ショーン達は、商店街に響きわたる怒号や悲鳴を聞きながら、とにかく走る。
ゾンビ達との戦いとは、また違った戦場である場所へと向かう彼等は、混乱する街中を駆けていく。
「負傷者だっ! 後方に運ぶぞ」
「医者の元に連れていくんだ」
「援軍だっ! 敵は何処だっ!」
「向こうのバリケードだっ! 急げっ!」
ホブゴブリンの冒険者と白人冒険者たちが、血塗れになっている、リザードマンを連れていく。
スケルトンの兵士が、アサルトライフルを抱えて走ってくると、植物人間が指差しながら叫ぶ。
「こっちも、混乱しているなっ! だが、カラチスとナカタニさんの仇は、絶対に取るっ!」
銃声や魔法が弾ける音が、鳴り止まぬ中、ショーンは商店街を、まっすぐ駆け抜けていく。
こうして、仲間たちとともに、彼は海トカゲ団との決戦へと向かっていた。
やがて、商店街から繁華街へと景色が変わると、そこでは炎が看板や建物を燃やしていた。
「敵に突破されたっ! 押し返せっ!」
「いや、下がれっ! 防衛戦を下げるんだっ!」
周囲では、銃声や魔法の炸裂音が相変わらず、響き渡り、弓矢やクロスボウから矢が発射される。
繁華街の通りは、混沌と戦火に満ち、冒険者や兵士たちが、右往左往しながら行き交っていた。
ここでも後方へと退く者もいれば、逆に援軍を求めて急ぐ者もいる。
機銃掃射や大爆発を、何度も耳にする彼等の表情には、汗を滴しながら恐怖と決意が交錯していた。
「どうなっているんだ? 敵は正面から攻めてきているのか? なら、先ずは押し返さないと…………しかし、銃撃が凄いな…………ここは一度、身を隠す」
「敵だわ、バリケードを盾にしているわっ!」
「ショーン、急げっ! バリケードを取り返すぞっ!」
ショーンは、繁華街を抜けると、散乱する車や瓦礫の中を突っ走る。
雷撃魔法や風刃魔法が、飛び交う中、彼は近くにある赤いドラム缶の裏に隠れた。
リズとワシントン達は、左側にある壊れた馬車の裏で、叫びながら飛び出していく。
二人は、銃撃と氷結魔法の攻撃に晒されながらも、黒い自動車に身を隠せた。
「リズ、ワシントン、俺が敵の注意を引き受けるっ! お前たちは、一度右側に行けっ! 他の連中は後から着いてこいっ! 先に俺が目だたたないと成らないからなっ!」
「ショーン…………分かったわ、行くわよっ! ワシントン」
「ああ、背後から奇襲を仕掛けてやろう」
敵の攻撃を、一身に引き受けながら、ショーンは右側へと飛び出していった。
彼の無謀な行動を心配しながらも、リズとワシントン達は、今度は軽自動車へと移動していく。
「ショーン、援護を開始するわよ?」
「リズ、分かった」
リズの目つきは、真剣であり、手には光るマジックロッドが握られていた。
ショーンは爆発で、陥没した穴に飛び込んだが、彼女を一目みると頷き、また走りだす。
二人は、かなり離れていたが、お互いに姿を見ただけで、何をするかは長年の付き合いで分かった。
すぐに、次の行動を理解した彼は、弓矢や火炎魔法に射たれながらも、どんどん足を速める。
「クソ、激しいなっ! 味方は、どうなっている?」
「ショーン? 私達は、もっと左側に行くわ」
「敵に近づいて、火炎瓶や爆弾を投げてやるっ!」
ショーンの心臓は高鳴り、戦闘による緊張感が全身を駆け巡るが、それでも気を抜かない。
身を隠している配電盤から、味方の様子を見ると、建物や瓦礫から火や弓矢が飛ぶ様が分かった。
どうやら、冒険者や自警団員たちが、屋上や路上から、なんとか応戦しているようだ。
また、目的地であるバリケードからは、海トカゲ団の部隊が、制圧射撃を繰り返している。
フリンカは、無謀な突撃をせず、姿勢を低くしながら、左側の木箱が積まれた壁に向かう。
スバスも、火炎瓶を右手に持ちながら、彼女の後に続き、密かに動き出す。
「フリンカ、ワシントン、そっちは任せたぞっ! 俺は、このまま行くっ!」
「あいよっ!」
「敵は、こっちの殲滅してやるっ!」
「ショーン、私も今から行くにゃ………」
配電盤に、弾が当たり、火花が飛び散る中、ショーンは壊れた車の残骸に近づいていく。
敵が、彼に気を取られている間に、フリンカとスバス達は、マイクロバスへと走りだした。
ミーは、前方にある荷台の大きなタイヤへと走っていき、そこに身を潜める。
相変わらず、建物の中からは火矢が飛び、バリケードからは、アサルトライフルが火を吹き続ける。
「分かった、俺が先に走り出すからなっ! ミー、お前は後から奇襲してくれっ! リズは魔法を射っているな? ワシントンは姿が見えないっと」
「来たぞっ! アイツを狙えっ!」
「殺ってしまえっ!」
「にゃあ、大丈夫かにゃあ…………」
「させないわっ! こっちも魔法は射てるのよっ!」
残骸から走り出し、ショーンは海トカゲ団の攻撃を自らに集中させながら、一気に突撃する、
リザードマンとスケルトンの海トカゲ団員たちは、アサルトライフルを彼を狙って、射ちまくる。
OLPのロゴ帽子を被る連中を注意深く観察しながら、ミーは静かに姿勢を低くして進む。
また、バリケード上からの銃撃に対して、リズはマジックロッドから、小さな火玉を連射する。
「殺られるかっ! こっちまで来ればっ!」
「ぎゃああっ!」
「火が、火がああーーーー!!」
「よしっ! 当たったわっ!」
「今だな」
そして、リザードマンとスケルトン達は、火を振り払うために、銃を落としてしまった。
リズは、益々火玉による射撃を強めて、他のバリケード上に陣取る敵に、圧力をかけていく。
その間に、隠密行動を取っていた、ワシントンが右手に握るボウイナイフを振るった。
「ぐあっ!」
「ぎゃあ?」
「追い討ちだっ!」
「止めは俺の剣がっ!」
リザードマンの海トカゲ団員は、喉元を斬られて倒れてしまい、バリケードから落下した。
スケルトンの海トカゲ団員は、ワシントンに腰を蹴られて、路上に落ちる。
ショーンは、倒れたばかりの敵に、トリップソードで、後頭部を叩き切った。
こうして、海トカゲ団側に制圧された一角が、二人の活躍により、見事に奪還された。
「この野郎っ! 切り刻んでやるっ!」
「貴様っ! 死にやがれっ!」
「しまった、うわっ!」
「ワシントンッ!?」
白人チンピラが、鉄パイプ槍を派手に振り回し、黒人チンピラが、
いきなり、バリケード上に現れた敵に、ワシントンは驚いてしまい、反応が遅れた。
ショーンは彼を救うべく、近くの梯子へと走るが、間に合いそうにない。
このままでは、彼が殺られてしまうと思ったが、急に何かが飛んできた。
「うわっ!?」
「ぎゃあっ?」
「誰だっ!」
「スバス、無事か?」
白人のチンピラは、左目を両手で押さえながら、苦しみ、黒人チンピラは脳天を殺られてしまった。
スバスは一気にバリケード上から飛び降りて、ショーンは右側の梯子から声をかけた。
「いったい、誰が? 助けてくれたのは、有難いが?」
「同感だっ! しかし、ショーン、気をつけてくれっ! 敵は、ここを再び取りにくるぞ」
「私だにゃあっ! 二人とも、釘投げに感謝するにゃあっ!」
ショーンは、梯子に掴まったまま、バリケードから頭だけを出して、海トカゲ団の様子を探る。
ワシントンも、素早く上に登る前に、地面に落ちいていた、アサルトライフルを拾う。
そこに、ミーが現れて、風打棍を棒高跳びの要領で使い、彼女は一気に高く飛び上がった。
だが、そうして無謀な突撃行動を取ったら、即座に敵は集中砲火を浴びせようとするだろう。
「ショーン、今、敵部隊が見えたにゃ」
「ミー…………驚かせるな? で、敵は?」
ミーは、バリケードを飛び越えず、敵の様子を調べただけであり、すぐに路上へと着地する。
ショーンは、彼女が無事に自らの近くまでくると、今見た敵の布陣を聞いた。
「どうやら、敵は装甲車を中心に、トラックやテクニカルを止めているにゃっ!」
「広い駐車場だからなっ! 機銃掃射も鳴り止まない…………」
ミーとショーン達は、海トカゲ団の車両部隊による攻勢を前に、これから、どうしようかと考えた。