すると、今度は真咲ちゃんが口を開いた。
「自分は野々村さんに羽山さん、斎田さんのことは知ってます」
「うん。このメンバーには何らかの、規則性とでも言うべきものがあるのかもしれないね」
考え込む様子で羽山さんがそう返し、僕はふと田村くんたちへ顔を向けた。
「でも、僕は田村くんたちのことを誰一人知りません」
「いや、どこかで会ったことがある気がするぜ」
と、返したのは田村くんだ。怪訝に思っているのかいないのか、どっちつかずの表情である。
「君までそんなこと言うの?」
驚く僕へ千葉くんが返す。
「やはり羽山さんの言うように、何かあるようですね」
僕の夢の中なのに、ここにいるメンバーには何らかの規則性があるなんて、まったく信じられない。いや、夢なんだからきっとこじつけか何かに決まってる。
僕は無言でスコーンを一口かじって考えた。
そうだ、現実へ戻ったら羽山さんへ連絡して聞いてみよう。前島という名前の後輩がいるかどうか、って。きっといないと答えるに決まってる。だって夢なのだから、現実に存在するはずがないんだ。
すると篠山くんたちもいないことになるわけだけど、それならそれでいい。だって夢だもの。
僕が確実に知っている羽山さん、真咲ちゃん、斎田さんが夢の中に出てきた、というだけのことなのだ。だからその他の人のことなど知らなくて当然だ。
目を覚ました時にちゃんと羽山さんへ連絡するのを忘れないよう、脳裏にしっかりと刻みこむ。
スコーンを一度皿へ置き、ウバで気持ちを整えてから僕はみんなを見た。話題を変えようとして、できるだけ明るく言う。
「それよりもこのゲーム、早く終わらせたいですよね。ここで犯人に名乗り出てもらう、っていうのはなしでしょうか?」
先ほどまでの奇妙な空気から、今度は暗くぎとぎとしたものへ変わった。やってしまったと気づいた時にはもう遅い。
羽山さんが少し戸惑った顔をして言う。
「犯人なんだから手を挙げるわけがないよ」
「それに、まだ誰も殺されてないんです。ゲームが始まるのはこれからなのでは?」
千葉くんの冷静な言葉が僕の胸を鈍く刺す。
「そう、ですよね……」
ああ、こんなゲームはさっさと終わらせたい。探偵役は僕だと分かっているけれど、それでもいつ殺されるか分からないのは怖い。
「すみませんでした」
なんとなくみんなに謝ってから、僕はまた無言でスコーンへかじりついた。
僕を知っている人たちばかり集まっているのに、どうにも居心地が悪かった。
お茶会がお開きになった時には、窓の外が真っ暗になっていた。どうやら夜が来たらしい。
「疲れたねぇ。今日は早く休もうかな」
階段を上がっている途中、羽山さんがそう言った。
「そうですね、僕も早くベッドに入っちゃいたいです」
体の疲労は特に感じていなかったが、夢の中で眠れば、次に目を覚ます時は現実だ。殺人が起こる前に現実へ戻ることができれば、こんなゲームとはおさらばできる。
「じゃあ、今日はもう解散ってことで」
前島さんが言い、僕らはそれぞれにうなずいた。
部屋の前にそれぞれ立って、ほぼ同時に扉を開ける。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
そんな言葉をかけ合って、それぞれ部屋へ入った。
忘れずに振り返り、僕はきちんと鍵をかけておいた。
見ると室内は電気がついたままになっていた。というより、どこに電気のスイッチがあるか分からない。
室内を一通り見回してみたが、それらしきものはどこにもなかった。
仕方ないのでベッドへ入ろうと思い、今度は着替えがないことに気がつく。
目についたクローゼットを開けてみるが、空だった。引き出しも開けてみるが、もちろん何も入っていない。
僕はがっかりしてため息をつき、しぶしぶと服のままでベッドへ入った。
枕は清潔でふわふわだが、僕には少しやわらかすぎる。こんな枕でぐっすり眠れると思えない。
一方、毛布はしっかりとしていて分厚く、ほどよい重みもある。肩までかぶって両目を閉じると、部屋の電気がぱっと消えたのが分かった。古城なのに自動消灯とは。
まったく、どうにも妙な夢だ。しかし、次に目を開けたら現実へ戻っているはずだ。
僕は安心して眠りについた。