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第18話 注文しても、運ばれてこない料理


 一夜が開けると、ロッカールームの黒いベンチで眠っていた、ある男が目を覚ます。



「うああ、起きたぜ…………」


 ショーンは、欠伸アクビをしながら体を起こして、廊下に向かった。



「私の魔法は、氷結魔法だから魔物の体を貫くだけでなく、足元を凍らせて動けなくできます」


「はぁ~~私の場合は、そのまま火炎魔法で燃やすだけなんだよね」


「テアン、矢が欲しいんだが?」


「ああ、それなら良いぜっ! 半分くらい持ってけ、お前の方が、外回りで危険だからな」


 右側から、リズとジャーラ達が、自身らの魔法に関する話をしながら、廊下を歩いてきた。


 左側からも、ワシントンとテアン達が、ゆっくりと向かってくる。



「火炎放射もできるけど、そこまで強力な全体魔法までは使えないのよ」


「全体魔法が使えなくても、火炎放射は大量のゾンビを倒せるから便利じゃない?」


「あ? 渡すのは良いが、この矢は貫通力が高い分、重たいから射程は落ちるぞ、と言うか? クロスボウ用だから使えないだろう?」


「そうだろ? どうにかして、矢を補充したいな? 武器やスポーツ用品店に行くしかないか…………」


 リズとジャーラ達は、ペチャクチャと魔法に関する話を続けながら歩く。


 テアンは、黒い矢を、ワシントンに渡しながら、敵に当たった時の効果を説明する。



「みんな、忙しそうだね~~」


「ショーン、通信機が直って、他の場所と通信できた? だが、片方はゾンビに囲まれているらしい」


 ショーンは何気なく呟くと、背後から誰かが声をかけてきた。



「もう片方も、食糧は豊富にあるが、こちらに車両部隊を向かわせたらしいが、来てないんだ」


「はあ? それなら、行くしかないか? うんと、アンタは誰だ…………」


 金髪の白人男性は、ショーンに対して、救難捜索を以来する。



「ダビドだ、ここの職員のな…………朝飯は用意したから会議室に行ってくれ」


「…………で、それが終わったら、直ぐに行けと言うんだな」


 ダビドと名前を名乗った、男性を前に、ショーンは再び戦場に行くのかと思った。



「わあったよ? じゃあな」


 こうして、ショーンは彼と別れて、会議室に向かっていった。



「はあ? 食った、食った…………」


「ショーン、行こうかい?」


 カップラーメンを食べた後、ゴミ箱に容器を捨ててきた、ショーンは椅子にドカッと座る。


 そんな彼に、フリンカは出発しようと言って、席から立ち上がる。



「ああ? 腹が重たくて眠いが、そうも言ってらんねぇ~~行くとしますかっ!」


「じゃあ、行くわよ」


 飯を食って、満腹になった腹を抱えながらも、ショーンは背伸びした。


 フリンカは、先に会議室から出ていき、彼も廊下に向かって行った。



「この矢に、小箱爆弾を巻き付ければ…………射程は期待できないが、ゾンビに対して威力は上がるっ! ライターで、導火線に火を着けてから放てよ?」


「なるほど、こうなれば通常のゾンビは一撃で倒せるし、マッスラーに対しても効果があるな」


「迫撃砲の弾は、全て使っちゃったわ? トラックに乗ったら、ゾンビが追いかけてきたからね」


「私もだにゃ? もう砲弾はないにゃ…………と言うか、チンピラとの戦いに備えて、何か投擲武器や射撃武器を見つけにゃいと…………」


 スバスは、ワシントンの元から持っていた矢に、威力が弱い小箱爆弾を、テープで装着していた。


 どうやら、三つも取り付ける事で、威力を上げようと考えたようだ。



「あと、予備の小型爆弾は何個かあったかな? おっ! やっぱり、いくつか残っているな」


「…………と、それから今回の行方不明の車両部隊は、アジア人街から来た見たいだにゃっ! あっちには知り合いが居るから心配だにゃ…………」


 お菓子の箱に火薬を積めた、小箱爆弾は、爆発しても、相手に掠り傷を与えるくらいしか出来ない。


 しかし、三つも重ねて、矢に搭載すれば、相手の体に深々と刺さってから爆発する。



 だから、部位によっては、衝撃で人体を破壊できるだろう。


 また、もう少し大きな木箱で作られた小型爆弾の方も、爆発力自体は低い。


 しかし、こちらも、顔や腕を狙って、投擲すれば確実に負傷させられる。



 工作とIT関係に強いスバスは、こう言った武器を作るのが得意だ。


 そんな彼の後ろでは、ミーが心配そうな表情をしながら、呟いていた。



「ミー、アジア人街か? あっちも無事なんだろうか? チャーハン専門店のシューさん、ラーメン屋のナカタニさん…………今も彼等は無事だと良いんだが」


「ショーン、私もシューさんが心配だにゃ…………彼は、遠い親戚になるんだにゃ」


「だったら、何時までも喋ってないで、確かめに行くよ」


 ショーンとミー達は、それぞれの知り合いを心配して、暗い表情を浮かべた。


 そんな二人の背後から、フリンカは元気よく声をかけて、先を歩きだした。



 こうして、彼等は事務所の裏にある駐車場へと、やってきた。



「ショーン、俺達は銃砲店に行く、そっちは任せたぞ」


「マルルン、飯の配達は任せろっ! 美味い肉まんを大量に持って来てやる」


 マルルン達は、左側の道へと向かっていき、ショーン達は、右側に進んでいく。



「ここから先は長いが、気を引き締めて行かないとな」


 ショーン達は、アジア人街へと続く道を進んでいくが、周囲を煉瓦の壁が囲っている。


 この辺りは、住宅街らしく、民家が並んでいるが、どれも窓にはカーテンが掛けられていた。



 そして、周辺の雰囲気は何か異様に感じられ、薄暗い路地には、不気味な静けさが漂っていた。


 また、急に天気が悪くなってきて、白い雲が空を覆い始めた。



「ゾンビは居ないようだが、何か嫌な予感がするな? 暗くなってきたからか?」


「暗くなったからだと良いけどにゃ…………」


「ちょっと、ホラー映画に有りがちな台詞を言わないでよっ!」


「死亡フラグを立てるな」


 ショートソードを持ちながら、ショーンは何時でも戦闘できるように、先頭を歩いていく。


 ミーも、天候が変わってから、警戒感を強めて、両手で握る棍を強く握り締める。



 そんな二人の言葉を聞いて、リズはマジックロッドを抱えながら、不安そうな顔で呟く。


 ワシントンも呆れたかのように、ため息を吐きながら、辺りを見渡しつつ進む。



 しかし、目標に近づくにつれて、彼等の不安は現実となった。



「報告によると、この先にある十字路を曲がってくるはずだった…………しかし、ゾンビが見える」


「ここは私達に任せて、ちょうだいっ!」


 ワシントンは狙撃で、音もなく、ゾンビに対して、狩猟弓から射ち放つ。


 リズも、大きな音を立てないようにして、火力を抑えつつ火炎魔法を単発で、何回も放っていく。



「グオ?」


「ギャアア~~?」


「終わった、楽な相手だったな」


 十字路に見えた、ゾンビは頭を狙撃されて、倒れてしまう。


 フレッシャーも、体に当たった幾つかの火炎により、燃やし尽くされる。



 この様子を見て、ショーンは遠距離武器を持つ、二人を頼もしく思う。



「二人とも、次も頼むぜっ! ゾンビが出たら近づかないうちに倒してくれよっ!」


「でも、人間が相手だったら、私の炎は弾道が見えちゃうし、体に当たった段階で叫ばれちゃうわよ?」


「俺の弓だって、万能武器じゃないからな? 矢の数には限りがあるし、中距離や近距離だと、玄を引く間に攻撃されるかも知れん」


 ショーンの言葉を聞いても、リズとワシントン達は、慢心しない。


 それぞれの武器は、確かに強力ではあるが、同時に弱点もあるからだ。



 また、彼等は話をしながらも、ゾンビが一掃された、十字路へと向かっていった。



「無駄話は終わりだよ、どうやら、車両が見つかったわ」


「だけど、ゾンビ達が徘徊しているにゃ…………どうする?」


「ふぅむ、ステルスキルで倒せるような数では、ないな?」


「なら、正面から倒して行くしかないか?」


 フリンカは、左側の煉瓦壁に身を隠しながら、通りに目を向けた。


 ミーも、同じ方向を見ながら、大勢のゾンビ達を睨んで、額から汗を垂らした。



 スバスは、懐から小型爆弾を投げようとして、準備に取りかかる。


 ショーンは意を決して、先頭を切って、突撃しようと身構えた。



「待ってくれ、他の方向のゾンビを今から倒す」


「背後から相手するより、いいでしょ?」


「そうだな? 二人とも、頼んだぞっ! 全て片付けてくれよっ! はあ~~」


 幸いにして、正面と右側の敵は少なく、リズとワシントン達が、ゾンビ達を倒していく。


 それを見ながら、ショーンは突撃する準備をして、壁際で深々と息を吸い込んだ。

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