下着までびしょびしょになってしまったので、許可をもらって寮でシャワーを使って着替えた。中間服とスカートはクリーニングをお願いしなくちゃだめだろう。
ちょうど冬服がクリーニングから戻っていたのでそっちを着た。ぜんぶまっ黒の制服だと、脚の白さが目立ってすごく気になる。
「相楽、ちょっと。出られる?」
タイツをはくかどうするか迷っていると、カーテン越しに梓さんが声をかけてきた。
「はい」
ずぶ濡れで立っているあたしと、濡れてはいないけど頭を抱えてうめいている大友。それを見ただけでどっちが悪いかはみんな理解してくれた。あとで大友があれこれ自己弁護してたけど、当然誰も耳を貸さない。
梓さんに連れて行かれたのは指導室で、いつもの指導教師が待っていた。
「何があったのか。正直に全部話して」
あたしは話した。
「あなたの方からは、何もしていない」
「雨の中に出されて悔しいから、いろいろ言いましたけど。特殊能力は、来たのを投げ返しただけです」
「投げ……返した」
梓さんが腕を組んで言った。
「あの。須田さんのと同じので……ずっと弱かったですけど、同じ色と形でした」
「あ……また見えたの?」
梓さんが目を見張った。
「須田? 須田寧雄のこと?」
先生が梓さんにきいた。
「はい。相楽にも……あ、済みません! 報告、忘れていました」
梓さんは、寧雄さんと面接したときのことを先生に話した。あたしが、寧雄さんの力をかい潜ってケンカになるのを止めたこと。
「だめじゃない、そんな重要なこと忘れてちゃ」
「済みません」
「すると……」
指導の先生はタブレットに何かを書き入れながらつぶやいた。
「中間総見のときに使ったのは、中和か消散……須田寧雄のときも、たぶん同じ。今回は……カウンターとでも言うのかしら?」
「カウンターって……クロスカウンターの、ですか?」
梓さんが聞き返して、先生が頷いた。
「そうね。しかも……二回目には増幅して打ち返してるみたい。そうなの?」
先生に聞かれたので、あたしは頷いた。
「何て言うか、気合い入れて押し返しました」
先生は感心したのか呆れたのか息を吐いて小さく首を振った。
「どうして急に能力が使えるようになったのか、心当たりある?」
どう説明したらいいのか、ちょっと悩んだ。
「あの……個室で、レッドの部屋にいたとき……」
考えながら説明した。洗面台の鏡に映った男子の自分が、女子の制服を着たあたしに皮肉を言った。あたしは今の状態で満足しているので、鏡を手で覆って『あいつ』を封じ込めた。
「でも。大友さんと口げんかしていたとき……あたし、男子の声で喋ったんです。鏡ないのに、『あいつ』が出てきてまた……何て言ったらいいのか。ここ来たときの、最悪に危険な自分に戻った気がしました」
先生がタブレットに書き入れて、ため息をついて顔を上げた。
「自分で自分を封じ込めちゃったってことになるけど……あり得ると思う?」
先生に聞かれて、梓さんが首を傾げた。
「確かに。相楽は急に、憑き物が落ちたみたいに大人しくなりました。なのに時々とんでもない力を出しましたから。セルフ封印も考えられますね」
翌日の日曜日、授業はないけど高等科は朝から体育館で訓練。それにあたしも呼ばれた。
「イジメたクズ野郎吹っ飛ばしたって? さすがは俺の嫁だぜ」
須田さんが小声で言って、すぐ離れて行った。今日はみんなジャージや私服だ。あたしだけ冬の制服で、黒のストッキングまではいている。そしてヒナに言われて思い切りスカートを裾上げしてるから、脚が見えまくっていて恥ずかしい。
「瑞貴ちゃーん。こっちー」
呼ばれていくと。体育館の隅に机が置いてあって、そこに機械とパソコン。そこにいたのは研究室の大学生だった。
「うわ、瑞貴ちゃんセクシー!」
「やばい。黒スト、エロい!」
「こらー!子供に何てこと言うのよ!」
なんか、あたしの黒ストッキングで大学の人たちが盛り上がってる。
「え? なにこれ? ちょっと待って」
研究室のときと同じく、頭と手首に電極をつけてES波の測定を始めるとまた騒ぎになった。
「え? 前とぜんぜん違うよ」
「これ、P波じゃないの?」
「うそ。あれ? T波とG波出てない」
「あ、スケール上げてみて。オーバーしてるんじゃないの?」
「マックス25……50……あ、出た」
「うそ! なんで?」
「瑞貴ちゃん、何かあったの?」
昨日指導の先生にした説明を、もう一度話した。
「自己封印? そんなの、あり?」
「現実にこうなってるからね。明日先生に見せたらまた大変だよ。これ」
「うわー、子供って恐い」
「あの……そんなに、ですか?」
聞いてみたら、大学生が全員大きく頷いた。
「こないだまでがローソクなら、いまガスバーナー」
「でも平常時でこれでしょ? 励起したらどうなるの?」
「瑞貴ちゃん、前にできたのは精神干渉だけ?」
「はい。あと……昨日、先生には『カウンター』って言われました」
あたしが言うと、みんな戸惑っていた。
「なに? カウンターって? 光田先生そんなこと言ってなかったよね?」
光田先生は、あたしの指導と検査をしてくれている。
「先生、今日は……いるわけないか」
「梓さんが、一緒に話し聞いてました」
「梓って……ああ、生徒会長?」
あたしは体育館を見回して、苦労して梓さんの姿を見つけた。私服だとかえってわかりにくい。
梓さんは、あたしがいじめられたことはぼやかして説明してくれた。
「増幅して……打ち返した……」
研究室の人たちは、しばらく相談してから高等科の生徒を何人か呼んだ。寮から中等科の2年生も呼ばれて体育館にやってきた。
「増幅してカウンターができるなら、誰かの力を増幅することができるかも知れない」
そう言われて、いろいろな能力の生徒と一緒に何度もES波を測られた。お昼を食べても実験は続いて、あたしは2時頃にめまいがして立っていられなくなった。
「ゆっくり、座って」
なんだかわからなくなって、気がついたら背中から須田さんに支えられていた。ヒナがすごいけんまくで大学生に文句を言っている。
「あたしたち機械じゃないんだから! 加減してよ!」
大学生のみんなが、土下座しそうな勢いで謝っている。
「なんか良いデータがどんどん取れたから、つい夢中になったんだって」
ヒナが来て、ハンカチで顔を拭ってくれた。気がつかなかったけど、顔にびっしょり汗をかいている。
「どうなったの、あたし?」
「突っ立って動かなくなって、そのままフラーッって後ろに倒れそうになった」
背中に、須田さんの胸がクッションのようにあたっている。それがちょっと嬉しかった。