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第90話 冒険者とワニの幹部


 ショーンは、ゾンビ達や騎兵隊などが、乱戦している真っ只中へと突っ込んでいく。


 その後に続き、ガビアルは勢いよく、大型オオトカゲを走らせ、ドシドシと足音を響かせる。



「今だっ! スバス、煙玉を投げろっ!」


「今やるぜっ! オラッ!」


「ぐううっ! こざかしい…………」


 バイクに並走する味方を見つけた、ショーンは敵の視界を遮ろうと考えた。


 それを聞くと、スバスは煙玉を転がし、ガビアルの行く手に、灰煙が立ち上る。



「へへっ! そのまま、ゾンビの群れに突っ込めっ! おっ! 丁度いい所に、デカ物がっ!」


「ぐっ! このくらいで…………はっ! このっ!」


「グオオッ!」


「ガウガウ、ガウ、ガアーーーー!!」


 作戦は、見事に成功して、ショーンの思惑通り、ガビアルは邪魔なゾンビ達に突っ込む。


 しかも、その中には、マッスラーまで存在しており、勢いを止めるかと思われた。



 だが、豪腕を振るう巨漢ゾンビを易々と、大型オオトカゲは、吹き飛ばしてしまった。


 さらに、奴は咆哮を上げながら、ラリアットするように、他のゾンビ達を薙ぎ倒しながら突き進む。



「マジかよっ! 予想しているより、ずっと、強いぞ? どうすれば…………」


「我が皮膚と鱗は、固くゾンビの牙を弾くっ! 騎獣も同様だっ! 銃弾も刃も、私には通じないぞっ!」


 バイクを左側に、Uターンさせる、ショーンの思惑は外れてしまった。


 彼は、多数のゾンビ達に、ガビアルもろとも、大型オオトカゲを倒させようと考えていた。



「なら、逃げないとなっ! ゾンビも追って来てるし、今は乱戦の最中に突っ込むぜっ!」


「ウアア」


「グオオオオ」


「待てっ! ショーン、俺とともに、正々堂々と、一騎討ちしろっ!」


 バイクの速度を全速力にして、ゾンビ&フレッシャー達から、ショーンは逃れようとする。


 その後ろから、大型オオトカゲの手綱を握り、ガビアルは猛追する。



「誰が、正々堂々と戦うかっ! 俺は、バイクッ! そっちは巨大トカゲ、しかも剣と槍? どう見ても、俺の方が不利だろうっ!!」


 もちろん、ショーンは正面きって、ガビアルと対峙する気はない。


 立った、一台のバイクに跨がる彼にできる事は、奴を罠に嵌めるだけだ。



「何か来るっ! 冒険者か、避けねばっ! ぐはっ!」


「逃がしはしないっ! 悪党めっ!」


「くあっ! ゾンビが走ってきたっ! 撃ち殺せ」


「グアアアア」


 フルプレートアーマーの海トカゲ団員は、ランスを構えながら、ショーンから遠ざかる。


 しかし、警察官のマグライトから放たれた、白い光に貫かれて、奴は悲鳴を上げながら倒れ込んだ。



 アリ人間は、ブラックアントの上から両手で構えるバーニキャロンで、ゾンビ達を銃撃する。


 だが、敵味方を問わず、騎兵隊やトラック部隊にも、徐々にゾンビの大集団が迫っていた。



 海トカゲ団、冒険者、ゾンビなど、このように周囲は混沌としていた。



「不味いな…………ゾンビが、来やがった? これは、乱戦が避けられないっ!」


「海トカゲ団を、ゾンビ側に押し返せっ!」


「ゾンビ達を引き連れたまま、連中を倒すぞっ!」


 後ろを振り向かず、右側のサイドミラーを、チラリと覗いて、ショーンは呟く。


 冒険者の声、海トカゲ団員による叫び、そして、魔法や手榴弾から発せられる爆発音が交錯する。



「待て、ショーンッ! 娘のためにも、お前を確実に仕留めねば成らないんだっ! その首、寄越せっ!」


「うわっ! アサルトライフルの弾が効かないっ! 化け物か…………」


「なんて、固さだっ! まるで、はがねのようだっ! この距離で、拳銃弾すら弾かれるとはっ!?」


 ガビアルは真っ直ぐに、ランスを構えながら、大型オオトカゲを、ひたすらに突進させる。


 奴には、両側から銃撃が加えられ、カンカンと金属を叩くような音が鳴り響いた。



 四輪バギーを低速で走らせる、キョンシーの兵士は、片手で、HK416を撃ちまくった。


 バイクを運転する黒人警察官は、ベレッタを撃つも、全く攻撃が効いてない様子に驚いた。



「しまった、こっち側に来すぎたか? これでは、味方を巻き込んでしまうっ! おい、ガビアルッ! ここより、広い場所で戦うぞっ! 着いてこいっ!」


「よかろうっ! 無闇な戦いよりも、お前との勝負の方が、私はしたいからなっ!」


 混乱する戦場の真っ只中、ショーンはUターンすると、ただ前へと進む。


 彼の眼には、仲間たちを守りぬき、海トカゲ団から勝利を掴むと言う、強い意志が宿っていた。



 ガビアルも、それを察したらしく、余計な敵の相手をする事なく、後を追い始めた。


 こうして、追撃戦を繰り広げる両者は、再びゾンビが溢れる北側へと向かっていた。



「ここだっ! ガビアル、お前との勝負の場所は、ゾンビも敵味方も存在しない、ここが相応しいっ!」


「よし、ようやく、俺と真面目に戦う気になったか? ならば、こちらも本気を出させて貰うっ!」


 まだ、敵が余り居ない駐車場のど真ん中で、ショーンとガビアル達は、互いを睨んで対峙する


 海トカゲ団・幹部である奴との戦いは、勝てば敵が総崩れになる決戦だった。



「ガビアルッ!! なぜ、俺を裏切ったっ!! お前とは、そこまで親しくは無かったが、それでも、俺は恨まれる覚えはないっ! やはり、娘のためかっ!」


「そうだっ! お前を裏切った事には、罪悪感を感じずには居られないっ! だが、母を早くに亡くし、その上、自らも難病に犯された娘を父親として、放置できるかああぁぁっ!!」


 一直線に、ひたすらバイクを走らせるショーンは、トリップソードを取り出した。


 対するガビアルは、ランスを構えて、白兵戦を行う積もりで、大型オオトカゲを突撃させる。



「と、まともに斬りにかかったら、串刺しになってしまうっ! だから…………とりゃっ!」


「ぐうっ! 流石は、元海トカゲ団、特殊部隊の隊長だなっ! まさか、槍を蹴るとは」


 このまま、普通に相手へと、突っ込んでも、ショーンに勝機は全く無かった。


 だから、彼はガビアル握る、ランスを思いっきり蹴飛ばし、バランスを崩させたのだ。



 再度、戦いに戻るべく、両者どちらも敵に向き直り、また突撃を繰り返す。


 こうして、どちらかが、倒れるまでの激しく長い、持久戦が始まった。



「さあ、次は何をしてやろうかっ! お前には半端な打撃も効かないしな…………なら、今度は? うん?」


「私と殺り合うとは、流石に無謀すぎるんだっ! 貴様は、無鉄砲だけが取り柄の雑魚だっ!」


 また、バイクを走らせ、トリップソードで、ショーンは奴の眼を攻撃しようとした。


 ところが、エンジン音が急に小さくなり、運転できなくなってしまった。



 きっと、燃料切れを起こしたのだろうと、ガビアルは思い、情け容赦なく襲いかかってゆく。


 大型オオトカゲの巨体は、まるで狼やライオンが如く、素早く猛進していった。



「くっ! なら、バイクを捨てるだけだっ! おわっ!?」


「まだ、避けるか? いい加減、覚悟しろっ! ショーン」


 勢いよく飛び出して、ショーンは路上に転がりながら迫る、ガビアルと大型オオトカゲを回避する。



「避けても、次はないっ! これで、終わりだっ!」


「しまったっ! うわああーーーー! え?」


「ショーンは、殺らせない…………ぎゃああああっ!?」


 ガビアルは、突撃したとしても、ショーンに避けられるだけだと考えた。


 そこで、彼は大型オオトカゲの手綱を握りしめ、大顎を開かせ、喉から火炎放射を吹き出させた。



 これで、終わりだと思ったが、そこにバイクを運転する、パルドーラが現れた。


 それにより、彼は炎に包まれてしまい、次いで凄まじい爆発音とともに、車輪が転がった。



「パル、ドーラ? 何で、ここに?」


「友を救おうとしたかっ! だが、私には関係ないっ!」


「ウアアアア~~」


「グオオオオ」


 驚いたまま、ショーンは燃えるバイクの残骸を見ながら、唖然と立ち尽くす。


 その隙を見逃さず、ガビアルはランスを片手に、猛烈な勢いで、彼に突撃してきた。



 周囲に近づく、ゾンビ達は、大型オオトカゲの突進で、吹き飛ばされてゆく。


 または、その巨体を支える四つ足に踏み潰されていき、軽く蹴散らされてしまった。


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