自然と輪になり、それぞれの顔が見えるように並ぶ。
「オレは
やんちゃっぽい顔つきの元気な青年だ。この異常な状況にありながら、前向きさすら感じられる態度には尊敬すら覚えてしまう。
「僕は
と、眼鏡をかけた青年が名乗る。集まった中では彼が一番背が高く、細身ながらも体はしっかりしているようで、文武両道らしいと察せられた。
「わたしは
おずおずと口を開いたのは、長い茶髪を下で二つに結った女の子だ。身長は僕と同じくらいあるだろうか。
「自分は
と、見覚えのある顔が自己紹介をし、僕はびっくりしてしまった。ボーイッシュな子がいると思ったら、まさか。
「真咲ちゃん!? 何で君がここにいるの?」
「あれ、オーナーじゃないですか。こんなところで会うなんて偶然!」
と、彼女は嬉しそうに目を輝かせ、僕はついツッコミを入れてしまう。
「いや、偶然とか言ってる場合じゃなくって!」
真咲ちゃんは僕の店で働いてくれているアルバイトだ。食べることが好きで、それが高じて調理の道に進んだ人だった。背は僕より高くて百七十センチもある。髪型もさっぱりとしたショートヘアで、小柄で女顔の僕とは対照的だった。
僕はふと自分に注目が集まっていることに気づき、慌てて名乗った。
「あ、僕は
「俺は
「
続いて二人が名乗り、次にダイオウグソクムシのぬいぐるみを抱いた小柄な女の子が名乗る。
「
中学生くらいかと思ったら大学生だって!?
驚いて顔を見てしまったが、どう見ても童顔だ。髪型もハーフツインテールで愛らしく、ぬいぐるみを持っていることからして、普通の女性ではなさそうと言うか……何でダイオウグソクムシ? もっと可愛いぬいぐるみがあるだろうに!
まったく僕の見る夢のへんてこぶりに、我ながら振り回されているのを実感する。
「
と、彼女の隣に立っていた赤茶色の髪をした青年が名乗る。不機嫌そうな顔をしていることから、先ほど舌打ちしたのは彼かもしれないと思う。
最後はまたもや見知った顔だった。どちらかと言えば背が高く、短い髪に鋭い目付きの男性だ。この中では彼が最年長だろう。
「
「斎田さんまで!? どういう選別基準!?」
思わずツッコんでしまった僕を、斎田さんがぎろりと鋭くにらむ。
「知らねぇよ、こっちが知りたいくらいだ」
「ですよねー! ああもう、何なんだこの世界っ」
頭を抱えて早く目を覚まそうとするが、まったく夢が終わる気配がない。そもそも夢だって分かったら、もっと自分に都合がいい展開になるべきではないか? だってこれ、明晰夢でしょ?
「それより、一度部屋に行かない? 魔法アイテムがあるんだよね」
と、土屋さんが言い出し、何人かがうなずいた。
「そうだな、確かめてみよう」
「二階に客室があるんだったな」
千葉くんと田村くんが先に立って歩き出し、羽山さんが僕の肩をたたく。
「行くよ、野々ちゃん」
「えっ、待ってくださいよ!」
慌てて彼の後を追い、前方にある階段へと向かった。
二階には扉が十個あった。廊下は壁に沿って続いており、フェンスの向こうは吹き抜けになっていてエントランスホールが見える。左右の角には背の低い棚があり、くすんだ色合いの花の入った花瓶が設置されていた。
「さて、どの部屋にする?」
田村くんの問いへ斎田さんがぶっきらぼうに返す。
「テキトーでいいだろ。俺はここにする」
彼が手を伸ばしたのは手近な扉で、階段を上がって正面の右側だ。
「じゃあ、そうすっか」
田村くんは少し呆れたように笑いつつ、左の廊下へ進み始めた。部屋は左右に三つ、正面に四つあった。
左の端を土屋さんが、その隣を千葉くん、さらに隣を田村くん。正面の左側に篠山くんと隣に凛月ちゃん。斎田さんの部屋を挟んで真咲ちゃん、そして右側の部屋を手前から僕、羽山さん、前島さんで使うことになった。
ドキドキしながら扉の取っ手に手をかける。いったいどんな魔法アイテムが置かれているのか、少しだけわくわくする。
そっと扉を開けて中へ入ると、左奥にシングルベッドが見えた。右の壁にぴったり付くようにしてテーブルが置かれており、椅子が二つある。
テーブルの上には細かな装飾の施された銀色の小箱があった。
「これが、魔法アイテム……」
歩み寄り、静かに両手を伸ばしてふたを開ける。
中に入っていたのは十五センチほどある一枚の羽根だった。薄茶色で上の部分に濃い茶色がまだらに入っている。
添えられたカードを手に取ると、こう書かれていた。
〈どんな願いでも叶えるグリフォンの羽根〉
「グリフォン……?」
何故か既視感を覚えて、僕は眉間にしわを寄せた。
〈一度だけ使える。どんな願いも叶えられるが、犯人を知ることはできない。また、他の者への譲渡は不可能。必ず自分で使うこと。〉
「なるほど……」
そっとカードを裏返してみたがまっさらだった。どうやら僕は「犯人役」ではないようだ。
ほっとする一方で殺される側だと思い直す。どうしよう、やっぱり怖い。
とりあえずグリフォンの羽根をパーカーのポケットへしまった。
ふとテーブルの上に鍵が置かれていることに気づいて手に取った。おそらく部屋の鍵だ。
何が起こるか分からないため、きちんと部屋に鍵をかけてから、僕は隣の部屋へ駆け込んだ。
「羽山さん!」
ノックもなしに飛びこんだ僕を見て、ティーカップを手にした羽山さんが振り返る。
「おや、どうしたんだい?」
「だって、一人でいるの怖くないですか!?」
「ああ、そういうこと?」
と、彼はティーカップをテーブルの上へ置く。繊細な花の絵が描かれた綺麗なエメラルドグリーンのカップだ。
僕の視線に気づいたらしく、羽山さんは言った。
「これね、俺の魔法アイテム。これに口をつけて飲んだ人の時間を五分間、止めることができるんだってさ」
「へぇ、おもしろいアイテムですね。羽山さんに似合ってる」
そう言って彼を見上げてからはっとした。
「一応聞きますけど、羽山さんは犯人じゃないですよね?」