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第84話 炎の壁と撤退戦


 ショーンは、炎の壁を背にして、無数のキョンシー型ゾンビ達と戦う決意を固めた。


 もちろん、火の海からも続々と燃えながら、フレッシャー&ウォーリアー達が現れる。



 また、ジャンピンガーは、炎を軽く越えてしまい、仲間たちに襲いかかってくる。


 火炎に包まれる事なく、バリケード上から、スピットゲロー&ファットゲロー達は攻撃してくる。



「お前ら…………元は、仲間だったからな? せめて、苦しめないで、殺してやる」


「グアア~~~~」


「ギャアアッ!!」


「ショーン、背中は任せるにゃっ!」


「グルアア~~!!」


「ウォーーーー!!」


 ショーンは、トリップソードを正眼に構えると、道を塞ぐように立つ、敵に突進していく。


 その後ろに立ち、風打棍で、ウォーリアー達の長剣や短槍を受け止めつつ、時おり反撃する。



 黒服の男性キョンシー型ゾンビは、脇腹から血を垂らしながら、連続で拳を繰り出してくる。


 赤服のキョンシー娘ゾンビは、空中に高く飛び上がり、そこからドロップキックを放ってきた。



 もちろん、彼は、まともに相手をせず、双方の攻撃を上手く交わしてから後方に回り込む。



 その間、ミーは釘を連続で投擲しながら、ウォーリアー達を牽制する。


 女ウォーリアーは、金髪を振り払いながら、力強くロングソードを横凪に振るう。


 体格が少しいい、アラブ人ウォーリアーは、短剣シャンビーヤを真っ直ぐに突き出してくる。



「不味いっ! 不味い、コイツら…………強い」


「グアア…………アア」


「グルアアアア~~~~!?」


「にゃあっ! これは、避けるだけで、精一杯にゃっ!」


「ギャアッ!?」


「ウォ~~~~! グ?」


 黒服の男性キョンシー型ゾンビに、ショーンは背後から回り込んで、斬撃を首に喰らわせる。


 赤服のキョンシー娘ゾンビは、彼に飛びかかったが、拳銃弾を何発も喰らって落下する。



 風打棍で、女ウォーリアーの眉間に、打突による強烈な一撃を、ミーは叩きこんだ。


 その隙に足元を狙って、シャンビーヤを、アラブ人ウォーリアーは振るうが、何故か頭が燃える。



「二人とも、無事かっ! 先に走れっ! もう、俺のリボルバーも弾切れだっ!」


「今ので、私の魔力も切れたわっ! 撤退よっ!」


「俺の銃も弾が切れた…………クソッ!」


「ウォーリアーとの戦闘は、危険過ぎるから相手してられないっ!」


 リオンは、リボルバーを仕舞う暇なく、ひたすら地面を蹴って、走り続ける。


 火炎魔法で、ウォーリアーを仕留めたばかりのマーリーンも、素早く駆けてくる。



 黒人冒険者は、ピストルを茶色いホルスターに、突っ込みながら逃げ出す。


 バックソードを背中の鞘に仕舞い、白人冒険者は、踵を返して、戦線から離脱する。



「分かったっ! 先に逃げるぞっ! と言うか、他の連中は大丈夫なのか?」


「みんな、必死で走りまくってるにゃあーー!?」


「ショーン、ミー、後ろを振り向くなっ! 遅れれば、フレッシャーに殺られちまうぞ」


「走るのは苦手なんだけど、この状況じゃあ~~ワガママは言ってられないわっ!」


「今は、ひたすら走るのみっ! じゃないと、ゾンビの昼飯おまんまになってしまうからねぇっ!」


「ああ、そう成らない内に、安全区域まで戻らないとなっ! っと」


 必死で、ビルの立つ安全区域の方へと、ショーンは後ろに振り向く事なく逃げていく。


 ミーは、彼の後に続き、風打棍を抱えながら、路上を疾走していく。



 ワシントンは、ボウイナイフを握ったまま、迫り来るゾンビ達から距離を取ろうとする。


 マジックロッドを背負い、リズは息を苦しそうに吐きながらも、手足を動かし続ける。



 ポイズンソードを振るっては、フリンカは先に回り込んでくるフレッシャー達を斬り捨てていく。


 がむしゃらに走っては、ゾンビ達に捕まりそうになる度に、スバスは前に飛んで回避する。



「あとは、火炎瓶を投げればっ!」


「援護するっ! 逃げるぞっ!」


 アジア系冒険者は、ポリタンクを蹴飛ばし、酒樽を転がしまくり、最後は火炎瓶を投げた。


 タンクローリーの上から、ラテン系冒険者は、氷結魔法を乱発しながら、ゾンビ達を攻撃する。



「残りは、アイツらだけか? おい、早くしろっ! もう、そこまで敵が迫っているぞっ!」


 ショーンが、二人に声をかけると、タンクローリーは大爆発して、派手な炎を吹き上げた。


 どうやら、彼等の内、どちらかが火を着けたらしく、周囲を走るゾンビ達が火炎に包まれる。



「何とか、バリケードから距離を離せたが? みんなは大丈夫か? もう、ここまで来れば…………」


「ウゴアアアア」


「グルアア~~~~」


 ショーンは、状況を整理するために、バリケードの手前で、燃え盛る炎を目にした。


 そこには、やはり揺らめく火炎の中から出てくるゾンビ達と、それに追いかけられる味方が見えた。



 ウォーリアー化してしまった、トロールの冒険者は、血塗れた棍棒を振るいながら追いかけてくる。


 ライフルを闇雲に振り回して、マンドラゴラの冒険者ウォーリアーは、ノロノロと小走りしていた。



「ここまで来れば…………あとは、どうすんだ?」


「マーク、ジュリア、助けてくれっ! ロープを下ろしてくれっ!」


「氷の壁を作るっ! 今のうちに行けっ!」


 ショーンは、炎の壁を見て、次はビルと店屋の間に、隙間なく設置された、木箱を見た。


 アジア系冒険者は、後ろから大きな声で叫びながら、こっちに走ってきた。



 ラテン系冒険者は、氷結魔法で、大きなガラス窓のような氷壁を作っていく。


 燃え盛る体を、ものともせず、執拗にゾンビ達が向かってくるため、それを止めようと言うわけだ。



「お前ら、はやく上がってこいっ!」


「今すぐ、登って来なさいっ!」


「ロープがっ! 行くぜ」


「はあ、はあ、やっと安心できるにゃあっ!」


 賢者らしき赤いローブを着ているゴブリンは、ナイフの先から、紫ビームを連続で発射する。


 緑色の軍服を着ている女性オーガーは、アサルトライフルを炎を越えてくるゾンビ達に撃ちまくる。



 それ以外にも、多数の冒険者や自警団員などが、弓や魔法で、敵を攻撃する。



 ショーンは、ロープを掴むと、急いでバリケード上に向かっていく。


 その横では、同じく、ミーが木箱まで走ってきて、とにかく上を目指した。



「っと…………おい、みんな? 無事か?」


「私は無事だにゃ? 他はーー!?」


 ショーンとミー達は、取り敢えず、バリケードから下の路上に降り立った。



「私は、無事よっ! なんとか、逃げてこれたわ」


「私もねぇ~~? はああ~~生き残れた」


「珍しいな、お前が溜め息を吐くとは?」


「ふぅ? 爆薬も煙玉も使い果たした、なんか武器になる物を見つけないと」


 ショーンが振り向くと、リズが木箱の上から飛び降りる姿が確認できた。


 フリンカも、着地すると疲れたらしく、両手を道路に突いて、苦しそうに息を吐いた。



 ワシントンは、冷静な顔で呟いたが、その顔には汗が滲み出ており、体力を消耗していると分かる。


 次なる戦いに備えて、スバスは武器に成りそうな物を探して、彼方此方あちらこちらに目を向けた。



「ふぅ…………助かった、助かった」


「ぐあっ! た、助けてくれ~~」


「ぎゃあっ!? こうなったら、道ずれだっ!」


「うわあっ!! 不味い、逃げろっ!」


 アジア系冒険者は、バリケード上に飛び乗ってから地面に飛び降りる、


 ラテン系冒険者は、氷結魔法で、階段を作ったが、登っている間に強酸が背中に当たってしまう。



 黒人冒険者は、ロープを掴んで登りきろうとした時に、ジャンピンガーに捕まえられてしまった。


 そして、落下していき、自爆を選択したのか、派手な爆発音を鳴らした。



 白人冒険者は、フレッシャー達が群がる中、必死で、木箱の上まで逃げてきた。



「奴らの内、二人は生き残れなかったか…………中華街のは、二人だけ…………」


 ショーンは、路上で疲れた顔を、バリケード上に向けると、苦し気に呟いた。



「とにかく、逃げるぞ」


「分かったわっ!」


 青服を着ている中華男性は、蛇矛を背負い、上にまで何とか生き延びれた。


 それに続いて、中華娘は素早くロープを掴み上がり、こっち側に着地した。



「あの地獄の中から、逃げてきたのか? 信じられんな」


「グオオッ!」


「ガアガア」


 バリケードの向こう側で、揺らめく炎を見ながら、ショーンは粒いた。


 しかし、未だにゾンビ達の恐ろしい咆哮は、途切れる事なく聞こえてきた。

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