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第6話 八雲の武器

―――生み出された新たな黒い刀身をした刀を手に、八雲は工房の外に出る。


折角の斬れ味を試すのなら動きやすいところでということで、工房を出てドワーフ達に頼んで外に人型の木人形を置いてもらうと、それにドワーフ達が訓練用に造ったという数打ちの不要な鎧と兜を設置してもらった―――


「さて、それじゃやろうか―――相棒」


黒神龍ノワールの鱗から生まれたその刀を、八雲はコートのベルトに差してそこからグッと腰を落とした。


その構えに入った途端に周りの空気が一瞬で引き締まるように変わり、さっきまでガヤガヤ喧騒していたドワーフ達ですらその空気に押し黙って八雲の動きに息を止めて見つめていく。


ゆっくりと黒刀の柄に手を動かしていく八雲に、全員が視線を集中させる―――


―――そして、


「―――フッ!!」


一瞬で刃走りと同時に抜刀された黒い刃が目の前に置かれた鎧の胴を薙ぎ払うと、まるで何の抵抗もない様子でスゥーと斬りつけた鎧に刃が吸い込まれると同時に斬り裂く―――


―――次に上段に構え、胴が剣圧で離ればなれになって宙に舞うと今度は縦向きに真っ直ぐ木人形ごと斬りつけて左右に割られると縦横の四分割にされて地面に鎧の残骸が落ちていった。


「さて……」


八雲は一応、刃に刃こぼれがないかを確認して黒刀を鞘に納め、四散した鎧に屈みこんで斬り口を検証する。


ノワールとシュティーア、それにドワーフの連中も挙って八雲の後に続き、一緒に斬り口の検証に立ち会っていた。


四散された鎧の斬り口は鏡面のような断面をしており、これ以上の斬れ味を得ることは無理だろうと八雲は満足していたが、それ以上にドワーフ達は、


「これは神の領域だろ……」


「―――よおおし!俺もこんな剣を!」


などと次々に声を上げて、それぞれ八雲の剣技に思うところがあったようだ。


シュティーアもまた斬り口を見て、


「―――八雲様!こんな凄い刀を造れる八雲様には迷惑かも知れないけど、アタイや皆が造った武器の試し斬りをしてもらって斬れ味や使い心地とかを助言してもらいたい!お願いします!」


そう言ってシュティーアが頭を下げると、囲っていたドワーフ達も同じく頭を深々と下げて来た。


「俺は皆みたいな技術なんて持ってない。この刀も神の加護なんて訳の分からない力で造っただけだ。だから頭を上げてくれ。俺よりも鎚で叩いて造り上げる皆の方がよっぽど凄い。だから俺が役に立つなら喜んで手伝うからさ」


頬を掻きながら気恥ずかしいことを言ったと自覚していた八雲だったが、聴いていたシュティーアもドワーフ連中は諸手を挙げて喜んでいた。


(ああ……こんな風に皆とワイワイやる感覚、久しぶりだな……)


八雲は笑い合っているドワーフ達を見ながら、此処に来る前の学校での催しや修学旅行で味わっていた友人達と盛り上がる感覚を思い出していた。


「そうだ!八雲―――その刀の銘はどうするんだ?」


突然ノワールから聞かれて、八雲もそういえば銘をつけていなかったことに気づく。


「そうだな……」


やはりネーミングセンスのステータス補正は掛かっていないようで、八雲は頭の中で色々な名前と考えがグルグル回る。


(―――こういう時こそ、『思考加速』だ!)


そう思ってスキルを発動させるとその瞬間、八雲は周りの動きや言葉がスローモーションのようにゆっくりとした時の中を流れているように知覚して正直驚いていたが、しかしこれで考えが整理出来そうだと銘を考えることに集中した。




―――どうせなら鉄の玉鋼で造った刀にも銘をつけよう。


―――それぞれの銘……まず鉄の刀は顔が映るほど美しい鏡面の刀身に白い鞘を用意し銀の鍔を付けて柄も白く纏めていた。


―――そして、此処にある黒刀は黒い鏡面の刀身、黒い鞘、金の鍔、そして柄まで黒く纏めた。


―――その見た目も刀身の色も掛けた銘にしたい。




(……よし)


「―――決まったぞ」


顔を上げてそう告げた八雲に皆の視線が集中して、八雲も思わずウッと息を詰めてたじろぐ。


「え~まずは最初に造ったあの白い刀、工房の護り刀として工房の安全祈願のために納めた。銘は―――雪風ゆきかぜだ。そしてこっちの黒刀は―――夜叉やしゃ。雪風と夜叉だ」


「銘に意味はあるのか?」


ノワールが聞き慣れない言葉に意味を問い掛けてくる。


「雪風は俺の世界の戦争で幸運艦と呼ばれた駆逐艦という船があって、その幸運に因んで付けた。夜叉は俺の世界の神話で元々は人を喰らっていた鬼神だったんだが、その後に心を入れかえて守護神になったという神の名前だ」


「ほお、なるほどな。意味を聞いてみると、どちらも良い名前ではないか!それに夜叉か……まるでその話、我と八雲の関係のようだな」


銘の意味に納得したノワールはご機嫌な表情を浮かべ、シュティーアやドワーフ達も雪風!御神刀雪風!などと口々に叫びながら喜んでいた。


「ところでノワール。さっきの鱗なんだけど、もう少しもらう事って出来るか?」


「ん?鱗などいくらでも生えてくるから、別に構わんぞ。そうだ!お前も我の加護で『収納』を手に入れていただろう。そこに必要なだけ入れておけ」


「え?……あっ!そういえばまだ使ってなかったな。どうやって使うんだ?」


「言うよりも使った方が早い。ほれ!」


そう言って自分の空間収納から黒い鱗を取り出すノワール。


それからその巨大な鱗を受け取って、『収納』に収めるイメージを持つと目の前の鱗が姿を消した。


そして今度は『収納』から出すイメージを思い浮かべると、『収納』されている物が脳裏に浮かんで、すぐ手元に現れた。


「おお~これマジで便利だわ……」


八雲はゲームのアイテムストレージの要領で感覚をすぐに覚えたので、黒刀=夜叉もその『収納』の中に収めた。


「色々造りたい物もあるだろうから、遠慮せずに持ってけ!持ってけ!」


ノワールはそこから工房の外に自身の黒い鱗を山積みにして、大体百枚ほどの鱗を八雲は手に入れた。


(……いや、これけっこうな希少素材なんじゃないの?)


という疑問を浮かべた視線を向ける八雲。


「―――八雲様!他にも何か造るのかい?」


シュティーアは八雲が鱗を手に入れたことで、また何か『創造』するのではないかと興奮気味に擦り寄って来る。


「ああ、俺の祖父ちゃんの実家、道場やってたんだ。そこで剣術だけじゃなくて他の武器も色々学んでたからな。それと防具も造ろうと思ってさ」


「だったら、アタイも、それを造るところ見ていてもいい?」


「別にいいけど、さっきの夜叉と一緒で、すぐ終わると思うぞ?」


神の加護の力で加工するだけのことなので、きっと面白くないぞ?と八雲は言ってみたのだが、


「そんなの関係ないよ!どんな形でも武器や防具が出来るところが大好きなんだ!それに、さっきの刀もそうだけど、八雲様の作る武器はアタイ達にとっては珍しい物で興味があるんだ!」


眩しいくらいの笑顔を向けるシュティーアに、八雲も思わず笑みが浮かんで、


「よし!―――それじゃ造りますか!」


「オオォ―――ッ!!」


天に向かって突き上げた右腕に、シュティーアはその場のノリで同じように腕を突き上げていた。


そのあと、銀髪の令嬢メイドのアリエスがノワールを迎えに来て、ノワールもこの場に残りたそうだったが、アリエスの無言の圧力に屈してスゴスゴと本城に帰っていった。


そこから―――工房に籠ってあれやこれやと『創造』を繰り返す。


そうして造ったのは―――




―――漆黒の槍、銘を闇雲やみくも


柄は漆黒で鱗を使ったので折れることのない強度を持ち、切先の刃も黒刀と同じくクロムメッキのような鏡面の美しい黒き刃先となっている。




―――黒い弓、銘を暗影あんえい


弓全体が鱗で出来ているが、矢を発射するのに撓りが必要なので、鱗の強度と同時に弓を引いた際には撓るのに必要な柔軟さも『創造』されている。




―――黒の小太刀、銘を羅刹らせつ


黒刀=夜叉と対になる小太刀。夜叉・羅刹は八雲が神話から引用した銘で、その斬れ味は夜叉と同等。




―――重厚な黒いハルバート、銘を毘沙門びしゃもん


柄の部分は鱗で出来ており、強度は最硬で刃の部分と柄の先に付いた槍型の刃も全てクロムメッキのように黒く鏡面仕上げとなっていて、鱗を三枚も使用しているため人類では持ち上げることも難しい。




ハルバートは八雲が他の武器を考えていた時にシュティーアからの提案を受けてノリで造った武器だったが、贅沢にも黒神龍の鱗三枚も使用して造ったため、超重量級の武器となった。


他には、腕につけるガントレットと、着ていたコートには肩にショルダーガード、胴周りの内側に鱗を加工して造った薄いガードを取りつけ、ブーツにも脛当てを造り取り付けて、自身の防具にも贅沢に黒神龍の鱗を使いまくっていた。


「なんか凄い事になってしまった……それじゃこれで―――Levelを上げに行くか」


新たな装備も手に入れたので、八雲はまたコツコツと経験値稼ぎに向かうことにした。


黒神龍の加護のひとつ―――『伝心』を使って八雲はレオとリブラに呼び掛ける。


突然の『伝心』に驚いたレオとリブラだが、八雲が鍛錬に付き合ってくれと頼むと二つ返事で了承してくれた。


「―――お待たせ致しました八雲様!!」


八雲が昨日と同じ場所で待っていると、レオとリブラが軽く息を切らせてやってきた。


「悪いな、またこんなことに付き合わせて。俺が召喚術を使えたらよかったんだけど」


「―――いえ!御子様の専属となったからには、どこまでもお供致します!」


レオが気合いを入れた表情で答える。


「―――私もです!八雲様のためならたとえ火の中、水の中です!」


リブラもレオに負けじと八雲に宣言した。


専属メイド達の頼もしい言葉に、八雲は感謝の気持ちで笑みを浮かべると、


「―――うっ/////」


「―――ひゃ/////」


その笑みに見惚れて忠義に厚いメイド達も、思わず意表を突かれて変な声が出てしまった。


「それじゃ今度は何を相手にした方がいい?」


昨日まででオークの軍団までは相手にしていた八雲だが、此方の世界の魔物のヒエラルキーなど知らない八雲には次にどんな魔物を鍛錬の相手に指名すればいいのか見当もつかない。


「そうですね……オーガでいいのではないでしょうか?」


「オーガ?」


ゲームや小説ではよく聞くモンスターだが具体的なところはよく知らないので、八雲は推薦したレオに訊ねる。


「はい。オーガとは人型で体格は大きく、人を喰らって生きる鬼のことです。知能も高めなので戦闘能力も高く、一筋縄ではいかないといった魔物でしょうか」


「基本的には戦闘狂の気性ですから、油断できません」


レオの説明にリブラが捕捉して説明してくれる。


「なるほどな。よし、まずは一匹相手にしてみるか」


そう言った八雲は『収納』を発動して地面に空間の輪を造り、そこから黒刀=夜叉が立ち上がってくる。


「八雲様、その武器は……剣ですか?」


工房でのことを知らないレオは地面から浮かんで出て来た夜叉に目を見開き、驚いて思わず八雲に問い掛けた。


「これは刀っていう俺の国の剣だ。今日ノワールとシュティーアと一緒に工房で色々造ったんだ。それでこれから俺が造った武器を黒神龍装ノワール・シリーズと呼ぶことにした」


「ノワール・シリーズ……カッコいい/////」


リブラは何故か、ちょっと厨二っぽい名前に目をハートにする勢いで惚気た表情になっている。


「それでこの刀の銘は夜叉だ。ところで二人は武器を使うのか?」


八雲は龍の牙ドラゴン・ファングのメイド達が一般人ではないことは身のこなしなどから見抜いていたが、武器を使っているところは見ていなかったので素朴な疑問として訊いてみた。


「そうですね。皆、大体どんな武器も使いこなしますよ?私は剣と槍が得意な方ですかね」


レオがそう応えるので、それじゃあ、と八雲は新たに別の『収納』空間を地面に開いて、そこから黒槍が浮かび出て来た。


「ちょうど良かった。これの使い心地を見てくれないか?銘は闇雲やみくも。感想を聞かせて欲しい」


手に取った闇雲をレオに手渡す。


「こ、これって、もしかしてノワール様の……」


「ああ、だからノワール・シリーズだって言っただろ」


手に取ってすぐにその槍の素材が黒神龍の鱗だと気がついたレオは、シュティーアですら加工出来なかった鱗で出来た槍を手にして、クゥッ!と瞳を瞑り感動している表情を浮かべて今にも頬ずりを始めそうな様子だった。


「スリスリィ~♪」


(あ……本当に頬ずりしちゃったよ……)


複雑な視線をレオに向ける八雲。


「八雲様!八雲様!私も!私も何か使わせて下さい!!」


リブラが飛び掛からん勢いで八雲の目の前に迫って来たことに、さすがの八雲もウッと引き気味になる。


「そ、それじゃリブラは何か得意な武器とかあるのか?」


引きつった笑顔で問い掛ける八雲にリブラは授業中に元気に手を挙げて返事する小学生のようにして、その場で跳ねて右手を上げ、


「はい!はい!私は剣が得意です!!」


「あ、剣は今これしかないんだよな……あ、小太刀ならあるけど?」


「小太刀……とは?」


「ああ、これだ」


そう言ってまたもうひとつ『収納』の空間を開いて、そこから黒小太刀を取り出してリブラに渡す。


「これは小太刀といって短剣みたいなもんだけど、造りはこの刀を短くした感じ。銘は羅刹らせつだ。使えそうか?」


「はい!大丈夫です!片刃の短剣と思えばいいですね」


「ああ、その認識で間違ってない。よく斬れるはずだから、使い方は突くか斬るかだな」


「わかりました!!/////」


よっぽど嬉しいのかリブラもまたレオと同じく羅刹に涎まで垂らしながら頬ずりしていて、それがまた八雲をドン引きさせていたが気を取り直して召喚を始める。


「それじゃ、始めるか。それぞれ武器を使ってみてもらいたいから三匹召喚よろしく」


「畏まりました」


さきほどまで槍に頬ずりしていたレオだが、八雲の言葉にスッと真面目な表情に戻って召喚の魔術を始める。


するとそこには三つの魔法陣が展開され、そしてそれぞれの魔法陣の中には人のように五体がハッキリとした大柄な体格の魔物が三匹召喚によって姿を現わした。


「……なんだ?ここは?」


召喚されたオーガの一匹が人語を話して、八雲達にすぐ鋭い視線を向けてくる。


「さっきのは召喚か?だとすると、お前等は敵、という認識で合ってるか?」


「……ああ、間違ってない」


今までスライムやゴブリン、オークを相手にしていた八雲には、流暢に言葉を話すオーガが人と被って内心躊躇する心理が目を覚ましていた。


だがその躊躇も、オーガの次の言葉で霧散する。


「だったら、喰っていいんだな?人の肉なんて久しぶりだ。特に女は襲いながら喰らうと、笑えるほど面白い顔になるんだ」


「おいおい、雌は二匹しかいねぇんだから、早い者勝ちだろ?男の相手はお前がやれよ」


「ふざけるな!男なんて筋張っていて喰えたもんじゃねぇよ!俺も女に行くぞ!」


「……」


三匹のオーガは我先にとレオとリブラを襲うのは自分だと主張しだして、その聞くに堪えない醜い言い争いに八雲とレオ、リブラの二人も無言で睨みつけていた。


そして、結局こうなったら早い物勝ちという結論になったオーガ達が、すぐさま八雲達に向かって走り出す。


「はぁ……まったく―――フンッ!」


そんなオーガ三匹の中で真ん中を走ってくるオーガに向かって一瞬で間合いを詰めた八雲は、そのオーガの鳩尾に強烈な蹴りをお見舞いする。


一瞬で走ってきた道を逆に吹き飛ばされて地面をズザザ―――ッ!と滑りながら砂煙を巻き上げるオーガ。


その光景を傍目に見つつ、一匹減ったことで左右を走っていたオーガは一直線にレオとリブラに襲い掛かる。


「―――助けはいるか?」


少し振り向いた八雲がレオとリブラに問い掛けるが、


「―――ご心配には及びません」


「―――オーガ如きに遅れなど取りません」


鋭い視線になったレオとリブラは、そのまま細めた鋭い視線となって手に持った武器で臨戦態勢に入る。


レオは手にした闇雲の柄を自身の前でクルクルと回転させて腰から背中、肩にまで長い黒槍を掛けるようにして全身を使ってグルグルと回すとピタリッ!とオーガに向けて穂先を向ける。


リブラは静かに両目を閉じて、右手に羅刹を構えて静止している。


そうしている間にレオへと向かっていたオーガが両手を上に掲げながら、口元からは涎を垂らして掴み掛かろうと襲い掛かった。


「美味そうな雌だッ!まずは全身剝いてグチャグチャにしてやるからな―――ッ!!」


「―――お断り致します」


レオは静かにそう断ると、構えた闇雲を目にも止まらぬ速度でオーガに突き出す。


繰り出された穂先は目の前に来ていたオーガの肩、腕、太腿、足、下腹など無数に穴を空けて、あっと言う間に血だるまに染め上げた。


「ギャアアアアアア―――ッ!!―――この雌豚があぁッ!!!」


凄まじい叫びを上げたオーガだが、足は的確に歩けないように関節が穴を空けられているという、その手際と容赦の無さに八雲は感心して見ていた。


八雲が吹き飛ばしたオーガは、八雲の鳩尾へ入れた蹴りのダメージがまだ回復せず、吹き飛ばされた地面で這いつくばっていた。


「絶対殺すうぅ―――ッ!そのあと襲いながらその白い首を嚙み切ってやるぞおぉ―――ッ!!」


動かない足を大地に膝をつき、首から下は血塗れの満身創痍にされたオーガの醜い叫びに、レオは小さな溜め息を吐いていた―――


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