ショーンとライルズ達の一騎討ちが、いよいよ始まろうとしていたが、周囲は混乱に陥っていた。
「上からっ! うわっ! ハックションッ!」
「グレネードが、炸裂するっ! うぎゃあっ!」
「もっと、火炎瓶を投げてやるんだ」
「やったれ、やったれ、手榴弾も投下してやれ」
ドライアドの海トカゲ団員は、くしゃみを連発しながら苦しそうな顔を見せる。
何個も落ちてきた手榴弾に、エリート兵は身構えるが、衝撃で吹き飛ばされてしまう。
バルコニーでは、黄色アリ人間が、バーニキャロンを向かい側に向かって撃つ。
ゾンビ族のBB団員は、ポンプアクション式散弾銃レミントンを何回も撃つ。
「これじゃ、負けだなっ! 総員、退避しろっ! 後退しながら互いに援護し合うんだっ!」
「なら、お前は撤退する前に、殺して殺らなきゃなっ!!」
「勝負に負けるのは、貴方よっ! ぎゃあっ! うぐぅ…………」
「ブェックションッ!?」
「当たった? しかも、ゾンビの攻撃までっ!」
ライルズは、ショーンを睨みながら、自身の部下たちを含めた部隊に、撤退命令を出した。
ベレッタを拾って、スザンナは発砲しようとするも、橫から小さな火球を何発も浴びる。
しかも、スニージンガーが吐き出した、くしゃみを受けてしまい、その場に崩れ落ちた。
それを見ていた、リズは海トカゲ団の衣装を脱ぎ捨てながら、自身も魔法を放ちながら走っていく。
「スザンナッ!? くっ! ショーン、貴様のせいでっ!」
「先に手を出してきたのは、ライルズ? お前だろう? なぜ、俺を裏切り者に仕立て上げたっ! なぜ、スザンナを奪い取ったっ!」
ライルズは、スザンナを気にしたが、何時までも、そちらに眼を向けている暇はない。
当然ながら、ショーンが隙を突いて、トリップソードを橫凪に振るうからだ。
「決まってるっ! エースに成って、出世するには貴様が邪魔だった…………しかも、優しく美しい女まで持っているっ!」
「それが、俺を陥れて、スザンナを奪った理由かっ! お前、とことん、性格が腐っているんだなっ! 親の顔が見てみたいぜっ!」
ライルズのサーベルを、トリップソードで受け止め、お返しを振るう、ショーン。
互いの刃は、金属音を派手に鳴らし、ぶつかり合っては力強く弾かれる。
「親は、関係ないっ!! 貴様と違って、俺は実力と策謀で、ここまで登りつめたんだっ! ショーン、お前はスラムで、パンを盗む生活が、どれだけ辛いか分かるかっ! ゴミを漁る生活が、いかに悲惨か分かるかっ!」
「知るかっ! 過去が、どんだけ不幸でも、お前のした事と、してきた事は犯罪だっ! 海トカゲ団も、俺の所属していた時と違って、今じゃ本物のマフィアだっ!」
ライルズは親と言われた時に、激しく怒りだし、自身の事を語りながら、剣に握る力を上げる。
ショーンも、剣圧と勢いを増した斬撃に苦戦しながらも、何とか刃同士で受け止める。
「お前みたいな、犯罪者には相応しい組織だぜっ!」
「犯罪者は、貴様だっ! あの日から悪行を重ねたのは、貴様の行為に成っているからなっ!」
ショーンは、挑発しながらバックラーで、サーベルの刃を防御する。
そして、トリップソードで左手を狙った振り下ろしを行うが、それをライルズは軽く回避する。
「これくらいっ! んっ! ふんっ! 喰らえっ!」
「よそ見するなっ! て、ヤバい」
「あ? 不味い…………きゃああっ!?」
ライルズは、走ってくるリズの姿を目にすると、そちらに、スローイングナイフを投げた。
ここだとばかりに、ショーンは奴の隙を攻撃しようとしたが、直ぐに狙いが、リズだと気づいた。
「ライルズ、貴様ああああっ!?」
「ハハッ! 彼女が生きていたら、また俺の女にしてやるさっ!」
ショーンは、何度もライルズを斬ろうと、袈裟斬りや橫凪に刃を振るいまくる。
「お前に、リズを渡して、たまるかああーーーー!!」
「ぐうぅぅ? まだ、剣技は衰えてなかったか? だが、俺は負けないいっ!?」
ショーンが怒りながら、ジャンプしつつ、真上からトリップソードを振り下ろした。
だが、ライルズはサーベルを前に出して、簡単に押し返したのだが、いきなり顔面に炎が当たった。
「今だっ! このっ! うおお~~~~!!」
「がふっ! がああーーーー!!」
この好機を逃がすまいと、ショーンはバックラーで、思いっきり、ライルズの顔面を殴った。
殴られた勢いで、奴は後ろに倒れながらも、サーベルを橫凪に振り、必死で抵抗する。
「ライルズ、これで最後だっ! 喰らえっ!! 俺の恨みだけじゃないっ! 今まで殺られた人々の分だっ!」
「ぐええ~~~~~~!?」
ショーンは、大きな隙を見せてしまった、ライルズの首元に、トリップソードを差し込んだ。
そこは、ちょうど鎧の隙間に成っており、深々と刃が食い込み、それを抜き取ると血飛沫が待った。
「はあ、はあ? ライルズ…………死んだか? 周りは?」
「撤退、撤退っ!?」
「ガスモークだっ! 回り込まれたぞっ? 毒ガスに気をつけろ」
「ゴーレムだっ! ガトリングガンを撃てっ!」
「M2なら、持ってきているっ!」
ショーンは、ライルズの死体を蹴って、生死を確かめると、周囲に眼を配る。
ゾンビ集団は、HK416で、派手に銃撃してくる、白人の海トカゲ団員を追いかける。
防弾兵は、ガスモークを前にして、銃撃できずに立ち止まってしまう。
アリ人間は、マグナムを何発か撃ち、火炎瓶をバルコニーから投げる。
それでも、頑丈で壊れないゴーレムに、アラブ系のBB団員が、M2ブローニングを連射する。
それで、奴は大口径弾を何十発も喰らって、ボロボロと、床に崩れていく。
「ゾンビの数も減ってる? アリ人間とBB団員も、敵を追い出すのに成功したか…………リズはっ!?」
「ここよ、さっきの魔法も、私が放ったの?」
勝敗が決した事で、ショーンは安堵しながら、いきなり立ち上がると同時に、リズを探す。
どうやら、彼女は無事だったらしく、顔に包帯を巻きながら現れた。
「これに当たって、ナイフが弾かれたのよ? 運が良かったわ」
「そうか、それで…………」
「ぐふぅっ!? ぐ、うう」
リズの両手には、オレンジ玉が付いた、マジックロッドが握られていた。
ショーンは、それで、宝玉がナイフを弾いたと思った瞬間、スザンナが苦しげに呻き始めた。
「ライルズ、殺られたのね? ショーン、ごめんなさい…………」
スザンナは、床から起き上がろうとするも、それができず、ライルズの元へと這って行くしかない。
「今さらっ!? くっ! どうして、俺を裏切ったんだ? スザンナ」
「ええ、ごめんなさい…………ライルズが、会社のパーティーで、私の酒に薬を盛ったの?」
ショーンの問い詰める渋い顔を見て、スザンナは申し訳なさそうに話はじめた。
「それで、一夜を過ごしてしまったわ? それからも、薬浸けにされたり、警察に突き出すか? 貴方を殺すと脅されてたけど、段々と優しくされてね? そうしているうちに、彼に本当に惚れちゃったのよ」
スザンナは、裏切った理由と、そうなるまでの経緯を口から血を吐き出しながら答える。
蒼白くさせた顔を見るに、もう長くないであろう事は、ショーンとリズ達に伺えた。
「バカな女ね? ヤバい薬と豪華なプレゼント、少しの優しさで、悪い男の手に堕ちるなんてさ? でも、そんな彼を愛して、ともに悪行を重ねたのは事実、これは罰なのね」
「そんな…………」
スザンナから語られる内容に、ショーンは、それを聞いて、同様しながら落胆する。
「ショーン、最後の頼みよ? 私はゾンビ化しかかっているわっ! 貴方の手で、止めを刺してっ! ねっ! お願い、これで、もう貴方に迷惑はかけなくて済むから、ググ、ぐっ!」
「スザンナ、スザンナッ!!」
「ショーン、彼女は悪人だけど、すでに長くないわ? それに、ゾンビになる前に倒して上げて」
スザンナの頬が、青緑色に変色していき、体が不自然に、ジタバタと動き始めた。
ショーンは、それを心配しながら彼女に駆け寄るが、リズは彼の肩を叩いて止める。
「クソッ! ふぅふぅ~~! スザンナッ! 俺が気づいてやれば、お前はライルズとともに悪人には成らなかっただろう? 済まないっ!」
「ショ、ショーン、ありがどぉ」
ショーンは、ゾンビ化しかけている、スザンナが呟くと、その首を跳ねる。
こうして、彼女の頭が床に転がると、彼は全身から力が抜けて、力なく遮蔽物に身を預けた。
「これで、戦いに決着は着いた…………リズ、外に出よう? ここは死臭が酷すぎる」
「そうね、何時までも、死体の側に居たくはないし…………」
ショーンとリズ達は、ゆっくりと、正面玄関から裏面広場に、歩いて出ていく。
「終わったわね?」
「ああ、だが、まだ海トカゲ団の基地や、ゾンビが残っている」
ショーンとリズ達は、テクニカルのボンネットに、座り込んで、戦いに決着が着いたと悟る。
二人は、旧市街の街並みを目にしたが、破壊された建物や火災跡が見えた。
それは、まるで大規模な戦争で、死神が残していった惨禍のように思えた。