ショーンとミー達は、こちらに向かってくる暴走馬車の車輪が回転する音を聞いた。
建物の間を通ってくる車体正面には、異様な雰囲気を醸し出す御者が座っていた。
「どうなっているんだ? 向こうから、ゾンビ達が、やってくるとは? まさか、安全区域にまで、侵入されたのか?」
「そんにゃあっ! それなら、民間人が心配だにゃっ!! シューさん達は、無事か気になるにゃっ!」
馬の蹄が道路を走る音が、不気味に響く中、冒険者たちは、武器を手に敵を待ち構えた。
もちろん、ショーンとミー達も、周りを囲もうとするゾンビ達を蹴散らしながら、馬車を睨む。
「何だ…………ぎこちない動き? なっ! やっぱ、キョンシー型ゾンビだったかっ!」
「ゴアアアア~~~~!!」
「グルアアアーーーー!!」
「グルアアーー」
「ギャアアアア」
「ヤバいにゃっ! 馬車が突っ込んでくるにゃあっ! キョンシー型ゾンビも来るにゃあっ!!」
ショーンは、ゾンビやフレッシャー達を、わざと殺さないように、トリップソードで切り付ける。
こうして、敵を混乱させながら、互いに戦わせて、彼は有利な状況を作ろうとした。
しかし、そこに疾走したり、ぴょんぴょんと飛びはねながら、キョンシー型ゾンビが攻撃してきた。
ミーは、繰り出される鋭い蹴りを交わし、顔を狙った拳を避けながら、震える声で叫んだ。
「二人とも、援護するっ! はやく、そこから離れてくれっ!」
「馬車も突っ込んでくるわっ! 引き殺されないように、逃げなさいっ!」
馬車に座る御者を狙って、リオンは素早く、リボルバーから何発も弾を発砲する。
マーリーンは、火の玉を警棒から乱発して、キョンシー型ゾンビたちを攻撃した。
「ヒヒーーーーンッ!」
「ヒヒ~~~~ンッ!」
「グエエーー!」
「ギャアアッ!」
「そんな事は、分かってるんだが、間に合うかっ!?」
「にゃああっ!! 危なかったにゃあ…………」
二頭のゾンビ・ホース達は、馬車を引っ張りながら、ショーンとミー達を吹き飛ばそうとする。
しかし、間一髪のところで、二人とも左右に別れて、サイドステップで避けられた。
「ギャアーー!」
「グルアアアア」
「しつけえ~~奴らだっ!」
避けた先でも、キョンシー型ゾンビ達は、ショーンに追撃を仕掛けてくる。
勢いよく、ジャンプしながら蹴りを放ち、回転しながら拳を突き出してくる。
「ぐっ! うおっ! ヤバいっ! コイツら、強すぎだっ!」
「ウオオーーーー!!」
「ギャアア~~~~~~」
「にゃあっ! 元が、武術の達人や冒険者だからにゃあっ!」
白い肌に、黒服を纏うキョンシー型ゾンビ達から腹と左肩に攻撃を受けた、ショーンは引き下がる。
連中の目は、白眼で、まるで生気を失った人形のように無表情だが、凍てつくような殺気を感じる。
「みんな、逃げようっ! これ以上は、無理だっ!」
「それには同意するっ! こんな小さいナイフが、一本では戦えんっ!」
「私達も、また後方に下がりましょうっ!」
ショーンが、一気に逃げながら叫ぶと、仲間たちは一斉に後ろに飛び退いた。
同じく、ワシントンとリズ達も、危険だと判断して、馬車から離れようとする。
キョンシー型ゾンビ達は、二人の前に立ちはだかり、逃げ道を塞ごうとする。
連中の口は、固く閉じられており、殺意を向けて、冒険者たちを凝視していた。
「ガアガアッ! グアアアア」
「ギャギャッ! グオオーー」
「ウォーーーー!!」
「ウラアアアアーーーー」
「なあっ! ウォーリアー達まで、現れたかっ! ぐあっ!」
「不味いわっ! 攻撃を避けなきゃっ! ぎゃああっ!」
キョンシー型ゾンビ達は、逃げる中華街からの援軍部隊を阻み、格闘攻撃を仕掛けてくる。
さらに、ゾンビの群れに混じって、槍や剣を握るウォーリアー達まで現れてしまう。
黒服の男性キョンシーは、青龍刀を握る手を、敵から殴られてしまう。
さらに、隙を突かれてしまい、血塗れた小型ナイフで脇腹を着られてしまった。
赤服のキョンシー娘は、両手の青龍刀を、凄まじい槍裁きで弾かれる。
そして、背中を蹴られた後、真っ赤なフランジメイスで、後頭部を叩かれてしまった。
「どうするにゃああああっ? 隠れる場所もないし、逃げられそうにないにゃっ!?」
「確かに、逃げ場がないっ! どうすっ? とっ!?」
ミーが、絶叫しながら不安そうに尋ねると、ショーンは一瞬だけ考えた後、転んでしまった。
いきなり、転けた彼の目には、真正面から突進してくる馬車だった。
「ヒヒーーーーンッ!!」
「ヒヒィ~~~~ンッ!」
「うわわ、ヤバいっ! 引き殺されちまう~~~~!?」
「グアア…………」
二頭のゾンビ・ホースは、馬車を引っ張りながら、ショーンを踏み潰そうと走ってくる。
しかし、彼は運良く蹄に踏まれず、車体下部が、自らの頭上を通過していくさまを見た。
御者のゾンビは、ゾンビ化している馬達を上手く制御できず、ひたすら走らせているだけだ。
また、彼自身も訳が分からず、運転しているため、その進路は滅茶苦茶だった。
「蛇行運転してやがるっ? なら、こうしてやるっ!」
「ショーン、無事だったかにゃあ? にゃあっ! ウォーリアーがっ!」
運良く生きていた、ショーンは、暴れ回る馬車の後を追って、バリケード側へと走っていく。
そんな彼に、ミーは話しかけたが、直ぐにゾンビ達を捕捉すると、指弾でナットを頭に飛ばす。
「このやろ、降りやがれってんだっ! ミー、お前は下がれーーーー!!」
「グアッ!」
「にゃあ~~~~!? ショーン、何をやっているにゃあっ!」
ショーンは、馬車に飛び乗ると、御者ゾンビを蹴り落として、ゾンビ・ホース達の手綱を握った。
それを見ていなかった、ミーは周りを囲む、ウォーリアー&フレッシャー達の隙間をぬって逃げる。
「お前らーーーー! 危ないから、退いてくれええ~~~~! リズ、離れろっ! スバス、右に走れっ!」
「ウガアアアア」
「ギュアーーーー!」
「あわわっ! こっちに、来ないでよっ!」
「おい、ショーン、どうなっているんだっ!?」
馬車を操り、ショーンはゾンビ軍団を撥ね飛ばしながら、一掃しようと考えていた。
だが、予想よりも、ゾンビ・ホース達は言う事を聞いてくれなくて、蛇行運転を繰り返す。
それで、確かにゾンビ達は蹴散らされていったが、同時に仲間を危険に晒してしまう。
マジックロッドで、フレッシャーの頭を叩いた、リズは後ろに振り向き、直ぐに走り去った。
スバスは、後ろに飛び退いて、蹄や車輪に引き殺されない内に、距離を取った。
「俺にも、どうしようも、できないんだよ~~~~!?」
「グルアッ!?」
「ギャアッ!?」
相変わらず、馬車はゾンビ・ホース達が暴れるせいで、ショーンには制御不能に
とは言え、フレッシャーやウォーリアーなど、厄介なゾンビ達は、確実に吹き飛ばされていく。
「うわわわわわわ~~~~!? これは、ヤバいっ! 死ぬわっ! 退散だっ!」
「ウォーーーー!?」
やがて、馬車は一直線に走り、マッスラーに向かっていき、ショーンは急いで座席から立ち上がる。
それから、敵にゾンビ・ホース共々、勢いよく馬車は衝突してしまった。
「ぐべっ! いたたたた? うあ、ファットゲロー、ガスモークまでっ!」
「ゲロ、グエッ!」
「ウオオオオッ!」
馬車後部から飛び降りるのに、ショーンは成功しており、痛む体を無理やり動かした。
立ち上がった彼の前には、当然ながら、強力なゾンビ達が、何体も立ちはだかった。
「お前たち、下がれっ!!」
「撤退命令が出てるぞ」
タンクローリーを運転してきた、アジア系冒険者は、戦っている味方に向けて叫ぶ。
その隣に座るラテン系冒険者は、氷結魔法を冷凍ガスとして放出しながら、敵を凍らせていく。
「ここまで来れば…………あとは、燃やすだけだ」
アジア系冒険者は、タンクローリーを西側のバリケードにまで、走らせて、停車させた。
それから、密かに道路に漏らしていた油に、着火した、マッチの棒を投げた。
「これで、こちら側に来るゾンビ達は、燃えるな? でも、俺たちは未だに油断できないっ!」
「ウオオオ」
「ウオオオオオッ!」
「グアアッ!」
「グルアア~~」
ショーンは炎の壁ができたと思ったが、それでもゾンビ達は、体が燃えても執拗に向かってくる。
キョンシー型ゾンビ達が、彼を狙って襲いかかったが、その中には先ほど、ゾンビ化した者も居た。
黒服の男性キョンシー型ゾンビは、脇腹から血を垂らしながらも、彼を狙ってきた。
赤服のキョンシー娘ゾンビは、両手を交互に振り回し、爪で引っ掻いてやろうと暴れだした。