一夜が開けると、ロッカールームの黒いベンチで眠っていた、ある男が目を覚ます。
「うああ、起きたぜ…………」
ショーンは、
「私の魔法は、氷結魔法だから魔物の体を貫くだけでなく、足元を凍らせて動けなくできます」
「はぁ~~私の場合は、そのまま火炎魔法で燃やすだけなんだよね」
「テアン、矢が欲しいんだが?」
「ああ、それなら良いぜっ! 半分くらい持ってけ、お前の方が、外回りで危険だからな」
右側から、リズとジャーラ達が、自身らの魔法に関する話をしながら、廊下を歩いてきた。
左側からも、ワシントンとテアン達が、ゆっくりと向かってくる。
「火炎放射もできるけど、そこまで強力な全体魔法までは使えないのよ」
「全体魔法が使えなくても、火炎放射は大量のゾンビを倒せるから便利じゃない?」
「あ? 渡すのは良いが、この矢は貫通力が高い分、重たいから射程は落ちるぞ、と言うか? クロスボウ用だから使えないだろう?」
「そうだろ? どうにかして、矢を補充したいな? 武器やスポーツ用品店に行くしかないか…………」
リズとジャーラ達は、ペチャクチャと魔法に関する話を続けながら歩く。
テアンは、黒い矢を、ワシントンに渡しながら、敵に当たった時の効果を説明する。
「みんな、忙しそうだね~~」
「ショーン、通信機が直って、他の場所と通信できた? だが、片方はゾンビに囲まれているらしい」
ショーンは何気なく呟くと、背後から誰かが声をかけてきた。
「もう片方も、食糧は豊富にあるが、こちらに車両部隊を向かわせたらしいが、来てないんだ」
「はあ? それなら、行くしかないか? うんと、アンタは誰だ…………」
金髪の白人男性は、ショーンに対して、救難捜索を以来する。
「ダビドだ、ここの職員のな…………朝飯は用意したから会議室に行ってくれ」
「…………で、それが終わったら、直ぐに行けと言うんだな」
ダビドと名前を名乗った、男性を前に、ショーンは再び戦場に行くのかと思った。
「わあったよ? じゃあな」
こうして、ショーンは彼と別れて、会議室に向かっていった。
「はあ? 食った、食った…………」
「ショーン、行こうかい?」
カップラーメンを食べた後、ゴミ箱に容器を捨ててきた、ショーンは椅子にドカッと座る。
そんな彼に、フリンカは出発しようと言って、席から立ち上がる。
「ああ? 腹が重たくて眠いが、そうも言ってらんねぇ~~行くとしますかっ!」
「じゃあ、行くわよ」
飯を食って、満腹になった腹を抱えながらも、ショーンは背伸びした。
フリンカは、先に会議室から出ていき、彼も廊下に向かって行った。
「この矢に、小箱爆弾を巻き付ければ…………射程は期待できないが、ゾンビに対して威力は上がるっ! ライターで、導火線に火を着けてから放てよ?」
「なるほど、こうなれば通常のゾンビは一撃で倒せるし、マッスラーに対しても効果があるな」
「迫撃砲の弾は、全て使っちゃったわ? トラックに乗ったら、ゾンビが追いかけてきたからね」
「私もだにゃ? もう砲弾はないにゃ…………と言うか、チンピラとの戦いに備えて、何か投擲武器や射撃武器を見つけにゃいと…………」
スバスは、ワシントンの元から持っていた矢に、威力が弱い小箱爆弾を、テープで装着していた。
どうやら、三つも取り付ける事で、威力を上げようと考えたようだ。
「あと、予備の小型爆弾は何個かあったかな? おっ! やっぱり、いくつか残っているな」
「…………と、それから今回の行方不明の車両部隊は、アジア人街から来た見たいだにゃっ! あっちには知り合いが居るから心配だにゃ…………」
お菓子の箱に火薬を積めた、小箱爆弾は、爆発しても、相手に掠り傷を与えるくらいしか出来ない。
しかし、三つも重ねて、矢に搭載すれば、相手の体に深々と刺さってから爆発する。
だから、部位によっては、衝撃で人体を破壊できるだろう。
また、もう少し大きな木箱で作られた小型爆弾の方も、爆発力自体は低い。
しかし、こちらも、顔や腕を狙って、投擲すれば確実に負傷させられる。
工作とIT関係に強いスバスは、こう言った武器を作るのが得意だ。
そんな彼の後ろでは、ミーが心配そうな表情をしながら、呟いていた。
「ミー、アジア人街か? あっちも無事なんだろうか? チャーハン専門店のシューさん、ラーメン屋のナカタニさん…………今も彼等は無事だと良いんだが」
「ショーン、私もシューさんが心配だにゃ…………彼は、遠い親戚になるんだにゃ」
「だったら、何時までも喋ってないで、確かめに行くよ」
ショーンとミー達は、それぞれの知り合いを心配して、暗い表情を浮かべた。
そんな二人の背後から、フリンカは元気よく声をかけて、先を歩きだした。
こうして、彼等は事務所の裏にある駐車場へと、やってきた。
「ショーン、俺達は銃砲店に行く、そっちは任せたぞ」
「マルルン、飯の配達は任せろっ! 美味い肉まんを大量に持って来てやる」
マルルン達は、左側の道へと向かっていき、ショーン達は、右側に進んでいく。
「ここから先は長いが、気を引き締めて行かないとな」
ショーン達は、アジア人街へと続く道を進んでいくが、周囲を煉瓦の壁が囲っている。
この辺りは、住宅街らしく、民家が並んでいるが、どれも窓にはカーテンが掛けられていた。
そして、周辺の雰囲気は何か異様に感じられ、薄暗い路地には、不気味な静けさが漂っていた。
また、急に天気が悪くなってきて、白い雲が空を覆い始めた。
「ゾンビは居ないようだが、何か嫌な予感がするな? 暗くなってきたからか?」
「暗くなったからだと良いけどにゃ…………」
「ちょっと、ホラー映画に有りがちな台詞を言わないでよっ!」
「死亡フラグを立てるな」
ショートソードを持ちながら、ショーンは何時でも戦闘できるように、先頭を歩いていく。
ミーも、天候が変わってから、警戒感を強めて、両手で握る棍を強く握り締める。
そんな二人の言葉を聞いて、リズはマジックロッドを抱えながら、不安そうな顔で呟く。
ワシントンも呆れたかのように、ため息を吐きながら、辺りを見渡しつつ進む。
しかし、目標に近づくにつれて、彼等の不安は現実となった。
「報告によると、この先にある十字路を曲がってくるはずだった…………しかし、ゾンビが見える」
「ここは私達に任せて、ちょうだいっ!」
ワシントンは狙撃で、音もなく、ゾンビに対して、狩猟弓から射ち放つ。
リズも、大きな音を立てないようにして、火力を抑えつつ火炎魔法を単発で、何回も放っていく。
「グオ?」
「ギャアア~~?」
「終わった、楽な相手だったな」
十字路に見えた、ゾンビは頭を狙撃されて、倒れてしまう。
フレッシャーも、体に当たった幾つかの火炎により、燃やし尽くされる。
この様子を見て、ショーンは遠距離武器を持つ、二人を頼もしく思う。
「二人とも、次も頼むぜっ! ゾンビが出たら近づかないうちに倒してくれよっ!」
「でも、人間が相手だったら、私の炎は弾道が見えちゃうし、体に当たった段階で叫ばれちゃうわよ?」
「俺の弓だって、万能武器じゃないからな? 矢の数には限りがあるし、中距離や近距離だと、玄を引く間に攻撃されるかも知れん」
ショーンの言葉を聞いても、リズとワシントン達は、慢心しない。
それぞれの武器は、確かに強力ではあるが、同時に弱点もあるからだ。
また、彼等は話をしながらも、ゾンビが一掃された、十字路へと向かっていった。
「無駄話は終わりだよ、どうやら、車両が見つかったわ」
「だけど、ゾンビ達が徘徊しているにゃ…………どうする?」
「ふぅむ、ステルスキルで倒せるような数では、ないな?」
「なら、正面から倒して行くしかないか?」
フリンカは、左側の煉瓦壁に身を隠しながら、通りに目を向けた。
ミーも、同じ方向を見ながら、大勢のゾンビ達を睨んで、額から汗を垂らした。
スバスは、懐から小型爆弾を投げようとして、準備に取りかかる。
ショーンは意を決して、先頭を切って、突撃しようと身構えた。
「待ってくれ、他の方向のゾンビを今から倒す」
「背後から相手するより、いいでしょ?」
「そうだな? 二人とも、頼んだぞっ! 全て片付けてくれよっ! はあ~~」
幸いにして、正面と右側の敵は少なく、リズとワシントン達が、ゾンビ達を倒していく。
それを見ながら、ショーンは突撃する準備をして、壁際で深々と息を吸い込んだ。