返すアリエスに驚いた八雲だが、彼女のそういう一面もまた可愛いと感じていた。


アリエスはやや照れた顔をして、


「八雲様と……同じ物がいいです/////」


「え?刀か?そうか、うん、わかった。それじゃこれ持ってみて」


八雲は腰から夜叉を鞘ごと抜いてアリエスに手渡すと、長さや使い勝手を尋ねる。


スゥッと鞘から夜叉を抜いたアリエスを見て、


(メイド服に刀も……いい)


などと思ってしまう厨二病の入口に舞い戻っていた八雲に向かってアリエスは、


「少しだけ短い方が使いやすいです」


―――使い心地を軽く振りながら応える。


「―――そうか、だったら脇差しくらいが丁度いいかもな」


「脇差し?刀ではないのですか?」


「いや、刀の種類なんだよ。夜叉は打刀って部類の刀で、それより短めの刀に脇差しって種類があるんだ。それがいいかなって」


八雲の説明に何故か顔をほんのり赤くしたまま聞き惚れるアリエス。


「なんだ?我には造ってくれんのか八雲?」


そこに様子を見ていたノワールがニヤニヤしながら割り込んできた。


「ノワールも武器使いたいのか?」


「わかっておらんなぁ!そういうものは黙って女に造ってやるのが男の甲斐性というものだぞ!もっと精進しろ!」


偉大な黒神龍に乙女心を説かれて呆然とした八雲だが、


「へいへい……それで、ノワールは得意な武器とかあんのか?」


気を取り直して希望を問い掛ける。


「我も八雲と一緒のが、いやもう少し長くて、太くて硬いのが……/////」


「そんな卑猥な武器はない……でも、ノワールも刀か。だったら大太刀がいいかもな。大体希望に合ってるし」


「それも刀の種類なのか?」


「そうそう―――よし!それじゃ明日クレーブスの講義が終わったら工房に集合!!」


「―――オオオッ!!」


ノワールは元気よく雄叫びを上げ、アリエスは「はい」と嬉しそうに返事していた―――


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