ショーン達は、左右に別れてから、建物の中で身を隠していた。
「スバスッ! 無事かっ!」
「まさか…………」
ショーンとリズ達は、最悪の展開を予想して、顔を青くさせる。
それは、スバスの頭に、風穴が開いてしまったと言う事である。
「……………………ショーン、心配するな」
「スバス、生きてたのかっ!」
「怪我は、ないのっ! 肩は撃たれてないっ!」
「大丈夫かにゃっ!!」
「焦ったぞ、脅かすな? 怪我の具合は?」
スバスは、まるで死んだかのように思えたが、うつ伏せに倒れているだけであった。
ショーンとリズ達は、彼の事を心配して、声をかけたが、ここからは助けられない。
フリンカとミー達も、ドアの中から様子を確認するべく、大きな話しかけた。
「…………いや、死んだ振りをしているだけだ、しかし、このままでは身動きが取れない」
スバスは、うつ伏せになったまま喋っているが、この体勢は、かなりキツそうだ。
「くっ! 前はスナイパーか、どうやって、進むべきか」
「ショーン、後ろからも来ているわよ」
「アアアア」
「ウアアアアァァ」
入口の近くから、身を隠しつつ、透明なドア越しに遠くを睨む、ショーン。
その隣で、リズは射撃音に反応して、やってきた、ゾンビ達に目を向ける。
「リズ、ゾンビを攻撃しろっ! は?」
「分か…………スナイパーが撃ってくれたわね」
「どうなって、いやがるんだ?」
ショーンは、リズに指示を下して、自らは廊下の奥に目を向けた。
そうしている内に、スバスに近づいていた、ゾンビ達が、狙撃されて倒れていく。
「狙撃してるのか? みんな、今の内に向こうの通りに行けっ! 背後に回って、あの建物を制圧するんだっ! スバスは任せろっ!」
ショーンは、決意を固めると、向かい側で隠れている仲間たちに指示を出した。
「ショーンッ! 私達は言われた通りに、向こう側の通りから、敵の背後に回るわ」
「スバスの援護と、敵の注意を惹いてくれっ!」
「頼んだにゃっ! じゃあ、行くにゃっ!」
「分かったぜ、しかし? スバスを助けるには…………クソッ! いったい、どうすれば」
「おい、はやく助けてくれ、ゾンビ連中が直ぐそこまで来てるんだ」
フリンカとワシントン達は、すばやく建物内部へと、駆け出していった。
ミーも、二人の後を追って、迂回しながら敵スナイパーに、奇襲攻撃を仕掛けるべく走りだした。
三人が動き出すと、ショーンは彼を助けるべく、何か方策を考えねばと思案する。
一方、うつ伏せ状態である、スバスは状況が全く分からないので、焦り始める。
「分かってる、だが、どうやって」
「魔法で援護するわ、ショーン、その間に彼を助けてよっ!」
「身動きが出来れば、煙玉を転がせられる、だから何とかしてくれっ!」
ショーンも焦りまくる中、リズは火炎魔法を乱発して、スバスに近づく、ゾンビ達を攻撃した。
「はっ! これなら…………龍が如きヤクザで見たんだ、これさえ有れば助けられるっ!」
廊下の右側にあった、折り畳み式オフィステーブルを、ショーンは見つけた。
「リズ、手伝ってくれっ!」
「分かったわ、やって見るねっ! よっと」
次いで、ショーンとリズ達は、折り畳んだ、オフィステーブルを一人一枚ずつ押し始めた。
これには、四輪が着いており、楽に運べるので、二人は勢いよく外に向かって押し出した。
「うわ、まだ助けにいけないっ?」
「それに、楯にしても貫通するわっ!」
「ウゥゥ」
「ガアアアア」
「もう、動いていいか?」
折り畳み式オフィステーブルを楯に使った、ショーンとリズ達だが、ライフル弾は容易に貫通する。
そんな中、またもや銃声に誘き寄せられた、ゾンビの群れが現れた。
「ゾンビが寄ってきた、はやく助けてくれっ! た、頼むっ! 何とかしてくれっ! これ以上は我慢出来ない」
「待ってろ、今頭を上げたら狙撃されちまう」
「スバス、落ち着いてね、何とかするからっ!!」
もう待てないと騒ぐ、スバスを宥めながら、ショーンは何か出来ないかと、必死で思案する。
リズも、次なる救出手段を考えて、どうにか助けられないかと、使える物を探す。
「今に次の手段を…………これだ、リズッ! まずは、スバスの前に火炎魔法を噴射するんだっ! その後を、こいつを投げてっ!」
「魔法ねっ! それで援護するわ、スバスッ!」
「分かった、もう少しだけ待ってる、だから何とか助けに来てくれ」
ショーンの指示に従い、リズは火炎魔法を放射して、路上に炎を吹き上げる。
腰までしか、姿を隠せない火炎カーテンだが、それでも、スバスの姿は前方から完全に隠せた。
「リズ、今度はアレに火炎を当ててくれっ! スバス、今度は煙玉を投げまくれっ!」
「アレね? 分かったわっ! ショーン」
「煙玉か、まだ幾つか残っているなっ! やって見ようっ!」
廊下の左側に置いてあった、消火器をショーンは思いっきり、ぶん投げた。
次いで、それが地面に落ちる前に火炎魔法を連射して、リズは命中させた。
それと同時に、スバスは炎の裏側から、何回も煙玉を投げまくった。
これにより、白煙が一気に舞い上がり、その後も同じような炸裂が連続で起こる。
「よし、スバス、炎も消えたっ! リズ、とにかく、煙の中を走って行くぞっ!」
「ええ、突撃の時間ねっ! 行くわよーーーー! 私が成敗してやるわっ!」
「ようやく、反撃の
白煙が舞う中、とにかく、ショーン達は前進しようと走りまくる。
彼の後に続いて、リズとスバス達も、勢いに任せて駆け出していく。
「これを投げ続ければ、俺は最強だっ!」
スバスは、白煙の中を突っ切り、懐やポケットから煙玉を取り出しては、転がしてゆく。
「こうなったら、俺達の勝ちだなっ!」
「ああっ! どうやら、敵まで無事に行けそうだっ!」
「スナイパーには、火炎魔法を喰らわしてやるわっ!」
急に、視界を遮った白煙により、スナイパーの脅威は無くなった。
そんな中、ショーンは突撃していき、リズとスバス達も後に続く。
「ここまで来ればっ! うわあっ!」
「はっ! 機銃掃射よっ!」
「な、マジか…………これじゃ進めないだろが」
ショーンは、頬を掠める機銃弾に驚き、いきなり転んでしまった。
ドドドドと勢いよく放たれる弾丸は、白煙の中だろうが、お構い無しに撃ってくる。
リズは、一瞬で伏せてしまい、スバスも左側の建物へと避難する。
こうして、三人とも銃撃を受けて、下手に身動きが取れなくなった。
「止まれぇぇっ! 妙な動きを見せたら、今度は頭を撃ち抜くっ!」
「肉片に成りたくなければ、こっちの言う事は素直に聞くんだな…………」
「分かったっ! 撃たないでくれっ!」
「降伏するわ、だから許して」
スナイパーが四階の窓から叫ぶと、その下にある三階からも、機関銃手が怒鳴る。
また、さらに一階や二階の窓にも、マジックロッドやクロスボウを持つ、チンピラ達が見えた。
道路に立ったまま、ショーンは両手を上げて、その場から動かない。
リズも、地面に伏せたまま、抵抗する意志はないと言って、不安げな表情を浮かべる。
「へっ! 女かっ! お前だけ、武器を置いて、こっちに歩いてこいっ!」
「そうだ、男の方は撃ち殺…………う、うわああああああっ!?」
「な、な、何が起きたっ!!」
「とにかく、撃ち殺せ、ぎゃああああ」
スナイパーは下卑た笑みを浮かべて、リズに対して、スコープの照準を合わせる。
そして、機関銃手が引き金を引こうとした瞬間、いきなり三階から奴は落下してきた。
誰に殺られたか、分からないまま、チンピラ達は焦りだした。
だが、連中が慌てている間に、また一階で銃を構えていた、チンピラが弓矢で射殺される。
「敵襲かっ? だったら、お前らを撃っ! ぐはあっ!?」
今度は、スナイパーが後ろから、何者かに首を跳ねられてしまう。
「反撃しろっ! 奴らを殺せっ!」
「あの男から殺してやるっ!!」
「リズ、こっちだーー!?」
「え、ちょ、待ってっば?」
チンピラ達は、アサルトライフルや弓矢を射って、ショーンとリズ達を射殺しようとする。
だが、彼は走り出す際に、彼女の手を握りながら動いていた。
「こっちだ、二人とも早く隠れろっ!」
「逃がすかあーー! ぎゃっ!」
「撃て、撃て、うお…………」
「攻撃するんっ! ぐわああああっ!?」
店屋の中から、スバスは二人を手招きするが、それを狙って、チンピラ達は攻撃してくる。
だが、そんな連中を、何処かから放たれた弓矢が襲ってきた。
二階から、マジックワンドで、雷撃魔法を放っていた、チンピラは矢に射たれて倒れる。
一階から、アサルトライフルを射ちまくっていた、チンピラは眉間を射貫かれる。
連中が慌てている間に、二階に火が放たれた事で、屋内は真っ赤に燃え上がる。
「うわっ! 家事だっ! 逃げろっ!」
「誰が殺りやがったんだっ!」
「そんな事は、どうでもいいっ!?」
一階のチンピラ達は、慌てて奥へと逃げ出したが、ショーンは連中を追って走り出す。
「バカかっ! 銃を持っている方が強いに決まっているだろっ! がああああっ!」
「お前くらいなら、ここで殺せるっ! う、ぐ」
「こっちだって、射撃できる人間は存在するのよ?」
「この距離なら、俺の爆弾だって届くんだっ!」
ショーンに気を取られていた、チンピラは火炎魔法を連発した、リズの射撃に殺られて炎上した。
密かに店内から裏口を使って出ていた、スバスは窓に小型爆弾を投擲して、チンピラを倒す。
二人の予期せぬ攻撃は、連中に直撃して、即死させる。
「クソがっ! こうなりゃ、逃げてやる」
「援軍を呼びに行かないとっ!!」
「させないよ?」
「行かせるワケないにゃ…………」
クロスボウを背負い、チンピラはドアを目指して、奥へと逃げた。
マジックロッドを抱えた、チンピラも攻撃される前に逃走していく。
だが、そんな連中の前に、フリンカとミー達が行く手を塞ぐように現れた。