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第111話 おっさん冒険者VSエリート冒険者


 ショーンとライルズ達の一騎討ちが、いよいよ始まろうとしていたが、周囲は混乱に陥っていた。



「上からっ! うわっ! ハックションッ!」


「グレネードが、炸裂するっ! うぎゃあっ!」


「もっと、火炎瓶を投げてやるんだ」


「やったれ、やったれ、手榴弾も投下してやれ」


 ドライアドの海トカゲ団員は、くしゃみを連発しながら苦しそうな顔を見せる。


 何個も落ちてきた手榴弾に、エリート兵は身構えるが、衝撃で吹き飛ばされてしまう。



 バルコニーでは、黄色アリ人間が、バーニキャロンを向かい側に向かって撃つ。


 ゾンビ族のBB団員は、ポンプアクション式散弾銃レミントンを何回も撃つ。



「これじゃ、負けだなっ! 総員、退避しろっ! 後退しながら互いに援護し合うんだっ!」


「なら、お前は撤退する前に、殺して殺らなきゃなっ!!」


「勝負に負けるのは、貴方よっ! ぎゃあっ! うぐぅ…………」


「ブェックションッ!?」


「当たった? しかも、ゾンビの攻撃までっ!」


 ライルズは、ショーンを睨みながら、自身の部下たちを含めた部隊に、撤退命令を出した。


 ベレッタを拾って、スザンナは発砲しようとするも、橫から小さな火球を何発も浴びる。



 しかも、スニージンガーが吐き出した、くしゃみを受けてしまい、その場に崩れ落ちた。


 それを見ていた、リズは海トカゲ団の衣装を脱ぎ捨てながら、自身も魔法を放ちながら走っていく。



「スザンナッ!? くっ! ショーン、貴様のせいでっ!」


「先に手を出してきたのは、ライルズ? お前だろう? なぜ、俺を裏切り者に仕立て上げたっ! なぜ、スザンナを奪い取ったっ!」


 ライルズは、スザンナを気にしたが、何時までも、そちらに眼を向けている暇はない。


 当然ながら、ショーンが隙を突いて、トリップソードを橫凪に振るうからだ。



「決まってるっ! エースに成って、出世するには貴様が邪魔だった…………しかも、優しく美しい女まで持っているっ!」


「それが、俺を陥れて、スザンナを奪った理由かっ! お前、とことん、性格が腐っているんだなっ! 親の顔が見てみたいぜっ!」


 ライルズのサーベルを、トリップソードで受け止め、お返しを振るう、ショーン。


 互いの刃は、金属音を派手に鳴らし、ぶつかり合っては力強く弾かれる。



「親は、関係ないっ!! 貴様と違って、俺は実力と策謀で、ここまで登りつめたんだっ! ショーン、お前はスラムで、パンを盗む生活が、どれだけ辛いか分かるかっ! ゴミを漁る生活が、いかに悲惨か分かるかっ!」


「知るかっ! 過去が、どんだけ不幸でも、お前のした事と、してきた事は犯罪だっ! 海トカゲ団も、俺の所属していた時と違って、今じゃ本物のマフィアだっ!」


 ライルズは親と言われた時に、激しく怒りだし、自身の事を語りながら、剣に握る力を上げる。


 ショーンも、剣圧と勢いを増した斬撃に苦戦しながらも、何とか刃同士で受け止める。



「お前みたいな、犯罪者には相応しい組織だぜっ!」


「犯罪者は、貴様だっ! あの日から悪行を重ねたのは、貴様の行為に成っているからなっ!」


 ショーンは、挑発しながらバックラーで、サーベルの刃を防御する。


 そして、トリップソードで左手を狙った振り下ろしを行うが、それをライルズは軽く回避する。



「これくらいっ! んっ! ふんっ! 喰らえっ!」


「よそ見するなっ! て、ヤバい」


「あ? 不味い…………きゃああっ!?」


 ライルズは、走ってくるリズの姿を目にすると、そちらに、スローイングナイフを投げた。


 ここだとばかりに、ショーンは奴の隙を攻撃しようとしたが、直ぐに狙いが、リズだと気づいた。



「ライルズ、貴様ああああっ!?」


「ハハッ! 彼女が生きていたら、また俺の女にしてやるさっ!」


 ショーンは、何度もライルズを斬ろうと、袈裟斬りや橫凪に刃を振るいまくる。



「お前に、リズを渡して、たまるかああーーーー!!」


「ぐうぅぅ? まだ、剣技は衰えてなかったか? だが、俺は負けないいっ!?」


 ショーンが怒りながら、ジャンプしつつ、真上からトリップソードを振り下ろした。


 だが、ライルズはサーベルを前に出して、簡単に押し返したのだが、いきなり顔面に炎が当たった。



「今だっ! このっ! うおお~~~~!!」


「がふっ! がああーーーー!!」


 この好機を逃がすまいと、ショーンはバックラーで、思いっきり、ライルズの顔面を殴った。


 殴られた勢いで、奴は後ろに倒れながらも、サーベルを橫凪に振り、必死で抵抗する。



「ライルズ、これで最後だっ! 喰らえっ!! 俺の恨みだけじゃないっ! 今まで殺られた人々の分だっ!」


「ぐええ~~~~~~!?」


 ショーンは、大きな隙を見せてしまった、ライルズの首元に、トリップソードを差し込んだ。


 そこは、ちょうど鎧の隙間に成っており、深々と刃が食い込み、それを抜き取ると血飛沫が待った。



「はあ、はあ? ライルズ…………死んだか? 周りは?」


「撤退、撤退っ!?」


「ガスモークだっ! 回り込まれたぞっ? 毒ガスに気をつけろ」


「ゴーレムだっ! ガトリングガンを撃てっ!」


「M2なら、持ってきているっ!」


 ショーンは、ライルズの死体を蹴って、生死を確かめると、周囲に眼を配る。


 ゾンビ集団は、HK416で、派手に銃撃してくる、白人の海トカゲ団員を追いかける。



 防弾兵は、ガスモークを前にして、銃撃できずに立ち止まってしまう。



 アリ人間は、マグナムを何発か撃ち、火炎瓶をバルコニーから投げる。


 それでも、頑丈で壊れないゴーレムに、アラブ系のBB団員が、M2ブローニングを連射する。



 それで、奴は大口径弾を何十発も喰らって、ボロボロと、床に崩れていく。



「ゾンビの数も減ってる? アリ人間とBB団員も、敵を追い出すのに成功したか…………リズはっ!?」


「ここよ、さっきの魔法も、私が放ったの?」


 勝敗が決した事で、ショーンは安堵しながら、いきなり立ち上がると同時に、リズを探す。


 どうやら、彼女は無事だったらしく、顔に包帯を巻きながら現れた。



「これに当たって、ナイフが弾かれたのよ? 運が良かったわ」


「そうか、それで…………」


「ぐふぅっ!? ぐ、うう」


 リズの両手には、オレンジ玉が付いた、マジックロッドが握られていた。


 ショーンは、それで、宝玉がナイフを弾いたと思った瞬間、スザンナが苦しげに呻き始めた。



「ライルズ、殺られたのね? ショーン、ごめんなさい…………」


 スザンナは、床から起き上がろうとするも、それができず、ライルズの元へと這って行くしかない。



「今さらっ!? くっ! どうして、俺を裏切ったんだ? スザンナ」


「ええ、ごめんなさい…………ライルズが、会社のパーティーで、私の酒に薬を盛ったの?」


 ショーンの問い詰める渋い顔を見て、スザンナは申し訳なさそうに話はじめた。



「それで、一夜を過ごしてしまったわ? それからも、薬浸けにされたり、警察に突き出すか? 貴方を殺すと脅されてたけど、段々と優しくされてね? そうしているうちに、彼に本当に惚れちゃったのよ」


 スザンナは、裏切った理由と、そうなるまでの経緯を口から血を吐き出しながら答える。


 蒼白くさせた顔を見るに、もう長くないであろう事は、ショーンとリズ達に伺えた。



「バカな女ね? ヤバい薬と豪華なプレゼント、少しの優しさで、悪い男の手に堕ちるなんてさ? でも、そんな彼を愛して、ともに悪行を重ねたのは事実、これは罰なのね」


「そんな…………」


 スザンナから語られる内容に、ショーンは、それを聞いて、同様しながら落胆する。



「ショーン、最後の頼みよ? 私はゾンビ化しかかっているわっ! 貴方の手で、止めを刺してっ! ねっ! お願い、これで、もう貴方に迷惑はかけなくて済むから、ググ、ぐっ!」


「スザンナ、スザンナッ!!」


「ショーン、彼女は悪人だけど、すでに長くないわ? それに、ゾンビになる前に倒して上げて」


 スザンナの頬が、青緑色に変色していき、体が不自然に、ジタバタと動き始めた。


 ショーンは、それを心配しながら彼女に駆け寄るが、リズは彼の肩を叩いて止める。



「クソッ! ふぅふぅ~~! スザンナッ! 俺が気づいてやれば、お前はライルズとともに悪人には成らなかっただろう? 済まないっ!」


「ショ、ショーン、ありがどぉ」


 ショーンは、ゾンビ化しかけている、スザンナが呟くと、その首を跳ねる。


 こうして、彼女の頭が床に転がると、彼は全身から力が抜けて、力なく遮蔽物に身を預けた。



「これで、戦いに決着は着いた…………リズ、外に出よう? ここは死臭が酷すぎる」


「そうね、何時までも、死体の側に居たくはないし…………」


 ショーンとリズ達は、ゆっくりと、正面玄関から裏面広場に、歩いて出ていく。



「終わったわね?」


「ああ、だが、まだ海トカゲ団の基地や、ゾンビが残っている」


 ショーンとリズ達は、テクニカルのボンネットに、座り込んで、戦いに決着が着いたと悟る。


 二人は、旧市街の街並みを目にしたが、破壊された建物や火災跡が見えた。



 それは、まるで大規模な戦争で、死神が残していった惨禍のように思えた。

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