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第7話 黒神龍装

―――周囲に響き渡るオーガの悲鳴。


「ギャアアアアッ?!ウグッ!!!あああっ!この雌豚がぁ―――ッ!!!」


手にした闇雲の穂先をグリッと回したレオは一瞬槍を引き、そしてまた股間を突き刺したかと思うと、今度は大きく槍を引いた―――


引いた槍の穂先の血糊を弾き飛ばして、


「あら可愛い♪ そのような姿になっても悪態がつけるなんて」


血塗れになったオーガを見下す様に、黒い笑顔を浮かべながら呟くレオの発言に槍捌きに感心していた八雲も正直ドン引きしていた。


むしろオーガに同情の念を妙に抱いた八雲を見て、レオはさっきの黒い笑顔とは違ういつもの優しげな笑顔に戻って、


「あ、八雲様にはこんなこと致しませんよ♪―――むしろ八雲様なら私……/////」


可愛い照れ顔を見せながら赤らめた頬に手を当てているが、握り締めた槍による壮絶な槍捌きを見せつけられた八雲にとってはその萌え顔すらゾクリと背筋に寒いものが走る。


「さて、それじゃ―――さっさと逝って下さい」


槍を一振りしてレオは、返す刀で闇雲をもう一振りすると、オーガの首を一瞬でアッサリと斬り飛ばしていた―――






―――その頃、もう一匹のオーガが向かって行ったリブラは、


「オラアァ―――ッ!コノッ!クソッ!ちょこまかと!いい加減捕まれ!!」


華麗なバックステップで次々と繰り出されるオーガの腕を回避して、羅刹を身体の中心線に構えたままオーガの動きを完全に見切っている。


「いつまでも逃げられねぇぞ!大人しく俺の餌になれぇ!!ちゃんと可愛がってから喰らってやらぁ!」


―――リブラを捕まえられないオーガは、頭に血が昇って息を荒げながらも人間より圧倒的に太い腕を振り回す。


「―――もういいでしょう……いきます!」


呟くような声で掛け声を吐き出したリブラは、バックステップしてから一気に前進してオーガの懐へ完全に飛び込んでいった―――


―――突然懐に飛び込まれたことに一瞬驚いたオーガだったが、次の瞬間には自分の手で届く距離にリブラが現れたことに、両手を思い切り抱き着くように左右から襲い掛かる。


だが抱き締められないし捕らえられない―――


―――何故なら、オーガが両腕の感覚に異常を感じた時には、もう時既に遅しでオーガの両腕は切断されて失われていた。


「な、お、あ?!……ああ、アアアアアァァ―――ッ!!!」


オーガが叫んだ瞬間、上腕からなくなった両腕の斬り口から左右に向かって、噴水のように鮮血が噴き出していく。


返り血を嫌がって再びバックステップで距離を取っていたリブラは、


「ふおぉ~♡ 八雲様!八雲様!この羅刹の斬れ味!太いオーガの腕を斬り落とすのにまったく何の抵抗も感じませんでした!最高です!!アハハッ♪」


羅刹の斬れ味をぴょん♪ ぴょん♪ その場で飛び跳ねながら伝えてくる無邪気なリブラだが、その目の前の惨劇は……どう見ても地獄絵図だ。


やはり可憐な女性の姿をしていても、龍の牙ドラゴン・ファングと呼ばれる黒神龍ノワールの眷属だ……八雲は彼女達を怒らせることだけは絶対にやめようと改めて心に誓った瞬間だった。


無邪気な笑顔のリブラとは裏腹に両腕を失ったオーガは、地面に膝をついて襲いくる両腕の激痛に気が狂ったように雄叫びを上げていた―――


「グオオォオアアア―――ッ!!!」


「―――ああ、もう、うるさいですね―――黙れ」


―――羅刹を握りしめて腕を失ったオーガに近づいたリブラは、そのまま隣をすり抜けるようにして通り過ぎると後にオーガの頭が身体から噴き出す血の噴水の勢いで真上に天高く吹き飛び、更にその後は地面に落下し転がって耳障りな雄叫びはそこでピタリと止まった。


「これは……予想以上の惨劇……」


惨劇の場に立ち尽くす八雲は、レオもリブラも間違いなく今の自分では敵わないだろうと改めて認識した場面だったが、そこへ先ほど八雲が蹴り飛ばしたオーガから恨みごとの滲み出る声が聞こえてくる。


「ゆ、許さねぇ、許さねぇぞ……お、お前等ぁぁああ!!」


人間である八雲に蹴り飛ばされていたオーガは、その鳩尾を抑えながらゆっくりと立ち上がろうとしていた。


本来なら待ってやる義理もない八雲だったが驕りではなく、ただ単に倒れ込んだオーガに上から刀を突き刺して終わりでは、夜叉の試し斬りにもならないといった傍から見れば冷酷極まりない短絡的な考えからだった。


「やっと起きたか。餌にしていた人間に待ってもらって恥ずかしくないのか?」


ワザと挑発するような声を掛けて、目の前のオーガの土気色した顔色が激昂により見る間に赤くなっているのを八雲は落ち着き払って観察する。


「コロスッ!お前等ぁぁ!絶対に―――殺してやるぅッ!!」


―――冷静な八雲とは反比例して、怒りが頂点に達しているオーガは牙の生えた口から怒り過ぎて涎を垂れ流し、腰を低く屈めると途端に猛ダッシュで八雲に向かって突進を開始する。


八雲は腰の夜叉を抜き去ると両手で柄を握って腰を落とし、刀身は背中に隠すようにして目一杯後ろに引いて構える―――


―――これによりオーガは八雲の刀の間合いを推し量ることは出来ない。


それでなくても怒り心頭のオーガは、もはや武器の間合いなどお構いなしで八雲に突進してくる―――


―――ならば勝負は八雲の間合いに入った瞬間に決まると、レオもリブラも八雲の構えを見て即座に察する。


九頭竜昂明流くずりゅうこうめいりゅう・剣術

―――『なぎ』」


そう八雲が呟いた瞬間、一歩前に出していた左足に元々ある体重からは考えられない異常なほどの重心が移動され―――


―――その重心荷重による波動と共に左足が地面に沈み込むと、


そこから生まれた波動をオーラの様に全身に纏いながら捻った腰に伝動させて高速回転を開始すると同時に攻撃に入る―――


―――その回転の力に乗った両腕を足元から伝わった強烈な波動の伝導に合わせて凄まじい力で夜叉が横薙ぎに一線、黒い軌道を描いていく。


この一連の動作を八雲はほんの一瞬で体現しており、夜叉の刃先は既にオーガの身体をすり抜けるようにして一気に振り抜かれていた―――


「……あ?……今の……は?!」


そう呟いた瞬間、オーガの上半身と下半身は夜叉が黒い一線を描いた軌道の通りに別れを告げて、上半身がそのままズルりと横に滑り堕ちた。


「フウゥ―――」


肺に残っていた空気を吐き出しながら、今のLevelになって実家で習った剣術や武術を駆使すれば日本にいた頃よりも、遥かに威力が増すことを八雲は改めて体感したのだ。


「―――お見事でございます八雲様」


「す、凄い……」


刀を一振りして鞘に戻す八雲の背中に、レオとリブラの尊敬の眼差しが降り注いでいた。


「今の剣術は?」


レオが近づきながら先ほどの技について質問する。


「ああ、うちの実家の道場の剣術だ。九頭竜昂明流って言う古武術なんだけど、まぁ弟子も俺以外いなかったんだけどな……」


「そうなのですね。ですが今の八雲様のLevelで使えば、かなりの威力になると見受けましたが?」


先ほど八雲が思っていたように、そのことについてレオは続けて八雲に問い掛ける。


「それは俺も今さっき体感した。この分だと、この世界でなら実戦でも使えそうだ」


「それはよろしゅうございました。基礎となる武術を身につけられているなら、この後の戦闘でもきっと役に立つでしょうし」


「俺もそう思うよ。祖父ちゃんに感謝だな……」


八雲の脳裏には元気な頃の祖父が思い浮かんでいた。


「それでこの後は如何いたしますか?オーガの召喚を続けましょうか?」


「―――そうだな。この前みたいに無茶なLevel上げにはならない様に気をつける。今日は夜になる前には切り上げよう」


「畏まりました。それと、この黒神龍装ノワール・シリーズですが、もう少し使わせて頂いてもよろしいでしょうか?」


―――レオの言葉にその隣のリブラも、うん!うん!と可愛らしく頷いていく。


「別にいいぞ。使い心地を見てほしいからな。それじゃあオーガを十体ずつ召喚して、レオとリブラが交代で俺と組んでフォローしてくれるか?その時に武器の具合を見てくれたらいいから」


「では、それで参りましょう♪―――召喚サモン


―――八雲の提案に承知したレオがまた昨日のように魔物召喚用の魔法陣を展開した。


「それじゃ最初はリブラからな」


「―――はい♪ 頑張ります!」


目の前の広場にはレオが召喚用に出現させた魔法陣が十個並び置かれ、光を放ち魔物の召喚術を発動させて光が迸る。


そして八雲とリブラは横に並んで、武器を改めて構える。


「リブラ、羅刹を使って何か気がつくことがあったら、鍛錬の後に教えてくれ」


「畏まりました八雲様!」


会話している間に、魔法陣からは大柄の影からオーガが次々と出現してきた。


「それじゃ―――いくぞ」


八雲の声にリブラは羅刹を構え、八雲も再び夜叉を抜き正眼に構えてオーガを睨みつけた。


―――そしてまた魔物狩りの鍛錬が始まる。


それからは―――魔物のオーガにとっては、ただ惨劇が繰り返されていった……


―――十体のオーガは武器を抜いた八雲とリブラを見ると、すぐに敵認定してまるで猪のように突進してくる。


真っ先に接近して夜叉の間合いに入ったオーガに対して八雲は正眼に構えていた夜叉を一瞬にして上段に振り上げ、そして音もなく真下まで振り降ろすと目の前のオーガは脳天から真二つになり、左右に向かって身体が斬り裂かれる―――


―――その一瞬の斬撃で怯んだオーガの集団だが、人間に虚仮にされた状況に沸点の低い闘争本能が理性を失わせた状況で突撃を開始させる。


八雲は構えた夜叉を袈裟斬りに、横薙ぎに、そして下から上に斬り上げ、上段からの唐竹割りしてと息も吐かせぬ速度で、オーガの集団の隙間をすり抜けるようにして歩みを進めながら斬り捨てていく―――


―――リブラは手にした羅刹で自分に向かってきたオーガの四肢を斬り裂きながら、その手の羅刹を眺めてニコニコと笑みを溢し、そしてまたオーガの身体を切り刻むという傍目に危ない人物と化していた。


今度はリブラが召喚を行い、また十体のオーガを呼び込んで今度は八雲とレオが相手をする―――


―――レオは手にした闇雲を、ビュンビュンと音が鳴り響くほどに高速回転させて身構えると、向かってくるオーガに対して目にも止まらぬ突きの連続を繰り出してオーガの身体がまるでマシンガンに撃たれたような蜂の巣状態になっていた。


八雲は自身に向かってくるオーガを只々確実に、夜叉の餌食にしていく―――


―――切り刻む・蜂の巣にする・斬り伏せる……


召喚を繰り返して荒野にオーガの死体の山が築かれていき、最後に召喚されたオーガの集団は召喚された途端、その目の前に広がる同胞の死体の山に怖気づいていたくらいだった―――


―――そうして、また空に暗がりが広がりだした頃……


「―――そろそろ今日は切り上げよう。またノワールに心配かける訳にはいかないからな」


「畏まりました♪」


「いやぁ今日はいい運動になったねぇレオ♪」


リブラはまだまだイケる!といった雰囲気で、レオも見れば汗ひとつ掻いていないように見える。


「それじゃ―――」


振り返って帰ろうと踵を返そうとした瞬間、八雲が突然地面に膝をついた。


「―――八雲様?!」


「八雲様!大丈夫ですか!?」


膝をついた八雲に駆け寄るレオとリブラに八雲は、


「……腹、減った……そう言えば昨日から何も食ってなかった……」


異世界に来て、目まぐるしく激動の日を過ごしていた八雲は、自分の食事についてまったく気がついていなかったのだ。


そのまま慌てたレオとリブラに支えられて、急ぎノワールの城に向かう八雲達だった―――






―――暫くして城についた八雲達を迎えたノワールは、


「はぁ?―――食事をしていなかった?……そういえば誰かが用意して食べているだろうと勝手に思い込んでいたな。すまない八雲……」


「いやいいって。俺自身が食事を取ることを忘れてたくらいだから。自分で思ってるよりも色々と一杯一杯になってたみたいだ。だから気にすんな」


そう話して城のノワールが普段食事を取っている部屋に案内され、用意された高級レストランのフルコースのような料理をガッツキたいのを我慢しながら美味な料理に感動しつつ、行儀よくすべて残さず食べきった。


「紹介しよう八雲。うちの厨房を担当する―――」


そう告げて手を差し伸べた先に立っている美女はペコリと頭を下げる。


「―――お初にお目にかかります八雲様。わたくし、この城の厨房を預かります左の牙レフト・ファングの序列07位、アクアーリオと申します。食事のことで何かございましたら、いつでもお申しつけくださいね」


ノワールに促されて自己紹介したアクアーリオは、蒼い髪を後ろに纏めている清楚な見た目二十代中頃といった雰囲気で八雲から見れば少しお姉さんくらいといった美女だった。


「よろしくお願いします、アクアーリオさん」


アクアーリオの自己紹介に八雲も席から立ってしっかりと挨拶を返すと、クスクスッと軽い笑いを浮かべたアクアーリオは八雲に一礼して返す。


「―――八雲様。わたくしもノワール様の眷属、そしてあなた様の眷属でもあります。臣下に余計な敬語は必要ありませんし、他の者にも示しが尽きません。ですからどうかアクアーリオと呼び捨てでお呼び下さい」


そうにこやかに切り返すアクアーリオに、八雲は頬を掻きながら照れた顔を誤魔化すようにしながら、


「努力し……する」


と返すのが精一杯だったが、それを見たアクアーリオとノワールは更に声を上げて笑っていた。


―――家族を失ってから、ひとりで食卓について生命維持のためだけに食事するという作業を繰り返してきた八雲にとって、両親の生きていた中学の頃に感じていたような、優しい祖父母と一緒に食事をしていた時のような感覚が胸中に戻ってくる。


「―――どうした!八雲!!」


その大きなノワールの声に、驚いた八雲だが気がつけば瞳に溜まった涙がその頬をひとすじ流れていた……


「……あ、いや、なんでもないんだ……ただ、昔のことをちょっと思い出しただけなんだ」


自分でも涙が溢れたことに驚いている八雲だったが、その涙をすぐに拭って笑顔を浮かべる。


「ああ、ホント一人で食う飯は生きるためだけの飯だったな。誰かとこうして食う飯の美味さが思い出せたよ!ありがとな」


その八雲の言葉にノワールとアクアーリオも、八雲が全てを語らずとも別世界でひとり生きてきたことを察した。


「あ、そうだ!俺も自分で料理するんだよ!だから、今度厨房を使わせてもらってもいいかな?ノワールにも食べてもらいたいし!」


「なに!お前、料理が出来るのか?!……神か……」


「―――なにそれ!?いやいや、料理出来るくらいで持ち上げすぎだろ?」


尊い何かを見つめるような眼差しのノワールとは対照的に、冷静な表情でそっとアクアーリオが八雲に耳打ちする。


「……以前ノワール様は料理に挑戦されて、城の一角を損壊させています……」


「―――それもう料理じゃないから……何作ろうとしたんだよ……」


その光景が目に浮かぶ八雲は、ノワールに料理をご馳走する約束をしてアクアーリオには自分の世界の料理を教えて、此方の世界の料理も教えてもらうことを約束した。


その後、自分の部屋に戻った八雲は、今日の成果の確認のためにステータスを開く。




【ステータス】

Name:九頭竜 八雲(ヤクモ=クズリュウ)

年齢 18歳

Level 68

Class 転移者


生命 44110/44110

魔力 29407/29407

体力 29407/29407

攻撃 44110/44110

防御 29407/29407

知力 78/100

器用 78/100

速度 78/100

物理耐性 78/100

魔法耐性 78/100


《神の加護》

『成長』

取得経験値の増加

各能力のLevel UP時の上昇数値の増加

理性の強化

『回復』

HP減少時に回復加速

MP減少時に回復加速

自身が直接接触している他者の回復

広域範囲回復

『創造』

素材を加工する能力

武器・防具の創造能力

創造物への付与能力

疑似生命の創造能力


《黒神龍の加護》

『位置把握』

自身の位置と黒神龍のいる位置が把握出来る

『従属』

黒神龍の眷属を従える

『伝心』

黒神龍とその眷属と念話が可能

『収納』

空間を開閉して物質を保管する能力

『共有』

黒神龍と同じ寿命を得る


《取得魔法》

『身体強化』

魔力量に応じて体力・攻撃力・防御力が上昇

『火属性魔術』

基礎

『水属性魔術』

基礎

『土属性魔術』

基礎

『風属性魔術』

基礎

『光属性魔術』

基礎

『闇属性魔術』

基礎


《取得スキル》

『鑑定眼』

物質の理を視る

『言語解読』

あらゆる種族の言語理解・文字解読

『酸耐性』

あらゆる酸に対する耐性

『身体加速』

速度を瞬発的に上昇させる

『思考加速』

任意で思考を加速させる

『索敵』

周囲の索敵能力

『威圧』

殺気により恐慌状態へと堕とす


《九頭竜昂明流古武術》

剣術

槍術

弓術

組討術




「……とうとう英雄越えたか……しかし色々5桁になってるのが怖すぎる」


以前ノワールから「Level.60になれば英雄クラス」と聞いていた八雲は自身のLevelと、今回身についたスキルに驚きと同時にワクワクする感覚が溢れて、すぐに神の加護に加わった『理性の強化』の発動で落ち着きを取り戻した感覚にまた驚かされるのだった。


「しかし『索敵』とか慣れておきたいスキルもあるけど、ついに魔術がステータスに現れたか。ノワールに魔術についても教えてもわらないとな……」


明日のことを考えているとここ二日の疲れが出たのか、八雲はいつの間にか深い眠りへと堕ちていった……


異世界に来て二日経ち、急速に変わる自分を取り巻く環境と自身の変化に現実味がないまま夢の中へと八雲は誘われ、そしてまた新たな朝を迎えるのだった―――


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