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第86話 攻勢を押し戻せ


 ショーン達は、商店街に響きわたる怒号や悲鳴を聞きながら、とにかく走る。


 ゾンビ達との戦いとは、また違った戦場である場所へと向かう彼等は、混乱する街中を駆けていく。



「負傷者だっ! 後方に運ぶぞ」


「医者の元に連れていくんだ」


「援軍だっ! 敵は何処だっ!」


「向こうのバリケードだっ! 急げっ!」


 ホブゴブリンの冒険者と白人冒険者たちが、血塗れになっている、リザードマンを連れていく。


 スケルトンの兵士が、アサルトライフルを抱えて走ってくると、植物人間が指差しながら叫ぶ。



「こっちも、混乱しているなっ! だが、カラチスとナカタニさんの仇は、絶対に取るっ!」


 銃声や魔法が弾ける音が、鳴り止まぬ中、ショーンは商店街を、まっすぐ駆け抜けていく。


 こうして、仲間たちとともに、彼は海トカゲ団との決戦へと向かっていた。



 やがて、商店街から繁華街へと景色が変わると、そこでは炎が看板や建物を燃やしていた。



「敵に突破されたっ! 押し返せっ!」


「いや、下がれっ! 防衛戦を下げるんだっ!」


 周囲では、銃声や魔法の炸裂音が相変わらず、響き渡り、弓矢やクロスボウから矢が発射される。


 繁華街の通りは、混沌と戦火に満ち、冒険者や兵士たちが、右往左往しながら行き交っていた。



 ここでも後方へと退く者もいれば、逆に援軍を求めて急ぐ者もいる。


 機銃掃射や大爆発を、何度も耳にする彼等の表情には、汗を滴しながら恐怖と決意が交錯していた。



「どうなっているんだ? 敵は正面から攻めてきているのか? なら、先ずは押し返さないと…………しかし、銃撃が凄いな…………ここは一度、身を隠す」


「敵だわ、バリケードを盾にしているわっ!」


「ショーン、急げっ! バリケードを取り返すぞっ!」


 ショーンは、繁華街を抜けると、散乱する車や瓦礫の中を突っ走る。


 雷撃魔法や風刃魔法が、飛び交う中、彼は近くにある赤いドラム缶の裏に隠れた。



 リズとワシントン達は、左側にある壊れた馬車の裏で、叫びながら飛び出していく。


 二人は、銃撃と氷結魔法の攻撃に晒されながらも、黒い自動車に身を隠せた。



「リズ、ワシントン、俺が敵の注意を引き受けるっ! お前たちは、一度右側に行けっ! 他の連中は後から着いてこいっ! 先に俺が目だたたないと成らないからなっ!」


「ショーン…………分かったわ、行くわよっ! ワシントン」


「ああ、背後から奇襲を仕掛けてやろう」


 敵の攻撃を、一身に引き受けながら、ショーンは右側へと飛び出していった。


 彼の無謀な行動を心配しながらも、リズとワシントン達は、今度は軽自動車へと移動していく。



「ショーン、援護を開始するわよ?」


「リズ、分かった」


 リズの目つきは、真剣であり、手には光るマジックロッドが握られていた。


 ショーンは爆発で、陥没した穴に飛び込んだが、彼女を一目みると頷き、また走りだす。



 二人は、かなり離れていたが、お互いに姿を見ただけで、何をするかは長年の付き合いで分かった。


 すぐに、次の行動を理解した彼は、弓矢や火炎魔法に射たれながらも、どんどん足を速める。




「クソ、激しいなっ! 味方は、どうなっている?」


「ショーン? 私達は、もっと左側に行くわ」


「敵に近づいて、火炎瓶や爆弾を投げてやるっ!」


 ショーンの心臓は高鳴り、戦闘による緊張感が全身を駆け巡るが、それでも気を抜かない。


 身を隠している配電盤から、味方の様子を見ると、建物や瓦礫から火や弓矢が飛ぶ様が分かった。



 どうやら、冒険者や自警団員たちが、屋上や路上から、なんとか応戦しているようだ。


 また、目的地であるバリケードからは、海トカゲ団の部隊が、制圧射撃を繰り返している。



 フリンカは、無謀な突撃をせず、姿勢を低くしながら、左側の木箱が積まれた壁に向かう。


 スバスも、火炎瓶を右手に持ちながら、彼女の後に続き、密かに動き出す。



「フリンカ、ワシントン、そっちは任せたぞっ! 俺は、このまま行くっ!」


「あいよっ!」


「敵は、こっちの殲滅してやるっ!」


「ショーン、私も今から行くにゃ………」


 配電盤に、弾が当たり、火花が飛び散る中、ショーンは壊れた車の残骸に近づいていく。


 敵が、彼に気を取られている間に、フリンカとスバス達は、マイクロバスへと走りだした。



 ミーは、前方にある荷台の大きなタイヤへと走っていき、そこに身を潜める。


 相変わらず、建物の中からは火矢が飛び、バリケードからは、アサルトライフルが火を吹き続ける。



「分かった、俺が先に走り出すからなっ! ミー、お前は後から奇襲してくれっ! リズは魔法を射っているな? ワシントンは姿が見えないっと」


「来たぞっ! アイツを狙えっ!」


「殺ってしまえっ!」


「にゃあ、大丈夫かにゃあ…………」


「させないわっ! こっちも魔法は射てるのよっ!」


 残骸から走り出し、ショーンは海トカゲ団の攻撃を自らに集中させながら、一気に突撃する、


 リザードマンとスケルトンの海トカゲ団員たちは、アサルトライフルを彼を狙って、射ちまくる。



 OLPのロゴ帽子を被る連中を注意深く観察しながら、ミーは静かに姿勢を低くして進む。


 また、バリケード上からの銃撃に対して、リズはマジックロッドから、小さな火玉を連射する。



「殺られるかっ! こっちまで来ればっ!」


「ぎゃああっ!」


「火が、火がああーーーー!!」


「よしっ! 当たったわっ!」


「今だな」


 我武者羅がむしゃらに走るショーンを狙っていた、上トカゲ団員たちは、体に火が着いて慌てだす。


 そして、リザードマンとスケルトン達は、火を振り払うために、銃を落としてしまった。



 リズは、益々火玉による射撃を強めて、他のバリケード上に陣取る敵に、圧力をかけていく。


 その間に、隠密行動を取っていた、ワシントンが右手に握るボウイナイフを振るった。



「ぐあっ!」


「ぎゃあ?」


「追い討ちだっ!」


「止めは俺の剣がっ!」


 リザードマンの海トカゲ団員は、喉元を斬られて倒れてしまい、バリケードから落下した。


 スケルトンの海トカゲ団員は、ワシントンに腰を蹴られて、路上に落ちる。



 ショーンは、倒れたばかりの敵に、トリップソードで、後頭部を叩き切った。


 こうして、海トカゲ団側に制圧された一角が、二人の活躍により、見事に奪還された。



「この野郎っ! 切り刻んでやるっ!」


「貴様っ! 死にやがれっ!」


「しまった、うわっ!」


「ワシントンッ!?」


 白人チンピラが、鉄パイプ槍を派手に振り回し、黒人チンピラが、玉葱たまねぎ棍棒ブラワを振り上げた。


 いきなり、バリケード上に現れた敵に、ワシントンは驚いてしまい、反応が遅れた。



 ショーンは彼を救うべく、近くの梯子へと走るが、間に合いそうにない。


 このままでは、彼が殺られてしまうと思ったが、急に何かが飛んできた。



「うわっ!?」


「ぎゃあっ?」


「誰だっ!」


「スバス、無事か?」


 白人のチンピラは、左目を両手で押さえながら、苦しみ、黒人チンピラは脳天を殺られてしまった。


 スバスは一気にバリケード上から飛び降りて、ショーンは右側の梯子から声をかけた。



「いったい、誰が? 助けてくれたのは、有難いが?」


「同感だっ! しかし、ショーン、気をつけてくれっ! 敵は、ここを再び取りにくるぞ」


「私だにゃあっ! 二人とも、釘投げに感謝するにゃあっ!」


 ショーンは、梯子に掴まったまま、バリケードから頭だけを出して、海トカゲ団の様子を探る。


 ワシントンも、素早く上に登る前に、地面に落ちいていた、アサルトライフルを拾う。



 そこに、ミーが現れて、風打棍を棒高跳びの要領で使い、彼女は一気に高く飛び上がった。


 だが、そうして無謀な突撃行動を取ったら、即座に敵は集中砲火を浴びせようとするだろう。



「ショーン、今、敵部隊が見えたにゃ」


「ミー…………驚かせるな? で、敵は?」


 ミーは、バリケードを飛び越えず、敵の様子を調べただけであり、すぐに路上へと着地する。


 ショーンは、彼女が無事に自らの近くまでくると、今見た敵の布陣を聞いた。



「どうやら、敵は装甲車を中心に、トラックやテクニカルを止めているにゃっ!」


「広い駐車場だからなっ! 機銃掃射も鳴り止まない…………」


 ミーとショーン達は、海トカゲ団の車両部隊による攻勢を前に、これから、どうしようかと考えた。

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